UNIVRS(ユニバース)は、“VR兄弟”と呼ばれる藤川啓吾氏と藤川駿氏のもと、2016年に設立された、VRエンターテインメントを専門に手掛ける開発スタジオだ。

 2020年10月13日には、Meta Quest 2のローンチタイトルの1本として『リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを』をリリースし、大きな注目を集めた(2021年7月16日には、プレイステーションVR、Oculus Rift、SteamVR向けに発売)。

 そんな同社の最新作は、『進撃の巨人VR: Unbreakable』。言わずと知れた『進撃の巨人』をVR化したタイトルだ。今冬に発売されるという『進撃の巨人VR: Unbreakable』はどのようなタイトルなのか。UNIVRSは、『進撃の巨人』というIPをどのようにVR化したのか。プロデューサーの小路直哉氏に聞いた。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

小路直哉氏(コウジ ナオヤ)

UNIVRS プロデューサー

『進撃の巨人VR: Unbreakable』Meta Questストア

※記事中で使用している画面はコンセプトPVをキャプチャーしたものです(実際のゲーム画面ではありません)。

『進撃の巨人』をVR化するとしたら、立体機動装置でのアクションを!

――まずは、ファンが気になるであろう、『進撃の巨人VR: Unbreakable』について教えてください。

小路『進撃の巨人VR: Unbreakable』は、皆さんご存じの『進撃の巨人』を題材にしたVRハンティングアクションゲームです。原作に登場するシーンを追体験したり、ストーリーを追うというゲーム性ではなく、自分が調査兵団の一員となり、立体機動装置を駆使して自由に空を飛び回って巨人と戦うアクション性に注力しています。

――自分が原作のキャラクターになるというわけではないのですか?

小路違います。自分自身が主役になって、街を守るために戦ってミッションをクリアーしていくゲームです。

――『進撃の巨人』のVRゲーム化ということで、ユーザーによっては「あのキャラクターになれる」とか、「原作の追体験ができる」と期待する方もいるかと思いますが、そういった方向にしなかった理由はなんでしょうか?

小路VRで『進撃の巨人』のゲームを作ることになったときに、さすがに原作の要素を全部盛り込むのは無理だなと判断したんです。“選択と集中”はどのみち必要だったのですが、では、「VRならではのいちばんの要素は何か」ということを考えたときにすぐに思い浮かんだのが、立体機動装置での体験でした。

 もちろん本作では、『進撃の巨人』の世界に入ったという実感を得ていただくために、原作のキャラクターと会うといった要素は入れています。誰が出てくるかはまだお話しできませんが、何人か出てきます。ただ、それは『進撃の巨人』の世界を感じてもらうためのひとつの要素で、『進撃の巨人VR: Unbreakable』のキモは、立体機動装置を駆使してのアクションですね。

――ミッションをクリアーしていくとのことですが、数はいくつあるのですか?

小路正確な数はお話しできませんが、けっこうあります。

――ステージは城塞都市に?

小路はい。壁に囲まれた都市がいちばんアイコニックだと思うので、城塞都市をステージにしています。ゲーム中では実際にどこかというのは明確にしていませんが。ステージとなる城塞都市は、1.5 km四方ととても広いです。「このミッションは、この辺で」というふうに、城塞都市の中でエリアが分かれています。

――実寸で1.5 km四方となると、かなり広そうですね。

小路エンジニア泣かせです(笑)。ただ、UNIVRSのエンジニアは大きなフィールドを作った経験があるので、問題ないと思っています。透明な壁を作らなくても、バトルフィールドを壁で囲える正当な理由があるので、自然と世界観が合ってくれるのも、相性がよくていいですね(笑)。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

――VRと『進撃の巨人』の相性はよさそうですね(笑)。ミッションは具体的にはどのようなものになるのですか?

