ミステリーアドベンチャーゲームをプレイするとき、安心感があった。

 “主人公=探偵役”であり、自分が犯人になることはありえないと。

 それを逆手に取って主人公だと思っていたキャラクターが犯人で、大いに驚かされた作品もあったが、多くの作品では“主人公=探偵役”という構図が一般的だろう。

 だが、 “マーダーミステリー”を題材にした『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』では、ひと味違った体験が味わえる。本作は、2023年12月2日(土)にアニプレックスから発売予定のPC(Steam)向けミステリーアドベンチャーゲーム。

 『Fate/Grand Order』や『キングダム ハーツ』、『ディシディア ファイナルファンタジー』などの制作に携わった、クリエイターの塩川洋介氏がプロデューサーを務める注目タイトルだ。

『マーダーミステリーパラドクス』体験版レビュー。マーダーミステリーならではのプレイ体験が散りばめられたアドベンチャーゲームの意欲作。マダミスファンとミステリーADVファンは絶対に遊ぶべき

 ひと味違った体験が味わえる理由は、プレイヤーの分身である主人公の少年自身も容疑者のひとりとして、ほかの登場人物たちから疑われる立場にあるから。

 プレイヤーは限られた時間の中で、容疑者たちとの会話を通じて事件の手がかりを集めて、そこから推理し、事件の真相を暴いていくことになる。それと同時に、自分自身の疑いを晴らすため、周りからの信用を集めていく必要があるのだ。

 十分な信用が得られないまま終わりを迎えると、主人公が犯人にされてしまうことも。このように、本作では一般的なミステリーアドベンチャーとは異なる体験が堪能できる。

 そんな本作の魅力の一端が楽しめる体験版が、2023年10月10日に配信された。本稿では、ミステリーアドベンチャー好きのライター・ジャイアント黒田による体験版のプレイレビューをお届けする。ストーリーやトリックのネタバレには十分に配慮しているので、安心して読み進めてほしい。

『マーダーミステリーパラドクス』体験版レビュー。マーダーミステリーならではのプレイ体験が散りばめられたアドベンチャーゲームの意欲作。マダミスファンとミステリーADVファンは絶対に遊ぶべき
『マーダーミステリーパラドクス』Steamページ
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マーダーミステリーを題材にした意欲作

 本題に入る前に、マーダーミステリーについておさらいしたいと思う。

 数年前に登場し、人気を博しているマーダーミステリーは、殺人事件などのシナリオに沿って複数人でプレイするリアル参加型ゲーム。参加者は登場人物になりきり、犯人役は逃げ切る、それ以外の役は犯人を探し出すのが大きな目的となる。

 人狼ゲームのように登場人物同士で推理をするのだが、それぞれが設定を持った登場人物にロールプレイしているほか、設定が推理に役立つ情報でその探り合いになることがキモとなる。

 と、さも知っているように書いているが、筆者がマーダーミステリーを体験したのはつい最近のこと。実際に体験していたからこそ、マーダーミステリーの形式をアドベンチャーゲームにうまく再現しているのがよくわかった。

 マーダーミステリーをまだプレイしたことがない方は、下記にある筆者の体験リポートをチェックしてほしい。そうすることで、マーダーミステリーを題材にした本作ならではの特徴や魅力がより伝わるはずだ。なお、リンク先の記事では、マーダーミステリーの作品『ヤノハのフタリ』について、特別にネタバレありのリポートを掲載させていただいているので、読むにあたっては十分に注意してほしい。

“マーダーミステリー”体験リポートはこちら(※こちらにはネタバレがあります。ご注意ください)

 ちなみに、筆者はマーダーミステリー初体験ということもあり、何を聞かれてもグダグダな言い訳みたいになってしまった。

 本作がリリースされたあかつきには、ゲームでマーダーミステリーのいろはを学び、ほかの参加者にリベンジしたい。首を洗って待ってろよ!

