2023年7月27日に発売予定のNintendo Switch/PS5/PS4向けのソフト『クライマキナ/CRYMACHINA』(以下、『クライマキナ』)。本物の人間になるために戦う機械の少女たちが描かれるアクションRPGだ。企画、プロデュース、シナリオなどをフリューの林風肖氏が務め、イラストレーターのろるあ氏や造形作家のYoshi.氏、『Kanon』のシナリオを手掛けたことで知られる久弥直樹氏など、そうそうたる制作陣による重厚なストーリーと爽快感のあるアクションが送られる。

今回は、そんな本作の美しくもダークな世界で生きるキャラクターたちをデザインしたろるあ氏と、その設定を生み出した林氏に独占インタビューを実施。キャラクターデザインでの苦労とこだわりや、開発時のおもしろエピソードなどをうかがった。さらに、貴重な設定画も合わせて多数掲載しているのでお見逃しなく!
※本記事は週刊ファミ通2023年5月18日増刊号(No.1796/2023年4月27日発売)に掲載した『クライマキナ/CRYMACHINA』続報内のインタビューに加筆・修正を行ったものになります。インタビューは4月上旬に実施しました。
ろるあ氏
SNSを中心に活動するイラストレーター。『クライマキナ』のキャラクターデザインを務める。文中ではろるあ。
林風肖氏(はやしふゆき)
フリューのゲームクリエイター。『クライマキナ』のプロデューサーだけでなく、企画、シナリオも担当。文中では林。
ろるあ氏だからこそ表現できる“清濁が混在する世界観”
――まず初めに林さんからろるあさんにキャラクターデザインをお願いしたきっかけを教えてください。
林もともと僕がろるあさんのファンで、2019年の冬コミの際に「ファンです。ろるあさんの絵と相性がいい企画ができたら、ぜひお仕事のご相談させてください」というやり取りをしたのが最初のきっかけです。
――それがファーストコンタクトだったのですね。
林はい。その後『クライマキナ』の世界観が定まり、この世界観であればろるあさんの作風がマッチすると思い、声を掛けさせていただきました。
――『クライマキナ』のどういったところがろるあさんの絵と合っていると感じたのでしょうか?
林僕はろるあさんの絵に対して“綺麗な花には棘がある”のような印象を抱いています。美しさ、綺麗さ、かわいらしさだけではなく、凄みやイタズラっぽさも兼ね備えている。その絵の雰囲気が、“生きるということは綺麗事だけではない”という本作の清濁を併せ持つ世界観とマッチしていると考えました。また、ろるあさんが描いた過去のイラストを拝見した際、女の子をモチーフにしたハードSFのイラストがあり、こういった絵も描かれるなら本作のような世界観も嫌いではないだろうと思いお願いしました。
――林さんからお話を受けてろるあさんはどのように感じましたか?
ろるあフリーランスになる前はゲーム会社で働いていたこともあり、コンシューマーゲームの仕事にも携わりたいとずっと思っていました。そのタイミングで林さんからそういったお話があったので、「ぜひお願いします!」と快諾しました。林さんが手掛けた『CRYSTAR -クライスタ-』を知っていたので、そういったゲームを作れるのかとワクワクしたことを覚えています。
――世界観を共有された際はどういった印象を持たれたのでしょう?
ろるあ私の描く絵に通ずる世界観だったので、期待に応えられるかなと思いました。それにプラスして新たなことに挑戦できるかもしれないと思い、お仕事をするのがすごく楽しみになりました。
――林さんがキャラクターのデザインをお願いした際、どういったオーダーを出したのでしょうか?
林キャラクターの外見や内面のイメージ、武器の方向性など、ベースになるもののみをお伝えしました。
――細かいオーダーはされなかったのですね。
ろるあガチガチなオーダーよりも、ある程度余白があった方がデザインしやすいので、かなりやりやすかったです。
――ではNGとかもとくになく?
林過激過ぎるので没になった案はありました(笑)。
ろるあそうですね(笑)。最初に描いたキャラクターデザインが千菊ミコトだったのですが、初期段階では世に出せないような要素が強くて「さすがこれは……」とNGをくらってしまいました。



――どんなデザインだったのか気になります(笑)。ほかにも没になったデザインはありますか?
林没にはなっていないのですが、トリニティに属する4キャラクターのデザインは初めて見たときに衝撃を受けました。予想もしていなかった犬耳のキャラクターが勢揃いで描かれていたのです。
ろるあ犬耳はオーダーにまったくない要素でした。本作のキャラクターは基本的にエルフ耳なのですが、「エルフ耳がいるなら獣耳もあっていいのでは?」と思い付けてみました。




