同人・インディーゲーム展示即売会“デジゲー博2023”の会場にて、ひときわ異彩を放つタイトルがありました。それが今回ご紹介する“かわいくて、不気味で、ちょっと切ない”アドベンチャーゲーム『ノウ』。個人サークル・おはな世界がSteamにて2024年に発売予定のゲームです。

 まずは、その魅力の一端が垣間見える公式PVをご覧ください。

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 おはな世界のはなせ氏は、本作がゲーム制作初挑戦。それでいて、ストーリー性もアクション性も兼ね備え、独特のビジュアルやBGMまでもがひとりで作り上げたオリジナルだというのだから驚きです。

 ずっとゲーム実況の大ファンだったものの、自分でゲームをプレイするのは、子どものころにニンテンドウ64で遊んで以降、『デス・ストランディング』のためにプレイステーション4を購入するまで長期間にわたるブランク(およそ18年前後でしょうか)があったのだそう。いまでは自身でも多くのゲームをプレイしており、またゲーム実況への想いは変わらず強く、『ノウ』も「推しの実況者にプレイしてほしい」と仰っていました。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
ゲームエンジン・Unity(ユニティ)で開発。プログラミングを勉強し始めたのも昨年からだという。

 ゲームの個人制作者は、自身も長年にわたり熱心なプレイヤーであることがほとんどだと思います。一方、ゲーム実況においては、視聴者から実況者へと転向する人はいても、“実況でプレイしてほしい”との想いから個人制作の道へと進むのはなかなかのレアケース。本作のような独自の世界観とストーリーを描いたものならば、なおさらです。

 前例がほとんどないであろう“けもの道”を突き進む覚悟を決め、ひとりで同人・インディーゲームのイベントへと乗り込むまでにいたったはなせ氏の行動力は本当にスゴいものですし、そういう意味でも『ノウ』は要注目タイトルであると言えるでしょう。

切り絵をコラージュしたようなグラフィックと不穏なストーリーに引き込まれる

 『ノウ』のデジゲー博でプレイできたバージョンは、“はじめから(ストーリーパートが多い)”と“探索シーンから(アクションゲームパートが多い)”の2パターンから選ぶ仕様になっていました。いずれも8分の時間制限が設けられています。筆者は“はじめから”を選択。

 ゲームは主人公が“謎の存在”に呼びかけられるところからはじまります。この存在から「指示を出すから言われたように行動するように」と命令される主人公。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
謎の存在は目玉のようでもあり、黒点が異様に大きい太陽のようでもある。

 場面が移り変わり、廃墟のような場所で見知らぬ子どもに助けられる主人公。助けてくれた彼は“グチャ”と名乗り、記憶のない主人公を自身が通う学校の寮へと招き入れます。

 グチャとの会話中にも、ときおり「グチャに 私のことを 話すな」などと指示を出してくる謎の存在。彼の指示には従う以外に、背くこともできます。今回のプレイでは指示に背いたことを後から咎められてしまいました。従うか、背くかの積み重ねによって、物語の結末も変化する模様です。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】

 この“天の声の指示に従っても、背いてもいい”という要素から筆者は『The Stanley Parable』を連想したので、はなせ氏に尋ねてみたところ、やはり大好きなゲームのひとつで、影響を受けているとのこと。

 ただ、天の声を“ファンタジー世界の上位存在(のようなもの)”に紐づけた発想は独自のものですし、この仕掛けによって最終的に何が描かれるのかには、非常に興味をそそられます。余談ですが、公式サイトではこの存在が“指示厨”と呼ばれていたのが、身も蓋もなくて笑ってしまいました。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
上から目線で「従え」なんて命令されると、意味なく逆らってみたくなるものです。

 実際にプレイしていると、アートワークや音楽などを総合した世界観の魅力をより強く再認識させられます。切り絵をコラージュしたような彩り豊かなキャラクターやオブジェクトが、漆黒の背景と対置されたグラフィックが生み出す、かわいらしさと不穏さの同居する独特の雰囲気。

 謎の存在や、グチャの異質な頭部といった表現が際立つのもこのグラフィックならではです。「この先にはどんな光景が待っていて、どんな人物と出会うのだろう?」といった好奇心がプレイを後押しします。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】

 とくに大好きなゲームとして『UNDERTALE』(アンダーテール)や『Hotline Miami』(ホットラインマイアミ)を挙げているはなせ氏。本当はこれらと同様、ドット絵を用いたグラフィックにしたかったものの、初のゲーム制作で初挑戦の要素をこれ以上増やすべきではないとの判断から、仕事で使用しているツールで作成可能な現在のアートスタイルにいたったのだと言います。

 しかし客観的には、もしドット絵で制作していたら、ここまで個性的なビジュアルにはならなかったのでは? とも感じられ、このアートスタイルを選んで正解だったように思います。“クリエイターの歩んできた人生”が、結果的にそのまま“ゲームの個性”になる――こうした部分こそ、まさにインディーゲーム、とくに個人制作タイトルならではのおもしろさのひとつであると、改めて感じるエピソードでした。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】

 グチャによると、彼は学校で“科学班”に所属。人体の勉強をしており、病気や怪我を治す方法などを研究していると言います。また、この世界では“ニンゲン”と“カイブツ”が戦争しているとのこと。“科学班”での研究も、これに関連したものであることが察せられます。心やさしい印象だったグチャですが、戦争については「ニンゲンのホンノーなんだ」と言い切るなど、我々の価値観とは深い溝もある模様。はてさて……?

 グチャとの交流を経て、就寝。朝になって、グチャからもらった“前に同じ部屋を使っていた人の忘れもの”だという帽子(これもなんだか不穏)を被った主人公は、学校へと登校することに。教室でキービジュアルに描かれている主人公とグチャ以外のふたりの生徒、そして先生と出会ったところで、時間制限の8分が経過。この先の展開と、今回プレイできなかったアクションゲーム部分にも早く触れてみたいと思わせてくれる、あっという間の8分間でした。

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】

 次回は2024年1月20日・21日に開催される“東京ゲームダンジョン4”に出展される予定だという、おはな世界の『ノウ』。もしデジゲー博と同じバージョンでの出展なら、今度は“探索シーンから”で、アクション部分をプレイしてみるつもりです。

 ちなみに、アクション要素は“かなりユルめ”だそうで、アクションゲームが苦手な人も、ビジュアルに惹かれたのならそのまま発売を楽しみにしておくのが吉(きち)。いまからSteamのウィッシュリストに追加しておきましょう!

『ノウ』18年間もゲーマー引退状態だったのに、突然ひとりでゲーム開発。『UNDERTALE』『The Stanley Parable』風の不気味切ないアドベンチャー【デジゲー博2023】
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