女の子が電車の中で目を覚ます。ガタガタと電車は走り続けているが、なぜか車内には自分以外乗客がいない。どこか異様な雰囲気を感じた女の子は、隣の車両へ向かって歩きだす。つぎの瞬間、目の前に緑色に発光するナニかがふわりと現れ、笑顔で手を振った。
女の子が進む車内は怪奇現象のオンパレードだ。ある車両では天地が逆さまになり、ある車両では窓から真っ黒な液体が流れ込み、ある車両では小刻みに震える巨大なナニかが女の子のことを黙って見下ろす。
ようやく先頭車両近くまでたどり着く女の子だったが、無人かと思われた車内に自分のことを追う存在がいることに気づく。禍々しいオーラを放ち、明らかに敵意、あるいは殺意を抱いているようだ。
しかし、なんということだろうか、先頭車両へと続く扉は鎖と錠で封鎖されていた!
『SUBWAY MIDNIGHT -サブウェイミッドナイト-』ニンテンドーeショップサイトウォーキングシミュレーターならぬ“悪夢シミュレーター”のような作品
PLAYISMから2023年3月16日にNintendo Switch版がダウンロード発売される『SUBWAY MIDNIGHT -サブウェイミッドナイト-』は、電車内で恐ろしい存在に追い詰められるという、スリリングなシチュエーションから始まるホラーアドベンチャーゲームだ。
タイトルにもあるとおりゲームの舞台は地下鉄で、プレイヤーはリズという名の女の子を操作して幽霊でいっぱいの電車内をひたすら進んでいくことになる。ちょっとしたパズルや収集要素もあるが、基本的には車両から車両へとひたすら進んでいくだけのシンプルなゲームプレイだ。
一方で、プレイヤーが本作を遊び進めるなかで見る光景、触れる物語はシンプルとは程遠い混沌としたものとなっている。
記事の冒頭で紹介した怪奇現象は、ほんの序の口に過ぎない。
天井から魚の死骸が垂れ下がっている車両、砂嵐が映るTVモニターで埋め尽くされた車両、突如出現する不気味な劇場、同じ女性の自画像が描かれたキャンバスがいくつも並ぶ部屋、巨大なプレス機が轟音を立てて押し潰そうとする空間などなど……異様なシチュエーションの連続は、高熱でうなされているときにみる夢のよう。
紙人形劇の“ペープサート”を彷彿とさせるキャラクター造形はキュートなのだが、それがアーティスティックに描かれた3Dフィールドの中を動く様子はじつにアンバランス。本作の不気味さの演出にひと役買っている。
ただし、いくつかのジャンプスケア(デカイ音とかでビックリさせる演出)を除けば、じつは本作はそれほど怖いゲームってわけではない。ただひたすらに不気味で、不可解で、サイケデリックで、意味深なのだ。
インディーゲームの分野では“ウォーキングシミュレーター”と呼ばれるジャンル(超簡単に言えば、アクション要素がほぼなく、マップ探索をゲームプレイの中心に置いたもの)が人気だが、そのジャンル名に倣うなら『SUBWAY MIDNIGHT』は“悪夢シミュレーター”とでも呼ぶのがふさわしいかもしれない。
悪夢的だが、じつは筋のとおった物語が描かれる
“悪夢的なゲーム”と言われて、読者の中には『ゆめにっき』や『LSD』という伝説的カルト作の名前が頭に浮んだ人もいるかもしれない。
テキストによる説明を廃したゲームデザインや、唐突な場面転換、意味深でプレイヤーの不安を煽るビジュアルといった部分を見れば、確かに『SUBWAY MIDNIGHT』は両作とよく似ている。僕自身、ゲームの中盤くらいまで遊んだ時点での本作に対する評価は“雰囲気ゲー”だった。ストーリーは匂わせる程度で、アートデザイナーでもある開発者Bubby Darkstar氏によって作りあげられた圧倒的な世界観を楽しめばいい作品と考えていたのだ。
しかし、悪夢的な世界にもある程度慣れ、背景に仕掛けられたメッセージ――行方不明者を告げるポスター、車両の床に残された現場検証の形跡、どこか物悲しそうな表情の幽霊たち――へ目が向くようになったところで、どうやら雰囲気だけの作品ではないことがわかってきたのである。
『SUBWAY MIDNIGHT』のビジュアルは、ときに物語の存在を忘れさせてしまうほどに魅力的だが、じつはストーリーはしっかりと筋のとおった展開になっていて、雰囲気ゲーっぽい見た目とは裏腹に、謎を残すことなくキッチリと完結する。
なぜこの地下鉄は幽霊たちでいっぱいなのか? 支離滅裂に見える場面転換にはどんな意味があるのか? プレイヤーを執拗に追ってくる存在は何者で、何が目的なのか?
