2023年10月26日、3goo(サングー)からプレイステーション5(PS5)向けにパッケージ版が発売となるシミュレーションRPG『ロスト アイドロン スペシャルエディション』。
ファンタジー世界を舞台にしたシミュレーションRPGと言えば、さまざまな代表作が思い浮かぶかと思う。ただ、難易度が高かったり、戦略性に重きを置いたためストーリー面に没入しづらかったりという面から、ハードルの高さを感じることが多いジャンルでもあるだろう。
今回、発売に先立って本タイトルをプレイさせてもらったが、こうしたハードルの高さとなる要因にもしっかり対処したゲームデザインになっていた。ストーリー面でも、片田舎の青年が少しずつ経験を積み、やがて世界の命運を担う大英雄にまで成長していく壮大な物語に、自然と没入できるようになっていた。
なお、『ロスト アイドロン スペシャルエディション』には、本エディションのみの特典として、デジタルアートブックならびにオリジナルサウンドトラックも同梱される。アートブックは170ページという大ボリュームで、この壮大な世界や物語、登場人物をさらに掘り下げてくれる。こちらも併せて、実際のプレイを通じて感じた本作の魅力についてお伝えしていきたい。
『ロスト アイドロン スペシャルエディション』(PS5)の購入はこちら(Amazon.co.jp)やがて英雄となる、ひとりの青年の物語を追体験
本作の舞台となる“アルテメシア大陸”は、騎士や貴族制度が存在する中世西洋に近い文明レベルでありながら、魔法やモンスターが実在する世界だ。ストーリーは、大陸制覇を果たし大帝国を築きながらも狂気に陥り、圧政を始めた“征服王”に対し、各地で反乱が起こりつつあるところから始まる。
本作の主人公“エデン”は、そんな大陸の片田舎で生まれ育ったごくふつうの青年だ。近隣のもめごとの解決や、モンスター退治を請け負う傭兵団を率いてはいるが、この団も同年代の若者たちがつるむ自警団のようなものだった。そんな彼はとある事件に首を突っ込んだことで、反乱軍の一派に加わることになる。
最初は勢い任せの行動が多く、そのうえで「どうにかなるだろう」と楽観的だったりと、まさに田舎の無鉄砲な青年といった人物だったエデン。しかし、物語が進むとともにさまざまな人との出会いと助力を得つつ、さまざまな経験を積んでいくことで、少しずつ英雄の器に成長していく。
ストーリー面ではこのエデンの成長が絶妙にゆっくりと、かつ多岐にわたり描写されていくので、プレイヤーが感情移入しやすくなっているように感じた。壮大な世界観ではあるものの、あくまでプレイヤーはエデンの視点を通じてそれらに対面していくことで、置いてけぼり感を味わうことがない。
この世界や物語への没入感をさらに増してくれるのが、シミュレーションパートの合間に用意されている“野営地”での時間だ。野営地ではすべての仲間や同行する商人などのNPCに話しかけることができ、彼らとの会話やそこから発生するイベントをこなすことで、親密度を高められる。
野営中の一部の活動には“統率力”というリソースが必要で、一回の野営で使用できる統率力は限られている。どの仲間と絆を深めるか、それとも戦力増強につながる活動に費やすか、その選択もなかなか悩ましい。
仲間たちとの会話もかなりボリュームがあり、それぞれの性格や背景が少しずつ浮き彫りになっていく。エデンだけでなく、彼らの物語も並行して読み進めていくことで、さらに世界観に没入できること請け合いだ。
戦闘と育成もわかりやすく、とくに魔法がおもしろい
本作の主軸となるシミュレーションバトルは、ターン制のかなりシンプルなシステムになっている。各ユニットは1ターンに1回ずつ移動と行動が可能で、全ユニットが行動し終えたら相手のターンに移るという、オーソドックスなスタイルだ。
この基本システムは据え置きのまま、本作ではゲーム開始時にさまざまな難易度に関わる選択が可能だ。おおまかな難易度については“ノーマル”のほかに、戦闘がさくさく進められて物語により没入しやすくなる“ストーリー”と、かなり歯応えが増す“ハード”が用意されている。
さらにゲームモードとして、倒された味方ユニットが戦闘終了後に復活する“カジュアル”と、復活しない“マニアック”が選択可能。各ステージに制限ターン数を設けるかどうかも選択できる。マニアックモードでは『ファイアーエムブレム』シリーズなど、往年のSRPGで味わったのと同様のすさまじい緊張感が待っている。
実際のマップでの戦闘についても、かなりシンプルにまとまっている。まず、各マスには高所や水溜まりなどといった“地形効果”があるが、命中率や攻撃力が極端に上がったりするものはない。後述する魔法との組み合わせで優位を生み出すこともできたりと、活用すればより本作を楽しめる、ほどよいシステムになっている。
戦略についても、この範囲内に敵対ユニットが侵入すると反応して動き出すという“リスク領域”が敵対ユニットすべてに設定されており、これもひと目で確認できるため、組み立てやすい。特殊な設定がなければ、この領域に踏み込むまで相手は無反応なので、領域ギリギリで陣形を整えてから一気に攻め込める。
こうしてプレイを進めていくと、プレイヤーそれぞれのお気に入りの陣形や、侵攻時のパターンができあがっていくかと思う。そうしたプレイスタイルに合わせ、各ユニットの“クラス”を選んでいくのもまたおもしろい。本作には20以上のクラスが用意されており、キャラクターレベルと“剣”などの武器種、“プレートアーマー”などの防具種、“光の魔法”などの3系統の魔法、それぞれの熟練度が条件を満たしていると、野営地でクラスを変更できる。