小路内容は詳しくお話しできませんが、基本的には巨人と戦うミッションです。ミッション内容が変わったり、ステージの状況が変わったりと、さまざまなミッションが複数展開され、クリアーしていくといろいろな武器が手に入ったりします。

 『進撃の巨人』はこれまでに何度もゲーム化されていますが、従来作とは違い、VRタイトルである本作は、プレイヤー自身がゲームの世界に入ってプレイするので、自身が調査兵団の新兵からスタートして、巨人を倒せるようになるまでの成長過程を楽しんでいただきたいと思っています。

――武器が手に入るということは、複数の武器が存在するということでしょうか?

小路そうですね。原作では、超硬質ブレードと雷槍を使って戦っていますが、本作ではそれらに加えて、オリジナル武器が複数登場します。それぞれ特性が違うものになっているので、どれをどういうふうに使っていくかというのがミッション攻略のひとつのカギになります。一撃にすべてを込めるタイプか、手数で勝負するタイプか……。そういった自分のプレイスタイルにあった武器を選べるのも。ゲーム性のひとつです。

――もしかして、原作でもおなじみの、超硬質ブレードの刃こぼれやガス切れの要素があったり?

小路あります(笑)。超硬質ブレードは使えなくなると折れて、ガスメーターがなくなると飛べなくなります。そのあたりは原作通りですね。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】
『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】
『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】
『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

『進撃の巨人』はずっとやりたいと思っていた作品だった

――と、つい気になって『進撃の巨人VR: Unbreakable』のことを伺ってしまいましたが、本来はインタビューの冒頭でおうかがいするハズだった、『進撃の巨人VR: Unbreakable』を開発するにいたった経緯を教えてください。Meta Quest 2のローンチタイトルとして『リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを』をリリースしたあと、第2弾として『進撃の巨人』を選んだ理由は?

小路UNIVRSは、VRテクノロジーとエンタメの力で世界中の人たちの夢を叶えることを目指しています。具体的に“夢”とは何を指しているかと言いますと、誰もが一度は思ったことがあるアニメやマンガ、ゲームの世界に行きたいという夢を実現したいのです。そういった経緯で、前作の『リトルウィッチアカデミア』もVR化させていただきました。

 『進撃の巨人』は自分たちがずっとやりたいと思っていた作品であり、ユーザーさんからも「いつか実現してほしい」とたくさんのご要望をいただいていました。そんななか、いろいろなご縁がつながって2020年の年末あたりで版元である講談社さんにVRゲーム化を提案させていただくことになったのです。

――UNIVRSのほうから積極的に働きかけたのですね。

小路面談当日は企画資料として、立体機動装置の移動と巨人との戦闘を体験できるデモ版をお持ちして、「自分たちならVRで『進撃の巨人』を再現できる」という熱意をお伝えしました。講談社さんからは「初めましての面談にデモを持ってこられたのは初めてです(笑)」と言っていただいたので、しっかりと熱意が伝わったのかなと思います。その後、2021年春くらいから、プロジェクトは正式にスタートしましたね。

――『進撃の巨人』とVRは相性がよさそうに見えますが、実際はどうなのでしょうか。

小路アニメやマンガ、ゲームの世界に入れる作品を作るうえで真っ先に壁にぶち当たるのがVR酔いです。VRハードが出揃い始めてきた2017年あたりは、移動自体は極力やらないようにしたり、ワープにしてVR酔いを避ける方向でゲーム化しているタイトルが多かったです。

――たしかに、たくさん飛び回ることになりそうなので酔いそうですね。

小路VR酔いをしやすいユーザーさんがPVを見ると、「おもしろそう」のつぎに、「でも、これ酔うんだろうなぁ」と思ってしまうのが、いまのVR業界の印象かと思います。でも、それだと自分たちが本当にやりたかったことができないんです。少年・青年マンガをゲーム化しようと思うのであれば、アクションは欠かせない。

 ですので、UNIVRSは、VR酔いを防止して動ける専用の移動技術を作ることに心臓を捧げることにしたのです。

――心臓を捧げるって……(笑)。『リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを』のときもそうでしたが、UNIVRSはVR酔いに対して最大限の注力をしていますね。改めてになりますが、VR酔いを抑える技術について詳しく教えてください。

小路はい。VR酔い防止のメカニズムは自転車に乗れる感覚と似ています。自転車に乗れるようになった瞬間を覚えている方も多いかと思いますが、どうやって乗れるようなったかは言葉で説明できないですよね。ただ、“こうしたら乗れる”という感覚は体で覚えている。それと同じように、「こうやって動くのか!」とVRの中で覚えてもらうと、それ以降は酔わなくなるので、動き放題になります。

――そのあたりのノウハウは、『リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを』からさらに進化している?

