アナウンサーの篠原光氏が2023年3月いっぱいで日本テレビを退社。eスポーツキャスターを目指すと、一部界隈で話題になった。

 「思い切った転身だなあ」と関心を払っていた矢先、一通のDMが届いた。eスポーツ実況の第一人者・岸大河氏からだ。

「篠原さん、うちに来るんですよ」

 何それおもしろそう。彼とも長く親交があり、個人でeスポーツ情報サイトを運営するYossyさんを誘って話を聞いてみることにした。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道
タイピング日本一決定戦“REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2023”で実況を担当する篠原光アナ(左)。
【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道
本記事担当のミス・ユースケ(右)。REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2023会場で篠原アナと記念撮影してました。

篠原光

元日本テレビアナウンサー。2023年3月いっぱいで古巣を離れ、eスポーツキャスターへの道を歩む。文中は篠原。

岸大河

オンラインFPSを中心に数々のゲームで好成績を残した後、ゲームキャスターに転身。eスポーツ実況の第一人者。文中は岸。

日本テレビアナウンサーを辞めたのは岸大河に弟子入りするため

篠原あぁ……緊張しますね。第二の人生じゃないですけど、これが新たな活動に関する初の取材です。

――いつもは取材する側ですけど、今回は逆ですしね。どういう経緯で岸さんと篠原さんがいっしょにやる流れになったのでしょう? 2022年末にRiot Games Oneでインタビューをさせていただいたときに、新しい人を採用するかもという話をしていただきましたが、あれが篠原さんのことだったということですか?

そうです。当時はどこまで話していいか判断が難しくて。経緯としては、まず僕がTwitterを見ていたら篠原さんからフォローが来ていたのに気づいたんですね。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

――それはいつくらいの話ですか?

去年(2022年)の春くらいでしょうか。日テレの“eGG”という番組で共演させていただいている佐藤梨那アナウンサーに「篠原アナからフォローが来ているんですけど」と話したら、篠原さんが僕とごはんに行きたがっていると教えていただいて。それからやり取りするようになりました。それが2~3日くらいに凝縮されて起きた感じです。

――開幕ラッシュくらいの急展開。

篠原さんはそのときからもうeスポーツに興味があったようですね。ずっとゲームが好きと話を聞いて、会う回数がどんどん増えていきました。僕は基本的に外食をしないんですけど、篠原さんと頻繁に食事に行くから、妻に浮気を疑われました

――いいエピソード。岸さんが最初に篠原さんの熱意を知ったのはいつ頃ですか?

“ポケモンユナイト甲子園”のキャスターオーディションだったと思います。篠原さんも参加されていて、僕は審査員長。熱量を感じたんですよ。篠原さんが、今後は僕といっしょに活動したいという話をしてくれて、僕も篠原さんといっしょにやりたいと思うように。そこから話が進んでいった感じです。

――岸家の不穏な空気を乗り越えてやっていきたいとのことですが、篠原さんは岸さんの会社に入社するという形になるんですか?

専属マネジメント契約になります。社労士さんなどに相談した結果、タレントとしての働きかただと、社員ではなく業務委託のほうがいいだろうとアドバイスをいただいて、この形に落ち着きました。

――そういえば、篠原さんはどうして岸さんに声をかけたんですか?

篠原僕にとって岸さんは等身大パネルの人だったんです。

――どうしました? 急にふしぎちゃんになっちゃいましたけど。

篠原あ、失礼しました。僕はキーボードが大好きなんですけど、そのキーボード好きからすると岸さんは売り場に等身大パネルとして立っている人だったんですよ。“岸大河”という名前はまずそこで知りました。

ロジクールGのパネルね(笑)。

――ゲーミングデバイスブランド“ロジクールG”アンバサダー岸さんのパネルが売り場にあって、キーボード好きで目にしたのがきっかけ。人生、何があるかわからないですね。

推しのeスポーツキャスター岸大河に学びたい

篠原僕がいっしょにやらせてくださいと岸さんにお願いしたのは、すべてにおいて弟子入りするくらいの気持ちがあったからなんです。最初は仕事がないかもしれませんが、どうしてもいっしょにいて勉強させていただきたい。同行するだけでも、鞄持ちだけでもいいからお願いしますと伝えたのが最初でした。

――キー局アナウンサーを辞めてまで、岸さんからeスポーツを学びたいと思ったきっかけは何なのでしょうか?

