2017年6月にサービスを開始したバトルファンタジーRPG 『SINoALICE -シノアリス-』(以下、『シノアリス』)。そんな本作が、2023年12月26日に“エンディングに関わるアップデート”を経て、2024年1月15日12時をもって全サービスの提供終了を発表。約6年間にわたって綴られてきた物語に、幕を下ろすこととなった。

 エンディングの解禁条件については、ギルドメンバー全員がゲーム内にログインしていることが必須になるなど、最後まで“ただでは終わらない『シノアリス』らしさ”が満載。

 そこで今回は、ポケラボのプロデューサーの前田翔悟氏、スクウェア・エニックスのプロデューサーの藤本善也氏、原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウ氏の3名にインタビューを実施。

 このタイミングでエンディングを迎えることになった経緯や、いまだからこそ明かせる開発中の裏話、この6年間を振り返っての思い出や、気になるエンディングなどについて余すところなく語っていただいた。

※インタビューはオンラインにて実施しました。
※インタビュー内容にはエンディングに関するネタバレが含まれています。

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前田翔悟(まえだしょうご)

■ポケラボ
『シノアリス』プロデューサー。予算、スケジュール、プロモーションといったさまざまな業務を担当している。公式生放送の“ 生SINoALICE”にも初回から出演。

藤本善也(ふじもとよしなり)

■スクウェア・エニックス
『シノアリス』プロデューサー。ポケラボに『シノアリス』企画を持ち込み、開発・運営・プロモーションをポケラボと共同で担当。

ヨコオタロウ

■ブッコロ
『ドラッグ オン ドラグーン』や『NieR(ニーア)』シリーズなどのディレクターを担当。『シノアリス』では原作とクリエイティブディレクターを務めている。

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“エンディングありき”でスタートした『シノアリス』開発

――エンディングの実装、およびサービス終了を迎えることになった経緯を教えてください。

ヨコオこれはシンプルに、売上が下がったからってことですよね?

前田いやそういうわけではなく、ポケラボとしては「売上がこのラインまで落ち込むと赤字だよね」といった、お金勘定もありますけれど……そう単純なお話ではないんです。そもそも、ヨコオさんは開発初期のころから「『シノアリス』にはちゃんとしたエンディングを作りたい」と、並々ならぬ熱意でおっしゃっていて。でも、僕の立場からすると、そう簡単にエンディングを迎えさせるわけにはいかないじゃないですか。

 そのため、エンディングのお話になるたびに、ヨコオさんに対しては「だいたいこのくらいの売上になったら、そのときはエンディングを迎えることになるかもしれません」とお伝えしていたんです。だから、ヨコオさんの中では「売上減少=エンディング」になっているのかと……。

ヨコオたしかに、僕はあの当時から前田さんや藤本さんに、「『シノアリス』は1年で終わりましょう」と話していましたからね。売上はどうあれ1年でサービス終了して、またその枠に新たなゲームが始まればいいじゃないかと。深夜アニメ枠のようなイメージですね。そんなソーシャルゲームの形もアリなんじゃないか、と提案したんですけど。もちろん却下されました。

藤本ヨコオさんからそうしたお話があったので、僕からも「エンディングはちゃんと作ります」と立ち上げ段階から約束していましたね。

ヨコオそうですね。僕のわがままを聞いていただいて感謝しています。

藤本いえ、そこはヨコオさんのわがままで決めたわけでもなくて。『シノアリス』は世界観を大切にしているゲームなので、売上が下がったら即サービス終了というスタイルはそぐわないと考えていた面もあるんです。それは運営・開発チームの共通認識であり、総意でした。だから、エンディングを迎えるための体制とスキームの構築は、かれこれ3年ほど前から水面下で進めていたんです。ポケラボさんとのあいだで「きっちりとシナリオを完結させて、エンディングまで作り切れるように」と。

前田はい。最後に華々しいエンディングを用意しようとなったら、当然ながらそれ相応の予算や人員が必要になりますし。一般的なソーシャルゲームの運営・開発現場では、サービス終了が近づくに連れて、予算や人員は削減されていくものです。そうした流れにあえて逆行するような社内調整も必要だったわけですね。それらを鑑みて、このタイミングがエンディングを迎えるのにベストだろうという判断になりました。

ヨコオつまり、無理してエンディングを作ろうとしなければ、もう少しサービスが続いていた可能性もあったってことですかね?

