ファミ通.comでもたびたび取り上げる、ゲームメーカーの“決算”公開のニュース。

 たとえば、2023年5月9日に任天堂決算の記事を公開したり、4月28日にはセガの決算について紹介したりしている。

 ふだん何気なく目にしている“決算”だが、そもそもどういった目的で、誰に向けて公開している資料なのか。なんとなくイメージできても、正しく理解している人は少ないだろう。かくいう筆者もそのひとりだ。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事
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 そんな疑問を抱いているはずだ。

 多くのゲームファンにとって決算とは……

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 まず『桃太郎電鉄』シリーズのこれが思い浮かぶはずだ(偏見)。決算と言えば『桃鉄』だよねふつう。

Switch『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(Amazon.co.jp)

 そんなところに……

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 「お教え差し上げましょう!」

 会計に詳しいクマがさっそうと現れた。

 そこで本稿では、『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』や、『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方 [実践編] 』(ともにKADOKAWA刊)の著者である、大手町のランダムウォーカーの運営者・福代和也氏にインタビューを実施。決算についていろいろ伺った。

 本記事を読めば、決算のことが理解できるうえに、決算書を楽しく読めるようになるハズだ。

大手町のランダムウォーカー(おおてまちのらんだむうぉーかー)

公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て独立。「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に大手町のランダムウォーカーとして、Fundaにて “#会計クイズ”を運営している。

『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』をAmazonで検索する

素朴な疑問ですみません。そもそも“決算”って何ですか?

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事
任天堂のIRページ。企業の決算に関する情報がまとまっている。

――“決算”のことがよくわからなくて……。何を目的として行われていて、なぜ公開しているんです?

大手町決算をひと言で言うと“数字の整理”です。数字を整理したのち、それを報告します。

――整理して報告。

大手町では何を報告しているかというと、企業の“成績”を報告しているんですね。これが決算というイベントです。

――成績の報告。

大手町国内では、上場企業は3ヵ月に1回(四半期決算)、その他の企業でも3月に1年ぶんの決算(本決算)を発表する企業が多いんです。「今年度はこういう事業でこれだけの利益が上がりました、こういうビジネスをやっていました」とね。企業はみんなやってるんですよ。

――なんとなくやってるな~とは思っているんですが、企業の中には決算をしていないところもありますよね? 会社の公式サイトに決算情報がなかったりしますから。

大手町それは未公開なだけで、企業は必ず決算自体はしているんですよ。

――絶対?

大手町絶対。

――本当に?

大手町本当に! 会社を立ち上げたのであれば、決算は必ず行わなければいけませんから。それに、企業だけではなく、個人事業主も決算が必要なんですよ。

――え、そうなんですか!? フリーライターの僕ですが、決算なんてしてたっけ……?

大手町というのは、企業であれ個人事業主であれ、決算をしていないと正確な税金の計算ができませんからね。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事

大手町個人事業主の方は、決算の代わりとなる確定申告を行っていれば大丈夫です。確定申告はしていますよね?

――あ! しています! では、決算を公開している企業としていない企業があるのは?

大手町簡単に言うと法律なんです。

――法律か~。KADOKAWA Game Linkageは公式サイトに決算情報がないんですけど。赤裸々な台所事情を世に出したくないから?

大手町じつはKADOKAWA Game Linkageの決算も“官報”の公開情報をまとめているサイトなどで閲覧することができますよ。さて、企業が決算を公開する法的根拠なのですが、まず、上場企業は“金融商品取引法”で公開の義務が定められています。

――難しくなってきた。

大手町がんばって。

――はい。

大手町この法律は投資家の保護や経済の円滑化を目的としています。

――簡単に言うと「決算したほうが経済や投資のためによいからしなさい」と。

大手町で、非上場企業が決算を開示しなくてもいいのかというと、そんなことはありません。“会社法”という法律で、たとえ上場していなくても、決算を開示する定めがあります。

  • 上場企業→決算して開示義務
  • 非上場企業の大会社(※)→決算して開示義務(B/S、P/L)
  • 非上場企業の中小企業→決算して開示義務(B/Sのみ)

※大会社……資本金の額が5億円以上または負債の額200億円以上である会社。

大手町また、多額の資金を調達するとか、会社の組織が変わったりするときは、どんな企業でも決算を開示しなければならないと会社法で決められています。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事

大手町ちなみに、「決算とはなんぞや?」ということをもう少し詳しく知りたい方は、Funda 簿記というサイトでも解説記事を掲載していますのでこちらもご覧になってみてください。

決算とは? 意外と意味を知らない簿記・会計の用語をわかりやすく解説(Funda 簿記)

数字がいろいろ書かれた決算書。どんな人がチェックしているの?

