ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのトニオ國崎がおすすめするタイトルは、PC(Steam)にて配信中のゲーム『ファミレスを享受せよ』。

【こういう人におすすめ】

  • 深夜のファミレスの雰囲気が好き
  • 短く遊べるゲームがやりたい
  • ゲームジャンルやストーリーより先に、ビジュアルに一目惚れするタイプ

トニオ國崎のおすすめゲーム

『ファミレスを享受せよ』

  • プラットフォーム:Steam
  • 発売日:2023年8月1日
  • 開発:月刊湿地帯
  • 価格:1500円[税込]
  • 備考:Nintendo Switch版は2023年夏に発売予定。オリジナル版からの移植はStudio Dragonetが担当。
『ファミレスを享受せよ』を購入する(Steam)

 月明かりが照らしているような黒、黄、青で彩られたグラフィック、8bit風のBGMがどこか心地よい。本作は、不思議なファミレスに迷い込んだ主人公と先客たちが織り成すアドベンチャーだ。

 もともとは2022年にitch.io、ふりーむで無料公開されていた作品であり、2023年8月1日に追加要素を入れた移植版がSteamで発売された(※)。

※Nintendo Switch版は2023年夏に配信予定。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】

 全体のプレイ時間はだいたい2~3時間ほど。個人的にクリアーまでに数十時間かかるノベルゲームなどはほかのことに手がつかなくなるので、サクッと読み物を楽しみたい自分にとってピッタリだった。

 物語のはじまりはとある満月の日。勉強に疲れた主人公はふとファミレスに足を運ぶのだが、注文したものがいつまでたっても来ない。いつのまにか店内の様子も変わっており、これはなにかがおかしいと感じた主人公はファミレスの中を探索していくことになる。出口もなく、店にいるのは自分と数名の客だけ。この不思議な空間はいったいなんなのか……。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】

いらっしゃいませ。ムーンパレスへようこそ

 ゲームの進行はシンプルなコマンド選択式。謎のファミレス“ムーンパレス”に閉じ込められた主人公は、店内にいる数名の先客と交流しながら果てしない時間を過ごす。

 ムーンパレス内の時間は永遠に続いており、店員はおらず、ドリンクバーのみ稼動中。はやくここから出ていきたいところだがあまりにも謎が多すぎる。プレイヤーも主人公も状況が把握できていないので、既にいる先客たちから話を聞くしかない。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】

 キャラクターとの交流はプレイヤーが持っている“話題”から選択して会話していくのだが、礼儀正しい男性、古株のOL、王国の王様など、ここにいる客は出身や振る舞いもぜんぶバラバラ。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
前髪が長い男性“セロニカ”。ムーンパレスにやってきたのは最近のようだ。

 手探りで謎解きをやっているようなものだが、筆者がこの世界に入り込むのはまだ早かったと感じた。なぜなら、自分以外の客が皆静観していることに気付いたからだ。わりと危機的な状況なのに、どうして彼らは焦った様子を見せないのだろう。

 ここはどこなのか、自己紹介をしたり、この店についていろいろなことを聞いてみたりした。会話をするたびに「前はこんなことがあった」、「あの人はね……」など新たな話題が見つかってストーリーが進んでいくのだが、その雰囲気は人の少なさも相まって、まるで閉店間際のファミレスでずっと駄弁っているようなユルさだ。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
ムーンパレス古株の女性“ガラスパン”。なぜか彼女の対面にもうひとつ飲み物が置かれている。
『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
フォースプーン王国の王“レイルロード・スパイク”。身分のせいか口調が少々固め。でも優しい人。

 キャラ付けもハッキリしていて、台詞だけで誰がしゃべっているかわかりやすい。不思議な舞台だが、スッとゲームに入り込めたのはこのシンプルなテキストのおかげだろう。

 筆者はいつしか「閉じ込められているけど、解決できないならしょうがない」と考えるようになった。このだらだらと永遠を過ごしている空気がどこか心地よかったのだ。プレイヤーは果てしない時間を過ごしながら、ムーンパレスの秘密やキャラクターの過去に触れていく。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
小部屋から出てこない謎の人物“ツェネズ”。話しかけると扉越しに答えてくれる。

移植版には追加要素も

 今回プレイしたSteam版(移植版)では、コントローラ操作や英語、中国語(簡体字・繁体字)対応だけでなく、新たな雑談とゲームクリア特典が追加された。無料版と比べてより会話が楽しめるようになり、特典のイラストギャラリーでは、作者・月刊湿地帯(おいし水)氏によるキャラクター解説も用意されている。

 「無料版クリアーしたけど、もうちょっとキャラについていろいろ知りたいなぁ……」と思っていたので、この追加要素は個人的にうれしいポイントだった。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
新しい雑談では主人公のリアクションも増えて掛け合いが楽しめる。

 無料版では細かい描写を少しぼかしていて、それはそれでプレイヤー側の想像が膨らんでよかったと思う人もいるかもしれない。個人的に移植版の追加要素はキャラクターの解像度が増して、プレイヤーが『ファミレスを享受せよ』の世界により浸りやすくなったと感じた。いわゆる完全版にあたる本作だが、当時無料版を遊んでいて、各キャラクターの掘り下げが欲しかった人はぜひ触れてみてほしい。

 何気ない会話シーンでも、キャラクターの背景を知った後にもう一度読んでみると「ああ、そういうことだったのか」と印象が違って見えてきて、周回プレイ時もまた違った味が楽しめるのはおもしろい。クリアーした後はまるで長い夢を見ていたような、自分もさっきまでムーンパレスに居たのかと思うくらい、ぼんやりとした感覚があった。それだけこの物語にハマっていたんだと思う。この不思議な世界に浸った体験は悪くない、「いい夢だった」と思うくらい、最後はスッキリとした読後感が残っていた。

『ファミレスを享受せよ』永遠のファミレス空間に閉じ込められたが、どこか心地よく、長い夢を見たような読後感を味わった【おすすめゲームレビュー】
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