篠原VCT(『VALORANT』世界大会)ReykjavíkのZETA DIVISION戦配信です。

 岸さんの存在はキーボード売り場のおかげで知っていましたが、「この人、すごい!」と思ったのがこの配信でした。岸さんとyukishiroさんは立ちあがって実況していて、ZETA DIVISIONが勝利したときに大喜びするんです。「ZETA DIVISIONは、これまでシーンを追ってきたふたりがあんなに興奮するくらいすごいことを成し遂げたんだ」と伝わってきました。

 ZETA DIVISIONには、『Counter-Strike: Global Offensive』から世界に挑戦してきた歴史もありますが、それを知っているかどうかという前提条件なしに、見ている人全員があの感動を味わったと思います。そのきっかけを作り出したのは、岸さんたちキャスター陣の伝え方によるもので、自分もそんな実況をしてみたい、岸さんから直接学びたいと思いました。

篠原そこから、eGGを見たり、こういうeスポーツの企画はどうだろうと同期と考えたり、会社にいながらeスポーツに取り組む方法を模索していたんです。でも、やはり岸さんから直接eスポーツの実況、そして歴史を教わりたいという気持ちは消えなくて。

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――実況・解説するキャスターがあんなに感情を出すことって、一般的なテレビのスポーツ報道だとあまりないじゃないですか。eスポーツ系はその傾向がありますけど。やはり新鮮に感じたのでしょうか?

篠原新鮮でしたね。個人の好みとしても、感情を出した実況が好きなんです。テレビの実況は、見ている人全員が理解できるよう丁寧に丁寧に説明していきます。フラットに説明するので、先生が導いてくれるような実況・解説です。

 それに対して、いまのeスポーツ実況文化というのは、詳しい友だちがリビングにいて、いっしょに興奮できるような環境だと思うんですよ。僕はそれがすごく好きで。

 僕は、『VALORANT』や『Apex Legends』という現代のeスポーツシーンに魅了された、いわばニワカ的な自覚がすごくあるんです。eスポーツという文化が20年近くあって、eスポーツ実況にも同じくらいの歴史があるとしたら、そこを深く知りたい。だからこそ、シーンを牽引してきた岸さんに学びたい、という気持ちでした。

――それをちゃんと言う人って、すごく珍しいですよね。自分がニワカだから勉強したいと公の場で言う人はあまり見たことがないです。

篠原めっちゃ怖い部分でもあります。これがどう転ぶのかなって。

この辺りの篠原さんの真面目さはいいですよね。包み隠さず話すところは好感が持てるし、あとは一種のオタクというのもいい。僕の方も彼の熱量に押されたというのもあります。すごく魅力のある方だなと思っていましたし。

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――篠原さんがeスポーツでやっていこうと決めた際に、キャスターとしてどこに所属するか複数検討したんですか?

篠原岸さん1本です。ほかを検討したり迷う余地はなかったですね。推しに教わりたい。

――推しに教わりたい。なるほどなあ。

篠原さんって触り心地のいいお布団みたいなんですよ。報道番組や“ヒルナンデス!”で活躍するのを見ていて、番組をあたたかく包み込んでくれるような存在だと感じました。そういう点はeスポーツにとってすごく重要だし、広めるきっかけにもなると思います。

 篠原さんは僕にはないスキルをたくさん持っています。アナウンススキルもそうですし、報道の経験などもそうですね。僕に教わりたいと言ってくれていますが、逆に僕が篠原さんから教わることもたくさんあるなと。相互作用でうまく切磋琢磨できるんじゃないかと思っていたので、すごくいい出会いでしたね。

――会社の人に「局アナを辞めます」と伝えたとき、どういう反応でしたか?

