オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の最新大型アップデートとなるパッチ6.5“光明の起点(ゼロ)”。これまでのx.5パッチと同様に、メインストーリーはPart1とPart2の2回にわけて展開し、Part1が2023年10月上旬のパッチ6.5、Part2が2024年1月中旬のパッチ6.55で公開予定だ。
パッチ6.5では、そのほかにもメインストーリーに絡んだインスタンスダンジョン“深淵潜行 月の地下渓谷”や、新たな討伐戦・討滅戦“(極)ゼロムス討滅戦”をはじめ、アライアンスレイドダンジョン“ミソロジー・オブ・エオルゼア”第3弾“華めく神域 タレイア”、ヴァリアントダンジョン・アナザーダンジョン第3弾“アロアロ島”(パッチ6.51)など、多数のコンテンツの実装が予定されている。
今回はそんなパッチ6.5の魅力について、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターにインタビュー。メインストーリーを中心に、各実装コンテンツの注目ポイントをうかがった。
なお、本インタビューはファミ通ドットコム、電撃オンライン合同で実施。今回の記事で触れられていない内容については電撃オンラインで掲載されているので、そちらもあわせてチェックしてほしい。
※本インタビューは2023年8月17日に実施されたものです。
吉田直樹(よしだなおき)
スクウェア・エニックス 取締役執行役員 第三開発事業本部長。『ドラゴンクエスト』シリーズ初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在は『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。文中は吉田。
6.xシリーズの締めくくり、そして『黄金のレガシー』につながる物語が展開
――先日、ラスベガスで久々のリアル開催となるファンフェスティバルが開催されましたが、いかがでしたか?
吉田ひさびさの物理開催ということで、準備はたいへんでしたが、やはり「リアルはいいね」というのが率直な感想です。これは僕を筆頭に、今回ラスベガスに乗り込んだチームメンバー全員が、そう感じたと思います。来場された光の戦士の皆さんが楽しまれていたことや、ステージで歓声が上がって盛り上がったこともそうですし、何より“みんなでひとつのことを共有できている感覚”があって、本当によかったと感じました。
さらに今回の北米でのファンフェスティバルは、これまでの倍以上の人数規模に引き上げられているので、熱狂や熱気もすごく感じられました。とくにTHE PRIMALSのライブは一体感がすごかった。以前の感触ですと、北米の方々はゲームファンとロックファンが分かれていた印象だったのですが、コミュニティが大きくなり、仲間意識がより強くなって、「ゲームサウンドを音楽としても楽しもう」という動きが活発になってきたと感じています。
『FFXIV』の楽曲を使って音楽活動をされている方も増えて、すごく盛り上げていただいているなと。THE PRIMALSのライブもそうですが、ピアノコンサートでもその盛り上がりを感じることができたのは、僕にとってすごく印象的でした。
――取材のため会場で拝見しましたが、THE PRIMALSのライブからエンディングまでの盛り上がりはすさまじかったですね。
吉田くり返しになりますが、「リアル開催はいいな」というひと言に集約されますね(笑)。もちろん、この後にロンドン、東京と引き続きファンフェスティバルが開催されます。それに加え、今年は久々に東京ゲームショウにも出展させていただく予定で、僕も久しぶりに会場に出向こうと思っています。ここ数年はコロナ禍の影響でリアルイベントの開催が難しかったのですが、今後は、“ゲーム内だけでなくリアルイベントも含めて『FFXIV』”という、我々がもともと目指していた方向に軌道を修正していきたいと考えています。
――ゲーム内だけでなく、今後のリアルイベントにも要注目ですね。では本題に入らせていただきます。まず、パッチ6.5のタイトル“光明の起点(ゼロ)”に込められた意味を教えてください。
吉田今回は、パッチ6.4とパッチ6.5のパッチタイトルを対にしようと考えました。その一方であるパッチ6.4 “玉座の咎人”では、ある人物がなぜ咎人と呼ばれているのか、その目的は何かといったことが、メインストーリーでうっすら見えてきたと思います。そして今回のパッチ6.5のタイトルは、“闇に飲み込まれている第十三世界に対して、光明の起点となるものが生まれるかもしれない”という期待感から名付けたものです。
あえて起点を“ゼロ”と読ませているのは、いろいろな想像をしていただこうと思っているからです。登場キャラクターのゼロを示している面もありますし、パッチ6.5が6.xシリーズの締めくくりとなり、そこから新たな物語・つぎなる展開が待っているという意味でも、“終点であり起点になる”といったイメージでつけさせてもらっています。
