ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウィークのおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのありみちがおすすめするタイトルは、少し怖いアドベンチャー『マインドハック』(MINDHACK)です。
【こういう人におすすめ】
- アドベンチャーゲームが好き
- ディストピアな世界観に惹かれる
- 心理学に興味がある
ありみちのおすすめゲーム
『マインドハック』(MINDHACK)
- プラットフォーム:PC
- メーカー:VODKAdemo?、room6、yokaze
- 発売日:2023年4月6日発売
- 価格:1500円[税込]
- ジャンル:アドベンチャー
- 公式サイト
MINDHACK 紹介トレーラーその3
人間のネガティブな思考プロセスを淡々と説明
2023年4月6日から、PC(Steam)にてアーリーアクセス版の配信が開始された『マインドハック』。
“悪人の頭の中をお花畑に変えるアドベンチャー”というキャッチコピーに惹かれ、筆者は現在配信されている第3章までプレイしました。
他人に危害を加えるような犯罪者の頭の中には“バグ”が存在。そしてそのバグを書き換えて“正常”な頭にするのが、マインドハッカーの仕事です。プレイヤーはとある施設の天才マインドハッカーとなり、日々の業務をこなしていきます。
前に体験版をプレイしたときは「マインドハックは洗脳と大差ないから、正しいのか正しくないのか、倫理的な問題を突きつけてくるゲームなのかな」と感じたのですが、第3章までプレイして少し印象が変わりました。このゲーム、正しいとか正しくないとか、そういったレベルの話ではないです。人間の思考はどのようにして生まれ、派生していくのかを淡々と説明されるゲームなのです。プレイしていて「え、怖」というつぶやきが自然と漏れてしまいました。
これから第1章“ユーニッド編”を例に、『マインドハック』の深淵をのぞいていきます。そこには『ちいかわ』を見たときの感情が浮かび上がってきました。
とある天才マインドハッカーの業務日誌
私は天才マインドハッカーです。この施設で、犯罪者を相手にマインドハックしてバグを除去するのが仕事。私は天才なので、いままでに4977回もの接続(セッション)を成功させてきました。
昨日の接続でちょっとしたアクシデントがあり、死人も出ましたけど。
施設の人工知能であるFORMAT(フォーマット)も「犠牲を最小限に抑え、人類を救った」と言っていることですし、気にしないことにしましょう。私は天才なので、失敗はしないのです。
現代科学の力で、すべての生物の意識がソースコードとして記述可能となりました。しかし、そのソースコードの中に、あってはならないバグが生まれてしまう場合があります。殺意や破壊の衝動といった、人格のエラーです。そのバグを正しく書き換えるのが、私の仕事です。
なるほど、今日のハック対象はこのトゲトゲ頭くんですか。悪名高いギャング団のリーダーのようですが、天才である私にかかればこの程度のバグは、すぐに修正できます。
こうしてソースコードをタイピングして相手の潜在意識の中へ侵入し、バグの要因や改正方向を検討します。
どうやら彼は施設で虐待されながら育ったようです。本当はかわいいものが好きなのに舐められたくなくて刺々しく振る舞い、孤独を嫌って自らが喧噪の中心になろうという性格だと分析しました。
FORMATの指示通り、ソースコードを入力してバグを除去します。
バグは無害化できたので、つぎは二度とバグが発生しないように人格の修正を行います。アフターケアまで完璧にこなしてこその天才です。
これですべてのプロセスが完了しました。結果は……。
成功ですね。まぁ天才なので当たり前なのですが。
経過観察も良好の様子。仕事は終わりましたし、好きな花でも眺めてリラックスしましょう。
そういえば、トゲトゲ頭くんは会話の中で「かわいいものをぶっ潰してメチャクチャにしてやりたい」と言っていました。
あれはどうなったのでしょうか。気になるような、ならないような。
さて、明日の接続はどんなものになるのでしょうか。
追記
トゲトゲ頭くんの経過観察。新米隊員とも打ち解けているようです。
異様な光景を実在するものとして淡々と見せつけてくる怖さ
“とある天才マインドハッカーの業務日誌”はいかがだったでしょうか。本編をプレイしたうえで、こんな感じの人格かなと肉付けして書いてみました。「そこで黙るな怖いから」という場面で沈黙を貫くし、「そこで笑うな怖いから」というところでニコニコしてそうなんですよね、この主人公。
冒頭でも述べましたが、『マインドハック』の怖いところは人間の心をソースコードとして捉え、現象として理路整然と記述してくるところです。性格や心の動きに一定のパターンがあるのは事実とはいえ、それを数字として表出され、場合によってバグとして処理されてしまうのは、少し苦しい気分になります。
本作に登場するキャラクターたちは、心理学、とりわけ犯罪心理学に則ったデザインがされているように感じました。
たとえばトゲトゲ頭のユーニッドは、“キュートアグレッション”という衝動を抱えています。キュートアグレッションは、赤ちゃんなどの幼くてかわいいものを潰したい、噛みつきたい、という攻撃的な衝動のことです。
「そんな危険な思想持ち合わせてないよ」と思う方も大勢いると思いますが、『ちいかわ』が大ヒットしているのを見るに、キュートアグレッションは多くの人の意識に潜在しているのだなと感じます。ちいかわが不憫な目にあって泣く姿が愛おしいそこのあなた、何もおかしい感情ではありません。
第1章の最後で、主人公はユーニッドのキュートアグレッションに影響されたのか、好きで大切に育てている花を引きちぎってしまいます。その後のストーリーでも、まるでバグが心を蝕んでいくように、主人公は攻撃的な一面を見せていきます。
これは、主人公がカウンセラーではなく、ハッカーだから起こってしまった現象かなと考えました。
カウンセラーには“共感的理解”というものが求められます。カウンセリング対象の心理を理解し、共感する姿勢を見せることです。あくまで共感するだけで、同調してはいけません。主人公の場合、ユーニッドなどのマインドハック対象者の心にアクセスしたことで同調し、バグをもらってしまったのではないでしょうか。
だんだんと壊れていく主人公。自覚がないのも怖いですが、人工知能FORMATが主人公の行いを全肯定するのも怖い。このゲームの黒幕はFORMATなのでは……。
『マインドハック』は現在アーリーアクセス版の第3章まで配信されています。
心理学が好きな筆者は、「これってもしかしてすごく怖いゲームなのでは」と震えながらも楽しくプレイできました。ミステリー小説で“どんなにトリックが素晴らしくても犯人の犯行動機が納得いくものでないと手放しで褒められない”派閥のあなたにオススメです。
アーリーアクセス版を購入すれば、その後は無料で更新分をプレイできますので、気になった方はぜひプレイしてみてください。ですが、あまり犯罪者に共感しすぎませんよう、ご注意を。