対戦格闘ゲーム『ブレイブルー』シリーズの生みの親として知られる森利道氏は、2022年9月25日、自身のTwitterにてアークシステムワークスからの退社を明らかにした。それから約5か月。元マーベラスの青木利則氏とともに、新会社“STUDIO FLARE(スタジオフレア)”を設立したことが発表された。(公式サイトはこちら)
STUDIO FLAREは、NetEase Gamesからの出資による新会社。青木氏が代表取締役として経営を行い、森利道氏は取締役副社長兼プロデューサーとして開発を統括する。すでに第1弾タイトルとして家庭用ゲーム機向けのアクションゲームの開発が進行しており、事務所がオープンする2023年5月から本格始動となるようだ。
本稿では、青木氏と森氏のおふたりに新会社設立の経緯や第1弾タイトル、そしていま求める人材について語っていただいた。
青木利則(あおきとしのり)
STUDIO FLARE代表取締役
森 利道(もりとしみち)
STUDIO FLARE取締役副社長
新会社立ち上げの経緯
――新会社を設立されたとのことで、まずはなぜ青木さんと森さんのおふたりで会社を立ち上げることになったのでしょうか?
青木私は20年以上ゲーム事業に携わってきたのですが、ここ数年は海外事業や新規事業の立ち上げといった仕事が多く、ゲーム事業のメインストリームに戻りたいという想いが強まっていました。ちょうどマーベラスが経営陣の若返りを図るタイミングがきたので、ここしかないと退職を決意しました。
――森さんとはどういう形でいっしょにやることになったのでしょうか?
青木退職を決意したタイミングで森から食事の誘いがありまして、そのときに退社することを伝えました。すると森から「じつは私も」と(笑)。縁を感じて僕のほうから「いっしょに会社を立ち上げませんか?」とお誘いしました。
――それは縁を感じざるを得ないですね。ちなみに、おふたりはもともとどうやって知り合われたのでしょうか?
青木共通の友人を通じて知り合いました。プロジェクト自体はごいっしょすることがなかったのですが、その後も継続的に食事したり、お互いの悩みを相談したりして親交を深めていく中で、という流れです。
――タイミングがバッチリだったんですね。
森そのときに僕から青木さんに出した条件はひとつだけで、「ゲームを作ることしか考えなくていいのであればぜひ」と(笑)。なかなかそうはいかないかもしれないですけど、そういうスタンスでよければいっしょにやらせてくださいという話をさせていただきました。
青木ですから役割分担としては、経営全般を私が見て、クリエイティブはすべて森に任せるという形で明確化しています。
――クリエイティブを森さんに一任するということですが、以前からクリエイターとしての森さんを高く評価していたのでしょうか?
青木森の代表作である『ブレイブルー』がすごく印象に残っています。格闘ゲームでありながらもアニメ的な要素を取り入れたエポックメイキングな作品で、「これはうちには作れないぞ」と、尊敬や憧れの想いを抱いていました。やがてアニメ化もして、IP(知的財産)はこうやって立ち上がるんだなと、外から見て実感したタイトルでした。
――たしかに、長く愛される作品になりましたよね。
青木我々はゲームを作っているというよりは、IPを作っているんですよね。もっと言うと、キャラクターや世界観を生み出して、それをユーザーさんにお届けするというのが我々の仕事です。それがユーザーさんに受け入れられて初めてIPとして確立し、会社の財産になっていくものだと思うんです。それをまさに実現していたのが森なので、すごいプロデューサーだなと。
絶対的な目標はおもしろいものを作ること
――出資元はどこになるのでしょうか?
青木NetEase Gamesさんに我々の計画に賛同してもらい出資いただくことになりました。ただ、100%子会社ではなく、我々経営陣も株式を一部保有しておりまして、わりと自由に経営をさせていただいています。ですので、NetEase Gamesさんにはとても感謝しています。
――NetEase Gamesさんからの出資はすんなり決定したのでしょうか?
