※本記事にはマーダーミステリー『ヤノハのフタリ』のネタバレが含まれます。ご注意ください。

「宇敷和子、45歳、女性、臓器コーディネーターをしています。皆さん、どうぞよろしく」

 自分を除く6人の参加者の前で、私はそう自己紹介をした。

 もちろん、本当のプロフィールではない。宇崎和子を名乗った私こと、筆者のジャイアント黒田は、39歳、男性、フリーライター。ふだんは週刊ファミ通やファミ通.comを中心に、ゲーム関連の記事を執筆している。

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿
写真右側の巨漢が筆者(ジャイアント黒田)。猛暑の中、5kg太った。

 では、なぜ宇敷和子なる臓器コーディネーターとして自己紹介をすることになったのか。それは、マーダーミステリーを体験することになったからだ。まずは経緯を説明しよう。

 そもそも“マーダーミステリー”とは、殺人事件などのシナリオに沿って複数人でプレイする参加型ゲーム。参加者は登場人物になりきり、犯人役は逃げ切る、それ以外の役は犯人を探し出すのが大きな目的となる。

 そんなマーダーミステリーを題材にしたゲーム『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』というがアニプレックスから発売されるのをご存知だろうか。本作は、2023年にPC(Steam)で発売予定のアドベンチャーゲーム。プレイヤーは、人口数百人の離島“式音島”を舞台に、くり返し発生する怪事件の謎に挑む。

 『Fate/Grand Order』(FGO)や『キングダム ハーツ』、『ディシディア ファイナルファンタジー』などの制作に携わった塩川洋介氏がプロデューサーを務めるということで、注目しているファンも多いだろう。

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿
『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』Steamページ

 数年前の登場から人気が出ているマーダーミステリーだが、遊んだことがない人もいるだろう。じつは筆者もそのひとり。今回、アニプレックスのご厚意でゲームが発売される前に、実際のマーダーミステリーを体験する機会を得た。

 参加者は私、ジャイアント黒田とファミ通.com編集長の世界三大三代川、編集者の猫塚きてぃ、そして電撃オンライン編集部から3人と、アニプレックスからひとりの合計7人。プレイしたのは、とある廃病院での惨劇を描いた『ヤノハのフタリ』というシナリオだ。

ヤノハのフタリ | マーダーミステリー専門店トリックスター (d-mystery.jp)

 なお、今回は特例として、『ヤノハのフタリ』のネタバレOKの許可をもらっている。本稿では事件の犯人など、重要なネタバレが記載されているので、『ヤノハのフタリ』をプレイする予定のある方は体験した後に読み進めてほしい。

『ヤノハのフタリ』のストーリーと登場人物

 最初に『ヤノハのフタリ』のストーリーと登場人物を紹介しよう。

ストーリー

差出人不明のメールに呼び出され、廃墟と化した矢野葉《ヤノハ》綜合病院に集まる者たち。

……ある者は過去を知ろうと。また、ある者は過去を振り払い、精算しようと。
訪れた廃病院、非常灯が微かに灯る。

そして響く叫び声!
そこには元院長が死んでいた……。
きっとここにいる誰かが殺人を犯したのだ!

惨劇の結末を、最後まで見届けろ。

出典:『ヤノハのフタリ』公式サイト

登場人物/担当者

  • 市成千里:女性、26歳、市立図書館の司書/電撃オンライン編集部A
  • 市成千春:女性、26歳、市立病院の放射線技師/猫塚きてぃ
  • 宇敷和子:女性、45歳、臓器コーディネーター/ジャイアント黒田(※記事の執筆者)
  • 関下篤志:男性、42歳、市立病院の外科医師/アニプレックスの社員
  • 日笠佐助:男性、28歳、ITエンジニア/電撃オンライン編集部B
  • 日笠佑助:男性、28歳、コラムニスト・ライター/電撃オンライン編集部C
  • 溝手光生:男性、53歳、フリージャーナリスト/世界三大三代川