明らかになる真相は、人によってはビジュアル以上に悪夢的に感じるかもしれない。
周回プレイがノンストレスでできる親切設計がうれしい
『SUBWAY MIDNIGHT』には複数のエンディングが用意されている。具体的にいくつあるかは控えるが、いわゆるバッドエンド、グッドエンド、トゥルーエンドに分岐すると考えてもらって問題ない。
おそらく、ほとんどのプレイヤーが最初に見るのはバッドエンドで、その時点でプレイを終えてしまうと本作は“ビジュアルだけが悪夢的なゲーム”という感想に終わるだろう。まあそれはそれで悪くないのだが、前述したとおり本作の悪夢的な部分は視覚情報に限定された話ではないので、すべてのエンディングを見ないのは非常にもったいない。
とは言え、ただ電車内を歩くだけのゲームを周回プレイするのはどう考えても苦痛だ。そこは開発者も理解していたようで、本作ではグッドエンディングのフラグを回収したエリアについては、つぎの周回時にエリアごと自動でスキップされる仕様となっている。
つまりグッドエンディング到達のために足りていること、足りていないことがふつうに遊ぶだけでハッキリとわかるつくりなので、周回プレイもノンストレスなのだ。
僕はエンディング分岐ってやつが正直得意ではない。「ここ、もしかして分岐ポイント?」「ここで何か集めないとエンディングフラグが立たない?」といったことを疑いながらプレイするのはストレスでしかないので、この仕様は本当にありがたかった。ささやかな要素かもしれないが、本作の美点として強調しておきたい。
悪夢からはいつか目覚める
『SUBWAY MIDNIGHT』は悪夢的なゲームだ。しかし、悪夢ってのは永遠に続くものではない。いつかは、目覚めるときがくる。
問題なのはこの悪夢を誰が見ているのか、あるいは見せているのか……という点だ。ネタバレになるので詳しくは言えないが、物悲しい表情の幽霊たちに手を差し伸べただけでは、本作の真相には辿り着けない。
くり返しになってしまうが、トルゥーエンドで明らかになる真相は、人によってはビジュアル以上に悪夢的に感じるだろう。しかし、そこまで見ないとこの悪夢から目覚めることはできないのだ。
すべてのエンディングを見るまでにかかる時間は3〜4時間。眠れない夜なんかに遊ぶにはちょうどいい作品かもしれない。
執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。『SUBWAY MIDNIGHT』は物語終盤で訪れる車両(ステージ)が難しいというよりもめんどくさかったり、主人公の動きがもっさりとしていて操作性がいいとは言えなかったり(これはあえてな気もしますが)と、ゲームのデキとしては気になるところはありましたが、トルゥーエンドまで見たうえでの最終的な満足度はとても高かったです。ちなみに自分が実際に見た、いまだに忘れられない悪夢は“腹話術の人形に追いかけられる”という内容です。あの口角から伸びる縦線が怖くて仕方ないんです。
『SUBWAY MIDNIGHT -サブウェイミッドナイト-』
- プラットフォーム:Nintendo Switch
- 発売日:2023年3月16日発売
- 発売元:PLAYISM
- 開発元:Bubby Darkstar
- 価格:1320円[税込]
- ジャンル:アドベンチャー
- IARC:16歳以上対象
- 備考:ダウンロード専売