前田チームの規模を縮小しながら細々と運営を続けるとしたら、ユーザーの皆さんにお届けできるコンテンツもどんどん減っていくことになります。シナリオが完結するのかどうかをボカしつつ、だらだらと運営を続けていくなんて、それこそ『シノアリス』らしくないですから。

03

――エンディングを迎えることになった、いまの率直な感想をお聞かせください。

ヨコオようやく終わるのか、と。皆様のおかげでエンディングを迎えられることになり、喜びもひとしおですが……エンディングの構造がかなり特殊なので、ユーザーさんたちに受け入れてもらえるのかなとの不安もあります。

前田エンディングの実装が2023年12月26日で、サービス終了が2024年1月15日11時59分。この約3週間のあいだに、ギルドメンバー全員がログインしている状態で、メンバー全員がメインストーリー最終篇“ヨクボウ篇”の7章の開始に同意し、これをクリアーしないと、その先にあるエンディングに進むことができないんです。そうしたご不便を強いるようなシステム面も含めですが……SNS上では我々の想像を遥かに超える反響をいただきました。本当にありがたいことだと感じています。


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 現在はヨクボウ篇6章まで自身のパラメータがアップする“バトルサポート機能”が実装されています。また、こちらの暗号を解読すると、何かが起こります……!


藤本ソーシャルゲームにおける“サービス終了”とは、どうしてもネガティブな印象で捉えられがちな出来事ですが、『シノアリス』においてはサービス終了さえも、ユーザーの皆さんに楽しんでいただける“お祭り”にしたいとの思いで、ブレずにやってこれたと自負しています。もっとも、このインタビューを受けている時点では、まだ実を結んでいないので(取材日は11月)。『シノアリス』としてあるべき姿をお見せするために、『シノアリス』の魅力を最後まで余すところなくお届けするために、ここで気を緩めるわけにはいかないなと。そうした意味では、現在進行系でドキドキしています(笑)。

ヨコオそうですね。まだエンディングの実装を発表しただけですし、ここからがおもしろいところだと思います。

――エンディングの制作にあたり、苦労したポイントを教えてください。

前田エンディングについては、かなりいろいろなギミックを詰め込むことになったので、予算のやりくりなどはたいへんでしたね。

ヨコオ簡単にご説明すると、サービスが終了した後にはゲーム内にシノアリスの“お墓”が立つんです。そこには、ユーザーさんたちの名前が、プレイ情報とともに刻まれているわけですね。“シノアリス世界を破壊した者たち”として。そうやって大量のユーザーネームを表示する仕組み自体、いままでになかったものですし。そうなると、ご自身の名前やギルドメンバーたちの名前の検索機能なども必要になるだろうし……と、この期におよんで、いくつもの新機能開発のためにコストを割いていただくことになってしまいました。

前田加えて、サービス終了後にはアーカイブ機能として、エンディングを迎えたユーザーの皆さんのデータをオフラインで閲覧できるようにする予定でして。実際、どの程度のユーザーさんがエンディングをプレイしてくださるのだろうか、オフラインで詰め込めるデータ容量はどの程度が上限なのかと、手探りで進めなければならない箇所も多数ありました。

藤本エンディングの企画自体は開発当初から存在していたわけですが、実際にこれを最後まで作り切るのはたいへんだろうなと感じていたことも事実です。ただ、どんな仕事もそうですが、企画は最後までやり遂げてこそ価値があるわけです。従って、僕のプロデューサーとしての仕事は、『シノアリス』を最後までやり遂げるうえでの障害を、とことん排除していくこと。そこを怠らなければ、前田さんもヨコオさんも、絶対にやり遂げてくださるだろうという信頼感がありました。その意味では、苦労はあったけど心配することはなかったですね。

04

「そこに幸せはなかった」、『シノアリス』とともに歩んだ日々に思いをはせて

――6年間の歩みを振り返って、とくに思い入れのあるストーリーを教えてください。

前田現実篇は思い出深いですね。企画段階から現実篇のアイデアがあることはヨコオさんから伝えられていたのですが、いざ本当に「次回から現実篇に突入します」と言われた際には、「いや、これまで童話の世界観を大切にして作ってきたのに、急に現実篇って言われても……」と、正直困惑しました。しかも、お話がアレじゃないですか。女子高生が挙げ句の果てに●●って……。「このお話を社内にどう説明したものか」と激しく苦悩したことを、いまでも覚えていますね。

ヨコオ社内に説明する必要があったんですか?