青木話を始めてからすぐに決まりました。ただ、すごく分厚い契約書をまとめていたのでそこに時間を要しました。
――話自体はすぐにまとまったんですね。
青木NetEase Gamesさんはとにかくスピードが早かったですね。投資会社というより、ゲーム会社という印象があって、いい作品を作るためには迷いがないんですよ。ゲーム開発は数字や合理性だけで測れないところがあると思うんですけど、そこに対する理解が深いので、我々と共通言語で話せる部分があるから話が早いんです。それがあるからこれだけ短期間で決まったのかなと。
じつはプロフィールシートと、まだ完成度の高くない企画書を提出した段階でしたが、おもしろいと評価され、出資を決めていただいたんです。とにかくスピード感と思い切りのよさと、本業で稼いだキャッシュをつぎの投資にまわすというポジティブなサイクルがしっかり確立されていてジャッジが早いという印象ですね。
森僕としては、出資していただけるのならというわけではなく、NetEase Gamesさんの担当の方とお話をしたときに、すごく日本のサブカルが大好きで、そういうものを復活させたいという気持ちがあるとおっしゃっていて、それに関して僕も共感できる部分があったのが大きいです。
――担当者の熱意もあったんですね。
森プレゼンのときは「このゲームが売れるかはわからないです。でも必ずおもしろいものにします」と伝えました。今回は自分も開発にしっかりと参加して、目一杯自信を持って世に出したいと思っています。やっぱり自分で手を入れてまわしたいなと。
――売れるかどうかよりも、森さん自身がしっかり開発に関わって、おもしろいものを作ってほしいということなんでしょうね。
森そうだとうれしいですね。僕も部下の企画書を見たときに「これ売れるの?」と聞くのはへんだと思っていて、そうではなくて「これはおもしろいの?」というところから始めるべきだと。
売れるものを狙って作るのは難しいですけど、おもしろいものはがんばれば作れるんですよ。それが最終的に売れるか売れないかは結果でしかないので。ですから、あくまでもおもしろいものを作るということが我々の大目標。もちろんスケジュールもありますし、いろいろ制約があることも十分わかっていますけど、その中でどれだけおもしろいものが作れるかというところを集中してやっていける会社を作って行きたいですね。
――なるほど。何よりもおもしろいものを作ることが大切なんですね。
森いまは優秀なクリエイターさんがたくさんいるので、おもしろいゲームは本当にたくさんあると思うんですよ。中にはとても作家性の強いゲームがあって、僕もそういうゲームが作りたいです。たとえば、小島秀夫監督の作る作品を見ると、ああ、小島さんだとわかるじゃないですか。それが作家性でそういった方々と肩を並べたいというのは強く思っていますね。
クリエイターが本当に働きやすい環境を作る
――出資はすんなり決まったようですが、それから発表まではいかがだったのでしょうか?
青木メチャクチャたいへんでした。ゼロイチで会社を立ち上げた世の経営者のみなさんは本当にすごいなと尊敬しました(笑)。マーベラスには創業してしばらくしてからジョインしたので、ゼロから会社を作ったのは本当に初めての経験でしたので。
森僕は『ギルティギアゼクス』を作ったときに会社を立ち上げたことがあるんですけど、当時は有限会社でしたし、規模もまったく異なるのでぜんぜん違いましたね。事務所をオープンするのがこんなにたいへんだとは思いませんでした(笑)。
――事務所を作るのは、そんなにもたいへんなことなのでしょうか?
青木クリエイターが本当に働きやすい環境を整えるということはじつにたいへんだなと。いまのゲーム業界において優秀な人材は争奪戦になっているんです。より優秀なスタッフにいかに自分の会社に興味を持っていただくか。私は“採用競争”という言葉をよく使っているんですけど、同業他社のライバルがたくさんある中で、自社を選んでいただくための差別化が必要で、そのポイントが事務所だったり、働く環境に現れてくるんです。ですから、他社がやっていないような取り組みを事務所の設計に取り入れるようにしています。
――他社にないような取り組みというのは、具体的にどういうことなのでしょうか?
青木クリエイターが集中して作業できる環境作りですね。まだ設計段階ですが、一例を挙げると各スタッフの全席を半個室タイプにする予定です。長めのパーテーションで仕切っているので雑音が入りにくく、まわりを気にすることなく自分のクリエイティブに専念できる環境を準備しています。予算はかかってしまいますが、クリエイティブのためには最善だということで、そうさせていただきました。
森個人で集中できる環境を作りつつも、しっかり話し合いができる場所をできる限り多くしています。個人で集中したいときと、仲間に相談したいときがあると思うので、集中するときは個人のスペース。相談したいときはすぐ横にあるフリースペースを使うと。
――なるほど。集中できる個人のスペースと、複数人で気軽にコミュニケーションが取れるフリースペースがあるんですね。
森僕らが作るゲームはひとりでは作れませんので、みんなで集まって作ってもらうこともありますから、両方に対応した環境を整えているところです。とはいえ、まだまだ手探りな状態ですし、僕らの絶対的な目標は“おもしろいものを作る”ことなので、おもしろいものを作るために改善できるところは、実際にスタートしてからもドンドン変えていきたいと思っています。
STUDIO FLAREに込められた意味
――STUDIO FLARE(スタジオフレア)という社名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
森意味としてふたつあります。フレアは爆発という意味があるんですけど、太陽フレアはいろいろなものに影響を与えるじゃないですか。そういう風に何かしらに“影響を与える存在”になりたいという意味合いがひとつ。もうひとつは、“自己表現”という意味のスラングらしいんですよ。それを踏まえてフレアという社名にさせていただきました。
――森さんらしいアイディアですね。
森社名ロゴも僕がデザインしました。ロゴの中にSTUDIO FLAREのSFという文字を大きく入れてあるのですが、これは僕がSF(サイエンスフィクション)が大好きなので、そういう意味も踏まえてSTUDIO FLAREという形にさせていただきました。
――会社としての目標は?