篠原めちゃくちゃビックリしていました。でも、どうしても好きなゲームというものがあって、そこで日本が世界一になる瞬間が来るかもしれない。僕はそのニュースを読み上げるのではなく、自分で実況したいという話をしたら、みなさんから本当に応援していただきました。

 結局、みなさんもいっしょなんですよ。日本テレビで働いている方は、応援したいものがあってそれを多くの人に伝えたいという方が多いと思います。たとえば、ラグビーのワールドカップでは日本が南アフリカを倒してジャイアントキリングを果たした。これは2022年のZETA DIVISION快進撃と重なるところもあって、理解してもらいやすかったかもしれません。

 辞めることを伝えて、その決断を否定する人は誰もいませんでした。みなさんに、あたたかく背中を押していただきました。すごくうれしかったです。

肯定否定という話がありましたが、僕はゲーム業界に入ってくる篠原さんに対してものすごく肯定的です。女性ファンもいますし、さわやかで明るい性格というのがすごくお昼の番組でウケています。その層が新たな篠原さんの活動を通じて、ゲームやeスポーツに興味を示してくれる可能性がある。違う層にようやく種をまけるんじゃないかなと。

 昼の番組は広い世代の人が見ていますから、ゲームっていまこんな感じなんだとか、かっこいい選手がいるんだとか、もっと広がるのではないかと思います。恋人同士で観戦したり、女子会でeスポーツ応援したり、いろいろな可能性があるなと思って。数年後、どんなことが起きるのか楽しみですよ。

篠原光のeスポーツ元年

――eスポーツのニワカファンだとおっしゃっていましたよね。最初にeスポーツすごいぞとか、これがeスポーツなんだ! と思ったエピソードとか覚えていますか?

篠原さんのeスポーツ元年だ(※)。

※eスポーツ元年:2018年を境にeスポーツに関する話題が増えたこともあり、“2018年はeスポーツ元年”と言われることも多い。この記事でインタビュアーを務めるYossyさんは、“eスポーツ元年”という報道・表記を集めることをライフワークとしている。

篠原eスポーツ元年シリーズですか。初めてこんな世界があるのか、と知ったのは、日本のRush GamingがCWLという『Call of Duty』の世界大会に進んだときでした。大学生のときですね。僕はゲーム非推奨の教えで育っていたので、ありあまるゲームしたい欲を動画にぶつけていました。

 『コール オブ デューティ ブラックオプスIII』のプロ選手や実況者さんたち、とくにRush GamingのGreedZzさんの動画を見ていました。GreedZzさんたちが大会を勝ち進んで(アメリカの)アナハイムに行くという話になっていて「ゲームでそんな世界があるの!?」と驚きました。

 世界に行くのが決まって、選手や実況のk4senさんたちがものすごく興奮しているわけです。その姿を見て、eスポーツへの関心というものが、自分の根っこのところに植え付けられた感じがします。

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篠原そこからeスポーツを見続けてきました。eスポーツは大好きで、日本テレビに入ってからも、形にならなくてもたくさんeスポーツの企画書を作って会社に提案したりしてきました。

――いま、篠原さんが個人的に好きなeスポーツのチームとか選手はいますか?

篠原想いのある人たちが好きなんですよ。Rush GamingのGreedZzさんが原点にあるので、まず挙げさせてください。世界大会でアナハイムへ行くときに、ずっと「日本の競技シーン」という主語でいろいろなことを語るんですよ。世界に日本のeスポーツを知ってもらうようにがんばるとか、自分のことだけじゃない。プロ選手としての姿勢を感じたのがGreedZzさんでした。

 あと、VALORANT Game Changersで優勝したG2 GozenのMary選手。優勝インタビューで「かっこよ!」としびれました。たしか、故郷の子どもたちとかゲーマーに向けて言ったと思うんですけど「何かやりたいことがあったら、想いを抱き続けなさい。きっと実現するから。私がそうであるようにね」みたいな。かっこいい!

16歳とは思えないよね。

篠原ある意味、僕もその言葉を聞いて、岸さんのところに行くという決断につながりました。選手の背景という点でいうと、このふたりですね。プレーで言うと、影の立役者、支えるポジションの人が好きです。FnaticのChronicle選手とか、Sengoku GamingのMisaya選手とか。いちばん目立つのは別の選手だけど、いなくてはならない存在なんですよ。このふたりが好きですねー。

篠原光、大好きなキーボードについて早口で語る

篠原さんがキーボード好きという話もありましたけど、すごいんですよ。キースイッチから詳しいし、キーボードが家にいっぱいあるとか、キーボードの音だけでメシが食えるとか。キーボードの音を聞きながら大学の受験勉強をやっていたんだよね?