前田もちろん、まずはスタッフたちに「つぎはこういうお話をやります」と伝えければいけないですし、プロモーションのために広報にも説明が必要ですし……。

藤本広報については、それはそれはたいへんでしたよ(笑)。その節は広報さんに対し、たいへんなご無礼をいたしましたと、この場を借りてお詫び申し上げたいです。

前田やはり現実篇の概要を説明をすると、皆さん口を揃えたように「何でこんなお話をやる必要があるんですか!」と言うわけですね。わざわざこんな危ない橋を渡らなくても、と。そう言われるたびに、こちらとしては「いやいや、それをやるのが『シノアリス』なんです!」のひと言で押し切っていた記憶があります。もう、そう言うしかない(笑)。

ヨコオ僕としては、シナリオそのものに対する思い入れよりも、シナリオをゲーム内でストレスなく読み飛ばせるようなシステムにしていただくことばかりお願いしていたような気がします。前田さんにも、「バトルの前に何タップもかけてテキスト送りさせるような仕様にはしないでほしい」とお話していて。というのも、『シノアリス』というゲームのメインはあくまでGvGで、シナリオはオマケだと捉えていたので。かく言う僕もソーシャルゲームをプレイする際に、いちいちシナリオは読まないタイプですから。

 「どうせ添え物の読み飛ばされてしかるべきものを、いつまで作り続けなければならないのだろう」という心持ちでいたので、ずっと暗い気持ちで作業していたことを覚えていますね。現実篇も含め、『シノアリス』のシナリオは全体的に僕の追い込まれている感というか、絶望感、悲壮感が漂う内容になっている気がします。まあ、僕はあくまでプロットを書いて、「こんな感じでシナリオを書いてください」とお願いしている立場ではあるんですけれども。

藤本ヨコオさんはそう言いますけど、僕は「シナリオが添え物」だなんて思っていませんよ! そもそも、僕が『シノアリス』にGvGコンテンツを入れたいと思った理由は、人と人とのコミュニケーションこそがソーシャルゲームの醍醐味であり、そうした魅力を最大限に提供できるのがGvGだと考えていたからでした。ただ、人と人とがつながるには、同じ話題であったり共感できる対象であったりが必要とされるわけで。

 ゲームにおいては、物語や世界観、キャラクターがそれに当たると思うんです。ですので、添え物どころか最重要項目だと捉えています。僕の中では、“魅力的な物語”と“GvGシステム”の両輪をしっかり回していくことが『シノアリス』を運営していくうえでのテーマでした。その両輪がときに化学反応を起こし、ときにお互いが補完しあう中にこそ、ユーザーさんたちに楽しんでいただけるエンターテインメントが生まれるのだと。そのように考えて、全体のバランスを調整してきました。

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――ちなみに、この6年間でプライベートに変化はありましたか?

ヨコオ『シノアリス』のリリースと同じ年に、ちょうど『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』も発売になったわけですが、おかげさまで両タイトルともすさまじい反響をいただけまして。それ以前までの僕には大した商品性がなかったというか、名前で売っていくようなクリエイターではなかったので、コツコツ生きていたんですけども。両作のヒット以後は、皆さんからチヤホヤされるようになったので増長しています。

前田ヨコオさんの中で、どこかしらタガが外れてしまったと(笑)。

ヨコオそうですね。この数年のあいだに、みるみる偉そうな感じになっちゃったんじゃないかなという気がします。

前田そんなことはないと思いますけれど……。僕はというと、本当に何も変わっていないですね。結婚などもしていないし、いただけるお給料は多少増えましたけど、「そこに何も幸せはなかったな」って感覚です。

藤本えっ、もらえるお金が増えたなら幸せじゃないですか?

ヨコオ“お金=幸せ”だという思考に、藤本さんの人間性が表れている気がします。本当の幸せは、お金じゃ買えないんですよ。

藤本そうは言ってもお金は大事ですから(笑)。

――これまで、ユーザーのド肝を抜くようなキャンペーン・企画をいくつも打ち出されていましたが、それがなくなると今後のお仕事に影響はありませんか?