 なお、本作は基本シングルプレイとなっているので、ひとりでも楽しめる。

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写真右が筆者のジャイアント黒田。めちゃくちゃビビってました。

マーダーミステリーの流れを再現したミステリーパート

 本作の最大の特徴と言えるのが、事件の謎を解くミステリーパートで、マーダーミステリーの流れを再現しているところ。ミステリーパートは、実際のマーダーミステリーのように下記の流れで進行していく。

  1. 調査フェーズ:容疑者との会話を通じて事件の真相に迫る。
  2. 全体議論フェーズ:容疑者全員で推理を披露し合う。
  3. 投票フェーズ:容疑者全員で犯人投票を行う。
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本作はチュートリアルの導入が親切。ヘルプも充実しており、マーダーミステリー初心者や、ふだんアドベンチャーゲームを遊んでいない人もプレイしやすいと感じた。

調査フェーズ:事件の謎を解き明かす名探偵気分に熱中!

 調査フェーズでは、ふたりきりでの会話“密談”を通して、事件の証言や物証、容疑者たちのアリバイといった情報を入手し、事件の真相に迫っていくことに。

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最初の事件の容疑者は、主人公を入れて5人。

 密談中にできる行動は、疑問を探る、推理する、推理を伝える、質問する、の4種類。

 容疑者たちの疑問を解決することで事件の真相へと徐々に近づいていけるのだが、疑問を解決するにはプレイヤーが疑問の答えを推理する必要がある。そして、推理を行うには材料となる手かがりを集めなければならない。

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 新たな手がかりは、すでに入手した手がかりを容疑者に質問することで集められる。筆者のようにポンコツな探偵は、手当たり次第に質問したいところだが、質問には3つのルールがある。

  • 本人から得た手がかりは、本人には質問できない。
  • 一度質問したら、同じ手がかりを同じ相手に質問できない。
  • 相手を疑う質問は、相手からの信用を下げる可能性がある。

 とくにやっかいなのは3つ目のルール。ほかの容疑者たちから信用を得られないと、主人公が疑われてしまう。周囲の信用を得て自分の味方を増やしながら事件を調査するのは、マーダーミステリーを題材にした本作ならではと言えるだろう。

 ちなみに、犯人役となった筆者は根回しに失敗し、孤立無援状態となった。その結果、あなたが犯人でしょうと針のむしろ状態に……。いま思い出してもつらい。だからこそ、信用を得ることの重要性がよくわかる。信用はマジで大事!

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主人公対する信用度は、警戒、疑心、中立、信用、信頼の5段階。容疑者たちの疑問を解決することで、信用度が徐々に上がっていく。

 また、調査フェーズの攻略に制限時間が設けられているのも、実際のマーダーミステリーと同じ。残り時間は、疑問を探る、推理する、推理を伝える、質問する、の4種類の行動を行うたびに減っていく。つまり、手当たり次第に質問すると、時間がなくなってしまう。

 残り時間が“0”に達すると、調査フェーズは強制的に終わってしまい、事件の真相にたどり着けなくなる可能性も……。本作では、より慎重な行動が求められるのだ。

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 容疑者たちから信用を得る、制限時間内に調査を終えるという要素がほどよい緊張感を生み出し、ほかのミステリーアドベンチャー以上に、調査や推理に集中できた。うまく行動することで、新たな証拠が集まり、事件の真相に着実に近づいていると実感しやすいのも、ゲームを進める原動力に。

 集めた手がかりで、容疑者たちの疑問を推理して披露するのも気持ちがいい。推理を行う手順は、答えを推理したい疑問を選び、その疑問に対して設定された推理に必要な手がかりをすべて埋めるだけと、操作が非常にシンプルなのも好印象だ。ゲームに慣れていない、マーダーミステリーのファンも気軽にプレイできるだろう。

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手がかりには証言、物証、アリバイの3種類があり、疑問の答えにつながりそうな手がかりを当てはめて推理を行う。

 しかもありがたいことに、調査フェーズでいつでも閲覧できる推理ノートには、事件概要、疑問・推理、手がかり、時系列、マップ、人物情報がまとめられており、事件の整理や推理に大いに役立った。

 事件の情報がわかりやすく閲覧できるのは、ゲームならではの利点と言える。この機能が実際のマーダーミステリーにもあれば、犯人役としてうまく立ち回れたのに! ……いや、たぶん無理だな。負け惜しみです、ごめんなさい。

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全体議論フェーズ:仲間と協力する一体感と事件の真相に近づいていく爽快感は格別!