――この“ゼロ”は『黄金のレガシー』(パッチ7.0)へ向けての起点でもあると。
吉田はい、その意味も込めています。
――メインストーリーはふたつのパートに分かれる形で展開するとのことですが、どのような流れになるのでしょうか? あくまでも予想なのですが、Part1でヴォイドにまつわる話が決着して、Part2で新拡張パッケージ『黄金のレガシー』に向けてのきっかけとなるストーリーが描かれていくのかな、というイメージなのですが……。
吉田概ねそのイメージどおりと思っていただいて大丈夫です。Part1とPart2の間に、ロンドンと日本でファンフェスティバルが開催されますので、そこで発表されていく内容をもとに予想してもらいつつ、物語を楽しんでいただき、ワクワクした状態で『黄金のレガシー』に向かってもらいたいと考えています。ゲーム内のメインストーリーだけでなく、ファンフェスティバルでの発表もひとつなぎで考えていただけると、より楽しめるかと思います。
――『黄金のレガシー』は2024年夏発売ですが、2024年1月中旬のパッチ6.55から『黄金のレガシー』までのあいだには、どのような展開が用意されているのでしょうか?
吉田先日、北米でのファンフェスティバルでパッチ6.5x中の展開をお話させていただきましたが、じつはあれがすべてではなく、まだ一部なのです。つぎの拡張パッケージの発売までには、僕らが開発を進めるためにそれなりの期間をいただくことになります。その間、遊ぶコンテンツがない、やることがないといったことを防ぐために、それに合わせた施策やコンテンツの展開を予定しています。その詳細はつぎのロンドンでのファンフェスティバルを楽しみにしておいていただければ。
――すでに発表されているものが全部ではないのですね。
吉田現在公開されている情報はいま発表できるものだけですね。最初に全部を出してしまうと、全部の予定が決まり、それはそれで楽しみが減ってしまうので……(苦笑)。ファンフェスティバルをリアルで3回、グローバルで開催するということが久々なので、イメージがつかみづらくなっているかもしれませんが、以前のときのような、ファンフェスティバルでの情報公開の流れを踏襲させていただくつもりです。
――続いてメインストーリーについてうかがいます。パッチ6.1のメインストーリーから登場したゼロは、いまでは物語において非常に重要な存在のキャラクターになりました。ここまでゼロというキャラクターを描いてきた手応えを教えてください。
吉田新規のキャラクターを拡張ではないタイミングから登場させて定着させるのは、今回が初めてに近いです。じつは『暁月のフィナーレ』を作っているときには、すでにゼロを登場させようと決めていて、ゼノスとつながりが強いという設定もその時点でありました。ただ、プレイされた方ならおわかりのとおり、6.0のストーリーではその片鱗は感じられないようにしています。
ゼノスとのコネクションがあるキャラクターなので、ゼノスのイメージを引っ張る人もいれば、「もうゼノスはたくさんだよ」という人、「これをきっかけにゼノスにまた新展開が?」と期待する人もいるでしょう。ただ、ゼロはそことは切り離したキャラクターで、独自の個性を持っています。光の戦士や周囲のキャラクターと向き合っていくうちに、忘れていた感情を少しずつ取り戻していくキャラクターにしようと計画していました。この辺りは6.Xの物語がすべて完結した後で、振り返ってみれば、そのつながりのニュアンスが少し感じられるかもしれません。
ただ、同じライターがパッチ6.xシリーズの全シナリオを書いているわけではないため、パッチ間でいきなりキャラクターが変わりすぎたりしないよう、綿密に調整していくのはたいへんな作業でした。たとえばエーテルを吸収するという行為に対して、最初はゼロにとってエネルギー摂取行為でしかなかったものが、味覚を取り戻していくという“感情を取り戻す”のと等しい形に変わっていきます。
それはそれでよかったのですが、「つぎのパッチでいきなりグルメになっているのはちょっと違うよね」とか、都度、織田(万里氏。シニアストーリーデザイナー)や石川(夏子氏。シニアストーリーデザイナー)がチェックして、テンション感を合わせたりしていました。
――分担して執筆しているぶん、細かな変化にも気を配って調整する必要があると。
吉田 “暁”の結束が強くなっている中に異分子が飛び込んでくることになるので、不安ももちろんあったのですが、そういった苦労があったぶん、僕らの想像を超えてゼロが活躍してくれましたし、世界中の光の戦士の皆さんに気持ちよく受け入れていただけました。そこはチームの努力が実った形ですし、皆さんが丁寧に物語を見てくださったからだと思うので、本当にありがたいです。
“ゼロムス討滅戦”では壮大なスケールでゼロムスの真の姿が明かされる!