篠原開店直後のビックカメラに行って、キーボードサンプルの横にiPhoneを置いて、タイピング音を録音するんですよ。それを聞きながら高校生の頃ずっと勉強していました。

――ものすごい剛速球が来たな。

篠原いまだったらタイピング音ASMR的な感じですよね。当時はASMRなんていう言葉はなかったので、自分がやっていることが何なのかとかもわからなくて。18歳の高校生でしたから、いまから10年前のビックカメラでずっとそんなことをさせていただいていました。

――ビックカメラもそんなつもりでサンプル展示していたわけじゃないだろうに。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

――せっかくなので好きなキーボードを教えていただいてもいいですか?

篠原え!? ちょっとこれ長くなりますけど大丈夫ですか……!? 絞りますけど、形式ごとにあります。

――形式ごとに……?

篠原(だんだん早口になりながら)キースイッチにはパンタグラフ、メンブレン、メカニカル、静電容量無接点といろいろな種類があるんですけど、パンタグラフだとエレコムのクリスタルキーボードというのがマジでめちゃくちゃきれいで! 印字がアルファベットだけなんですよ! それが当時高校生だった僕にはめちゃくちゃかっこよくて! それをずっと使っていましたね。ニコニコ動画で歌詞職人をやっていた時期があるんですけど、そのとき使っていたのがクリスタルキーボードでした!

音楽ライブの動画とか生放送に、コメントで歌詞をつけるというのをやっていたらしいんですよ。

篠原そうです!あと、静電容量無接点のキーボードを挙げるなら、やっぱり東プレのREALFORCEですね。中国のNizというメーカーが安くていい静電容量無接点を作っているので、興味がある人にはまずこれを勧めます。

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タイピング日本一決定戦“REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2023”のひとコマ。キーボードが好きすぎて満面の笑みを浮かべている。

アナウンサーを目指したきっかけは声優・アニメ

篠原さんはいい感じのオタクなんですよね。声優さんやVTuberにも詳しかったりとか。

篠原ファミ通さんだと、“ファミ通TV”という声優の神谷浩史さんと金田朋子さんがやっていた番組を毎回見ていました。金朋さんをあやす神谷さんが最高なんですよ! そんな感じで、流行に乗るふつうのオタクだと思っています。

――いや、だいぶレベル高いですよ。ふつうのオタクはタイピング音を録音して持ち歩かない。

篠原アニメを通って声優さんがやっていたネットラジオを聞いて「声の仕事、いいな」と思って。母に相談したところ、社会は経験した方がいいから、サラリーマンと両立できる声の仕事だとアナウンサーがあるんじゃないかということで、そこからアナウンサーの仕事を見るようになりました。で、そのすごさに気付いて、自分も目指すようになったという背景があります。

こんな感じの話をいろいろと聞いていく中で、篠原さんの人となりがわかってきて、じつはeスポーツをやりたいという話になっていきました。篠原さんがeスポーツにのめり込んでいったのは周りの人たちも気づいていたようで、eGGの担当者も「あれ、もしかして篠原やめるんじゃない……?」と思っていたそうで。

 eスポーツの話をすると、もう目が全然違う。キラッとしているし楽しそうだし、子どもが好きなことに夢中になったときみたいな。eスポーツに没入している感がすごかったですね。

篠原光は好きなことに視野が狭くなってしまうタイプ

篠原アナウンサーとして局に入ってからは、ゲーム禁止から解き放たれて、いつかゲームの時代が来ると信じて自分もゲームをプレイするようになりました。

 まず、コンソールユーザーとしてFPSに触れました。歴史をさかのぼると、『レインボーシックス シージ』や『バトルフィールド4』など、コンソールとPCのユーザーが交わるタイミングがいくつかあったと思うんです。それが僕にとっては『Apex Legends』。それでPCユーザーの皆さんを知って、まったく自分と違う世界線があったことに気付きました。より魅力と歴史を感じましたね。

貴島明日香ちゃんといっしょに『Apex Legends』をやっていたよね。

篠原やっていました。当時、朝の番組“ZIP!”でごいっしょしていて、深夜の2時起き生活なんですけど23時とか24時までこっそりやったりして。あまり大きな声では言えないですけど。

明日香ちゃんもガチゲーマーなんで、怒られながらやっていたみたいですよ。

篠原僕はちょっと前に出すぎるクセがあるんです。パーティーなのに僕が先にやられてしまうことがよくあって。そうそう。ゲーミングデバイスの知識はまだまだ浅いんですけど、PCに接続するゲームパッドにもめちゃくちゃこだわっています。プロコントローラーの新型じゃなくて、旧型の方がスティックの上が凸になっているからいいんですよ。

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――いまではPCゲームもプレーされていると。最近メインでやっているゲームはなんですか?