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任天堂の2023年3月期 第3四半期決算の決算短信。

――法律で決まっててみんなやってる決算なんですが、誰が見てるんですかね。少なくとも僕は『桃鉄』でしか見ないですよ。

大手町みんな見てますよ。

――みんなって誰!? 少なくとも僕は『桃鉄』でしか(以下略)

大手町まず教科書通りの回答をすれば、投資家・株主や銀行。

――ああ、まあ、そういう人たちは会社の経営状態が気になりますよね。

大手町ほかにはその会社の取引先。さらに従業員。そして、その会社にシューカツしようとしている就活生も、見ているというか、見たほうがいいですよね。

――なぜ?

大手町決算を見れば会社の状態がわかるからです。儲かっているかいないのか、どの分野が伸びているのか。今後どのような経営をするのか。

――黒字/赤字はともかく、そんなことまでわかるのです?

大手町わかります。だから、僕はビジネスに関わる人間は全員決算書を見るべきだと思いますし、決算書を見る人たちは、徐々に増えているのではないかと感じています。

――言いたいことはわかりますケド……難しいだもん。

大手町ビジネスに関わっていなくても、ゲームファンならゲームメーカーの決算書を見ると楽しめると思いますよ。

――本当ですか?

大手町決算書を全部読むのはたいへんなので、注目すべきポイントを絞るといいと思います。

――たとえば?

大手町新しいスマホゲームが出てきたときに、収益構造をチェックするとか。上場企業であれば、収益構造もすべて開示されているので。

――収益構造。

大手町スマホゲームは、プラットフォームの支払い手数料が必ず発生します。決算書を見ればプラットフォームに手数料をいくら払っているかもわかるので、そのうえで儲かる収益構造になっているのかどうか、決算書からそのゲームの特徴……稼ぎかたが見えてくるんですよ。

――なるほど~。

大手町スマホゲームは基本プレイ無料のタイトルが多いですが、なぜ無料で運営できるのかも、決算書を見ると読み取れます。アイテム課金制のほかに、ゲーム内で広告を流したり、データを集めたりして、マネタイズしているタイトルもありますよね。

――ありますね!

大手町あとは、そのゲームをどうやって広げていくのかも決算書から読み取れたりしますね。広告宣伝を使うものもあれば、友だち招待で広げていくものもあるので。これは広告宣伝費のかけかたによって変わってきます。

――(決算書を見ながら)でも、そんな簡単に読み取れます……?

大手町大丈夫ですよ。売上高に占める広告宣伝費の割合をチェックすることによって読み取れます。ちなみに、ファミ通.comのようなメディア系も読み取れますよ。

――え! そうなんですか?

大手町たとえば、レビューや攻略サイトの某社は、基本的に広告宣伝にあまりお金を使わないんですね。これはおそらく、ゲームの攻略に力を入れているからだと思います。攻略記事を読みに来る人は、広告や宣伝を見て来るのではなくて、検索して入って来るからでしょうね。

――確かに。

大手町ですよね。このように、ゲームやメディアによって広告と相性がいい、悪いというのは絶対にありますから。

――説明されてみるとわかりますけど、実際に会計の素人がいきなりそこまで読み取るのは難しいのでは?

大手町そうですね。ですから、ファミ通.comを読んでいるようなゲームファンの方には、まずはゲームメーカーの決算資料を見てもらい、それを入り口にして慣れてみるといいと思います。

――ほお……確かにゲーム関連企業なら興味を持って読めるし、とくにセガの決算資料はめちゃくちゃ充実しているしデザインも凝ってて、ふつうに読めちゃいますね!

