2023年8月8日、コーエーテクモゲームスが放送した『アトリエ』シリーズ新作発表会にて、シリーズ最新作『レスレリアーナのアトリエ ~忘れられた錬金術と極夜の解放者~』が発表された。対象プラットフォームはiOS/Androidで(※スマートフォン版リリース後、Steamでも展開予定)、2023年配信予定となっている。
本作は、コーエーテクモゲームスのガストブランド、Team NINJAブランドと、そしてアカツキゲームスが共同で開発を行っている。本記事では、各チームのキーマンへのインタビューをお届け。なぜ3者が合同で『アトリエ』新作を手掛けることになったのか、キャラクターデザインに海鵜げそ氏とtokki氏、シナリオにタカヒロ氏と吉池真一氏を起用したのはなぜなのか、リリースまでどんな展開を予定しているのか……など気になることを、たっぷりと語ってもらった。
『レスレリアーナのアトリエ』プロモーションムービー第1弾
細井順三氏(ほそい じゅんぞう)
コーエーテクモゲームス 『レスレリアーナのアトリエ』総合プロデューサー
作田泰紀氏(さくだ やすのり)
コーエーテクモゲームス 『レスレリアーナのアトリエ』開発プロデューサー
山口修平氏(やまぐち しゅうへい)
アカツキゲームス エグゼクティブプロデューサー
3チームが合同で開発することになった理由
――『レスレリアーナのアトリエ ~忘れられた錬金術と極夜の解放者~』はガスト、Team NINJA、そしてアカツキゲームスの共同開発とのことですが、今回のプロジェクトがどのように立ち上がったのか、きっかけや経緯を教えてください。
細井スマートフォン向けに新しい『アトリエ』を開発してみたい、新たにスマートフォンで展開したいと考えたのが発端です。そこで、シリーズとしても新しい表現やより高品質なゲームを作りたいと思い、『デッド オア アライブ エクストリーム ヴィーナス バケーション』などを運営している作田のチームと共同で開発できないかと声をかけました。つまり……今回の企画はビーチバレーから始まっています(笑)。
作田最初はそうでしたね(笑)。
――新作が『アトリエ バケーション』になる可能性があったんですね?(笑)
細井というのは冗談ですが(笑)、ジャンルも含めていろいろな方向性を探っていて、やっぱりRPGとして勝負するべきだという話になりました。ただ、スマートフォンゲームが大規模化している流れの中で、一歩上を目指すためには、より多くのノウハウやシステムを持っている会社と協業するべきではないか、という意見が出まして。そこで、以前から交流のあったアカツキゲームスさんにお声がけしました。
山口細井さんから、『アトリエ』シリーズを今後どう展開していきたいかというお話をうかがい、長い歴史の中で『アトリエ』が積み上げてきたもの、魅力的なキャラクターの数々を拝見して、「ぜひ参加したい」とお返事しました。『アトリエ』はすごく魅力的なIPで、競争が激化しているスマートフォンゲーム市場の中でも勝負できると考えました。
――そうしてプロジェクトがスタートしたのは、何年前なのでしょうか?
細井3~4年前ですね。『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』が出た後、『ライザのアトリエ2 ~失われた伝承と秘密の妖精~』の開発が始まっているころに、こちらのプロジェクトも動き出しています。当時は『アトリエ オンライン』を運営中でしたので、そのデータを分析しながら、『アトリエ オンライン』では呼び込めなかったユーザーさんにプレイしてもらうためにはどうすればいいかを考えながら企画を進めました。
――では、プロジェクトが始まった後、3者でどのように役割を分担していったのですか?
