静かに読んで欲しい。飛行機雲がなかなか消えないのをおかしいと思ったことはないか? では土中に埋められた棺桶の中で蘇ってしまった男の噂は? ひと晩のお楽しみの後で鏡に残された恐ろしいメッセージを見つけてしまった話は? 地震兵器という言葉を聞いたことはあるか? おっとあまり声は出さないでくれ、そこのトースターで政府機関が盗聴しているかもしれないから……。
Fictiorama Studiosによる『The Fabulous Fear Machine』は、そんな都市伝説や陰謀論が総登場する、黒すぎるストラテジーゲームだ。今回レビュー版をプレイしたので、その内容をお伝えしよう。なお本作は2023年10月4日夜に配信予定で、価格は2000円を予定。ただし日本語には非対応。
闇の機械にコインを入れて、願い事を告げる男女が3人……。
どこかの廃墟にひっそりと捨て置かれているという、古めかしい占い用の機械“ファビュラス・フィアー・マシーン”。機械にコインを入れ、魔術師のような人形“キルリアン”に願い事を告げると、あなたの人生の物語を語ることと引き換えに、マシーンが望みを叶えてくれるという。
製薬会社の若き女性エグゼクティブ、当選を目指す黒人政治家、両手に聖痕を持つメキシコの宣教師。本作では、その先にどんな代償が待っているとも知らずコインを投入した3人の物語が描かれる。
恐怖を拡散し、不安になった人々の心を引き寄せろ
そしてキルリアンが教えてくれる野望の実現方法というのが、ほかでもない都市伝説と陰謀論による恐怖の拡散。人々を不安に陥れて疑心暗鬼にさせてから、引き換えに自らの野望を実現するためのメッセージを広めていくのだ。
つまり、伝染病ゲーム『Plague, Inc.』がバラ撒くのがウィルスなら、本作でバラ撒くのはヴァイラル(口コミ)の噂というワケ。ゲームは『Plague, Inc.』のように、世界地図から市の選挙区図まで、エピソードによりさまざまなマップ上で進行していく。
ゲーム開始時に恐怖の“種”を植え付けたら、あとは周囲の街に都市伝説や陰謀論を宿らせた“レジェンド”カードを設置し、恐怖の影響範囲を広げていく。レジェンドカードが育てばレベルアップさせることができ、恐怖の拡散速度も上がっていく。そうして勢力拡大して行って、最終的にシナリオごとに定められたゴールに到達したら任務完了だ。
なに、ゲームで普段バリバリ敵兵やクリーチャーを倒している癖に、珍しく良心が痛むって? 『Plague, Inc.』なら開発した伝染病によって人が死ぬが、本作で作って広めるのはあくまで噂。直接的な害はない……まぁ、ちょっとした社会的不安が広まったことによる間接的なものはまた別の話だが。
しかし、噂で恐怖を広めるのは簡単ではない。プレイ中はライバルからの妨害やらマップイベントやらが発生し、進行を食い止めようとしてくる。動物実験をバリバリやるために動物保護意識の低下がクリアー条件のひとつなのに、動物愛護週間なんかやりやがって!
そして時間がかかりすぎればそれもまた失敗だ。プレイヤーは仕掛けを動かし続けるために“油”を供給しなくてはならず、それはゲームが進むに連れてより多くの量を必要とし、完全な不足状態が続くとゲームオーバーになる。
こうした問題に対処するのがマシーンが提供する覆面エージェントたち。彼らは街から“油”や各種イベントに対処するための各種資源の発掘、ライバルの妨害を止めるための調査などをやってくれる。本作は彼らにどんな指示を出し、いかに資源を得てそれを使っていくかというマネージメントゲームでもあるのだ。
圧倒的にネタが黒いが、アウトにならない絶妙なセンス
ところで、陰謀論が割と洒落にならない社会問題を引き起こしたりする昨今、このコンセプトに「陰謀論を肯定的に捉えるのか?」と眉をひそめる人も多いだろうとは思う。
だがご覧のように、本作のスタンスはむしろ陰謀論それぞれの内容は重視せず「社会不安と結びついたもの」とメタ的に捉えるもので、なんとなく想像がつくかと思うが各エピソードの主人公たちの行く末も、総じて黒い野望に焼き尽くされてロクでもない結末を迎える『笑ゥせぇるすまん』方式となっている。
またパロディとしてもさすがにアウトな表現は巧妙に避けているというのもポイント。昔のコミック風のチープめな表現も少々のマイルドさを加えていて、「いやー、やべぇな」とひきつり笑いしながら楽しくプレイできてしまう。
本作のパブリッシャーはアメリカの超大手映画チェーンであるAMC傘下のAMC Gamesなのだが、プロデュースにはグループ会社のホラー映画専門ストリーミングサービスのShudderが加わっており、このあたりのギリギリなバランス感はここから来ているのではないかと思われる。
まとめ&ローカライズの可能性について
というわけで本作、確実に万人向けではないのだが、なんとも言えない独特のぞくぞくした感覚を味わえる、非常にユニークなストラテジーゲームとなっている。3エピソードは各チャプターがそれぞれの主人公が野望に飲まれていく物語としてちゃんと構成されており、プレイ時間もたっぷりあってなかなか楽しい。
強いて言えば「有料の追加コンテンツでいいからもっとエピソードやレジェンドカードをくれ!」といった感じだろうか。中国語には既に対応できているのだから、日本語へのローカライズもお願いしたいところだ(ちなみにデモが公開されているので、どれぐらい英語力が必要とされるかはそちらをやってみるのもいいだろう)。
そこでPR経由で質問をぶつけてみたところ、まず追加言語については「できるだけ多くの言語をサポートしたいきたいと考えているが、文字数が非常に多いゲームがゆえにローカライズ費が高くつくため、まずはさまざまなプレイヤーコミュニティからの反応を見ていきたい」とのこと。
そして追加コンテンツや家庭用ゲーム機移植については、「現時点で発表するDLCの予定はないが、ゲームの構造がもっと多くのストーリーやカードを追加できるものになっているのは間違いない」「家庭用ゲーム機移植の可能性は検討しているが、発表できることはまだない」という回答だった。まずは日本からの声としてウィッシュリストに登録してみるのもいいかもしれない。