2023年2月17日に発売された、エレクトロニック・アーツとコーエーテクモゲームスがおくる、新作和風ハンティングアクション『WILD HEARTS』(ワイルドハーツ)。本作は中世の日本をモチーフにした世界を舞台に、武器や“からくり”などを駆使してモンスターである“獣”を倒していく、ハンティングアクションゲームだ。
本記事では2023年4月6日、4月20日におこなわれる無料コンテンツ追加のアップデート情報についてと、ふたりのアートディレクター陣に本作の世界観や獣のデザインについて伺った。
PS5『WILD HEARTS』の購入はこちら(Amazon.co.jp)平田幸太郎氏(ひらたこうたろう)
コーエーテクモゲームス『WILD HEARTS』ディレクター。
枝川拓人氏(えだがわたくと)
コーエーテクモゲームス『WILD HEARTS』ディレクター。
綾野万里奈氏(あやのまりな)
コーエーテクモゲームス『WILD HEARTS』アートディレクター。
大星悠氏
コーエーテクモゲームス『WILD HEARTS』アートディレクター。
最新アップデートについて深掘り。4月20日に追加される“ヤミマトイ”はより強力!?
――発売から約2ヵ月が経過しましたが、まだまだ遊び続けているプレイヤーも少なくないように見えます。反響をどう受けとめているのでしょうか。
平田多くの方にとても楽しんでいただいていて、本当に『WILD HEARTS』を作ってよかったなというのが、正直な気持ちです。
――では4月6日のアップデートについてお聞きしていきます。新たに追加される獣・叢雲(ムラクモ)はどのような存在ですか?
平田動物のモチーフとしては、キツネが題材です。そこに、これまで『WILD HEARTS』で融合させたことのなかった“桜”をミックスした存在です。
――まさに春らしいアップデートですね。
平田もともとキツネを題材にした獣は作りたいと思っていました。和風のハンティングアクションゲームを作るとなったときに、キツネは絶対に入れようと。キツネは、信仰の対象になったりと、日本文化と非常に密接な関係を持っています。
そのため、ゲーム的にも特別な存在として作りたかったのです。そこで、叢雲(ムラクモ)はストーリークリアー後のエンドコンテンツとして、無償のダウンロードコンテンツとして追加することにしました。
――特別な存在だからこそ、本編終了後に戦える獣にしたと。
平田はい。ほかの獣たちとはひと味違ったコンセプトでいきたいという狙いもありました。これまでの獣たちは、突進や体当たりなど、フィジカルを使った攻撃が基本でした。叢雲(ムラクモ)は、これまでの獣に比べると不思議な力を使う獣になっているので、ぜひ戦闘を楽しんでいただければと思います。
――からくりには“独楽(こま)”が追加されました。どういったからくりなのでしょうか?
平田独楽は獣を自動追尾して攻撃し、当たるたびに跳ね返る連結からくりです。跳ね返るたびに独楽が強化されるため、跳ね返る回数を増やせば増やすほど強力になっていきます。独楽と独楽どうしをぶつかりあわせることも可能なので、複数組み合わせるとより強力になります。
――狭い場所ではとくに役立ちそうですね。
平田そうですね、フィールドとのシナジー(相乗効果)もあります。広い場所よりも狭いところのほうが使いやすいと思います。
――追加システムとして、武器と防具と限界突破強化が可能になります。これはクリアー後の要素でしょうか。
枝川はい。おもにクリアー後に登場する獣を倒すことで得られるアイテム“心珠”を使って、武器と防具を強化できます。
――強化はよりカスタマイズ性が上がるものですか? それとも単純にパラメータが上がるものでしょうか?
枝川現段階では後者になります。すでにある武器・防具の作成はいろいろとカスタマイズもできると思いますが、一部の武器・防具に人気が集中している印象を受けています。そこで、もう少しほかの武器・防具も使ってほしいという意図もありアップデートを行いました。限界突破強化をすると装備スペック自体の底上げができるので、差が埋められるようになります。
また、今後のアップデートでよりカスタマイズ性を高めて、さらに武器・防具を強化する楽しみを作っていきたいと考えています。
WILD HEARTS | 公式アップデートトレーラー:死の花
――4月20日にもアップデートが予定されています。獣に“ヤミマトイ”が追加されますね。
平田ヤミマトイはクリアー後に挑戦できる“澱み深き獣”になります。やり込み要素のチャレンジ用獣なので、かなり強いです。
――さらに追加される“連戦”はどんなシステムですか?
枝川連戦は「新しい切り口の遊びを入れたい」という意図で追加したものです。
複数の獣を連続して倒すクエストというのはこれまでもあったかと思いますが、それがよりチャレンジ要素の強いクエストになったものです。体力回復に使う“癒し水”がフィールドから入手できなくなり、限られた回復手段をからくりで補いながら戦う、難度の高いクエストです。
達成すると新たに追加されたエモートやチャットスタンプが入手できます。
――“護符”も追加されるそうですね。
枝川はい。護符追加もそうなのですが、4月6日のアップデートの段階で、護符の上限コストやアップするパラメータにも調整が入っています。もっとやり込んでより強くカスタマイズできるようになります。
“からくり”や自然と融合した“獣”の制作の裏側に迫る
――ここからはアート面についてお聞かせください。まずおふたりのアートディレクターは、どのような役割の違いがあるのでしょうか?
綾野私は企画の立ち上げ時から、『WILD HEARTS』に関する絵作りすべてのアートディレクションを行いました。
大星私は途中から参加しまして、ビジュアルに関する技術面や、3DCGの実装に関することなども深く関わりました。我々ふたりの担当範囲に明確な棲み分けはなく、高い品質を実現するために複数の視点でチェックするようにしていました。
綾野大星が入ったことで、とくにからくりの表現や風景のライティングなど3D面の挑戦的な部分を多く実現することができました。
――架空の和の風景を描くという作業は、スタッフ間のイメージ共有が難しかったのでは?