篠原『VALORANT』をやっています。『Apex Legedns』もやって、あとは『ヘブンバーンズレッド』も好きですね。

――おー。『ヘブバン』やってるんですか? お話と雰囲気がいいんですよね。

篠原(ものすごい食いつきで)『ヘブバン』マジで楽しいです! この前コラボカフェ行きました!! 柳美音ちゃん推しです! 推しのアクスタ当てました!!!! めちゃくちゃよかった~。号泣しながらやっています。高校生の頃に『Angel Beats!』を見ていて、『リトルバスターズ!』は小学生だったので、麻枝 准さん作品ファン、鍵っ子(Key作品ファン)としては途中からなんですけど。『ヘブバン』、マジでいい! 本当に! 久しぶりにあんなにストーリーのいいゲームをしました。

――『ヘブバン』に対する情熱がすごすぎる。

篠原自分の好きなことに視野が狭くなってしまうタイプではあります! 昨年に実況した『ポケモンユナイト』は自分でもやりますし、『スプラトゥーン3』も好きですね。男子校時代の友人がみんなゲームをやるので、仕事終わりにゲームで集まるんですよ。初代『スプラトゥーン』が出たときにニコニコ動画で流行ったんですよね。そのときのこともよく覚えています。

キー局アナウンサーからみたeスポーツ実況

――他媒体の記事で読んだのですが、日本テレビの社長さんが篠原さんの退社についてコメントされていましたよね。キー局のアナウンサーが退社するというのは、注目度がものすごいことなんだと改めて思いました。

篠原僕も記事でコメントを拝見して、本当に驚きました。日本テレビに対してネガティブなことは本当にまったくなくて、岸さんを追ってeスポーツにいち早く携わりたいという一心での決断なんです。

彼にはいますぐeスポーツに行かないと、ほんの半年後には居場所がないかもしれないという怖さと焦りがあるそうで、それも日本テレビをやめるという決断につながったという話をしてくれました。

――個人的には、テレビやラジオのアナウンサーさんがもっとeスポーツ側にやってくると思っていたんですけど、そうでもなかったなという印象があります。アナウンサー出身で活躍されているのは数人くらいですよね。

eスポーツの業界はかなり独特とか、実況のスタイルが違うということをいろいろな方に聞くので、そういうことも関係あるのかもしれないですね。

篠原アナウンサー出身のeスポーツキャスターが少ない理由はシンプルかと思います。男性アナウンサーはスポーツ実況を担当することが多くて、日本代表戦やオリンピックで実況することが目標になっていく。だから、そこに向かって脇目も振らず真っ直ぐがんばっていくわけです。

 eスポーツの実況をやってみたい方もいるかもしれませんが、昔からゲームをやっていないとeスポーツの画面で何が起きているのかを理解するのは難しい。そこが障壁になっているというのも理由のひとつとしてあると思います。

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――アナウンサーからみて、フィジカルスポーツとeスポーツの実況は、全然違うものなんでしょうか?

篠原実況のスタイルとして、まったく別物です。僕は野球やサッカーは担当しなかったのですが、日本テレビには60年以上続いている伝統のボクシング実況というものがありまして、それを毎月やらせていただいていました。その経験があったとしても、eスポーツ実況にそのまま転用することはできないですね。

 僕としては、eスポーツにおける実況をゼロから模索してeスポーツキャスターを目指すよりも、先人に教えを仰ぐのがいちばんいいと思ったんです。だからこそ、第一人者である岸さんに教えていただきたいと考えました。

eスポーツ実況は、ゲームが大好きでゲームの知識があり、それを実況に活かしながらより深いものは解説者に振っていくようなことがベースになっています。しかも、ゲームがアップデートされたり歴史が積み重なっていくことで戦略がどんどん増えたり変化していきます。リアルのスポーツでもルール更新はありますが、eスポーツはそのペースがとにかく早い。

 昔の作戦から派生していまのメタが形成されているので、その積み重ねや歴史を知らないといまを深く語れないというのが、eスポーツ実況の難しさとしてありますね。

晩年のeスポーツキャスターはどうなる?