前田たしかに、『シノアリス』を担当するようになってからは、過去の事例や以前までの仕事のやりかたがまったく参考にならないようなケースが多すぎて。これまでに誰もやったことがないような、誰にも想像がつかないような企画をひねり出さなければならないプレッシャーがつねにありましたね。

藤本5周年では“最貧と感謝の全国ツアー”と題して、前田さんに軽自動車で全国5都市を回ってもらったりもしました。相当な無茶振りでしたが、ちゃんとやり通してくださるから頭が上がらないです。

前田あれは本当にたいへんでしたけど、いい経験でしたね。もう二度とやりたくはないです(苦笑)。今年の6周年にいたっては、正真正銘、限界までアイデアを絞り尽くしたというレベルまで追い込まれましたし。『シノアリス』での経験を踏まえて……というよりは、『シノアリス』がサービス終了したら、いったん気持ちをリセットして、まっさらな気持ちで再スタートを切りたいというのが本音です。

ヨコオそれについては、僕も前田さんと似たような考えかたを持っていると言えるかもしれません。そもそも、僕は毎回お仕事をするたびに、その経験をつぎにつなげようという意識が皆無なんです。少々脱線しますが、『シノアリス』が毎度のようにハジけた企画をやっても許される雰囲気があったのは、ナビキャラのギシンとアンキがいてくれたおかげもあったのではないかと思います。最終的に彼らのせいにすれば、何でも許されるような空気感をサービス開始当初から醸成できたことが、結果としてよかったんじゃないかなと。

前田そうですね。やはり、運営側の人間が表舞台に出てきてしまうと、ゲームの世界観を壊してしまうおそれがあります。その点、ギシアンがクッションのような役回りをしてくれたことは、こちらとしても非常に助かりましたね。

藤本おふたりとも、達観していますね(笑)。『シノアリス』がサービス終了を迎えた後も、当然ながら僕らの日常は続いていくわけですが、それでも本作をプレイしてくださった皆さんの心の中には、何かしら残っているものがあると思うんです。僕がそう信じたいだけかもですけれど。だから、僕もおふたりと同じで。『シノアリス』で得たものをつぎに活かすというよりは、ユーザーの皆さんに『シノアリス』を通じて何かを残せていたらそれ以上のことはないと思っています。ただそれだけですね。それができる可能性があるのが、ゲームやエンターテインメントのすばらしいところだし、作り手としてありがたいことだと思います。それもすべては、ヨコオさん、ポケラボさん、ILCAさんをはじめ皆さんのお力添えあってのことでした。

前田企画段階から数えれば、ヨコオさん、藤本さんとは、約8年間ずっといっしょに『シノアリス』を作り続けてきたことになりますよね。本当に貴重な経験をさせていただきました。

藤本そういえば開発初期のころから、飲み会で「前田さんを表に出していこう」といった話もしていましたよね。そういう意味では、初志貫徹と言えなくもない。

ヨコオ開発者が表に出る以上、そこではおもしろおかしく見せる努力が必須だと僕は思っていて。だから、前田さんは『シノアリス』における“道化”であるべきだとの前提で、「前田さんの私生活をそのまま発信していったらいいんじゃないか」と初期のころから提案していたんです。前田さんって、家では上半身裸のまま革張りの黒いソファーにドカッと座って人をはべらせているような暮らしぶりなんです。そんなプライベートの前田さんが、尊大な雰囲気で詫び石とかを配る配信をしてくださいと。

前田そのお話には多分にフィクションが含まれていますよ(笑)。というか、100%ウソです。

藤本実際、それに近い形式の配信はやりましたけどね。コロナ禍の際に、前田さんのご自宅から配信をお届けして。バスローブ姿でワイングラスを片手に持った前田さんが登場し、最後には青汁まみれになるという……(笑)。

ヨコオお茶の間向けにだいぶマイルドな表現になってしまったことが、『シノアリス』における唯一の心残りですかね。当初のテーマとしては、「前田さんの実家のお母さんが悲しむような番組をやりましょう」でしたから。

前田むしろ、うちの母親からは意外と好評だったのが逆に気まずくて……。「すごくよかったよ」って言われましたからね。

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ユーザーみずからの手でガチャを破壊――『シノアリス』の息の根を止める権利を、あなたに