綾野もちろん序盤はかなり試行錯誤がありましたが、我々4人だけでなく、ほかのスタッフたちも含めて“獣のいる架空日本”の理想のビジュアルが見えてきてからは、「これはこうだよね!」と言ったら全員に通じるほどに考えがまとまっていました。意見交換もしやすく、とても作りやすい開発チームだったと思います。
――獣や世界観というのは、どのようなコンセプトで作っていったのでしょうか。
綾野本作ならではの“獣”を産み出すにあたり、動物と自然を融合させるデザインにはとてもこだわりを持って挑みました。
架空の存在ではあるのですがファンタジックになりすぎないように、「この世界で生きるための進化・退化はどういうものか?」と考え、本当にそういう生物がいるかのような“生っぽさ”を強く意識していました。その甲斐あって「もしかしたら本当にいるのかも!」と想像できるような魅力的な獣たちにできたと思っています。
そのほか“明るい風景”というテーマを目指しました。
テーマとしてはダークな雰囲気の作品にもできたと思いますが、やはり和のテイストをしっかり押し出すには、しっかりと明るい四季折々の風景を世界中の皆さんに楽しんでほしくて……。我々としては挑戦的な要素でしたが、なんとか実現できたのかなと思っています。
――世界観は和の空間を作るよりも、獣がベースになっていたのでしょうか?
綾野そうですね。まずは獣を作って、そこから周囲の風景を作りました。
平田裏話なのですが、じつは最初、獣を狩るゲームではありませんでした。
別の対象を狩るゲームだったのですが、それがどうしてもゲーム性にハマらなくて。試行錯誤をした結果、動物と自然を組み合わせた獣という存在が生まれました。そこからゲームシステムなども広がっていきました。
――からくりのデザインも特徴的かつ、見ていておもしろいところです。ガチャガチャと組みあがる要素などはどう実現したのでしょうか。
大星からくりの成り立ちからお話しますと、私が入ったときにはすでに獣を狩るハンティングアクションであること、そしてクラフト要素があることは決まっていました。ただ、クラフトの部分がとてもシンプルで、たとえば木箱、ロープなど、いわゆるクラフトゲームで鉄板の要素で構成されており、これはこれで楽しいのですが「独自の魅力を持ったものにはなっていないな」という印象でした。
クラフトに見た目のおもしろさやキャッチーさを出したいと思い、チームでブレストして出てきたのがガチャガチャと変形して組み上がるからくりのアイデアでした。プロトタイプは力業でなんとか作り上げて、とてもユニークなものに仕上がったのですが、それをすべてのからくりに適応することは手数的に困難で量産することは難しかったです。
――その問題はどのように解決したのでしょう。
大星アニメーションさせる部分を切り分けて組み合わせることで量産できる仕組みを考えました。表面の木がガチャガチャと動くパターンを数種類用意して、変形する部分を隠しながら出すことで、まるでからくりがガチャガチャと変形しているかのような魅せかたができました。
当初は1個1個専用のからくり変形の動きをしていたのですが、それだとどうしても手が回らなくなることが見えていて……結果的には見た目のユニークさを保ちつつ量産することができたので、そのまま力業で進まなくてよかったなと思っています。
――それで、からくりのバリエーションが減ってしまうのは本末転倒ですものね。
綾野そうなんです(苦笑)。おかげでたくさんのからくりをお届けできました。
――装備の意匠は、獣のパーツから膨らませてデザインしていったのかなと思いますが、“活人流改造”など各装備3パターンのデザインがある場合がありますよね。あのデザインの違いはどのようにして生まれたのでしょうか?
枝川同じ素材の装備シリーズの中でバリエーション違いがあるのは、本作ならではの要素になるだろうと考えていました。そこからデフォルトだけでなく、さらに2パターンの装備ができるようにしました。
綾野じつは別の装備をデザインするよりも大変でした。同じ装備でありながら、別パターンの装備を作るというのが、デザイナーもモデラーも実装メンバーも含めて苦労したところでして……。ただ、本作ならではの遊びとして、装備の組み合わせの選択の幅が広がったので、導入してよかったです。
あと、シックな和の衣装を装備したい人、ド派手な傾奇者みたいになりたい人など、ファッションの好みもあると思います。そこの幅をかなり広げられたと思うので、すごくいい試みだったと思います。
――なるほど。僕はクロマトイ装備の黒い羽の改造が好きでしたが、あれがデフォルトだとちょっと違いますよね。
綾野そうなんです。あれが最初に来てしまうとクセの強い装備になってしまいますが、改造で付けられるというところがポイントで、黒い鎧のままでいい人はそのまま使えばいいと思いますし、「黒い羽を生やしたい!」という人が選べる、という選択の余地があるのがよかったのかなと思います。
――ちなみに以前、カワイイ獣たちはデザインしている最中に、倒すのがかわいそうになって、撫でられるようになったと平田さんが言っていましたが……。
綾野“動物を狩る”という行為はセンシティブな要素でもあります。おもな狩りの対象としては大型獣でしたので、そこでしっかり恐怖を感じるような、人の命を脅かす存在としてデザインしました。
それ以下の獣はより動物らしく、本作の世界を彩るための存在としてデザインしています。その明確な線引きがあり、この世界にも「倒さなくてもいい獣だって存在するだろう」という意識はチーム全体で自然となじんでいきました。どんな獣たちにも命があること、命の尊さを大切にしてデザインしていきました。