――続いて、メインストーリー絡みで登場するであろうふたつのコンテンツについてうかがっていきます。まず新たなダンジョンである“深淵潜行 月の地下渓谷”ですが、公開されたスクリーンショットを見て、「『FFIV』のラストダンジョンのあの床だ!」とわかりました(笑)。やはり原作の『FFIV』を意識したダンジョンになっているのでしょうか?
吉田じつはネタバレ的に、出せるスクリーンショットがあれしかなかったのです……(苦笑)。やはりパッチ6.xシリーズのフィナーレとなるダンジョンですので、演出まわりもすごくこだわっていて、あの画からは想像できないものになるとだけお伝えしておきます。おそらく、ニヤニヤしていただける方もいるのではないかと。演出の調整もちょうど先週行ったのですが、すごくおもしろい展開になっています。
――そして、こちらもメインストーリーで戦うであろう“ゼロムス討滅戦”ですが、現状のゼロムスの姿が黒いモヤがかっている状態で、まったくどういったバトルになるかが想像つきません……。ヒントとして、いわゆるフィジカル寄りか脳トレ寄りか、どちらになるでしょうか。
吉田フィジカル寄りで、ノーマルに関してはわりと真っ向勝負なバトルが楽しめるかなと。ただ、仮組み段階のものをチェックした限りでは、少し物足りなさがあって、珍しく僕からは「少し足してもよいのでは?」と話をしたところです。
――いつもは「強すぎる」とジャッジをすることが多いのですか?
吉田じつは、いまと昔とでは仮組み段階のバトルのチェック方法を変えていて、現在は開発効率を上げるために、僕や、セクションを超えてリーダーをやっているスタッフたちで、仮組みの状態をいったん見て、その時点で「このギミックは活かす」、「攻撃が単調になるからこれぐらいの技なら重ねていい」といったようなチェックを行っています。そして僕と初見の7人で最終チェックをして、最後の数字のバランスを見るといった流れになっています。
いままでは仮組みを通り過ぎた後に僕のチェックが入って、いったん山盛りの状態になっており、そこからガラッと変えることも少なくありませんでした。とくにパッチ6.0を開発しているときにはそれが多かった印象です。それに加えてコロナ禍でのリモートワークの影響もあり、6.xシリーズではその手前の仮組みの段階で一度チェックして、全体の雰囲気、マップの雰囲気も含めたトータルのチェックをしてから仕上げに入ろうという形を取っています。
話は戻りますが、“ゼロムス討滅戦”については、ちょうどその仮組みチェックが終わったところです。すごく素直に作られていたのですが、「ちょっと素直すぎるかもね?」とフィードバックを返しました。大抵の場合は、ハード(極)も踏まえて作られているため、難しかったり展開が早すぎたりというケースが多かったのですが、今回はすごく論理的なスタッフが作っていて、ハードはハード、ノーマルはノーマルと分けて作っています。リソースの使いが上手で、すごくまとまっているのですが、それがゆえに少し物足りなさが感じられたなと。
――では、まだ調整している最中ということですね。
吉田そうですね。まとまりがよすぎたので、少しそこを調整していく形になると思います。ただ、ここから脳トレ系のバトルに変わることはないと思うので、わりと真っ向勝負のバトルが楽しめるかなと思います。
――最終的にゼロムスがどんな姿になるかも含めて、気になりますね。
吉田すでにパッチ6.4のときにモデルとスカルプトもあがっていたのですが、まだすごく粗い状態だったのです。中途半端なVFX状態だったので、「この段階のものは出さないようにしよう」となり、姿がわからないようにしたという経緯があります。
――なるほど。ではあの姿で戦うわけではないのですね。
吉田それはないので安心してください(笑)。いまはスケールを調整したり、ライティングのテコ入れをしたり、いろいろと調整している最中です。大ボスというとハイデリンやゾディアーク、終焉を謳うものとか、あれぐらいのスケール感を想像される方も多いと思います。クオリティーや雰囲気はそれに沿うように最終調整中なので、ぜひご期待ください。あのモヤは取れます!(笑)
――パッチ6.5の幻討滅戦として、“幻ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦”が実装されます。当時もかなりの強さを味わえるコンテンツとして人気を博しましたが、今回の幻討滅戦もやはり歯応えのあるバトルが楽しめる形になりそうですか?