細井最初は明確に役割を分けていたんですよ。コーエーテクモゲームスがクライアント開発やリソース周りを手掛けて、アカツキゲームスさんにはサーバーと運営をお願いするという話だったのですが……いざ開発が始まったら、よりよいものを作るために最終的には、混成チームになりましたね(笑)。
山口ゲーム開発というのは、どうしても細かく割り切れないところがあるので、柔軟に対応させてもらいました(笑)。
作田開発当初は、企業文化や、開発に対するスタンスの違いなどで、もっと摩擦が出るかと思っていたのですが、案外そこは早い段階でマッチングできました。
山口両社とも内製で開発することが多いからかと思います。お互いに開発におけるポイントや、苦労する部分を理解できていたので、スムーズに進められたのかなと思います。
細井そうですね。ただ、もちろん違う部分もありました。たとえば我々はビジュアル、グラフィック面へのこだわりが強いのですが、アカツキゲームスさんはいかにストレスなく遊べるシステムを構築するかにフィーチャーされることが多かったですね。
山口運営型タイトルでは、やはり“長期運営できるかどうか”が重要ですので、そこは細かくすり合わせを行いました。
作田アカツキゲームスさんから、「長期運営をするうえで、これくらいのリソースが必要です」というリストをいただいたときは、「これはたいへんだ……」と思いました。もちろん、我々も3Dキャラクター主体のゲーム運営をしてきましたので、量が必要だというのはわかってはいたのですが……制作体制をどう整えるかは悩みました。
細井アカツキゲームスさんが「運営するうえで毎月、これくらいのリソースが欲しい」と要求いただいた量が多すぎて、「本気?」と思っちゃいましたね(笑)。
山口長期運営するならこれくらい欲しい、と無邪気に提案させていただきました(笑)。
――量も多く準備されているという今回の3Dモデルですが、非常にリッチなものになっていますよね。この3Dモデルを何体も作るのは本当にたいへんそうですが、このリッチなクオリティーで作るというのは、最初から決まっていたのですか?
細井最初に決まっていました。スマートフォンゲーム市場が激化している中で、勝負できるスタートラインに立つためには、「このグラフィックだったらプレイしてみたい」と思ってもらうことが大切と考えていましたので。
――この数年でスマートフォン向けゲームのクオリティーがぐっと上がって、グラフィックのレベルが高いことは、もはや前提条件のようになっていますからね。
細井ただ、じつは3Dモデルについては、一度大幅に方向性を変えているんです。開発が始まったころはセルルック(いわゆるアニメ調の3Dグラフィック)で作っていたのですが、ちょうどそのころセルルックのスマートフォンゲームが増え始めまして。「我々がこのゲームをリリースするころには、セルルックはかなり見慣れたものになってしまっているだろう」と考え、2~3年後にリリースしたときでも新鮮に思ってもらえるルックに変えようと舵を切りました。結果的にセルルックとはちょっと違う表現、『アトリエ』が元来持っている温かみのある表現になったと思います。
作田この3Dモデルをどう動かすかも、かなり検討しました。持続できることが求められる運営型タイトルにおいて、モーションをすべて手付けしていくのは現実的ではないので、プログラム面でどこまでサポートできるかをスタッフとかなり話し合いました。フェイシャルや瞳の動きなどにもこだわっていて、生き生きとした表情を作れていると思います。
山口アカツキゲームスは2Dグラフィックのゲームを中心に作ってきたので、3Dグラフィックのゲームのテンポ感を考えるのに苦労しました。せっかくなのでグラフィックをしっかり見せたいものの、それを意識しすぎるとテンポが損なわれてしまうので。本作の開発を通じて、我々もかなり勉強させてもらいました。
“A25”のプロジェクト名を冠する『アトリエ』シリーズの正統新作
――本作はスマートフォン向けゲームではありますが、レスナのことを“ライザ以来の新主人公”と表現しているのを見るに、いわゆるナンバリング新作にあたると考えていいのでしょうか?
細井はい、本作は“プロジェクトA25”です。
※ 『アトリエ』シリーズの本編にあたる作品には、プロジェクトナンバーが付けられている。シリーズ1作目『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』はA1、今年3月に発売された『ライザのアトリエ3~ 終わりの錬金術士と秘密の鍵~』はA24にあたる。
――おお、そうなんですね!
細井長年『アトリエ』を応援してくださっている方に、シリーズの正統新作だということを伝えたく、PV第1弾の冒頭でも“Project A25”と表示しました。
――タイトルの“レスレリアーナ”とはどういう意味なのでしょうか? たとえば、ライザは本名がライザリンで、愛称がライザでしたが、レスナは愛称ではなく本名なのですよね。
細井もちろん、“レスレリアーナ”という言葉には意味があります……が、いまはまだ詳細をお伝えできません。続報をお待ちいただければと。ちなみに、本作を略称で呼ぶ場合は“レスレリ”と呼んでほしいです!
――“忘れられた錬金術と極夜の解放者”についてはいかがでしょう?
細井本作の世界では、錬金術というものはほぼ忘れ去られてしまった技術なんです。レスナはそれを復活させて、世界をよりよくしたい、錬金術をみんなに認めてもらいたいと思っていて、そのために冒険することになります。
――なるほど。では、“極夜の解放者”が意味するものとは?