青木STUDIO FLAREをひとことで言い現わすとすれば、“日本一のジャパニーズサブカルゲームスタジオを目指す”ですね。
やはり会社のカラーは大切だと思っていて、他社さんの事例を挙げてしまうと、日本ファルコムさんはRPGのイメージが強くて会社の方向性にブレがないんですよ。なんでもかんでも手を出すと会社の味が薄まってしまうと思うんです。ですから、うちはあくまで森が打ち出す世界観とキャラクターのイメージを大切にしていきたいなと。具体的に何を作るかはこれからですが、会社のイメージ戦略としてはそこに置いています。
僕はビジネス側の人間なんですけど、日本ファルコムさんのRPGはブランドで安心感ありますし、スクウェア・エニックスさんもRPGを出すとなればブーストがかかりますよね。目指すべきところは会社の持つブランド力をなるべく尖らせて、ユーザーのみなさまに浸透させていくということが作品にとってプラスになるはずです。まずはブランド力の向上につながるような作品を作り続けて行きたいですね。
第1弾はひと目で森利道とわかるアクションゲーム
――会社の方向性がわかったところで気になる第1弾タイトルですが、こちらはすでに開発中なのでしょうか?
森はい。どういう形かは内緒ですが、コンシューマーでアクションゲームを作ります。僕がこれまでのゲーム制作で得たノウハウを活かしたアクションゲームにしたいと思っています。
――対戦格闘ゲームを作ってきた森さんの作品となると、対戦要素の有無が気になりますね。
森対戦要素はまだ考えていません。まずはゲームとしてのおもしろさの土台作りをしっかりやろうと。僕が作りたいと考えているものを仕様に落とし込んでいるところです。まずはアクションとしてのおもしろさをしっかり追及していこうと思います。
――さきほどの作家性の話からすると、ゲームの世界観はやはりひと目で森さんとわかるようなものになるのでしょうか?
森ひと見ただけで森が作っているとすぐわかるんじゃないかと(笑)。とりあえず地球は半壊しています(笑)。セルルックアニメーションを使った表現にしたいと思っていますし、ストーリー自体はわかりやすくシンプルに。ただ、そこは僕の作品なので難しいワードや設定は出てくるとは思います。
――ということは森さん自身がシナリオを担当しているのでしょうか?
森今回はしっかり自分でやります。もちろん、すべてをひとりでというのは難しいので、親交の深い執筆家を集めて書いている最中です。格闘ゲームではないので、どこまでキャラクターの個性を出していこうかと悩んでいるところですね。
――森さんの作る世界観の特徴として、難しい用語や設定があると思うんですけど、さきほどストーリーはわかりやすくシンプルにしてあるとおっしゃっていましたが、そこの両立は可能なものなのでしょうか?
森言葉や設定が難しくてもキャラクターたちの目的や行動がすごくわかりやすければいいので、今回は主人公の目的はすごくシンプルにするつもりです。
――制作の進行はどのくらい進んでいるんでしょうか?
森まだ書面上でしかないですけど、進行はしています。最終的にはいまの事務所でメインで動くスタッフを40人で考えています。会社規模としてはMax80人くらいになったらうれしいなと思っています。それで開発が2ラインくらい走らせることができれば。
――第1弾タイトルの発売は何年後になるのでしょうか?
森4年後くらいですね。まずは少人数でプロトタイプを1~2年かけてできる限り作り込んではっきりと完成が見えるものにして、それからスタッフを増やして量産という形ですね。
青木2年でプリプロ(プリプロダクション=制作における準備段階。映画制作などでは撮影前の作業の総称)を作って、残りの2年で量産して完成にこぎつけるというのが我々の計画です。2年かけてプリプロを作るので、しっかり遊べるものを作ろうと。そこでいったん評価にかけてから本制作につなげていく形ですね。
第2弾は格闘ゲーム、生涯最終作はSFのロボットモノ
――ちなみに、森さんは生涯であと3本ゲームを作りたいと伺ったことがあるんですが、それはいまでも変わりませんか?
