ロシアのインディーゲームデベロッパーyeo(これはチーム名であると同時に、同チームの中心人物Vadim Gilyazetdinov氏個人の活動名でもある)の作品には一貫した美学がある。

 デビュー作は2018年発売の『The friends of Ringo Ishikawa』。yeoが子どものころから大ファンだったという『くにおくん』シリーズを彷彿とさせる2Dドット絵の格闘アクションだが、いざプレイしてみると不良高校生たちの喧嘩アクションとともに、自宅のベランダでボンヤリとタバコを吸う時間や、同級生たちとのたわいない会話、深夜に歩く川沿いの道といった日常描写の作り込みや叙情的なトーンが印象に残る作品に仕上がっていた。

 続く2020年発売の『Arrest of a stone Buddha』の主人公は殺し屋で、香港映画の巨匠ジョン・ウー作品を彷彿とさせるガンアクションが展開。2D横スクロールで前後から湧くように迫ってくる大量の敵をひたすら撃ち、弾がなくなったら敵から銃を奪って再び撃ちまくるというゲームシステムは、単調ではあるものの独特のリズム感もあり十分に熱中できる仕上がりとなっていた。そして殺しの仕事のあいまには、前作同様に日常(殺し屋の心象風景を反映したかのような退屈で乾いた日常だ)が存在感たっぷりに横たわっている。

 アウトローな存在をテーマに、彼らの暴力性だけでなくアウトロー故の哀愁や空虚さにも焦点を当て、それを緻密な2Dドット絵を用いて文学的に描く――これがyeoの美学であり、彼らの作品が一定の注目を集めている所以でもあろう。

 2023年9月15日に発売(現時点ではSteamでのみ配信中)された最新作『Fading Afternoon』は、そんなyeoの美学の集大成とも言える作品になった。

 日本のヤクザ社会を舞台にした本作には、『The friends of Ringo Ishikawa』の格闘アクションがあり、『Arrest of a stone Buddha』から引き継いだガンアクションがあり、修羅場を生き抜いてきたアウトローたちの生き様が深く彫り込まれている。

『Fading Afternoon』Steamサイト

ムショ帰りの昔気質なヤクザはどう生きるのか

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 東組の丸山誠二は、“牛頭鬼”の呼称で恐れられた武闘派のヤクザ。対立する組織の組員を殺し、10年の勤めを終えて出てきた。刑務所にいるあいだにシャバの状況は様変わりし、縄張(シマ)はほとんど失われ資金繰りもきびしい状態だ。その一方で、敵対していたはずの組が手を組んでいたり、合法的なシノギで組織を拡大する組もいる。

 時代もヤクザも変わっていくなか、昔気質の丸山はどう生きるのか?

 『Fading Afternoon』には組事務所、唯一のシマとなったバー、チャカが手に入る質屋、情報屋がいるパチンコ店、キャバクラ、ディスコ、銭湯、麻雀店、バッティングセンター、カーディーラー、埠頭など、ヤクザ映画でもおなじみの“らしい”エリアが数多く用意されている。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 各エリアにはアクティビティも用意されていて、たとえばキャバクラで女の子とイチャイチャしたり、バッティングセンターで汗を流したり、銭湯でととのったり、自家用車を買ったり、タバコ片手にバーでグラスを傾けるといったことが可能だ。

 どのエリアに行き、なにをするのかはプレイヤーの自由だ。

 東組再興のためにシマ争いへ乗り出したいなら、エリア内をたむろしている他組員へおもむろに殴りかかればいい。たちまち抗争に発展する。抗争に勝利すると、そのシマを仕切る“舎弟”の居場所(のヒント)が報告されてくるので、見つけ出して始末すればシマは東組のものだ。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 もちろん、暴力の世界から距離を置くこともできる。カーディーラーで購入したクルマで田舎まで飛ばして、美しい湖で日がな釣りをして過ごしたっていいし、退屈な生活に嫌気がさしたらふいに拳銃自殺したっていい。

 なお、丸山の行動はマップから3回エリアを移動したら強制的にホーム(ホテルか自宅か野宿)へ移動させられて、そのターンの行動が終了となる。1ターンはゲーム内時間で1週間となっていて、ターンを重ねるうちに季節が移り変わっていく。紅葉した山を眺め、雪化粧した街を散策するといった具合に、緻密なドットで描かれた景色を眺めるのも本作の楽しみのひとつと言えるだろう。

 ただし、どう過ごそうと残された時間はあまり多くない。“牛頭鬼”として恐れられる丸山だが、その身体は病に蝕まれているからだ。

丸山のいくつもの生き様、死に様を見届けよう

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 本作では舎弟殺害を始めとした各種イベントの発生やターンの進行とともに、丸山の病が進行して最大ヒットポイントがどんどん減っていく(ちなみに最大HPは999だが、開始時点ですでに半分程度しかない)。

 死にゆくヤクザとはなんともyeoらしいナラティブな設定だが、ゲームプレイの面においてもこの要素は効果的に働いており、ともすれば単調になりかねない本作の攻略に適度な緊張感を与えている。

