エレクトロニック・アーツは、プレイステーション5/Xbox Series X|S/PC向けFPS『アヴェウムの騎士団』を2023年7月20日に発売する。ボイスとテキストの双方で日本語にも対応予定。
本作は銃の代わりに魔法を使ったシングルプレイのFPS。魔法騎士となることを目指す主人公ジャックの冒険と成長を描く。今回サンフランシスコベイエリアにある開発元Ascendant Studiosで取材してプレイもしてきたので、その内容をお伝えしよう。
「CoDが魔法ファンタジーだったら?」というアイデアから生まれた変則FPS
開発のAscendant Studiosを設立したのは、かつてVisceral GamesでSFサバイバルホラー『Dead Space』初代作のクリエイティブディレクターを務め、後にSledgehammer Gamesで『コール オブ デューティ』シリーズの開発に関わったブレット・ロビンス氏。
同氏が『コール オブ デューティ』シリーズの開発中に「もしこれが魔法ファンタジーの世界で、銃じゃなくて魔法を撃ち、戦闘ヘリの代わりにドラゴンが飛んでいたら?」と妄想したビジョンがスタジオ設立と本作開発のきっかけになったのだという。
こうして生まれたのが、魔法技術が強大な力を持ち、王国同士が何世紀も続く“エヴァーウォー”(永久戦争)を戦うアヴェウムの世界。ゲームでは強国“ラシャーン”が均衡を崩してもうひとつの大国“ルシウム”に迫る中、精鋭魔法騎士団“イモータルズ”と若き俊英ジャックが未来への希望をつなぐために奔走することになる。
“とんがり帽子のヒゲの魔法使いではなく、魔法を使う特殊部隊員のような存在”
というわけで本作は魔法使いのFPSなのだが、そのテイストはファンタジー作品に出てくるひ弱な魔法使いとは異なる。彼らは前線で敵兵やドラゴンとバチバチに戦うバトルメイジなのだ。
アートディレクターのデイブ・ボーガン氏は、本作のテイストについて以下のように解説してくれた。
「これはバトルメイジという戦場の塹壕で戦う魔法使いについてのゲームであって、彼らはとんがり帽子のヒゲの長い魔法使いというより、特殊部隊の隊員のようなものなのです。脚本もとても現代的で、テンポも良くてエネルギーに満ちています。魔法使いが古語で話すようなものではありません」
後衛なんかないぜ! 前線で魔法スキルをバリバリ駆使して戦うスピーディーなバトル
実際プレイしてみても、後衛でダラダラ詠唱する魔法使いではなく、敵に囲まれながらも魔法でガンガン敵を倒していくというスタイル。魔法をぶっ放し、脳筋系の敵のダッシュ攻撃を瞬間移動でかわして強魔法を叩き込む……という感じ。
ボス戦ではドラゴンや巨人と戦うシーンなんかもあり、意識的にアグレッシブに動き回って戦うようにすると俺ツエー感が出て楽しくなってくる。
ロビンス氏によると、障害物に身を隠しながら撃ち合いをしてじっくり進むカバーシューターのスタイルではなく、敵に囲まれても機敏に動いて立ち回っていくアリーナシューターのスタイルを意識して開発を進めていたとか。
戦闘システムとアクションRPG的な強化システム
では戦闘とそれに関連するシステムをもう少し深く掘り下げていこう。基本的には『Destiny』や『ボーダーランズ』などの銃を使ったアクションRPGに近く、装備やスキルツリーによる強化システムもある(ただし報酬アイテムのランダムな性能の違いによるボスマラソンなどはないような設計を目指しているらしい)。
- メイン攻撃
- 青魔法 中長距離で狙うライフル系
- 赤魔法 ショートレンジで使うショットガン系
- 緑魔法 連射が可能な短中距離向きのアサルトライフル/サブマシンガン系
- フューリー マナを消費して使う強力な魔法。
- 前方に衝撃波を放って地面を隆起させてカチ上げる“シャッター”などがある
- 使用回数の回復には消費アイテムの“マナクリスタル”を使う
- サブアクション
- ブリンク 短距離を瞬間移動して敵の攻撃を避ける
- シールド 前方にシールドを展開して攻撃を受け止める。展開中は移動が遅くなる
- ラッシュ 遠くの敵を目の前に引き寄せたり、マップ中の特定のポイントに対してグラップリングフックのように使える
- リムペット スロー効果を持つバブルを放つ
- 変化魔法 マップの特定の仕掛けを動かすことができる(※謎解きやルート開拓に使う)
- ダブルジャンプ
メイン攻撃となるのは右手で放つ青・赤・緑の3系統の魔法だ。MPの概念はなく、代わりにリロードシステムなどがあるのでミリタリーFPSの銃の扱いに近い。
また各色はそれぞれ単発ライフル系・ショットガン系・アサルトライフル系といった傾向はあるものの、それぞれのスロットに装備する紋章によって効果が変化する。初期はリロードまで3発1セットのショットガン系能力だったものが単発の爆発系能力になるなど、効果自体は各色ごとに3種類のバリエーションがあるらしい。