小路そうですね。VR酔いに関しては、もともと創業者の藤川兄弟が別々のスキルを持っていて、そのスキルを組み合わせることでVR酔いを防止する移動技術のテクノロジーは奇跡的に生まれました。移動技術の方法はもっと増やしたいと思っているので、そこは今後の課題ですね。

 ただ、ワイヤー移動はいつか絶対にVRゲームで使いたいと思っていたので、じつは前から実験していたんですよ。

――自転車の仕組みと言いますと?

小路そうですね、クルマ酔いを例にするとより理解しやすいかと思います。クルマは、運転している人は酔いにくいですが、助手席に座っている人は酔いやすいですよね。酔いを引き起こすのは体の動きと周りの景色の動きの不一致で、自分の動きとどれくらいかけ離れているかによって酔いやすさが決まります。

 しかも酔いやすさにも差があって、同じ人でもその日の体調によって違ったりもします。イメージするなら、コップがあって視覚情報の違いが水だとすると、体の動きと視覚情報の違いがだんだん溜まっていって、溢れた瞬間に気持ち悪くなります。調子がいいときはジョッキくらいいけるのですが、調子が悪いとお猪口くらいしか耐えられないみたいな形になるんです。

――コンディションでVR酔いにも差が出るのですね。

小路VR酔いを軽減する処置として、よく視覚情報の変化を減らすということをしています。たとえば、戦闘機に乗って戦うフライトシュミレーションゲームは、宇宙空間と地球上だったら絶対に宇宙空間のほうが酔いにくいです。なぜなら、宇宙空間には地平線がないので視覚情報の変化が少ないからです。背景がシンプルであるほど酔いにくくなるので、まっさらなところを歩くよりも、たとえばチェック柄のテクスチャーがたくさん映るようなところを歩くほうが酔いやすいです。

 ですので、視覚情報を下げるのはVR酔いを軽減する処置としてはすごく有効です。とはいえ、水なので、いずれは少しずつでも溜まってしまうので、根本的な解決にはならないのです。

 VRゲームもプレイ時間が伸びているので、長時間遊んでも酔わないアクションゲームを作るためには、軽減だけでは足りないんです。そこが本当に難しいところで、軽減もするし防止もする。90%以上のユーザーさんが酔わないゲームを作るというのが、UNIVRSがゲーム開発で取り組んでいることですね。

――VR酔いに対する深い知見があるからこそ、『進撃の巨人』のVR化が可能で、それを講談社さんに言ったら大いに感心してくれたということですね?

小路講談社の方も、VR酔いがあること自体はご存じだったので、「こういうふうにやったら酔わないです」というお話をしたときに「本当ですか?」と言われたので、「じゃあ持ってきたので!」とデモ版をプレイしていただくと、「たしかに酔わない!」と言っていただけました(笑)。

――VR酔いしないための方法論は、確実にあるということですね。

小路じつは、ハードとソフトの酔い防止に必要なものはまったく違います。ハードウェア側の酔いの原因は遅延でしたが、いまはすでに解決されています。VRで発生する酔いは、体の感覚と視覚情報のズレによる違和感や不快感によるものなので、ハードウェア側の問題は精度になります。PS VR1やOculus Rift、HTC VIVEのころから、FPSはすでに60から72以上の設定がされていて、その速度で動くのであれば遅れは感じません。ハードウェアの問題が解決したので「これでVRができる!」というふうになって、VR業界が動きだしたのではないかと、個人的には認識しています。