 病によって体力が全盛期(=HP999)の半分程度になったとは言え丸山の格闘能力は依然として高く、シマ争いの際も序盤は力押しで勝つことができるだろう。しかし、東組の勢力拡大は丸山の病が進行することを意味する。本作に登場する敵の種類・攻撃パターンはそれほど多くないのだが、最大HPの強制低下という仕掛けによって序盤と終盤では攻撃1発に対する緊張感が必然的に高まるというわけだ。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 また、主人公につきまとう死の影という要素は、yeo作品にあった弱点も克服したと僕は考えている。

 『Fading Afternoon』の原型とも言える『The friends of Ringo Ishikawa』は、前述のとおり不良学生たちの日常描写が魅力のひとつだったが、逆に言えば日常生活には目的らしい目的がないため、プレイが冗長になりがちだった。その冗長さも含めてyeo美学なのかもしれないが、とは言え長い時間それに付き合い続けるのは退屈だった、というのが正直な気持ちだ。

 日常描写へのこだわりや叙情性は『Fading Afternoon』にも引き続き顕著に存在している。しかし、確実に近づいてくる死の存在によって、キャバクラで遊ぶ、銭湯に入る、田舎でボーッとするといったすべての行動に多少のリスクが生じるようになった。生き様は自ずと死に様にもつながるわけで、そのような状況では退屈すらも尊い瞬間となり、yeoの美学をより印象深いものとしてくれるだろう。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 もうひとつyeo作品としての重要な進化点として、マルチエンディングの採用が挙げられる。

 『Fading Afternoon』はなにをするのもプレイヤーの自由なうえに、システム全般の説明が(おそらくあえて)ほとんどないため、初回は右も左もわからないまま、なんとなくアクティビティや抗争をくり返すプレイになりがちだ。そして、そのようなプレイだとイベントはほとんど発生せず、ヤクザとしてなにも成し遂げることなく孤独に病死(か抗争の中での犬死に)するエンディングを迎えることになる。それはそれで味わい深いゲーム体験ではあるが、この作品が本当におもしろくなるのは2周目以降からだ。

 周回プレイで不明瞭だったシステムを把握し、イベントフラグの立てかたを理解した瞬間、初回プレイでは空白だらけに見えた『Fading Afternoon』の物語が、じつは驚くべき密度で存在していることがわかってくる。そして考える。限られた時間の中でどこへ行くべきだったのか、誰と過ごすべきだったのか、誰を殺し、誰を生かすべきだったのか、と。周を重ねるほどにプレイヤーの前には新たなifが立ち現れ、ゲームはプレイヤーが下した決断に誠実に応えてくれる。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 さきほど僕は“退屈すらも尊い瞬間”と書いたが、『Fading Afternoon』の密度を理解したあとではイベントフラグの調整に忙しくなって、実際のところ退屈しているヒマなどなくなってしまうだろう。

 とは言え、いくら物語の密度が高かったとしても、肝心の内容がよくなければ意味がないが、その点についても本作は抜かりがない。

充実した物語はいくらプレイしても底が見えないほど作り込まれている

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 『Fading Afternoon』で描かれる丸山の生き様(そして死に様)は、名作ヤクザ・ギャング映画のいいとこ取りとも言える内容だ。

 初期北野武映画を彷彿とさせる乾いた暴力と虚無感、『仁義なき戦い』シリーズで見た組どうしの権謀術数、香港ノワールを象徴する『男たちの挽歌』シリーズの熱い友情を通奏低音にyeoの美学を散りばめたイベントは、どれもじつに魅力的だ。

 数あるイベントのなかでも僕がもっともグッときたのは、地域のヤクザに対して絶対的権力を持つ“会長”を引きずり下ろすために、すべての組を巻き込んだ一大抗争を起こす展開。画面に映るのは2Dグラフィックのドット絵だが、僕の脳内では東映実録ヤクザ映画でおなじみの面々――松方弘樹が、千葉真一が、菅原文太が、梅宮辰夫が、渡瀬恒彦が躍動し、「これぞ真に映画的なゲームだ!」と得も言われぬ興奮を味わったのである。

『Fading Afternoon』レビュー。昔気質なヤクザの“生き様と死に様”を描くアクションアドベンチャー、いくら遊んで底が見えない作り込みに圧倒されてしまう

 ……なんて書きかたをすると、ヤクザ映画ファン以外はお断りと捉えられてしまいそうなので慌てて補足すると、ヤクザ云々は置いといても、細部まで作り込まれた人間ドラマとしてすぐれた仕上がりであることは約束する。

 ちなみに僕は本作をすでに20時間近く遊んでいるが、いまだ物語に対していくつかのifが残っている状態だ。しかも、発売直後からyeoは断続的なコンテンツアップデートを行っており、モーションやイベントの追加も行われている。いったいこの作品はどこまで作り込まれていて、どこまで作り込む予定なのか見当もつかない。

 いずれにしても『Fading Afternoon』=『消えゆく真昼』というタイトル名とは対照的に、まだしばらくこの作品の魅力が消えることはなさそうだ。

執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。『Fading Afternoon』を遊んでいたら無性に北野武映画が観たくなって、衝動的に複数枚のブルーレイを買ってしまいました。