吉田当時はアイテムレベル(IL)がばらついていたりして苦戦された方も多かったかもしれませんが、今回は、幻討滅戦でもっともきれいに再実装されているかと思います。逆に言うと、きれいに立ち回らなければ解けない、といったことが今回は多いかもしれません。
そもそものバトルがよくできているという点もあるのですが、絶レイドほど複雑でもないからこそ、ひとつひとつのギミックの解法、ダメージの値のつけかた、HPの戻しかたを丁寧に調整しやすくて、そのぶんだけきれいに解けたらすごく気持ちがいいと思います。
タンクが明確に“ボスの視線攻撃のための誘導役”を担わなければならないというのは、最近だとあまりないかもしれません。タンクが外周を見て、ほかのプレイヤーもそれを気にしつつ、それぞれの役割をしっかりと果たすといったところは、すごく丁寧に作られています。バトルの内容自体は当時から変えていないので、難しめのバトルになるかと。
――討滅戦でもうひとつ気になるのは、ラスベガスのファンフェスティバル会場でプレイできた“アスラ討滅戦”です。これはパッチ6.5xの中で実装されるのでしょうか?
吉田“アスラ討滅戦”は、ファンフェスティバルの会場に来てくださった方に向けてのスペシャルコンテンツとして作っています。その役目が終わる、日本のファンフェスティバルが終わったタイミングでゲーム内にも実装する予定です。
――リアルイベントの会場で先行して遊べる討滅戦は久々ですね。
吉田2019年の“スペシャルバトル ヨウジンボウ”以来ですね。当時もクリアー率70%を目指して作っていたのですが、会場では普段やらないロールを担当しなくてはいけないという状況になることもありますし、デフォルトのUIをお渡しして短い時間で自分好みのUIに調整しないということもあって、実際のクリアー率は想定していたものよりも低い状態になっていました。
それを踏まえ、“アスラ討滅戦”を作るときは、「もう一度勝率70%の定義を見直そう」と話し合って、担当者を含めてすごく丁寧にシミュレーションして作っていきました。その結果、ラスベガス会場でのクリアー率はほぼ想定どおりになりました。そのぶん、これまでのファンフェスティバルでのスペシャルバトルに比べると、「ちょっと簡単だな」と感じるぐらいのものになっているはずです。
――実際にプレイして、必ず全滅しそうになるシーンがあって、それでも立て直せるという形になっていて、すごく絶妙な難易度だなと感じました。
吉田今回は担当者がすごくがんばってくれましたし、僕らも皆でチューニングしたので、そう言っていただけるとありがたいです(笑)。ただ、実際にゲーム内に実装するときは、あのバランスのままかどうかはまだわかりません。
“華めく神域 タレイア”では、シリーズの中でもとくに美しい世界が展開
――パッチ6.5の大きなコンテンツとしては、“ミソロジー・オブ・エオルゼア”の完結編として、第3弾“華めく神域 タレイア”が実装されます。このダンジョンはどのようなイメージのステージ、コンテンツになるのでしょうか?