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事
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セガサミーグループ2023年3月期決算プレゼンテーションより抜粋。
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――中でも、売上高(すべての製品・サービスの売り上げた総計)や、営業利益(売上からコストを抜いた額)に注目すると、他人のフトコロ事情が見えちゃうみたいで、興味が引かれますね。

大手町好きなゲーム会社の経営状況や経営方針を知ることで、ビジネスパーソンとして必須の会計センスや資料の見かたが自然に身につくとしたら、どうですか?

――めっちゃいいっすね。なんていうかお得。『桃鉄』を遊んでいるだけで地理の知識が身につくみたいな感じですよね。

大手町(すげえたとえに『桃鉄』使ってくるな)

あらゆる情報がまとめられた“有価証券報告書”は企業の“解体真書”だった!

――“決算書”ってひと言に言いますけど、実際にIRページを見てみようと思うと……

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ソニー公式サイト 決算短信・業績説明会資料ページ(https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/library/presen/er/archive.html)
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ソニーグループ2022年度決算短信。そこにあるのは表。そして数字。文系の筆者は一定以上の数字を見るとアタマが痛くなってくるのである。ううう。アタマが痛いよ兄さん

――なんか決算短信とか決算発表資料とか、いろいろ種類があるじゃないですか。

大手町はい。

――それぞれ何がまとまっているのかよくわからないし、数字が多くて何を優先して見ればいいかわかりません……。

大手町その企業のビジネスモデルを理解していないと、いきなり財務3表(※)や決算短信で数字を見ても、何が書かれているのかよくわからないと思います。

※財務3表……貸借対照表(BS、バランスシート)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CF)のこと。PLとかBsとか言われても筆者には野球のことしか思い浮かばないのである。

――うん。では、何を見ればいいんですか!?

大手町落ち着いてください(苦笑)。初めて決算書を見るときは、その会社が何をやって収益を得ているのか? ビジネス全体からチェックすべきです。じつは、ちょっと高度かもしれませんが、企業を知るためにおすすめのものがあるんですよ。

――えっ、知りたい知りたい!

大手町それは“有価証券報告書”です。

――ゆうかしょうけんほうこくしょ。

大手町(なにも平仮名にならなくても……)。

 有価証券報告書には事業の内容が書かれていますし、情報が網羅されているので、この資料から目を通すのがわかりやすいのではないでしょうか。

――有価証券報告書も企業のIRページに載っているんですか?

大手町基本的に掲載されていますよ。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事
任天堂公式サイト 有価証券報告書ページ
任天堂公式サイト 有価証券報告書ページ

――ほ、ほんまや……。

大手町(急に関西弁にならなくても……)。

 もしも公式サイトに見当たらなくても、金融庁の“EDINET”というサイトには上場企業の資料の有価証券報告書は必ずあります。

――試しにKONAMIの第50期(2021/04/01-2022/03/31)の有価証券報告書を開いてみました。いきなり数字が羅列されていて、頭が痛くなりそうですが……。

大手町重要なポイントは5ページ目の事業の内容ですね。ここからは具体例を説明するために、ちょっと難しくなるかもしれませんが、がんばって付いてきてください。ギアを上げていくぞッ!

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コナミホールディングスの第50期(2021/04/01-2022/03/31)の有価証券報告書。

大手町このページを見れば、コナミホールディングスがどんな事業をやっているのかがわかります。事業の種類という項目に

  1. デジタルエンタテインメント事業
  2. アミューズメント事業
  3. ゲーミング&システム事業
  4. スポーツ事業

 とありますよね。

――4つの事業を展開しているようですね。

大手町さらに、各事業の系統図を読み解くことができます。デジタルエンタテインメント事業とアミューズメント事業は国内と海外で展開していますが、ゲーミング&システム事業は海外、スポーツ事業は国内のみで展開していることがわかりますよね。

――はい。

大手町つぎに、9ページ目の従業員の状況をチェックしてみましょう。

――9ページ、9ページ……。

大手町このページを見れば、どの事業にどれくらいの従業員がいて、何に力を入れているのか読み解けます。さらに、()内の従業員は非正規雇用の従業員なので、スポーツ事業は正規雇用ではない従業員が大半を占めていることがわかりますよね。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事

大手町このように有価証券報告書を読み進めていくと、経営方針や経営環境および対処すべき課題、事業などのリスクなどもまとめられてます。

――本当だ……数字だけじゃなくて、文章でもめっちゃ書いてある……。

大手町というように、有価証券報告書にはその企業がどんな会社なのか、情報がもれなく記載されています。有価証券報告書を読めば8~9割の情報が集まるので、実際に仕事でやっている僕も、企業分析を行う際は必ず有価証券報告書に目を通しますね。