――岸さんから篠原さんに、eスポーツシーンや現場のリアルな現状をお伝えしたのでしょうか?

そうですね。eスポーツにおけるコミュニティーの存在、リアルなところではギャラのお話も。どのくらいの市場になっているかとか。篠原さんは本気でeスポーツに飛び込もうと思っているわけなので、報酬の額も大事じゃないですか。現実をお伝えして、それでもeスポーツに来るか判断してもらおうと思っていました。

 僕としても、篠原さんから本気のアプローチを受けていたので、どういう風にしたら安心していっしょに活動できるのか考えました。人の人生を預かるというのも初めてのことなので悩みましたよ。わからないこともたくさんあるし、失敗する可能性もあるし、何かあれば言ってほしいということをお伝えしたうえで、いっしょにがんばっていこうということになりました。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

篠原会社を辞めて仕事がなかったら生きていけませんから、自分はすべてを包み隠さず赤裸々に話しましたし、逆に岸さんにも教えていただきました。

――岸さんは前にキャスター弟子企画みたいなのをやっていましたよね。

やっていました。ただ、コロナの影響があったり、ご本人の仕事の都合もあったりで、途中で止まってしまったんですよ。時期が悪かったとはいえ、ある意味失敗とも言える経験なので、改めるところは改めていかないとな、と。

――新しいキャスターを迎える一方で、岸さんはベテランという位置付けですよね。キャスターとしての将来について考えていることはありますか?

いつまで実況できるかわからない、というのは考えますね。

――eスポーツ実況者の晩年のキャリアって前例がないですもんね。アナウンサーだと前例はあるし、ベテランで活躍されている人もいますけど。

そうなんですよ。10年後のことを考えると43歳ですし、若い選手がプレーしているところでおじさんの僕がMCや実況をしていいのかな。悩む……。

――いまのeスポーツキャスター陣は、コミュニティーの兄貴分みたいな立ち位置でもあると思います。兄貴分が40~50歳になってしまうと、さすがにちょっと違いますよね。

実況はやれるだけはやりたいですけど、正直なところまったく想像がつかないですね。MCになったり、アナリストデスクを担当したりするのかな。どうなるんだろうなあ……。

今後のeスポーツキャスターに求められる資質

――近年、eスポーツが発展する一方でキャスターが不足しているという課題がありました。現場にいる岸さんとしては、現状をどのように感じていますか?

それでもキャスターはだいぶ増えてきましたよね。いまではいろいろな人材が出てきて、さまざまな実況のスタイルを目にするようになりました。タイトルがちょっと減ったり縮小傾向になった影響で、キャスターがほかのタイトルに移行するケースも出てきています。

 結果的に表舞台でよく見るキャスターのパイはあまり変わっていない印象ですが、コミュニティー大会で実況をする方もいますし、数自体はかなり増えたように感じています。僕たちが知らない領域で実況しているキャスターがいる。これは心強いですよ。

 僕たちも昔はコミュニティー大会で実況をしていました。大会によっては、観戦する人は数人、多くて数十人。そういうコミュニティー実況は、今後eスポーツキャスターを目指そうとか、新しく始めた方の活躍の場にもなっています。

 最近は企業案件のeスポーツ実況も増えてきています。非公開で行われる社内eスポーツの実況とか。そういうこともあって、キャスターの人数や仕事は増えたのかなと思いますね。ただ、公式大会とか大型イベントのようなものをこなせる方が非常に少なくて。

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――そういう大きな現場では、実況だけではないスキルが求められているような状況があるのでしょうか?