吉田うーん、すごく説明が難しいですね……。
――属性としての残りが水と風なので、それを表現したものになるのかな、と予想していますが……。
吉田ひとつ言えるとしたら、今回はこれまでと比べてもいちばんきれいなフィールドになっていると思います。「今回もよく作ったね」が最初に見たときの感想で、BG(背景グラフィック)のオブジェクトの動きもすごく完成度が高いです。そのあたりは、つぎのPLLで序盤ぐらいはお見せできたらなと思っています。もちろん、ご期待いただいている属性のイメージもしっかり入っています。
――アライアンスダンジョンシリーズの3部作の最後は、もっとも歯応えがあるイメージが強いのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
吉田“YoRHa: Dark Apocalypse(ヨルハ:ダークアポカリプス)”シリーズで開発された新要素がうまく取り込まれつつ、わりと真っ向勝負が多いですね。アライアンスレイドは、だいたい3体目のボスがいちばん強いように作っているのですが、今回は最後のボスがやや強いと感じるかもしれません。ただ、最終チェックがまだ終わっていなくて、ここから調整していくため、もしかしたらまだ変更されるかもしれませんが……。
――“ミソロジー・オブ・エオルゼア”のフィナーレとなるコンテンツなので、実装までにこれまでのふたつのアライアンスレイドを復習しておくのもよさそうですね。
吉田そうですね。詳しくはお答えできないのですが、これまでのふたつのアライアンスレイドを改めてプレイしておくと、いいことがあるかもしれません。
――パッチ6.5では、アライアンスルーレットの仕組みに関しても変更が入り、それに対してプレイヤー間でさまざまな反響がありました。今回の変更を加える意図を改めてお聞かせください。
吉田意図は単純で、もともとの本質であるシステムが機能してないというのがすべてです。すべてのコンテンツルーレットは、新たに光の戦士になられた方が、過去に実装されたコンテンツを遊びたいというときに、マッチングされないという状況を避けるために用意してある機能です。
ベテランのプレイヤーの皆さんの力を借りて、そういった方々のマッチングを促進させる仕組みになっており、その対価として報酬を払い出しさせていただいています。ただし、長く運営と実装を積み重ねていく中で、コンテンツ毎にクリアーまでの時間などの均一性が薄れてきてしまいました。一方、報酬が払い出される量がどのコンテンツでも同じなのであれば、クリアーが簡単なコンテンツにマッチングしたとき「ラッキー!」となるのは当然のことです。ただ、ILを下げて意図的に操作できてしまっているところがすごく問題でした。
これを発表したときに、ラスベガスのファンフェス会場から歓声があがったのですが、要は「アライアンスルーレットを申請したら、また“古代の民の迷宮”、“シルクスの塔”にマッチングした」ということに、もうみんな飽きているのだと思います。
――さまざまなアライアンスレイドを楽しみたい人にとっては、まさにそうですね。
吉田それが続くと、「もうやりたくない」につながってしまいます。短時間で済ませられて時間効率を求める人にとってはご不満かと思いますが、本来の意図・機能をなしていないので、パッチ6.5で調整させていただくことになりました。「開発都合だ」と言われると、もちろんそうなのですが、その代わり長いコンテンツ、短いコンテンツによって、最終的に得られる報酬量の見直しを行わせていただきました。ただ、 “古代の民の迷宮”や“シルクスの塔”はアライアンスレイドシリーズの第1弾ですから、今後もマッチングはしやすいかなと思います。
――メインストーリーに組み込まれていることを考えると、依然としてマッチングする機会は多そうです。
吉田もともとそういう設計をしていたにも関わらず、抜け道のように操作できる状況になっていたがゆえに、「ランダムでアライアンスレイドに挑んでワイワイと楽しみたい」人たちにとって、うまく回らなくなってしまっていました。先に進めば進むほどアライアンスレイドがマッチングしづらいという状態は、新規のプレイヤーの方に対してもよくないことです。すでに破綻しかけていたので、とにかく1回、正常な状態に戻させていただきたいというのが、今回の調整の意図です。くり返しとなりますが、その分だけ報酬も調整させていただきましたので、ご確認いただき、またフィードバックをお寄せいただけると大変助かります!
8人コンテンツのコンテンツサポーター対応の可能性は?
――パッチ6.5では、『紅蓮のリベレーター』までのすべてのインスタンスダンジョンが、コンテンツサポーターに対応します。『新生エオルゼア』から『紅蓮のリベレーター』まで相当時間をかけて対応した形ですが、これまでの作業を振り返っていかがですか?