細井この世界には、昼と夜しか存在せず、夕方や明け方のような時間帯がないんです。それが“極夜”という言葉と関わってきます。そして本作は、『アトリエ』シリーズとしてはほぼ初の試みになるのですが、ヴィランが出てきます。レスナたちのヴィランとの戦いにおいて、“解放”がテーマとなってくるので、サブタイトルにも入れ込みました。
――ちなみにレスナの苗字である“シュテルネンリヒト”は、これはドイツ語で“星の光”を意味する言葉ですね。ということは、星も物語に関わってくるのでしょうか?
細井そうですね。この世界では、ほうき星の光が恵みをもたらし、それにより錬金術が隆盛したという歴史を持たせています。時が流れるとともにほうき星の恵みがどんどんなくなり、錬金術が衰退していったため現代では忘れ去られた技術になったという背景があります。ですので本作では、星と錬金術には強い関わりがあるというわけです。
スマートフォンでの遊びやすさと『アトリエ』シリーズらしさの両立
――続いて、システムについて伺います。採取、調合、戦闘といった『アトリエ』シリーズらしい要素はすべて盛り込まれていると考えてよいでしょうか。
細井はい。調合など『アトリエ』シリーズの要素は、きちんとスマートフォン向けに最適化しています。
山口『アトリエ』シリーズでもっとも重要な要素として、ゲームサイクルの中にしっかり取り入れています。これまで『アトリエ』シリーズに触れたことがない方でもプレイできるように手軽さを意識しつつ、やり込みたい方はガッツリ遊んでいただける仕様にしています。
作田スマートフォン向けゲームでありつつ、『アトリエ』シリーズらしいゲームシステムにするために、何度か作り直しながら検討を重ねましたが、なかなかいい形にできたんじゃないかと自負しています。
――レスナは“果ての大陸”を目指して冒険するそうですが、どこか拠点となる街はあるのでしょうか?
細井とある街を拠点にして、世界各地を旅することになります。本作では、隙間時間でも遊べるような手軽さを意識しましたし、一方でどっぷりと使って遊べる要素の同居も目指しています。ただ、当然のことながらコンシューマーでも引き続き『アトリエ』シリーズは展開していきますので、スマートフォンで遊ぶゲームとして最適なシステムを考え、現段階では詳細はお伝えできませんが、調合や採取も、スマートフォンで遊びやすい、かつ遊び込めるものにしています。
王道と新風を意識してクリエイターを起用
――本作のキャラクターデザインは、海鵜げそさんとtokkiさんのおふたりが担当されていますが、両名にオファーした理由を教えてください。
細井海鵜げそさんについては、『アトリエ』シリーズらしいデザインを踏襲できる方、従来の作品と近いタッチを持っている方だと思い、お声がけしました。逆にtokkiさんは、これまでの『アトリエ』シリーズとは違った印象のデザインをしていただきたくてオファーしています。これまでの『アトリエ』シリーズとは少々方向性が異なる方を起用させていただくことで、新しい風を入れたいと考えました。
――『アトリエ』シリーズ王道のデザインと、やや変化球のデザイン、両方を取り入れたということですね。
細井tokkiさんが描かれたキャラクターは初報では正式に公開していませんが、もちろん今後紹介しますので、楽しみにお待ちください。
――シナリオにおいても、初参加となるタカヒロさんと、『アトリエ』シリーズの生みの親である吉池さんを起用されていますが、それもやはり新しい風を期待して?
細井『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』で高橋弥七郎さんを起用したことで、新しいユーザーの方に遊んでいただけましたし、既存の『アトリエ』ファンの方にも「いままでの作品とは違った雰囲気でおもしろい」と評価していただけたんですね。それもあって、『アトリエ』シリーズとして新しいアプローチをしたく、タカヒロさんにオファーしました。一方で、長年『アトリエ』が培ってきた土台はもちろん大切ですので、吉池さんにも参加してもらい、私と吉池さんでタカヒロさんが表現したいことと『アトリエ』において表現できる範囲をすり合わせていきました。
――では、ストーリーのベースはタカヒロさんが考えているのですね。
細井この世界で錬金術がどのように生まれ、どう使われていたのか……という世界観についてはコーエーテクモゲームスと吉池さんで考えたものですが、メインストーリーの原案はタカヒロさんが担当しています。
――タカヒロさんが手掛けた『結城友奈は勇者である』などのストーリーを考えると、なかなかハードな物語が展開するのでは、と考えてしまいますが……?