ゲームの進行

 また、当日はゲームマスターによる簡単なルール説明の後、下記の流れで進行した。

  1. キャラクターシート確認:各プレイヤーに割り振られた登場人物の背景や事件当日の行動・ミッションについて各自確認する。
  2. 自己紹介:各プレイヤーに割り振られた登場人物の自己紹介を行う。
  3. 導入演出:今回のシナリオのプロローグ(導入部ストーリー)の紹介。
  4. Act.1:1回目の調査パート。ふたりきりで密談を行い、事件を調査する。また、行動ポイントを1点消費し、場所や死体、キャラクターに関する情報が記載された秘密カードを1枚入手できる。Act.1で使える行動ポイントは最大5点。
  5. Act.2:2回目の調査パート。会話の行動制限が解除され、何人とでも会話ができ、情報交換が行える。Act.1に引き続き、密談も行えるし、全員で会話もできる。また、行動ポイントが2点分追加される。
  6. 解答:個々のミッションに基づき、犯人などの解答を記入する。
  7. 真相解明:シナリオの全貌の答え合わせと感想戦を行う。

初めてのマーダーミステリーは傍観者がよかった

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿

 宇敷和子の設定を見たとき、思わず目がくらんだ。彼女のプロフィールには、はっきりと書かれていたのだ。

矢野葉院長を殺した犯人

 であると。このシナリオの参加者は7人。仮に犯人が単独犯だとすると、犯人役を引き当てるのは7分の1。まぁ、犯人になることはないだろう。そんな軽い気持ちで宇敷和子を選んだ10分前の自分をビンタしてやりたい!

 筆者はミステリーモノが大好きだが、作品を体験するたびに、犯人にはなれないなと感じていた。というのも、筆者は嘘をついたり、突き通したりするのが大の苦手。いや、はっきり言うと下手くそなのだ。妻のおやつを盗み食いして、誤魔化そうとしてもすぐにバレる。

 「そうちゃん(息子)が食べるわけないでしょ!」と。息子よ、犯人にしてごめん。

 人狼ゲームも村人役は好きだが、人狼役になったとん、挙動不審になってすぐにバレてしまう。だから今回も、犯人役だけは何としても避けたかった。いや、マジで。

 だが、決まったものは仕方ない。私はジャイアント黒田じゃない、宇敷和子だ。45歳、女性の臓器コーディネーターだ。バリバリのキャリアウーマンだ。たぶん。宇敷和子として、事件を乗り切ってやろうじゃないか!

 ゲーム開始時に配られたペットボトルの水を、震える手ですでに半分近く飲み干した筆者は、そう心に強く決めた。

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿

事件の犯人は男性か複数犯だと思うの

※ここからは宇敷和子になりきってお届けます。ときどき筆者の考えもポロリと出てきますが、三文芝居にお付き合いください。

 殺すつもりはなかった。

 院長室を訪ねなければ……。そもそも宇敷和子のネームプレートが置かれた席につかなければ……と後悔してもあとの祭りね。すぐに捜査が始まってしまう。

 私は、ふだん使わない頭をフル回転させて必死にアリバイを考えた。確かに、私は矢野葉院長を手にかけてしまったけど、なぜか死体は別の現場で発見された。つまり、犯人である私のほかに、矢野葉院長の遺体を移動させた人物がいる。

 これが現時点での唯一の突破口なるのではないか。

 女性ひとりで男性の死体を運ぶのは難しい。つまり、犯人は男性、もしくは複数犯だと考えるのが自然だろう。

 これよ! すごいわ、すごいわ和子!!

 犯人は男性、もしくは複数犯人説をAct.1でみんなに吹聴しよう。私が逃げのびる道はそれしかない。

 私は演じた。死体を発見し、憔悴しきった女性を。そしてそれとなく、犯人は男性、もしくは複数犯人説を説いていった。

 「事件の犯人は男性か複数犯だと思うわ」

 事件現場に居合わせた人たちは、私の仮説にみな納得してくれたようだった。私に役者の才能があったなんて。事件から逃げ延びたら、放射線技師をやめて俳優になろうかしら。

 乾いた唇を水で潤しながら、今後の人生に思いを馳せる。ペットボトルの残量は3分の1を切っていた。

千春ちゃんは「和子さんが怪しい」と言ってました

 第2の人生はオスカー女優。

 Act.2が始まってすぐに、そんな人生プランに暗雲が立ち込めた。“中の人”と付き合いのあった電撃オンライン編集部Aこと、千里ちゃんがこっそり教えてくれたのだ。

 「千春ちゃん(猫塚きてぃ)は“和子さんが怪しい”と言ってましたよ。この後の全体会話でみんなから質問攻めに合うと思うので、がんばってください(笑)」

千春ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿
猫塚きてぃが演じた市成千春。

 千春ちゃんこと、猫塚きてぃとは学校の先輩と後輩の関係。筆者の背中を見て育ったかわいらしい教え子でもあった。(先輩として仕事のこといろいろ教えてあげたじゃんっ! こないだもいっしょにジンギスカン食べたじゃんっ!! 俺たちポケ●ントレーナーじゃんっ!!!)