吉田正直、当初は“コンテンツサポーターの対応を想定せずに作られたダンジョンのギミックをどう処理していくか”というのは、新コンテンツを作ることに比べて後ろ向きな作業かもしれないと思うところがありました。現場でも当時のダンジョンを見直す過程で、「どうしてこんな敵の配置になっているんだろう」、「モンスターのリンクのさせかたが変だな」とか、そういったことで悩んだことも絶対あったと思うのです。当時の資料を残していたので、やりやすい部分はあったかもしれませんが、それでもすごくたいへんな作業だったと思います。
さらに、すでに出来もよくてバグもなく動いているボスモンスターのギミックを、コンテンツサポーターでクリアーできるように調整しなくてはいけないこともありました。開発メンバーも皆プレイヤーなので、「このギミック好きだったんだけど、なくさなきゃダメか……」と、後ろ向きな気持ちになることもあったと思います。
ただ、この作業を進めることで、多くの人たちがきれいにメンテナンスされた道を進めるようになります。コンテンツサポーターを使ったときだけでなく、新しいプレイヤーが4人で挑んだときも、よりわかりやすく、論理的に解きやすくなるはずです。
――これから始めるプレイヤーにとって、コンテンツの調整は重要だと。
吉田調整の中で後ろ向きな気持ちになることもあったとしても、結果的にはゲームとして前向きな作業だと思っていて。それを開発メンバーのみんなが理解してやってくれたのは、すごくありがたかったと感じています。ただ、コンテンツサポーターのAIを組むのはレベルが高いベテランじゃないと厳しく、若手のスタッフへのフォローを含めて本当に苦労したと思います。
――サポーターのAIを構築して、さらには若手のフォローと、タスク管理もたいへんそうですね……。
吉田すごくたいへんだったと思います。ただ、そういった改修作業で、“本来であればこのキャラクターたちとこのダンジョンを攻略するのが筋だった”というものを、改めてストーリーベースで作り直せたことは、すごくよかったととらえています。
たとえば“伝統試練 バルダム覇道”は、本当であればストーリーに登場したNPCたちといっしょにで挑んでほしかった。それがコンテンツサポーターに対応することによって、よりストーリー体験とダンジョンが密接につながるようになります。これから『FFXIV』を始めてすべてのダンジョンでコンテンツサポーターを活用するという人は、シナリオへの没入感がより深まるかと思います。そこはチームの功績としてはすごく大きいですし、「MMORPGが苦手」という人にとってもポジティブに作用した部分なので、スタッフには本当に感謝しています。
一方でプレイヤーの皆さんも、コンテンツサポーターに対応していないコンテンツについて新規の方をフォローしてくださり、そういったコミュニティのサポートのおかげもあったからこそ、ここまでたどり着けたと思っています。それもすごくありがたかったですし、すごく感慨深いです。
――今後、8人向けのコンテンツのコンテンツサポーター対応は検討されているのでしょうか?
吉田もちろんやれたらいいねとは思っていますが、8人用コンテンツとなると難しいかな……とも考えています。もしコンテンツサポーターに対応させるのであれば、4人用コンテンツに作り直すほうが現実的かもしれません。ただ僕らの思いとしては、拡張パッケージごとのラスボスはプレイヤー8人で挑んでいただきたいと考えています。たとえば『漆黒のヴィランズ』のラスボス戦で、光の柱から誰だかよくわからないNPCが出てきたら感動が薄れてしまうと思います。
――確かに、あれはほかの光の戦士たちが現れてこそだと思います。
吉田だから、全部をコンテンツサポーターに対応するのは悩ましいのです。拡張パッケージのラストバトルなどはとくにその思いが強いので、一概にまだ決めきっていないという感じです。
アナザーダンジョンの報酬が増える可能性も!?
――つぎに、6.51以降のコンテンツとして、 ヴァリアント&アナザーダンジョンの第3弾“アロアロ島”が追加されますが、どういったコンセプトのダンジョンになるのでしょうか?
吉田概要自体がネタバレになるので、ほとんどお話できませんが、“とあるキーワードの回収”とだけお伝えしておきます。リゾート的な雰囲気があり、イメージとしてはパッチ7.0のトラル大陸に近いかもしれません。だから、気分的には『黄金のレガシー』をちょっとだけ先行体験できるかも、といった感じです。
――ヴァリアント&アナザーダンジョンのアップデートの間隔が比較的短いなという印象を受けたのですが、初期のころから3種類のヴァリアント&アナザーダンジョンを実装しようと決めていたのですか?