そう感じています。平岩康佑さんや大和周平さんといったODYSSEY社のメンバーとかは実況だけでなくMCなどもマルチでこなせます。OooDaさんもそう。バラエティー的な番組が得意で、かしこまったイベントでMCも実況も担当できます。

 こういう方がいまは少なくて、実況だけでなくMCもできる人を探そうとすると、なかなかほかにいなかったりするんですよね。そういう状況で、篠原さんが持つスキルセットには非常に魅力があると感じています。

――実況以外のスキルがあると強みになるんですね。

MCと実況の両方ができると、大がかりなイベントに呼ばれやすかったりしますね。仕事の幅が増えますし、使いかたも制作会社の方がチョイスできるし、いい意味で便利なんですよ。僕はそういうタイプでもあったし、そういう人を新たに求めていたので、篠原さんはすごく現状求められるものにマッチしています。

 スーツを着てステージに立って、タレントさんや選手たちと並んだときに画面映えするという需要もあったりします。アナウンサー出身なので、この点は問題ありません。絵的に負けないけど主張しすぎないのは篠原さんの特徴。レアスキルですよ。

――だいぶ強いパッシブスキルだ。

こういう役割を担えるキャスターが、いまは不足していると言えるかもしれません。公官庁絡みのeスポーツイベントも増えています。お堅いイベントはアナウンサー出身の方が重宝されたりとか、eスポーツキャスターもさまざまな役割を求められるようになっていると感じています。

篠原そうなんですね! 今回の話を聞いていて、そんな需要があるんだと自分としてもためになりました。

――eスポーツキャスターの有名どころで、篠原さんみたいなニコニコしたお兄さん枠って意外といないですよね。尖っているとかかっこいいとか知識が豊富な人はいますけど。

確かにそうかも。そういう意味でも差別化できているのはいいなと思います。篠原さんはインタビューも得意なので街頭eスポーツインタビューとかできちゃうかもしれないですね。あと、食レポもいけますから!

篠原いやいやいや! ふつうの食レポならできますけどね。でも「ローリングサンダー!(※)」とかは無理です。

※ローリングサンダー:食レポにおけるOooDa氏の得意技。こういうワードを多用する。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

――ゲームネタと絡めた食レポは、eスポーツならではの独特な文化になりましたよね。eスポーツキャスターに求められるスキルのひとつになった感があります。やるほうはたいへんだと思いますが、視聴者としてはそうとう楽しませてもらっています。

eスポーツキャスターを目指したい人は、まずやってみてほしい

――岸さんは今後自分の会社に新しいキャスターを続々と迎え入れる予定でしょうか? いま考えていることがあれば教えていただきたいなと。

増やしたい気持ちはありますが、限度はあるなと思いますね。僕は少数精鋭が好きなんですよ。友だちが少ないからかもしれませんけど。ですので、風呂敷を広げるつもりはありません。「キャスターをやりたい人、誰でも来てください!」みたいなやり方はしません。いま増やすとしたら、ひとりかふたり……多くても合計4人くらいが限度かなと思いますね。

 女性のMCとかはぜひいてくれたらいいなと思っていますし、もちろん男性でも構わないのですが、自分の志とすごく似ている方とか、刺激を与えてくれる方とごいっしょできたらうれしいです。篠原さんは僕の志に共感してくれたというのもあるし、僕が学びたいこともたくさんあるし、刺激も受けました。

 そこに新しいパーツを持つ人が出てきたときに、3人がうまく共鳴し合っていいものを作りたい。ライバルというよりいっしょにがんばる仲間というイメージで、信頼関係を築きながら仕事ができ来たらいいなと。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

――新しい人を受け入れる可能性はあると。篠原さんのように、岸さんに学びたいとか、キャスターをやってみたいというような相談は受けたりするものですか?

若い子からの相談はありますね。学生さんとか。ただ、ゼロから育てるにはそうとう労力がかかるので、まずは自分で始めるところからスタートしてもらう必要はあると思っていて。この人の下にいれば仕事があるという意識だと、たぶん将来的に潰れちゃうんですよ。

 自分でやってみて、がんばってみて、ここまででかくなったのでいっしょにやりませんかという気概のある人のほうがうれしいですよね。やってみないとわからないことだらけの業界なので、トライアンドエラーができる人が出てきたらおもしろいと思います。

eスポーツキャスターに転身しての目標

――篠原さんは4月1日から心機一転、eスポーツ業界での活動をスタートされますよね。4月からの予定は決まっていますか?