細井『アトリエ』としてNGな表現があることは、もちろんタカヒロさんも汲んでくださっています。むしろかなり気を遣ってくださって、「これは『アトリエ』的に大丈夫ですか?」と聞いてくださったり。逆に、こちらから「もっと踏み込みましょう」と提案することもありました。タカヒロさんのシナリオの魅力は“爆発力”だと私は思っているのですが、本作では『アトリエ』らしいお話でありながら、ダイナミックな展開が楽しめます。クオリティーの高いシナリオになっていると思いますね。聞かれると思うので先に言ってしまいますが、メインストーリーはフルボイスで展開します。
――シナリオに関して、アカツキゲームスから何かリクエストはされましたか?
山口お話の流れについてはコーエーテクモゲームスさんにお任せしていますが、周年などのタイミングはやはり盛り上げたいので、そこでもストーリーの盛り上がりが来るようにしてほしい、とご提案しています。
細井ストーリーが冗長にならないようにするための調整、スマートフォンゲームらしいテンポ感作りについては、アカツキゲームスさんのご意見に助けられました。
山口3Dのゲームの場合、かなり前もってスケジュールを組まないといけないですし、つぎの更新を期待させる“引き”も必要ですので。
――リリース後は、定期的にメインストーリーが更新されていくとともに、期間限定のイベントが開催されていく、ということでしょうか。
細井その通りです。新キャラクターの登場スケジュールなどは、もうかなり先まで作っています。
――本作では新キャラクターが定期的に登場するようですが、今回発表されたのはレスナ、イザナ、ロマン、ザスキアの4人のみですよね。この4人以外には、どんなキャラクターが実装されるのでしょうか?
細井キャラクターは本当にたくさん登場します。PV第1弾にはいろいろギミックを入れ込んでいますので、よく見ていただくと何か気付くことがあるかも……? ぜひ、何度も見てみてください。
気になるリリース時期は、暑さがまだ残っているころ?
――本作について、リリースまでの今後の展開を教えてください。
細井まずはコミケに出展します。レスナとイザナの公式コスプレイヤーさんが登場しますので、ぜひコーエーテクモゲームスのブースに来てください。事前登録してくださった方にはオリジナルのかわいいキーホルダーをお渡しします!
――その後はいかがでしょう?
細井生放送は定期的に行っていきますし、イベント出展も予定しています。リリース時期は、詳細はお話しできませんが、そこまで遠くないと思います。おそらく、暑さがまだ残っているうちには……?
――近年は何月までが夏なのかわからないくらい暑さが続きますが、冬になる前には遊べそう……ということですね!
細井夏と言えばですが、私が山口さんと交流するきっかけになったのは『八月のシンデレラナイン』なんです。2016年の東京ゲームショウで大々的に告知されていたのに惹かれて、「どんな人が作っているんだろう」と思って連絡を取ったのが始まりでした。
山口細井さんは“夏”や“青春”が好きということで通じるところもあり、ウマが合いましたね。
――『ライザのアトリエ』も夏の物語を描いていますからね。
細井『レスレリアーナのアトリエ』は、夏がテーマというわけではないですが、『八月のシンデレラナイン』が好きな方にもぜひ遊んでほしいです。
――では最後に、本作を楽しみにしている方にひと言お願いします。
山口『アトリエ』シリーズのよさは守りつつも、いろいろなチャレンジを入れていて、アカツキゲームスとしても刺激を受けながら開発しています。『アトリエ』ファンの方も、初めてプレイする方にも満足していただけると思いますので、よろしくお願いします。
作田Team NINJA内には、「『アトリエ』の新作に関わりたい」と思っていたスタッフがじつはたくさんいるんです。開発メンバーであると同時に、いちばんの『アトリエ』ファンでもあるスタッフたちが、いままで身に着けた技術を、もう本当にがんばりすぎなぐらい詰め込みました。本作が『アトリエ』をより多くの方に知っていただける機会になればと思っていますので、ご期待ください。
細井『アトリエ』シリーズは、『ライザのアトリエ』をきっかけにより大きな展開へとつなげられるようになったのではないかなと思っています。今回、『レスレリアーナのアトリエ』で大きな山を越えて、『アトリエ』をさらに大きいIPにしたいと思っています。Team NINJAとアカツキゲームスさんと取り組んだおかげで、非常にいいゲームになったと思っていますので、ぜひプレイしていただければと思います。