吉田はい、パッチ6.Xでは3回の実装を予定していました。リリースの間隔が短いのは、それはシステムの設計が非常に丁寧にできているのと、もともと3段階の難易度を想定した作りかたをしていて、全体的なマネージメントと計画がしやすかったのが大きな要因だと思います。ベテランも若手も、これまでに登場したギミックをうまく流用しながら新規の要素も盛り込んでいて、すごくバランスがいいコンテンツになっていると思います。
かといって、インスタンスダンジョンのように同じ場所を何十周もするようなコンテンツではないので、毛色が変わったこともしやすく、スタッフが楽しく作れたというところが大きかったですね。第1弾の“シラディハ水道”は手探り状態だったので完成するまでたいへんでしたけれど、ベテランのスタッフが中心になって作ったおかげか、すごく洗練されたものになったと思います。
なおヴァリアントダンジョンについては、すごく多くのプレイヤーの方に遊んでいただいています。ソロで進められる方、フレンドといっしょに挑む方など、それぞれの楽しみかたで相当な回数をプレイしていただいているというデータがあって、すごくポジティブに働いているかなと思っています。その一方で、高難度のアナザーダンジョン側の報酬が弱いというフィードバックもいただいているので、報酬の追加をギリギリまで検討しているところです。
――間に合えば“アロアロ島”のアナザーダンジョンから報酬が増えるのでしょうか?
吉田あくまで間に合えば、になりますが、“アロアロ島”から報酬を増やしたいと思っています。パッチ7.0以降もそのパターンになるかはまだわかりませんが、アロアロ島でいったん報酬を増やしてみて、皆さんのフィードバックやリアクションを見させていただいて、パッチ7.0以降をどうするかも決めていこうかなと。
ちなみに今回は、3つのアナザーダンジョンをすべてクリアーすると獲得できる称号も用意しています。ただ、それだけだとまだ弱いので、“アロアロ島”用に報酬を増やせないかを最終調整中です。
――パッチ6.55で実装される武器強化コンテンツ“マンダウィルウェポン”と、パッチ6.51で実装される主道具強化コンテンツ“モーエンツール”は、今回が最終強化になるのですか?
吉田はい、それらの強化が最終強化となります。
――これまでのマンダウィルウェポンは、アラガントームストーンを使うことで、さまざまなコンテンツをプレイして強化を進められる形になっていましたが、最終強化も同じ方向性になるのでしょうか?
吉田はい、今回のシリーズはそれを崩さないようにしています。これは過去の武器強化コンテンツの中で、どれぐらいのプレイヤーの方が何本の武器を作ったかというデータを見て決めました。ただ、今回の強化方法を「手抜きだ」とおっしゃる方もいて、難しいところですね……。昔の武器強化コンテンツのように凝ったことをやると嫌悪感を示す方もいれば、今回のような強化方法は物足りないと感じる方もいます。ここはたぶん、相容れないだろうなと思っています。
すべてのハードで『FFXIV』がプレイできるようになるために
――ファンフェスティバルでは、Xbox版対応の発表も驚きました。前々からインタビューで可能性を模索していることをうかがっていたので、すごく感慨深く感じます。ここまで継続してマイクロソフトさんと打ち合わせをされて、それが今回ようやく形になったという流れでしょうか?
吉田『新生エオルゼア』の前からずっと言っていることなのですが、ひとりでも多くのプレイヤー、ゲーマーに、とにかくあらゆるハードで『FFXIV』をプレイしてもらうのが僕の夢です。もともと『FFXIV』はSIEさんと組ませていただいている部分があって、技術協力もたくさんしていただきました。僕が担当する前からの制約もあって、それらをひとつずつクリアーにしていって、マイクロソフトさん側でもポリシーが変わっていく部分、変えなきゃいけない部分などをすごく丁寧にお話ししていただいて、両者がようやくすべてを合致してクリアーになったのが、このタイミングでした。
ちなみにファンフェスティバルのステージにフィル・スペンサーさんを呼ぶのは、すごくたいへんでした……。マイクロソフトのトップに、1タイトルのイベントに登壇してもらうハードルの高さはわかっていたのですが、僕が何としてもフィルにいっしょに出てもらいたいという思いが強かったのです。
――それはなぜでしょう?
