2022年11月12日に福岡県・九州産業大学にて開催された、CEDEC+KYUSHU 2022。本イベントは、日本最大のコンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンスとしておなじみのCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)の九州版だ。
 
 コロナ禍もあり近年はオンライン開催のみとなっていたが、今回は3年ぶりのリアル会場での開催。開会時には実行委員会の1社である、レベルファイブの日野晃博氏が登壇し、開会式を行った。

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レベルファイブ代表取締役社長/CEO 日野晃博氏。

 そしてCEDEC+KYUSHU 2022の幕開けを飾ったのが、本記事でリポートするサイゲームスの基調講演“Cygames流!最高のコンテンツを作る極意”だ。セッションにはサイゲームス代表取締役社長・渡邊耕一氏が登壇。さらに、サイバーコネクトツー代表取締役・松山洋氏がモデレーターを務めた。

 渡邊氏の生い立ちから始まりサイゲームス設立について、各サイゲームスタイトルの実例を挙げながら、サイゲームス流もとい、渡邊氏流のコンテンツ制作の極意などが語られた。

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左がサイバーコネクトツー・松山洋氏。右はマスコット・ムーくん……もとい、サイゲームス・渡邊耕一氏。

渡邊氏がサイゲームスを立ち上げるまで

 本セッションはサイゲームスの歴史を辿りながら、渡邊氏にサイゲームス流のコンテンツ作りを聞くというもの。渡邊氏はCG制作会社のポリゴンマジック、ソフトウェア制作会社のシリコンスタジオを経て、2011年に独立。サイゲームスを立ち上げた。

 2012年にスクウェア・エニックスから発売されたニンテンドー3DS用ソフト『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー』では開発プロデューサーを務めていたが、開発中に独立。そのエピソードを至極マジメに……ではなく、ときおり冗談を交じえながら話す渡邊氏へ向けて、松山氏が「今日はこういう温度感でいくのね!?」とツッコミを入れていたように、本セッションは緩めの内容となっているため、読者の方々も肩肘張らずに読み進めてほしい。

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ちなみに松山氏が原作を務める漫画『チェイサーゲーム』に、渡邊氏が名前だけ登場している。じつは渡邊氏には事後承諾での出演だったのだとか(笑)。
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 まずは渡邊氏のパーソナルについて。渡邊氏は佐賀県伊万里市の出身と、まさに九州産まれのクリエイター。中学まで佐賀で過ごし、佐世保工業高等専門学校を卒業後、広島に移り広島大学西洋哲学専攻へと進む。プログラミングは高専時代に独学で学び、大学ではドイツ語・ギリシャ語・ラテン語などを学んだそうだ。

 そして大学卒業後、ポリゴンマジックに入社する。ゲーム業界を志したのは、高専時代がきっかけのひとつ。当時、渡邊氏はロボコンのチームリーダーを務めていたそうで、チームで何かを制作するという経験がとても楽しかったのだとか。チームで何かを制作する会社を考えていたところ、ふとゲームはチームで作るものだと思い、業界に入ったとのこと。

 ポリゴンマジックに6年務めたのち、シリコンスタジオに移籍。渡邊氏はスクウェア・エニックスに『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー』の企画を持ち込み、同ゲームの開発をスタートさせた。当時のシリコンスタジオは人材派遣とミドルウェアをメインに活動する会社で、渡邊氏が入ったときにゲーム開発部を立ち上げたそうだ。

 シリコンスタジオに3年務め、2011年5月に独立し、サイバーエージェントの出資を受け、サイゲームスを立ち上げる。きっかけとなったのは同年3月に起こった東日本大震災の影響が大きいという。この震災での被害を目の当たりにして、渡邊氏は「自分だって、明日死ぬこともあるかもしれない。だったらやるだけのことはやろう」と決意し、独立を決めたのだとか。

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サイゲームスの歴史を辿る

 続いては、サイゲームスの歴史をいくつかのタイトルをピックアップして辿っていく。2011年5月に設立し、9月にはいきなり大ヒットしたブラウザゲーム『神撃のバハムート』をリリース。松山氏も「速すぎない!?」と言うものの、渡邊氏は「このころだと長いくらいでした」という。

 サイゲームスは最初のスタッフは5人から始まり、『神撃のバハムート』リリース時には約40人に。配信までの約4ヵ月のあいだにスタッフを増員したそうで、毎週のように新人が入ってきたのだとか。

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 その後、モバイルゲーム『戦国SAGA』を手掛ける。『戦国SAGA』は、サイバーエージェントのいくつかある子会社にヒット作がないため、ほかの会社に作らせるというコンセプトから始まったゲームだという。サイゲームスがいろいろとノウハウを教えながら作ってもらいつつ、最終的にはサイゲームスから独立しての運営となった。