――たしかに、2016年以降、VRは認知度が上がっていますね。

小路ただ、いまだソフトウェア側の問題が解決できていないのです。なぜ解決できていないのかというと、それを解決するのにはゲーム1本作るのと同じぐらいの努力が必要だからです。現状、ゲームを作りつつ、VR酔いを軽減する取り組みをしているのは、UNIVRS以外に知らないです。

 それは当然と言えば当然で、VRゲームは新しい体験の詰め合わせなので、考えないといけないことがたくさんあるんですよ。移動って、ゲーム内のいち要素にすぎないですよね。なのですが、そこの根本的な問題を解決するのは、ゲームを1本作るよりもたいへんかもしれないのです。UNIVRSは、どちらかというとその先に待っているものがいちばんやりたいことだったので、まず移動からやろうという感じで立ち上がった、かなり珍しいタイプの会社とは言えますね。

――VRは相当独特だということですね。

小路画面の外からコントローラーやキーボード、マウスを使って操作するのと、自分が中に入って操作するのとではまったく違います。体を使ってプレイすることで、VRならではの価値が倍増すると思うので、そこはこだわっています。

――UNIVRSは、そういった調整や解決方法のノウハウを持っているということですね。

小路いくつか主要なものはあると言えばあるのですが、そこにデリケートな調整がたくさん入っています。VR酔いを防止する移動技術と言ってもひとつではなくて、いろいろなものを組み合わせています。VR酔いは乗り物酔いと同じく個人の感覚でしかないので、たぶんですが、どう足掻いても100人中100人が酔わないシステムは実現できないと思うんです。ただ、9割以上の人が酔わないようにするか、もしくは酔いにくくするというのは可能だと思っています。当社はどちらかというと、そちらに対するアプローチをしています。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

立体機動装置の爽快な移動と巨人のインパクトを詰めることで、『進撃の巨人』の世界に引き込む

――『進撃の巨人VR: Unbreakable』の開発は具体的にどのように進んでいったのでしょうか?

小路もとからアクションを主体にしたゲームにしたいというのはあったので、“立体機動装置で自由に移動する”ということと、“巨人と対面したときのインパクトをどういう形にするのか”ということを主眼に、ひとつひとつ検証しながら詰めていきました。どういう遊びかただったらいちばんアクションが活きるのか、『進撃の巨人』という作品の世界にいると思ってもらうためには、ほかにどういう要素が必要なのか、というのをディスカッションして作り上げていきました。

――立体機動装置の移動の爽快さと巨人のスケール感が『進撃の巨人VR: Unbreakable』の大きなテーマということですね。

小路はい。主役は立体機動装置の爽快な移動と巨人との近接戦闘なので、まずはそこをどう伸ばすかというところを考えました。立体機動装置は、マンガやアニメに親しんだ原作ファンがこのゲームをプレイしてもらったときに、世界中の人たちが想像しているものと一致できる内容を目指しました。とくにVRは、自分が中に入って答えを体験するのでごまかしが効きません。期待に応えられるような、なんだったら期待を上回れるような体験を目指して、まずは移動のパートをブラッシュアップしていきました。

 しかも、巨人との戦闘を考えたり、街中の移動とかを考えると、プレイヤー側の設計だけではなくて、ステージ側の設計もけっこう重要になってくるんです。ワイヤーはここに刺さったほうがいいとか、屋根にどう乗るかとか……。そういったことは酔いを防止することにもつながるのですが、移動を司るのはプレイヤー自身だけではないんです。フィールドもしっかり設計していかなくてはならないので、そのへんも精査しながらステージを決めました。作れば作るほど深掘りしていく方向が見えてくるんです。

――地道な調整があったのですね。

小路けっこう地道で泥臭い開発なのかなと思います。作ってプレイして……というのをひたすらくり返しながら、開発していったのですが、それはVR開発のおもしろい部分でもあるのかなと思います。

 いままでは画面に映るところさえできていればよかったものが、VRでは見えないところまで作り込まなくてはいけなくなってしまったので、かなりディスカッションしました。ふつうのゲームでも敵を斬った感じが楽しいと思いますが、VRだとより距離感が近くなるので、「実際に巨人を掻っ捌くときは、どうやったら気持ちよくなるかな?」みたいなところを何度も試しました。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