――エンディングについて、見どころやこだわりのポイントなどを教えてください。

ヨコオもうすでにプレイしてくださった方もいると思いますので、ネタバレも交えて概要を説明させていただきます。エンディングでは、『シノアリス』においてラスボスに相当する存在が、じつは皆さんのずっと引いていたガチャの上層に居座っていたという構造が明らかになります。

 僕らプレイヤーは、ラスボスからぶら下がっていたロープを引っ張ってガチャを引いていたわけで、ラスボスはプレイヤーたちの欲望を吸収しまくって肥大化していたわけですね。従って、プレイヤーはギルドメンバーたちと力を合わせて、 “ラスボス=ガチャ”を破壊することになります。『シノアリス』ではガチャそのものを皆さんに破壊していただくことで、エンディングを迎えるんです。ソーシャルゲームなので、ガチャが破壊されればサービス終了せざるを得ないですから。

――プレイヤーみずからが終止符を打つことで、『シノアリス』が終幕を迎えると。

ヨコオそうですね。皆さんの手でゲームを終わらせる。そして、見事エンディングを迎えたプレイヤーたちの名前と記録が、“シノアリス世界を破壊した者たち”として最後に刻まれるわけです。言うなれば、「僕らが皆さんにエンディングを提供します。ここが見どころで、ここが感動ポイントです。いかがですか?」といったエンディングにはしたくなかったんです。

 そうではなくて、『シノアリス』の息の根を止める権利は、本作を長きにわたって遊んでくださった皆さんこそが持つにふさわしいだろうと。だから、エンディングの見どころは皆さん自身です。皆さんがこれまで積み上げたものや、ギルドメンバーとの絆、プレイしてきた記憶そのものが見どころである。これこそ、僕が『シノアリス』のエンディングでやりたかったことなので。ぜひ、ゲーム内で体験してみてほしいなと思っています。

――ヨコオさんなりの、ユーザーへの感謝の気持ちも込められているということでしょうか。

ヨコオ『シノアリス』の開発が始まった当時も、いまもそうかもしれないですが、「ソーシャルゲームはサービスが終了したら後には何も残らない」ってよく言われるじゃないですか。あたかも“価値がないもの”みたいな。僕は天邪鬼なので、そんなネガティブな言われようをしていたからこそソーシャルゲームに関わってみたいなと思い、『シノアリス』のお仕事をお受けしたんです。ユーザーさんにとって、価値のあるものを作りたい。ソーシャルゲームでも、終わった後に「意味があった」と思ってもらえるようなものを作りたいと。

 結果として、予想に反してまったくサービスが終わる気配がないまま、その間ずっとつぎのシナリオを書き続けねばならないという地獄を味わうことになったわけですが。だから、『シノアリス』以降に受けたソーシャルゲームのお仕事では、エンディングについて考えることをやめました。考えるだけムダだなと。当然といえば当然かもしれないですけれど、エンディングはその時が来たときに考えればいいのであって、最初に考えても、いいことなんてひとつもありませんでした(笑)。

――野暮な質問かもしれませんが、最後に『シノアリス』の続編の可能性については……?

前田僕の口からはいっさい申し上げられません! 会社の事情など、いろいろありますので。

ヨコオほかの案件でこういったご質問がきたときは、「お金をいただければ何でもやりますよ」と返すのがいつものパターンなのですが、『シノアリス』に関しては、お金をもらってもやれないです。しんどすぎて、二度とできないですよね。悔いが残らないくらいに、やり切ったとも思えていますし。どうか『シノアリス』と、本作を遊び続けてくださったユーザーの皆さんの、最後の勇姿をぜひ見届けてあげてほしいと思います。

藤本ヨコオさんがおっしゃられた通り、『シノアリス』はこれ以上ないくらいやり切ったタイトルにしたいという意気込みで、いままさに最終局面に臨んでいるところです。ここまで言っておいて、後で「『シノアリス2』をやります」なんて発表したら、ユーザーの皆さんから「まだ出し切れていなかったんじゃないか!」とツッコミをいただいてしまうと思いますので(笑)。

 まだサービス終了まで日数は残っていますが、この場をお借りしてヨコオさん、前田さんを始めスタッフの皆さんには本当にありがとうございましたとお伝えしたいです。そしてユーザーの皆さん、6年にわたって『シノアリス』にお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

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