 また、2011年11月にサービス開始した『アイドルマスター シンデレラガールズ』は、バンダイナムコエンターテインメント(当時はバンダイナムコゲームス)から持ち込まれた企画なのだとか。『神撃のバハムート』もまだリリースしていないころのお話。

 渡邊氏はいったんその話をサイゲームス内に持ち帰ったところ、スタッフたちが「めっちゃやりたいです!」と大アピールし、開発することが決まったそうだ。

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 2012年には、人気マンガを原作とした『聖闘士星矢 ギャラクシーカードバトル』をリリース。マンガ好きで知られる松山氏も「サイゲームスって『聖闘士星矢』やってたんや!」と驚くタイトル。ユーザー数も100万人を突破する人気タイトルとなった。

 渡邊氏は生まれて初めて買った週刊少年ジャンプが『聖闘士星矢』第1話掲載号だったほど同マンガが大好きで、ことあるごとに「『聖闘士星矢』をやるなら自分にやらせてほしい」と各方面に言っていたそうだ。セッションでは唯一ここだけゲーム中映像が用意されており、乙女座のシャカの“六道輪廻”、双子座のサガの“ギャラクシアンエクスプロージョン”が披露された。

 当時はガラケー向けに運営されていたタイトルで、画像・アニメーションはなんと100kbの制限があったそうだ。その容量制限の中で、六道輪廻やギャラクシアンエクスプロージョンなどを表現するために、多彩な工夫を加えたことが渡邊氏の思い出なのだとか。
 
 そして2014年、大ヒットRPG『グランブルーファンタジー』が始動。キャラクターデザインを務める皆葉英夫氏と渡邊氏は仲がよく、じつはサイゲームスを立ち上げる前から「いっしょに何か作ろう」という話をしていたのだとか。『神撃のバハムート』のときも声を掛けたそうだが、皆葉氏より「いまは別の仕事があるので」と、のちにアートディレクターとなる相場良祐氏を紹介してもらった経緯があるという。

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 さらに2014年にはテレビアニメ『神撃のバハムート GENESIS』を放送開始し、2015年にはアニメ事業部を設立。ポリゴンマジック時代の同僚がアニメ畑の人間で、別会社にいた際に「そろそろアニメ作る?」と聞いたところ、作りたいと言うので「じゃあ作れ作れ!」と、アニメ事業部を立ち上げたそうだ。このあたりのお話は、下記インタビュー記事でも語られている。

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 さらに2016年にはマンガサービス“サイコミ”が始動。松山氏は「サイコミって他社の作品は扱わないの?」と聞くと、渡邊氏は「やらないとは言ってないんですけどね?」と回答。続けて松山氏は、自身が原作を手掛けファミ通.comで好評連載中のマンガ「『チェイサーゲーム』どう?」と発言すると、渡邊氏は「ぜんぜんいいですよ」と即答するシーンも(ファミ通.comーッ! 引き抜きが目の前で起きているぞー!)。

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 数々の新たな事業へ乗り出しながらも、2016年にはデジタルカードゲーム『シャドウバース』をリリース。

 本作、じつは3回ほど作り直しているそうで、なぜそんなことになったかというと、一見、誰にも分からないような細かい部分にとにかくこだわりを持って作っていったのだという。具体的には、ほかのデジタルカードゲームを触ると初めて違いがわかるような“触り心地のよさ”を突き詰めていったようだ。

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 2018年は『プリンセスコネクト!Re:Dive』を配信。もともとは『プリンセスコネクト!』というタイトルで、サイバーエージェント、Amebaが運営などを務め、グラフィックをサイゲームスが担当した。リリースしたところ数字が思うように伸びず、すぐにサービス終了を決断した運営元。それはきびしすぎるということで、渡邊氏はすべてを引き取って「だったら俺たちが作る」と、『プリンセスコネクト!Re:Dive』として再始動した。

 ちなみにもともとの必殺技(ユニオンバースト)のカットインは、よくある戦闘アニメーションくらいのものだったという。「ありきたりだからもっと変えようよ」と提案したところ、いまのようなテレビアニメクラスのカットインになったのだとか。渡邊氏も「ここまでやれって言ってないよ!?」と、驚きのクオリティだったという。

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 そして話題は大ヒット中の『ウマ娘』へ。2018年にテレビアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』がスタート。そのクオリティの高さに、渡邊氏も驚いたという。放送までゲーム版の開発は進んでおり、じつはアニメスタートと同時にゲームもリリースする予定だった。だが、アニメを見て「ここまでやるのならば、ゲームはもっとおもしろいものに」と、ゲームを2回作り直したのだとか。