森それは変わっていません。まずはアクションゲームを作って、その後に対戦格闘ゲームを作りたいですね。最後の3本目は本当に僕が好きなものを作らせてもらおうと思っているので、スペースオペラのロボットものを作らせてもらいます。ただ、絶対に売れないです(笑)。
――SFのロボットモノを作りたいというのは、昔からおっしゃっていましたね(笑)。森さんといえば、『ブレイブルー』のイメージがあるので2作品目の格闘ゲームも楽しみですね。
青木経営側としては森に格闘ゲームを作って欲しいと言っているんですけど、まずはアクションゲームを作りたいと言うので、それを優先しつついずれ近い将来取り組んでほしいですね。
森格闘ゲームは、作ったらずっと付き合っていかないとダメですし、おもしろいものを作れる自信もあります。ですが、まずはアクションゲームを作らせていただければと考えています。
――ちなみに、今後『ブレイブルー』を森さんが作ることはあるのでしょうか?
森それについては正直わかりません。
自分が作ったと胸を張って言える人が欲しい
――今後開発規模を拡大していくとのことですが、人材についてはどのような人たちを求めているのでしょうか?
森最初はすべての職種を募集しようと思っています。その中で、“おもしろいものを作りたい”。“作ったものを自分が作ったと胸を張って言える”。そんな人たちに集まって欲しいですね。
やっぱり自分で作ったものは自慢したくなるじゃないですか。自分が作ったと胸を張って言って欲しいですから。あとは僕のわがままを聞いてくれる方々を大募集です。基本的に無茶しか言いませんので(笑)。ただ、若い人に来てほしいですね。
――新しいものを作るときは若い人のエネルギーが大切ですよね。
森いいか悪いかわからないですけど、クリエイターはわがままであるべきであると思っています。そうでないと、おもしろいものは作れないんですよ。とくに今回僕らが作ろうとしているものは作家性を出そうとしていますから。
青木私のほうからは、森の代表作である『ブレイブルー』が好きな方を大募集という形ですね。つぎの作品も“森臭”のすごく強い作品になると思うので、それをいっしょに作りたいという人を絶賛募集中です。
――最初はすべての職種とおっしゃっていましたが、その中でもとくに欲しい職種はありますか?
森アニメ演出やモーションに興味がある人。それから背景を作れる人を優遇したいです。ゲームもアニメもすべてにおいて背景がいちばん大切なんですよ。ステージをうまく作れない作品はうまくいきません。
たとえば、キャラが森を歩いてるときに、単に森の背景をバンと置くよりも、不思議な遺跡の石像が立っていたらものすごく不安感に襲われるじゃないですか。そういうのをしっかり意識して作れるかどうかなんですよ。そういう背景をしっかり作れる人。今回作ろうとしているゲームは変わった背景が必要になってくるので……とくに廃墟が作れる人を大募集したいですね。
――地球が滅亡するからですか(笑)。
森滅亡はしません。半壊です(笑)。これ以上は具体的になったときにお話いたします。
青木いまの若い方が会社を選ぶときに、給料や勤務地、テレワークの有無など、いろいろな判断基準があると思うんですけど、我々にはすべてを網羅することはできないですし、どこを重視したらいいのかなと考えたんですが、結局はブランド力なのかなと。会社のカラーを尖らせてブランド力を高め、それを発信することでわくわくするような会社だと感じていただくことがスタートだと思っています。ですから、今後も継続的に情報を発信していきたいです。
森初期メンバーに関してはテレワークは難しいですね。テレワークを否定しているわけではなく、状況によって変えていきたいなと。立ち上げの時期はしっかりとコミュニケーションを取らないといけないので、テレワークだと意思疎通が難しい部分があるんですよね。だから最初はしっかり集まって作りましょうと。量産体制に入ってからはみんな自宅なりなんなりで好きにやっていいと思っています。
――では最後に、STUDIO FLAREに期待する読者のみなさんにメッセージをいただけますか?
青木まだスタートしたばかりの会社ですし、タイトルの発売はだいぶさきになると思いますが、ぜひご期待ください。わくわくできる会社作りを目指していきます。
森おもしろいゲームを作るために新しい会社を立ち上げさせていただきました。これからも応援していただけるとうれしいと思います。タイトルの発売はしばらくお待たせすることになってしまいますが、みなさんとコミュニケーションを取っていきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。ご期待ください。