――数字をいったん飛ばしちゃえば、僕でも読める部分がありそうです。

大手町まずは有価証券報告書でその企業の情報を把握したうえで、興味のある内容からチェックするといいですよ。

 ゲームプレイヤーの目線で言うと、売り上げが伸びているのかどうかと、アクティブユーザーの推移は興味のある方は多いと思います。売り上げが減ったり、アクティブユーザーが少なくなったりしてしまうと、最悪の場合、サービスが終了してしまう可能性もありますから。

――確かに!

大手町さらに言うと、その企業が広告宣伝にお金を回せる余裕があるかどうかも見るべきポイントです。

――その理由は?

大手町たとえゲームの売り上げが不調であっても、ほかでお金を稼げるような業態になっていれば、好調な事業で稼いだお金をゲームの広告宣伝に回せます。

 そうすれば、広告宣伝を仕掛けてユーザーを増やすパワープレイもできるので。

――広告宣伝費は企業の余力を示す項目でもあるのですね。そういった情報も有価証券報告書を見ればわかりますか?

大手町もちろん載っています。15ページから始まる“経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析”を見れば一目瞭然です。

――15ページ……。

大手町キャッシュ・フローはお金が動いた額を表していて、“営業活動によるキャッシュ・フロー”は実際に稼いだ額になります。16ページのキャッシュ・フローの情報を見ると、KONAMIは順調に増えているので、営業活動は好調と判断できますね。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事

――うっ! かなり高度になってきましたね。頭痛が……。

大手町がんばって。

 実際、数字の一覧からここまで具体的に読み取ることができるようになれば、決算チェッカーとして中級者と言ってもいいのではないでしょうか。

 ちなみに、キャッシュ・フローに関しては“funda navi”というサイトにわかりやすくまとめているので、興味のある方はチェックしてください。

キャッシュ・フロー計算書とは?読み方を企業分析のプロがわかりやすく解説(funda navi)

――あとで見ておきます。

大手町慣れてきたところで、読み飛ばした最初のページに戻ってみましょう。“企業概況”のページには、主要な経営指標などの推移が数年間にわたってまとまっています。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事

大手町注目すべきは、下のほうにある“営業活動によるキャッシュ・フロー”と“投資活動によるキャッシュ・フロー”です。前者が500億円、後者が200億円で推移しているのに対して、第48期(2020年3月度)は営業活動を上回る投資活動を行っていて、その額は600億円以上になります。

――ふむふむ。

大手町この情報から、第48期はKONAMIが勝負をかけた年であることがわかります。さらに、その後の営業活動によるキャッシュ・フローが約700億円、960億円と非常に好調な様子を見ると、投資が成功しているのが読み取れますよね。

――なるほど。

大手町また、“何に投資したか”も重要なポイントです。たとえば上場企業への株の投資であれば、自社に投資しているわけではないので、仮に利益が出ても成長に直結するとは言い難いですが、それが事業投資や設備投資であれば、将来の売り上げにつながっていく可能性もあると考えられます。

――第48期の決算書を読めば、何に投資したのかもわかりそうです。

大手町ちなみに、ふたつの下の財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスなのは、おそらく返済や株主への還元に充てているからだと思います。ただ、2021年の第49期は約220億円のプラスに転じていますよね。

――はい。

大手町これはコロナ禍を見据えた資金調達を行ったのと、前の年に3倍近く投資しているので、いったんここで貯め直したのではないでしょうか。このように、有価証券報告書、そしてキャッシュ・フローをチェックすれば、企業の営業活動や投資活動が順調かどうかということも読み取れるというわけです。

――そこまでわかるのですか。ははあ……有価証券報告書はまるで企業の攻略本、しかもこの詳細さは“解体真書”レベルですね!(※)

※解体真書……1990~2010年代にアスキー(当時)やらアスペクト(当時)やらKADOKAWAなどから発売されていた攻略本シリーズの名称。

大手町企業の攻略本ですか(笑)。そうですね、企業のあらゆる情報が載っているので、“解体真書”と言っても過言ではないと思います。

“決算”って何だ? →答え:会社を読み解く攻略本。もはやこれは“解体新書”。知ってるようで知らない“決算”についてゲームメーカーで学ぶ記事
決算書とは攻略本である