――巨人と遭遇したときの怖さも作品の中でかなり重要な要素だと思うのですが、そのあたりはどういった表現で体験できるようになっているのでしょうか。

小路正直、かなり怖いと思います(笑)。VRの主要な武器のひとつとして、サイズ感が伝わりやすいところがあります。画面で見るサイズ感は対比ですが、一人称のVRで大きいものを見るときは自分と比べて、「自分よりこんなにデカいのか!」という感覚になるので、それだけでインパクトがあります。

 ですので、『進撃の巨人』ってものすごくVR 向きの作品で、巨人が襲ってくるのが怖くないわけがないんですよ。迫力は保証します。

――眼の前に巨人が出現したら、本当に怖そうですね。

小路『進撃の巨人』の世界に入る以上、やはり調査兵団の一員となって戦い、命の危機を感じてほしいんです。「このままだとやられる!」というあの緊迫感と、それを乗り越えて倒せたときの爽快感、だけど決してイージーではない。そこのゲームバランスはこだわって作っています。

 『進撃の巨人』は決してハッピーな話ではなく、つねに壁にぶち当たってずっと不利な状況でもがき苦しんで絶望を味わいながら、それでも前に進んで人類の未来を掴みに行くために立ち向かっていくという作品です。戦いを乗り越えて自分自身が調査兵団の一員としてレベルアップしていくのを感じていただけるように、巨人はどういう行動をしたらいいのか、どういうふうに見えたほうがいいのかというのを、つねに意識しながらゲーム設計をしています。

――具体的にはどのようなことを?

小路行動パターンとかですね。基本的に人は目で見えたものに対してリアクションを取るので、「巨人がこう動いてきたらおそらくプレイヤーはこう動くから、つぎに巨人がこう動いたら驚くだろう」みたいなことを予測したりしています。

 ゲームでも巨人のうなじを切ってとどめを刺すという原作通りの設定なので、最初は巨人のうなじを狙いにいくと思うのですが、うまく後ろを取れない。回り込んでも正面を向かれてしまうんです。自分が見つかった状態だと、そもそも後ろに回り込みづらかったりするので、まずは足を切る。でも足を切ろうとして近づいたら捕まりそうになる。では先に腕を落として攻撃手段をなくすというふうに、プレイヤーが試行錯誤しながら巨人をどうやって倒していくのか。1体倒せるようになった人が複数体に囲まれたらどうなるのだろうか。というふうに、たくさんの壁を用意しています。その壁にぶち当たる度に絶望してもらって、乗り越えるときに「そうか、エレンたちはこういう絶望を味わって戦いを乗り越えてきたのか」みたいなことを、実際に自分の体で体験してもらうというのが、僕たちの目指しているところです。

――日々アクション性を洗練させていっているのですね。

小路ゲームが日々進化していって、スタッフがオフィスでゲームの進捗を共有しているときに、「おおっー!」とか歓声が上がると「あ、いいのができたんだな!」ってうれしくなります(笑)。

――まあ、巨人の動きは本作のキモになりますよね。

小路そうですね。やはり立体機動装置の自由移動と対をなすものがクロスファイトで、しかも非対称なんですよ。プレイヤーは小さくて、敵は大きいので、非対称バトルのクロスファイトになります。大きいものと戦うためにも3次元的な移動をしなくてはいけないというのが、『進撃の巨人』ならではあり、醍醐味なのです。それを実現してこそ『進撃の巨人』でVRゲームを作る価値があるかなと思います。

――最初にVRゲームを作るときから、スタッフの皆さんで『進撃の巨人』の魅力をディスカッションして、方向性を見定めたのですか?