――そういった形でキャラクターの世界が広がることもあるのですね。キャラクターデザインはどういう手順で行ったのでしょう?
ろるあオーダーを受けたときにキーワードをもらい、そのキーワードを自分の中で解釈しながら絵に起こしていきました。
――キーワードには優先順位のようなものがあるのでしょうか?
ろるあ優先順位というよりも、このキーワードの要素は強めに出したいといった要望があり、さまざまな資料を漁りつつ、イメージを具現化していきました。オーダー書には最低限の設定とキーワードしか書かれていなかったので、知りたいことがあったらその都度確認するという感じでした。
――オーダー書には外見や内面のイメージなども書かれていますよね。ろるあさんとしてはまずどこに注目したのでしょうか?
ろるあまずは外見ですね。外見のイメージをベースに内面のイメージを付け足して形にしていきました。
――そうだったのですね! キャラクターデザインでこだわった点を教えてください。
ろるあ完全な機械ではなく、機械に肉感を与えて生物らしさを表現しつつ、そこに洋服という人間らしさを取り入れるデザインにしました。そういった機械や人間の部分をミックスしていい塩梅に見せることにこだわりました。

――人間味を感じられるようにしたと。本作には多数のキャラクターが登場しますが、キャラクターの描き分けで気をつけた点も教えてください。
ろるあどの子も同じような感覚でデザインしていたので、意識して描き分けることはなかったです。
林描き分けとは異なりますが、神機やE.V.Eは頭上に二重の輪がありますね。例を挙げるのであれば、先ほどのトリニティのキャラクターたちや第八神機のエノアでしょうか。
ろるあやり取りをする中で、天使のような輪を二重に付けるのはどうですかと私から提案しました。


――全然気付きませんでした。
林キャラクターの目にある虹彩の模様もおもしろいですよね。
ろるあ第七神機であるゾーエーや、ゾーエーを信奉する兵隊であるトリニティのキャラクターたちには十字の模様を付け足しました。



――なぜ十字を?
林派閥の思想を象徴するロゴがあって、そのロゴを意識したシンプルな記号を象徴として各キャラクターに入れてもらっているのです。
ろるあたとえば、ノエインは首元のチョーカーや頭の装飾、アントロポスは洋服の胸部分に所属する派閥ロゴの記号が入っています。


――なんと! キャラクターを見る楽しみが増えました。エネミーであるアントロポスもろるあさんがデザインしたのですね。
林エクレシア、レティア、ロゴス以外の神機は、ろるあさんにデザインしていただいています。あと、ろるあさんにはすべての派閥ロゴもデザインもしていただきました。

――そうだったのですね。
林まず先にろるあさんに派閥ロゴを考えていただいて、記号込みのデザインをしていただいたという感じです。かなりの量のお仕事をお願いしました。
ろるあロゴを完成させた後、キャラクターを13体も担当しましたからね(笑)。
――そんなにも!? 13体の中でとくに思い入れのあるキャラクターを教えてください。
ろるあ最初にデザインしたミコトの思い入れがいちばん強いです。ミコトはとくに顔を描くのが難しかったというのも理由のひとつだと思います。
林その話は初めて聞きました!
ろるあ具体的には言えないのですが、自分の中で顔がしっくり来なくてちょっと苦戦しました。ミコトのつぎに描いたレーベン・ディステルの顔も難しくて……。
林レーベンは主人公ですし、ミコトも主人公気質なキャラクターだからかもしれませんね。



――どちらも作品の軸となるキャラクターですよね。ほかにも難しかったことはありましたか?
ろるあメインキャラクターが持つ武器のデザインはたいへんでした。彼女たちの武器は、可変式でふたつの形態に切り換わるのですが、そのデザインを考える際に、可変武器っぽい見た目にしたくないという強い想いがあって……。
――なぜでしょう?
ろるあ可変ありきで成立するデザインではなく、どちらの形態もひとつの武器として成立するデザインにしたかったのです。しかし、武器がどういう風に動いて変形するのかを考えながらデザインするのが初めてで、かなり苦労しました。
――そこはろるあさんのこだわりでもあったのですね。
ろるあはい。あと、3Dグラフィックを担当する方がその武器デザインを3Dにした際、変形時の動きに無理があってはいけないので、そこを考慮するのもたいへんでした。



――苦心の末に生まれた武器デザインの手応えはいかがでしょうか?
ろるあどの武器もわたし好みの形に仕上がったので、悩んだ甲斐がありました。
林ろるあさんのデザインを見て、すごいと思ったのが、背面から見たデザインや仕掛けです。デザインの情報量や揺れかたの気持ちよさなど、キャラクターの背面を見て操作する本作の特徴を考慮したデザインになっていました。
――ろるあさんとしては、背面からの見えかたはかなり意識したのでしょうか?
ろるあそうですね。アクションパートを中心にプレイヤーの視界に背面が映る時間はかなり長いので、見ていて飽きないデザインにしたいと思っていました。とくにプレイアブルキャラクターは、そこを強く意識してデザインしています。

大幅な修正を経て完成したデザインに込めたメッセージ
――ほかにも制作秘話があったら教えてください!
林本作には私服姿のレーベン、ミコト、紫藤アミが登場しますが、じつは、開発当初は私服ではなく制服だったのです。