――おかげで、どのように決算書を見ていけばいいのかわかりました。

大手町お役に立ててよかったです。

せっかくなので『桃太郎電鉄』の決算で気になる疑問をぶつけてみた

――これは素朴な疑問なんですが、『桃太郎電鉄』の決算は年に1回じゃないですか。

大手町3月に行われますね。

――でも現実では、3月末の年度決算のほかに“四半期決算”も行われていますよね? この違いというのは……。

大手町まあゲームですからね。

――おまいさん、それを言っちゃあおしめえよ。

大手町(急に江戸弁にならなくても……)。

 現実の企業と『桃太郎電鉄』の大きな違いは、投資家がいるかどうかでしょうね。これによって、決算報告を行う回数が異なります。

――詳しく教えてください。

大手町四半期決算は投資家に向けて最新の情報をタイムリーに伝えることが重要な役割になります。企業の状態の変化が激しくなったこともあり、1年に1回の年度決算では遅いということで、1年に4回、四半期に1回のペースで情報開示が行われるようになりました。

――なるほど。

大手町『桃太郎電鉄』には投資家がいないので、年度決算だけでも大丈夫というわけです。

――スッキリしました! ところで、大手町のランダムウォーカーさんは、「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」ということを目標に掲げていますよね。最後にその目的と、この考えが実現するとどのような利点があるのか教えてください。

大手町財務諸表が読めるようになる利点はいくつかあるのですが、いちばんに挙げているのは、正確な一次情報を得られることです。

――ふむ。

大手町いまの時代はさまざまな情報を入手できますが、その情報のほとんどは二次情報で、情報が正しいのかどうかがわかりません。

 本来は自分で確認する必要がありますが、ちゃんとした情報を把握できるという意味でも、財務諸表に何の情報が載っているのか、理解できるようになるのは大事なことだと思います。

――二次情報ならまだしも、SNSでは三次情報や四次情報がバンバン流れてきますからね。

大手町また、決算書を読むのは目的ではなく“手段”だと思います。僕は決算書を読むのがおもしろいのですが、その理由は自分がビジネスをやっているからなんですね。

 ビジネスをやっていると「この企業はどうやって儲けているんだろう」、「この儲けの仕組みは自分の事業にも取り入れられそうだな」というふうに、決算書からアイデアをもらえるんですよ。

――なんかカッコいい!

大手町投資家のように、決算書からこの企業は今後伸びるのかどうか、読み解くのもおもしろいと思います。ビジネスに興味があるのであれば、決算書を読めるようになると楽しいですよ。

 ちなみに、ゲーム業界の会計クイズも解説しているので、この記事を見て決算書に興味を持った方は、ぜひチェックしてください!

業種別の決算書の読み方!-ゲーム業界の経営戦略を読み解く-(funda navi)
大手町のランダムウォーカー Twitterアカウント

まとめ:ゲームメーカーの決算書をチェックしてみよう!

 というわけでお届けしてきた“決算”の話。

 いや~、難しい! でも、おもしろかった!

 本インタビューを通して、決算書のチェックすべき項目と、そこから読み取れる情報は理解できたはず。

 たとえば、冒頭に紹介した任天堂の決算資料では、2022年度(2022年4月~2023年3月)は売上高約1.6兆円、純利益は4300億円超だったことや、Nintendo Switch本体は有機ELモデルが922万台を売り通常本体(614万台)よりも多く売れていたりとさまざまなことが書かれている。

 おもなパッケージタイトルとして『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』が世界累計2210万本、『スプラトゥーン3』が同1067万本、『Nintendo Switch Sports』が同960万本の売上を達成したことなどもわかる。

 さらに質疑応答では、気になる次世代ハードの話題も出たり……。

 こういった情報はすべてメーカーの公式情報として公開されている。このように、好きなゲームメーカーの決算資料を読み解けば、その企業のことがより深く理解できるのだ。

 もしも興味を持ったなら、自分の好きなゲームメーカーの決算資料を見てみると、いままで知らなかったことが見えてくるかも?

 何しろ決算書は会社の解体真書なのだから!