小路私たちはもともとただの『進撃の巨人』のファンなので、“やりたい”と思うものを作るためには、それを自分たちで言語化して理解しなくてはいけませんでした。その楽しさや迫力、『進撃の巨人』に引かれる理由を砕いた結果、主役は“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”のふたつになりました。

 人は基本的に自力ではZ軸(高さ)を変えられないのですが、それを自分の自由意志で変えられてしまうのがVRの強いところです。むしろそこが主役になっている作品というのが『進撃の巨人』だと思うので、本当にVR ゲームを作る意義があると思っています。

――スイングで少し静止したときに向きを変えて飛んでいくのがとても気持ちよさそうですね。

小路言葉で伝わるかどうかわかりませんが、スイングで移動しているときに少し上昇すると、スッと抜けるタイミングがあるのですが、そのときに自動でアンカーが巻き取られるようになっていて、そのタイミングを調整するのに、まあ手間がかかるんです(笑)。

 いま作っている開発者たちの腕次第にはなりますね。酔わないように作るのはUNIVRSのウリですが、それはあくまでスタートラインでしかありません。そこからいかに楽しくて気持ちのいい操作性を実現するかという、ある意味終わりがない戦いが始まるんです。酔いを防止する要素の中に音とかエフェクトなども入っているので、全部積み上げてひとつの移動方式にして、その結果9割以上の人たちが酔わないというのが行きつくところなので、できるだけ積んでおく必要があります。ただ、残念ながら100%酔わなくするというのはおそらくできないと思います。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

――本作では、共闘要素はあるのでしょうか?

小路マルチプレイは何とかして盛り込みたいと思った要素でした。本作では、ふたりでの共闘プレイができます。原作のキャラクターといっしょに戦うというわけではなくて、プレイヤーどうしでいっしょに戦うことになります。

――原作とは切り離された形ということは、敵に見知った巨人が登場するということもない?

小路そうですね。鎧の巨人のようなアイコニックな巨人というのは出てきますが、それ以外のいわゆる無垢の巨人と呼ばれているものの紐づけはしていません。奇行種はいます。通常種より格段に手強い巨人として出てきます。

――いずれにせよ本作は、原作のワンシーンを再現するよりもアクションに特化して、移動や近接戦闘を楽しむためにプレイヤーが調査兵団の一員となって登場する方向性を選択したということですね。

小路そうです。とはいえ、戦闘の最中にほかのキャラクターが助けてくれたりする要素を考えなかったといえば嘘になります。

 ですが、VRゲームの特性上開発者泣かせなのが、負荷軽減なのです。先ほどハードウェア側の問題が解決したと言いましたが、いまMeta Quest 2は72FPS 以上で動いているので、1秒間に72回右目と左目の映像を入れ替えていて、自分で見ているように思えるような速度で、映像をつねにセンサーの動きと合わせて書き換えているんです。そうすると、処理負担がかなりコンピューターにかかってしまうので、あまりグラフィックを豪華にできなかったり、一度に処理できるコンテンツ側のデータ量を大きくできないということになります。

 ですので、できることを絞らないとまともには動かないんです。しかも、UNIVRSのコンテンツはすごく動くので、とても広い空間が必要になります。パッと一望したときに町の端まで見えてしまって、描画しなくてはいけないデータ量が大きくなってしまうんです。ですので、キャラクター一体を出すだけでもけっこうたいへんだったりします。

 そうなったときに、立体機動装置を使ったアクションで、「いま実現できる中で、いちばん楽しんでもらえるのはどの要素なのか」というのをディスカッションしました。その結果、できるだけ長くゲームを楽しんでいただくために、いろいろな敵やシチュエーションを用意しつつ、マルチプレイの要素も盛り込みたいということになりました。

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】

――適宜講談社さんの監修があったと思いますが、講談社さんからの要望はありましたか?

小路『進撃の巨人』の世界観を崩さないように、適宜フィードバックをいただいていますが、講談社さんにはとても丁寧に監修していただいていて、こちらの説明を聞いた上で事情も汲んでもらったりしているので、開発者側としてはとてもありがたいです。たとえば、「このゲームはこういうふうにしていきたいです」と言うと、「でしたら、ここはおもしろさ優先でこうしましょう」とか、「ここは『進撃の巨人』の世界ではこうなので、こっちにしてください」といった感じで、原作の世界から逸脱しないようにしっかりと見ていただいています。

 今回、ストーリーは描かないとはいえ、『進撃の巨人』のゲームなので、そこは講談社さんに“本物”と認めていただけるかどうかということで、ビジュアルや表現、テキストなどを細かくフィードバックしていただきました。

――先ほど、オリジナルの武器があるというお話がありましたが、そこも世界観に沿った上でということで、しっかりとUNIVRSサイドで考えたのですね?