吉田『FFXIV』のXbox版実現に向けて、いちばん努力してくれたのがフィルだったからです。待つという粘り強さもそうですし、誰よりも情熱的に動いてくれて。ですから“フィルがどれだけ情熱を持ってゲームのために働いている人なのか”を、なんとか伝えたいという想いがあって、すごくたいへんではあったのですが、何とか出演してもらうことができました。
プラットフォームの拡張については、まだ対応してない機種もあるので、さらにこれからですね。僕は昔から全部のハードで出したいと思っていますし、絶対いずれ実現させていくつもりです。もちろんビジネスマンでもありますので、ビジネスはビジネスとして考えつつ、ひとりでも多くの人に引き続きプレイしてもらうために、いろいろなことをやっていくつもりです。
――すべてのハードで発売され、皆が同じサーバーで遊べるのはまさに理想ですね。
吉田プレイしているハードウェアが別であっても、共通のサーバーで遊べるというのは、僕としては絶対条件です。つながった先の世界はどのハードでも同じ世界で、ひとつではないといけない。ハードごとにサーバーを分けると、特定のハードの人数が減ったら維持がたいへんになります。それは、ゲーマーとしてもよいことではないなと。
――同じゲーム体験ができないと意味がないと。
吉田そうなのです。以前も海外のインタビューでお話ししたのですが、ハードはひとつになったほうがうれしいと感じる人は多いと思うのです。複数のハード買うためにお金を散財しなくていいですし、1台でどんなゲームも遊べるのであれば、それがいい。もちろん、プラットフォーム各社のビジネスという観点もありますし、競争があってこそ発展するのもわかります。
現状だと、競争が生んでいるポジティブさがあまりないように感じるのです。だから僕がこだわっているのは、「ビジネスの観点上、プラットフォームが分かれているのはしかたがない。でもそれを超えた先は、いっしょに遊べるのがいちばんいいに決まっている」ということです。それが僕の譲歩できない条件です。そこは諦めたら終わってしまうので、この考えは変えずにこれからも進んでいこうと思います。
ファンフェス、東京ゲームショウでの展開を含めて楽しんでほしい
――パッチ6.5、ロンドンや東京のファンフェスティバル、そして来年夏の『黄金のレガシー』へと展開が続いていきます。今回のパッチ6.5を中心として、それら全体の流れに関して、どのように楽しんでいただきたいか、光の戦士の皆さんへメッセージをお願いします。
吉田いま、まさに新生10周年を迎え、ゲーム内、ゲーム外を含めて、いろいろなことを展開しようとしています。例えば先日発表されましたが、伊勢丹さんとの第2弾のコラボも開催することが決まりました。前回すごくご好評いただいたので、すさまじい数の協業メーカーさんがついて、催物場を使って展開することになりました。東京ゲームショウも新生10周年ということで気持ちを新たに出展させていただきますし、まだ発表していない10周年の企画もたくさん用意しています。日々の生活の中で『FFXIV』が見え隠れするといった施策はこれからもまだまだ続くので、そのあたりも含めて楽しんでいただければと思います。
つぎのお祭りである新拡張パッケージ『黄金のレガシー』が2024年夏に発売予定ですが、それまであっという間に感じられるように、ゲーム内・ゲーム外の動きが用意されています。その盛り上がりに乗っかっていただけると、より『FFXIV』が楽しくなるかなと。『FFXVI』をきっかけに『FFXIV』を始めてくださっている方も多くて、いっしょに盛り上がって、さらにコミュニティを大きいものにしていけたらうれしいです。僕らも精一杯、開発チームだけでなくコミュニティチーム、宣伝チームを含めて全チームで盛り上げていこうと思っていますので、引き続き楽しんでいただければうれしいです。
――ファンフェスティバルと新生10周年、そして新拡張パッケージが重なって、皆さんすさまじく多忙かと思います……。
吉田とくに室内(俊夫氏。グローバルコミュニティプロデューサー)はたいへんかもしれないですね(笑)。また、ここ数年、コロナ禍の影響で、宣伝チームはリアルイベントにも参加させてあげたくても開催自体ができなくて、新しい戦力として入ってきてくれた人たちの中には、まだリアルイベントを経験できていない人もいたりします。
リアルイベントでは、“自分たちがやっている仕事がどれだけリアルの人たちに届いていて、そういった人たちが、どういう顔や雰囲気でゲームやイベントを楽しんでいらっしゃるか”を肌で感じられます。僕たちとしても、とてつもないエネルギーをいただけますし、モチベーションにもつながります。もちろん、準備はたいへんではありますが、チームがまた一段と大きくなるきっかけにもなると思っています。
――東京ドームで開催されるファンフェスティバルもすごく楽しみです。
吉田その前に、まず欧州ファンフェスティバルですね。これからロンドンの基調講演の下書きと、構成表を書かなきゃ……なのではありますが、ぜひ今後もご期待ください!(笑)
『FINAL FANTASY XIV』の関連商品はこちら(Amazon.co.jp)