いまはまだ(インタビューは2023年3月に実施)日本テレビ所属なので、すべては4月に入ってからですね。まずは4月1日に僕の配信に出ていただいて、認知を広げる機会にするのもいいかなと思っています。

 篠原さんの新たな活動をどうやってPRしようかな、といろいろ考えたんですよ。プレスリリース配信サービスを使ってメディアさんにご案内するとか。でも、自分のやりかたに合っていないと感じてしまって。元日本テレビのアナウンサーが入りましたよ、すごいでしょみたいなのは、なんかいきがっている感じがして、自分のやりかたに合わないなと思ったんですね。

 大々的にやるのもいいけど、ひっそりじわじわ認知拡大していくほうがいいかなと。このインタビュー記事が出て、メディアさんが興味を持ってインタビュー等に手を挙げてくださったら、そこでまたお話させていただいたり。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

篠原同じ感覚です。本当に、岸さんのそういうところが好きですね。

――ちなみに、篠原さんの日本テレビアナウンサーとしての最後の仕事はなんだったのでしょうか?

篠原いま2ヵ月間の有休消化中なんですけど、3月12日に“REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2023“で実況を担当するのが最後になります。日本テレビのeGGでも放送予定で、どうしてもやらせてほしいですとお願いしました。

――日テレアナウンサーとしての最後の仕事が、大好きなキーボードタイピングのeスポーツ実況。まさに集大成ですね。すごい。

篠原なんて幸せなことなんでしょう……!

――今後、こんなeスポーツキャスターになりたいというような目標やイメージはありますか?

篠原これからやっていきたい目標のひとつに、インタビューがあります。たくさんの人に話を聞いてみたい。自分がアナウンサー時代に培ったもの(素養)でもありますし、自分がどんなeスポーツキャスターになりたいかと考えたときに辿り着いたのが、ゲームに関わる人全員の熱を伝えたい、でした。

 選手と試合は自然とフォーカスされますが、その裏側にはキャスター、メディア、もちろんファンもいます。もっと踏み込めば、イベントを制作している現場の人も、グッズをデザインしている人もいます。こういう人たちみんなが、同じゲームを好きで盛り上がっているというのを伝えたいんです。

 テレビだと「いまフロアさんがカンペ書いてくれています」は言えないですが、eスポーツの場合は「テックトラブルが発生していますが、スタッフさんががんばって直してくれています」、「これは、昨夜遅くまでスタッフさんが作ってくれたセットなんですよ」と裏側を伝えることがNGではない文化がありますよね。こういうことを通じて、配信を見ている方に、たくさんの人が関わっているからこそできている舞台だということを知ってもらえるのではないかと思っています。

 あとは、ゲームを始めるときの素朴なきっかけって、みんながやっているんだったら自分もやろうという感覚だと思うんですよ。ゲームを好きな人がこんなにたくさんいるんだよということを伝えたい。そこに必要なのは選手だけではない、全員へのインタビューなんです。アナウンサーのときにくすぐられた、好奇心を会話で満たすという技術や、テレビで育てていただいた経験を活かせるんじゃないかと思います。

【篠原光アナ】日テレを退社して推しの岸大河に弟子入り。タイピング音を録音するキーボードマニアにして鍵っ子、元ニコニコ歌詞職人のeスポーツキャスターへの道

――岸さんは篠原さんにどういうことを期待していますか?

ナレーションとかいいんじゃないかと思って。eスポーツの動画にナレーションをつけたら、けっこう雰囲気が変わると思うんですよ。

――プロチームが自分たちでカメラを回して動画発信する機会も増えてきているし、それはおもしろいかもしれないですね。見てみたいな。

篠原ナレーション、じつはいちばん好きな仕事でした。ヒルナンデス!を差し置いて何を言っているんだと怒られてしまいますけど。僕は声フェチから入っているので、ナレーションの仕事は大好きです。

――ZETA DIVISIONが作るチームVLOGとかすごく人気だから、アートディレクターの石垣さんとか、ぜひ検討してほしいなあ。

あとはみんなが出勤のときに聞くようなeスポーツラジオなんてやってみたいですね。ふたりで10~20分くらいとか。先週こんなことあったねみたいな。

篠原うわ~、やりたいそれ! バラエティっぽいのじゃなくて、FMっぽい感じとかすごくいいですね!

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