小路そうです。『進撃の巨人』の世界でオーバーテクノロジーにならないようなデザインをこちらからご提案して、フィードバックしていただいたものを調整した形です。ただ、「たしかに少し世界観がずれてしまいますが、この武器に関してはこちらのほうが楽しんでもらえます!」という話をしたときには、「では、それでいきましょう」というふうにOKをもらったりしました。

――ゲーム性のためにある程度融通を効かせてくれたということですね。

小路そうですね。それこそ「原作に登場しないオリジナル武器を出すのはどうなのか」というご意見もあるかとは思います。本来であれば存在しない武器なのですが、それこそスピードタイプだとかパワータイプみたいな遊びができたほうが、ゲームとしてはユーザーの方々に喜んでもらえるということを講談社さんも理解してくださいました。原作を忠実に再現することだけにこだわっているわけではなくて、お客さんがいかに楽しめるかを最優先してくださっていたので、そこはすごくありがたかったです。一方で、私たちが『進撃の巨人』を好きすぎて逸脱しそうになると止めてくださったりして、しっかりと議論できました。そこの線引きは版元さんしかできないので、本当にありがたい限りです。

――本作は、Meta Quest 2向けにリリースされますが、Meta Quest 2だからこそ実現できたことも多いですか?

小路そうですね。ターゲットデバイスはMeta Quest 2だというのは最初から決まっていました。Meta Quest 2になってから、VRデバイスはすごく幅広い方々に届いていると思うんです。

 やはりMeta Questのいちばんいいところは、スタンドアローンというところです。ケーブルがないというのがシンプルにいちばん強いです。UNIVRSのコンテンツはとても動くので、後ろを向いてその後すぐにまた正面を向かないといけないといったことが多々あります。そうすると、場合によってはケーブルが1周してしまうので、その時点で現実に引き戻されてしまうんですよ。やはりVRは没入感がすごく大事なので、現実の邪魔ができるだけないに越したことはないですね。

 とはいえ、ケーブルがないほうがいいですが、あったらゲームができないというほどでもないようにはしています。よくある視点回転みたいなものを入れて酔わないようにしているので、許容範囲内に収めることはできたかなと。ただ、ないに越したことはないです。

――『進撃の巨人VR: Unbreakable』の開発状況はいかがでしょうか?

小路『進撃の巨人VR: Unbreakable』は、今冬発売予定で絶賛開発中です。ゲームの形はだいぶできてきていますが、まだまだブラッシュアップやバランス調整をする必要があります。いまは難易度や巨人の行動パターンにいろいろな微調整をかけているところです。

――最後に本作を楽しみにしているファンの方に向けてメッセージをお願いします。

小路開発チームの面々は、もともと『進撃の巨人』が大好きで、日々完成に向けて心臓を捧げている最中です。VR開発は初めてのことが多く、答えがないものに対して自分たちで答えを作り上げなくてはいけないというものが多々あります。ですので、開発チームは本当に巨人と戦うのと同じぐらいたいへんなチャレンジをしています。

 皆さんを、自分たちも大好きな『進撃の巨人』の世界に連れて行って、「『進撃の巨人』が大好きなら、やはりこれをやりたいですよね!」というものを、皆さんにお届けできるようにがんばっています。プレイしていただくまでにまだしばらく時間がかかってしまいますが、UNIVRSの兵団員たちは日々戦っているので、ぜひ楽しみに待っていていただけたらと思っております。

――「なんの成果も得られませんでした」ということはない?

小路さすがにそれはないです(笑)。うちの団長は優秀なので!

『進撃の巨人』VR化で重視したのは、“立体機動装置の爽快な移動”と“巨人との近接戦闘”。VR酔いを防止するために「心臓を捧げています」【UNIVRSインタビュー】