 あぁ、さよならハリウッド。役者の才能があると自惚れていた自分を往復ビンタしてやりたい!!!!

 ……混乱のあまり、記憶が混濁してしまったわ。全体での会話が始まるまでに、いろいろ言い訳を考えないと……!

 とはいえ、すぐに言い訳が思い浮かぶはずもなく、私はAct.2で針のむしろに座るような気分を味わうことになる。

参加者アリバイがないのは溝手光生さんと宇敷和子さんだけみたいです。でも、光生さんに矢野葉院長を殺す動機がない。僕は和子さんが怪しいと思います!

和子私はやっていません! 信じてください(心の声:怪しいも何も、犯人です)

参加者事件発生時のアリバイは?

和子残念ながらひとりでいたので、アリバイはありません……(心の声:なんたって犯人ですからね)

参加者じゃあ、その時間、どこで何をしていたんですか?

和子久しぶりに訪れた(和子は以前この病院で働いていた)ので、懐かしくて院内を歩いていました」(心の声:院長室でトラブっていました。てへ)

 あ~、どうしよう!? 十中八九、私が犯人で決まりじゃん!! いや、犯人なんだけど!!?? これはもう、誰かが「謎はすべて解けた」とか、「真実はいつもひとつ!」とか、「全部まるっとお見通しだ!」とか、自信満々に言っちゃう流れですよ!!!!

 ここからは何をしゃべったか、記憶が定かではない。ただはっきりと覚えているのは、誰かに言われた、

 「それって論点のすり替えですよね?」

 という言葉。「はい、その通りです」と、自供したくなったのを記憶している。ペットボトルは、いつの間にか空になっていた……。

そうです、私(宇敷和子)が犯人です

 こうして、矢野葉綜合病院で起きた惨劇は、二転三転することもなく幕を閉じた。私が演じた宇敷和子に与えられたミッションは下記のふたつ。

  1. あなたが犯人であるという事実を隠し、逃げおおせること:解答時間で犯人を外した人数×1点。
  2. 密告に関わった人を見つける:ひとりにつき2点。間違えた数×-1点。

 このうち、1のみゲームマスターが点数を教えてくれた。点数は2点。つまり、和子が犯人ではないと、筆者の演技に騙された人がふたりもいたのだ。心優しい電撃オンライン編集部のふたり、ありがとう!

 Act.2は、思い出したくないほどグダグダだったと思うが、初めての犯人役でふたりも騙すことができた(和子が真犯人だとあまりにもストレートすぎるので、裏を読んだ結果、犯人を外してしまったとのこと)のは、結果オーライか。うん。ポジティブに考えよう。やったー!

『マーダーミステリー』体験リポート。病院の怪死事件に巻き込まれたと思ったら後輩の裏切り。今年いちばん汗をかいた中年男性の事件簿

 犯人役になったことで、思わぬ緊張を強いられてしまったが、マーダーミステリーのおもしろさの一端は体験できた。うす暗い雰囲気抜群な部屋やゲームマスターのナレーションも相まって、ミステリーの世界への没入感も高く、キャラクターへの思い入れも強かった。つぎにプレイする機会があるなら、推理に専念できる配役をお願いしたい。

 そういう意味では、ひとりで気兼ねなく遊べる『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』は、発売されるのが楽しみだ。本作でマーダーミステリーのいろはを学んで、リアルのゲームでいつかリベンジしたい。

 ちなみに、なぜ和子(筆者)を犯人役にしようと画策したのか、千春ちゃん(猫塚きてぃ)に聞いてみた。

千春消去法ですよ。アリバイがないと思ったのは、黒田さんが演じた宇敷和子と、三代川さんが演じた溝手光生だったんですが、編集長を怪しいとは言いにくくて。でも、黒田さんの和子ならいいかなって(苦笑)。

千春ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!(泣)