そして“フューリー”と呼ばれる強力な魔法群もある。こちらは使用回数が決まっている形式で、回数の回復には戦闘や探索で手に入るマナクリスタルを使用。通常のショットよりもフューリーを多めに回していくのを推進するような装備もあるそうなので、他にどんなビルドが可能なのか気になるところ。
そのほか、緊急回避に使える“ブリンク”、前方に魔法盾を展開するシールド、敵を引き寄せ可能な“ラッシュ”、敵にスロー効果を与える“リムペット”といった能力も。これらも装備などによってブリンク回数を増やしたり、シールド性能を上げたりできる。
探索や道中のサイドコンテンツなどもある
さらに、マップによってはラッシュを使ってグラップリングフック的に移動できたり、変化魔法でマップの仕掛けを動かしてルートを作り出すことも可能。これらにダブルジャンプを組み合わせた探索も道中のプレイ要素のひとつとなっている。
今回プレイできたデモはまだジャックが冒険を始めた序盤部分ということもあって比較的道なりに進む感じだったが、それでもちょっと追加の仕掛けを動かすとアイテムが隠されているエリアにたどり着けたりもした。
本編ではもっと探索の幅があるのかロビンス氏に聞いてみたところ、「そうですね。私は『コール オブ デューティ』では短くて直線的な面を作ってきましたけども、それは今回特にやりたくなかったことですから。もっと探索の幅があってパズルがあちらこちらにあるような、どちらかと言えば(リブート版の)『ゴッド・オブ・ウォー』に近いようなものにしたかったんです」とド直球な回答。
さらに「今日はお見せした範囲にはありませんが、より探索向きの開けた大きなハブとなるスペースもあります。またさまざまなアビリティをアンロックしてから前にプレイしたステージに戻ることで、新しいエリアを切り開いたり、それまでたどり着けなかったものを見つけたり、サイドボスなどがいる新たなプレイ要素に出会ったりできます」とのこと。実際マップシステムにはそれらのサイドコンテンツ用らしきアイコンが用意されていた。
ゲームサイズとしてはメインのキャンペーンのみであれば20から25時間程度が目安になっており、探索やサイドコンテンツも含めると40時間ぐらい。価格的にもフルプライスのゲームとなっている。
リモートと出社のハイブリッドでAAAを開発するスタジオ
ゲームの概要については以上だが、Ascendant Studios自体もなかなか面白かったので、おまけ的にスタジオ探訪のリポートもお届けしよう。
Ascendant Studiosがあるのは、地元では“ノースベイ”と呼ばれるマリン郡サン・ラファエル。サンフランシスコからはゴールデンゲートブリッジを北に向かった先にある比較的落ち着いた町だ。
建物は銀行跡の2階建てを改造したものになっており、窓が多くて外からの光が入ってくるが、外からは見えないという機密保持のできる作り。金庫は技術統括をするCTOの部屋として使われていた。
設立は2018年。冒頭で紹介した通り、創設者のブレット・ロビンス氏が本作を実現するために同氏が長年働いてきた地元であるベイエリアで立ち上げ、その頃サン・ラファエルで閉鎖したアドベンチャーゲーム系のスタジオTelltale Gamesの元スタッフなどを雇い入れてチームを拡大していったのだという。
ちなみにエレクトロニック・アーツの子会社ではなく、独立資本によるゲームスタジオとなっており、エレクトロニック・アーツからは外部パブリッシングブランドのEA Originalsを通じて契約し、開発資金を得ているという関係だ。
しかしAAA(超大作級)ゲームとして本作の初期開発を進めている最中、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生。開発はリモートワークで行うことに。
ちなみにリモートワーク開始を伝えるためにロビンス氏が主要スタッフを会議室に集めた際、アートディレクターのデイヴ・ボーガン氏やアシスタントアートディレクターのジュリア・リヒトブラウ氏らTelltale出身者は「あ、コロナでまたスタジオが閉鎖になって失職するんだ……」と思ったらしい(ジョークとして語ってくれた)。
そしてAAAゲームとしてスタッフを増やして開発スピードを上げていかなければいけないなか、ここで「どうせリモートワークで進めるなら別にベイエリアに通勤できる人じゃなくてもいいのでは?」と発想を転換し、アメリカ全土はもちろん、カナダやヨーロッパの人材も雇い始めたという。
そんなわけで現在はフルリモートの人も交えたハイブリッド体制での運営になっており、120人超のスタッフがいるものの出社するのは一部のみでリモートの人が大半という形になっているそう。
実際にGoogle Meetでオンラインの報告会議をやっている所をやっている所も見せてもらったのだが、社外の開発パートナーなども含めて140人近くが集まり、「今日はプレス(メディア関係者)に見せたぞ。来週は映像が一般公開されるからここからだ」とか「家庭用版の最適化ご苦労さま。60fpsが出るようになってきたからもっと詰めていきましょう」といった報告を行っていた。