――制服があったのですね。
林はい。初期段階では、拠点でのキャラクターたちは制服姿の予定でした。そのため、最初のキャラクターの衣装は制服を描いてもらっていて、そちらもかなりよかったです。恐らく制服のほうが、キャラクター性がわかりやすく、好む方も多いと思いますが、私服のほうがろるあさんのセンスをより自由に出せると感じ、私服を採用しました。
――制服はDLCなどで拝めるのでしょうか?
林DLC衣装の実装は予定していますが、残念ながら制服ではありません。
――なんと……。制服も見てみたかったです。
ろるあ今後のイラストで制服姿のキャラクターたちを描くのもいいかもしれないですね。
林せっかくなら、来年のエイプリルフールにでもキャラクターたちが恋愛する学園アドベンチャーゲームでも作りますか(笑)。9割冗談ですが。
――もし完成したら絶対プレイします!(笑) 制服のデザインはすぐに没になったのでしょうか?
林いえ、細かいところまで描いていただきました。レーベン、ミコト、アミのデザインはかなりすばらしく、完成度は高かったです。

――ゲーム内で見られないのが残念でたまりません! キャラクターデザイン以外にもろるあさんはさまざまなイラストを描かれていると思います。その中でも印象に残っているイラストはありますか?
ろるあ最初に描いたコンセプトイラストですかね。初期段階ではミコトのデザインがいまと若干違う部分もあって印象に残っていますね。
――店舗特典になっているイラストですよね。やはり描くときに苦労されたとか?
ろるあはい。機械が壊れている部分の表現でしょうか。どうやって壊れているのか、足の構造はどうなっているのか、どんなパーツで組まれているのか、そこの整合性を考えながらイメージして描くのに苦労しました。あとパッケージイラストも印象に残っていますね。

――どういったところが印象に残っているのでしょう?
ろるあ色のバリエーションや構図など、かなり悩みました。パッケージイラストはそのタイトルの顔になる部分ですし、店頭に並んだときに引きつけられるものにしないといけないので、かなり考えながらデザインしました。また、パッケージイラストに関しては、わりとギリギリまでデザインの相談をしていました。
林最初のラフでは、レーベンひとりだけでした。そこからキャラクターを増やすなどの修正をしてもらったのですが、その途中で僕が「エノアがもっと前に出ていたほうがこの作品のあるべき姿かもしれない」と思い、いまのエノアを前面に出したデザインにしていただきました。
――主人公はレーベンですよね。なぜエノアを前に?
林最初はタイトル画面、最後はエンディングといった感じで、本作はエノアで始まって、エノアで終わるようにできています。そのため、エノアを前に出すほうが自然かなと。イメージとしてはレーベンがヒーロー、エノアがヒロインだと思います。

――エノアが物語の結末にどう関係するのか気になります! エノアといえば、清濁感のない、明るくて華やかな限定版のイラストも印象的です。なぜこのようなデザインになっているのでしょうか?
ろるあこのイラストは具体的に“青空の下で黄色い花に囲まれたエノアが笑っている”というオーダーを受けたので、そのまま表現しました。
林本作は美しさ、生存、困難、過酷など、清濁を体現した作品です。このイラストはそんな世界で生きる理想や希望が詰まったものにしたくて、ほかのイラストにはないデザインにしていただきました。あとこのイラストは物語につながっている部分もあります。ネタバレにもなってしまうため、ぜひゲームを最後まで遊んでいただければと思います。

――最後に、本作の発売を心待ちにしているユーザーへメッセージをお願いします。
ろるあ初めてコンシューマーゲームのキャラクターデザインを担当したため、拙いところもあるかもしれません。ですが、どの子も想いを込めてデザインしたので、そのキャラクターたちがゲーム内でどういう活躍を見せるのか、ぜひとも楽しんでもらえたらうれしいです。
林ろるあさんの愛情、こだわり、フェティシズムが詰まったキャラクターが活躍する作品です。今回のインタビューでも触れましたが、デザインの細部に設定や世界観が反映されています。遊ぶ前と後、それぞれでろるあさんのイラストやキャラクターデザインを見ていただけると、デザインのよさや世界観をより深く感じられると思います!
林風肖氏とYoshi.氏への独占インタビューも公開中
林風肖氏とエネミーデザインを手掛けたYoshi.氏の対談インタビューも公開中。Yoshi.氏のデザインへのこだわりや、デザイン時に交わしたふたりのやり取りなどをうかがっている。さらに、こちらも貴重な設定画を多数掲載しているのでお見逃しなく!
林風肖氏と平八重諭氏へのスペシャルインタビューも公開中
林風肖氏と開発を担当したアクリアの平八重諭氏へのインタビューも公開中。作品の誕生経緯や林氏が過去に手掛けた『CRYSTAR -クライスタ-』との関係性などをうかがっているので、こちらもチェック!