ふつうに対応した種類の武器や防具を装備して戦っていくだけでも、熟練度はハイペースで上がっていく。加えて、野営地で“訓練計画”を組むことで、複数名の仲間の好きな熟練度を上げることができる。一部のクラスでは前衛系と魔法系の両方の熟練度を要求されるが、訓練計画を活用すれば、レベルが必要値に達するころにはその条件はほぼ満たせた。
これらのクラスのなかでも、魔法の書“グリモワール”を装備して戦う魔法使い系のクラスは、さらにカスタマイズがおもしろい。グリモワールは大まかに、炎や風といった自然の力を用いる“エレメント”、回復や支援が中心の“光”、状態異常を起こすものが多い“闇”の3系統のいずれかに偏っており、装備後には用意された空欄に属する系統の魔法を選んでセットできる。
本作では魔法はMP消費ではなく、1マップごとに3回までなど、使用回数が銃の残弾のように限られている。強力だが使用可能回数が少ない魔法を空欄に入れるか、それとも使用回数を優先するかなど、同じクラスでもスタイルが大きく異なってくる。
とくにエレメントの魔法は、先述した“地形効果”に大きな影響を受ける点がユニークだ。たとえば、水溜まりなどに入って“水びたし”状態の相手には、炎の魔法は威力が削がれ、逆に雷や氷の魔法は追加効果が発生する。ほかにも炎の魔法で茂みが炎上してダメージ地形に変わったりと、地形効果をより活用した戦術が立てられる。
このようにカスタマイズ要素や育成要素もかなりおもしろく仕上がっているが、戦闘自体はシンプルで難しいところはほとんどなく、スムーズに遊べる点がうれしいところ。戦闘を複雑化する要素がほとんどなく、回避率や命中率についても敵味方ともに毎回ほぼ必中というバランスになっているので、戦闘中に考えなくてはならないことはそこまで多くない印象だ。
まるで別ゲー、巨大なモンスターとの戦闘も手に汗握る
本作の世界には魔法などが存在するとはいえ、文明的には中世ヨーロッパに近いという、ファンタジー要素がそこまで強くない“ローファンタジー”の世界となっている。しかし野にはヘルハウンドなど、ファンタジー世界ではおなじみのさまざまなモンスターも跋扈している。
このモンスターとの戦いが、通常の戦闘とはかなり異なり、より戦略性が高くなっている。モンスターはその巨体から複数のマスを占有しているが、そのいくつかのマスに“弱点”を抱えているのだ。
ふつうにモンスターを攻撃しても、微々たるダメージしか与えられないうえに、すさまじい威力の反撃を受けてしまう。しかし、弱点部分にその弱点に対応した武器種で攻撃すると、“チェイン”が発生。チェインをつなげていくごとに、与えるダメージが大きく跳ね上がっていく。
つまり、弱点マスに対応した武器で殴り続ければ反撃を受けずに倒せるというわけだが、そこまで簡単にいくものでもない。弱点マスはそれぞれ1ターン中に2回、対応した武器で攻撃すると消滅してしまう。さらにターン開始時、すべての弱点マスは復活するが、アイコンはランダムで変化する。このため、対モンスター戦ではさまざまな武器種のユニットをしっかり用意しておかないと、弱点を延々と突けずに蹂躙されてしまう可能性もある。
モンスターはかなりのHPを有しており、チェインを発生させないと倒すのはほぼ不可能。陣形を維持していけば押しつぶせるふだんの戦闘とは異なり、周囲を包囲しての遊撃戦が必要になる。各ユニットが装備できる武器は原則として2種類までなので、対モンスター用の編成を考えてみるのもおもしろい。
さまざまな武器種を用意しておけば、ふだんの人との戦いにおいても防具の種類による弱点を突きやすくなるので、ストーリー攻略をスムーズに進めるうえでも無駄にはならないはずだ。
壮大な世界観にさらに迫る、アートブックにも要注目
ファンタジー世界の壮大な物語に、主人公・エデンの視点から没入しやすいのが本作の大きな魅力。その世界観をより深く理解できるのが、特典のデジタルアートブックだ。こちらは大ボリュームながらアートブックということで、テキストは少なめのイラスト中心の構成で読みやすく、作中で使用された19曲のBGMを鑑賞できるサウンドトラック機能も搭載している。
中身については、あまりにもネタバレになるので今回の記事では詳細までは触れられない。ほぼ1マップのみの出番しかなかった登場人物も含め、さまざまなキャラクターのグラフィックや設定に加え、本作のマップを彩るアセットの数々までも掲載されている。
ほかにも、アルテメシア大陸各地のイメージイラストなど、世界観をより深掘りしたイラスト資料も多数掲載されており、本作をひと通りプレイしたあとで読み進めると、さまざまな感慨が湧いてきた。本作ではエデンを通じて世界観に没入しやすいことにより、世界各地についてもいろいろな記憶が自然と残る。本アートブックは、そんな旅の記憶を絶妙に刺激してくれる。
プレイ後にさらに世界観と物語に浸れるという点から、特典というよりはゲーム体験の一環として、ゲームと地続きになっているとも言えるだろう。こちらのアートブックと併せることで、本作のストーリーで得られる感動はさらに膨らむかと思う。
ゲーム自体はそこまでハードルも高くなく、スムーズにプレイできて戦略面もしっかり楽しめる。そのうえでRPGらしい仲間との交流や、ストーリー面にしっかり没入できるタイトルとなっているので、壮大な英雄譚や王道のRPGに飢えている皆さんには、ぜひこのPS5版発売を機に本作に触れてみてほしい。
ロスト アイドロン スペシャルエディション
- プラットフォーム:プレイステーション5
- 発売元:3goo
- 開発元:Ocean Drive Studio
- 発売日:2023年10月26日発売
- 価格:6380円[税込]
- ジャンル:シミュレーションRPG
- 対象年齢:CERO 15歳以上対象