 プレイヤーが調査フェーズで事件の真相にたどり着くと、調査の終わりを知らせるメッセージが表示される。そして、“調査終了”から任意のタイミングで調査フェーズを終了し、全体議論フェーズに進むことができる。

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 全体議論フェーズでは、容疑者がひとり1回ずつ順番に、自身の主張を述べていく形で進行。プレイヤーは自分以外の主張それぞれに対して、自分の意見を述べることもできる。

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 プレイヤーの主張や意見しだいで全員の信用度が大きく変化してしまうので、いかに相手を納得させる言動ができるかが、事件解決の鍵となる。

 全体議論を通して、犯人を絞り込むのも実際のマーダーミステリーの流れと同じだ。昨日体験したリアルのマーダーミステリーでは犯人役だった筆者は追い詰められる立場だったので、ゲームを楽しむ余裕なんてなかったが、本作ではシロだと目星をつけている容疑者たちをかばい、ともに犯人を追い詰めていく。

 仲間と協力する一体感と事件の真相に近づいていく高揚感。この感動もマーダーミステリーを題材にしているからこそ得られるものだろう。

 いまならリアルの『マーダーミステリー』で筆者を追い詰めた参加者たちの気持ちがよくわかる。だからこそふつふつと怒りが湧いてきた。あのとき、こんな気持だったのかと。くそう、絶対にリベンジしてやるからな!

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投票フェーズ:仲間といっしょに犯人を特定するのが気持ちいい!

 話がそれてしまったが、全員が主張を述べると、犯人を決めるための投票を容疑者全員で行う投票フェーズに進む。投票は、ひとり1票ずつ順番に無記名投票で行い、もっとも得票数が多かった人物を犯人と結論づける。

 この投票で真犯人の得票数がもっとも多ければ事件は解決。ストーリーが進行するが、ほかのキャラクターだった場合は“BAD END”になってしまう。

『マーダーミステリーパラドクス』体験版レビュー。マーダーミステリーならではのプレイ体験が散りばめられたアドベンチャーゲームの意欲作。マダミスファンとミステリーADVファンは絶対に遊ぶべき

 投票の結果、犯人を特定できたときの達成感はひとしお。仲間になった犯人以外の容疑者たちと事件を解決できたという喜びが大きかったのも、本作ならではの体験だった。

 最後に、なぜ犯人が事件を起こしたのか。動機がきちんと明かされるのもスッキリする。だが、事件によっては新たな謎を生むエピソードも用意されており、製品版で続きをプレイするのが非常に楽しみな作りになっていた。

 また、本来のマーダーミステリーと同様に犯人が分かった時点でリプレイ性はなくなってしまう。ただ、犯人が分かるまでの過程は複数用意されているので、さまざまな角度から謎を解いていくおもしろさはデジタルゲームならではのマーダーミステリーと言えるだろう。

システムだけではなく舞台やストーリーも魅力的!

 マーダーミステリーを題材にした意欲的なタイトルだったからこそ、システムを中心に紹介してきたが、最後に舞台やストーリーが魅力的だったことにも触れておきたい。

 本作の舞台は、人口数百人の離島“式音島”。2004年8月に、15歳の少年・天沢樹(本作の主人公)は、初めて式音島を訪れた。養母の実家で血の繋がらない従兄弟たちと出会い、穏やかな時を過ごす中で、樹は知ることになる。

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 “式音島の神隠し”と呼ばれる怪事件が、この島でくり返し起きていることを。

 そして、自分の大切な人たちが、事件の謎に深く関わっていることを。

 離島、神隠し、怪事件……。ミステリー好きにはたまらない単語が散りばめられており、プレイ意欲が刺激されるのは、筆者だけではないはず。

 また、体験版ではふたつの事件をプレイできたのだが、想像していなかった展開にいい意味で予想を裏切られることとなった。

 これはネタバレになってしまうので、ぜひその目で体験してほしい。マーダーミステリーのファンはもちろん、ミステリーアドベンチャーの新たな可能性を感じられる作品の手応を体験できたので、アドベンチャーゲームのファンも必見のタイトルだ。

『マーダーミステリーパラドクス』Steamページ
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[2023年10月10日16時18分修正]
一部、本作とは異なるタイトルについてのネタバレになりえる表記があったため、該当の文章を修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。