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 6年掛けてついにリリースされた、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』。渡邊氏の指示で何度もゲームを作り直す中、ゲームを縦画面にしようと言いだしたのは、開発スタッフ側だったという。片手のほうが遊びやすい、という理由から生まれた発想だったが、渡邊氏は「縦画面にするとレース画面の画作りを自分たちで考える必要があるけど大丈夫か?」と、不安だったそうだ。

 テレビの競馬中継などで見られる画作りとは異なり、奥行きでレースを魅せる、独自の発想が必要となる。それでも「縦画面にしたい」とスタッフが言うので、許可したのだとか。結果的には渡邊氏が「よくできるなこんなこと!?」と引いたほどのクオリティで、シナリオからライブシーンも秀逸。渡邊氏も思わず「このパートもこのパートもデキがいいのかよ!?」と舌を巻く出来映えだったという。

 ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』は、じつはリリースする1年前にはすでに完成していたそうだ。そこから1年、「アイコンがわかりにくい」など、とにかく細かいところをブラッシュアップしていたそうだ。おかげで配信時から一気に大ヒット。松山氏は「それは戦略としてやっていたの?」と聞くが、渡邊氏は「たまたまです」と回答。「こんなことあるんだね」とよく話すほど、大ヒットするとは思っていなかったそうだ。

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サイゲームス流極意は“なんとなく”

 おつぎは渡邊氏に、サイゲーム流の最高のコンテンツを作るための極意を聞くパートへ。まずは“プロデュース術”だが、渡邊氏は「皆さんには申し訳ないんですが……」と前置きしつつ、「なんとなくです」と回答。

 松山氏も「なんとなくなワケないでしょ!?」と言いつつも、渡邊氏は「こういうゲームがあったらいいなぁ」と考えて作ることが多く、戦略的に「これが絶対売れる!!」的な発想でゲーム制作をすることはないそうだ。

 松山氏は驚きつつ、「こんなゲームがあったらいいな」の発想から、ビジネスとしてサイゲームスにいるスタッフたちが協議を重ねて、しっかりと商品として形作っているはずだ! と指摘。しかし渡邊氏は「いや、まったくないです」と回答(笑)。「本当になんとなく作り始めて、なんとなく売ってきただけなんです」と言うと、松山氏も「この基調講演なんにも勉強にならん!」と苦笑い。

 続いては“モノづくり”について。渡邊氏は人によってそれぞれモノづくりのクセが異なると言いつつ、自分のクセは「とにかく嫌なことをなくす」ことだという。ボタンの触り心地や、ゲーム進行の細かいところなど、嫌なところをとにかくチェックして消してもらっているそうだ。たとえば「こういう理由でこうなっています」としっかりとした説明を受けようと、「でも嫌だと思ったから変えよう」と変更しているのだとか。

 そしてサイゲームスの“組織づくり”の極意について。渡邊氏は「これも答えがないことですが」と前置きしつつ、サイゲームスでは組織作りにおいて“できる人間”、“がんばってる人間”、“マジメな人間”が仕事のしやすい環境をおおまかな目標としているという。決して万人にとっていい組織づくりではなく、「ダラッと流したい人間にとっては最低の組織です」と渡邊氏は発言。

 国内では東京・大阪・佐賀に拠点があるサイゲームス。それぞれの連携もあまり気にしておらず、渡邊氏は「それぞれ文化が違うんだから、独自性あっていいんじゃない?」という感じで、その点についても“なんとなく”で決めているそうだ。

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現役クリエイターからの質問!

 続いては、今回のセッションへ向けて事前に現役クリエイターから募集した質問に、渡邊氏が答えていく。最初は、各タイトルへの渡邊氏の関わりかたについて。渡邊氏はアートディレクションとして、サイゲームス全タイトルを見ているという。「ギネスがあったら絶対世界一なくらい、絵を見ています」と膨大な量をチェックしているそうだ。

 日々の仕事の中で、渡邊氏のデスクへアートを持ったスタッフが訪れてくるので、それを随時チェックしているのだとか。ゲーム部分についてのチェックは、リリース前のチェックはすべてするが、それまでのチェックは各タイトルによって関わりかたが異なるという。サウンドは「こんな感じがいいな」と提案することはあるが、ほぼ完全にお任せとのこと。リリースして軌道に乗ったら完全にスタッフたちにお任せとなるが、それまでは毎週のように渡邊氏のチェックが入るそうだ。

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 各タイトル、高いクオリティを維持している秘訣を聞かれると、渡邊氏は「開発メンバーをリリース後も動かさない」ということを意識していたという。基本的に開発したメンバーが運営も担当するそうだ。

 そのため、サイゲームスの新規タイトルは必ずスタッフ募集から始まるのだという。サイゲームスの社員は5人から始まり、現在は約3500人と大所帯なのは、各タイトルのチームメンバーがほぼ変わらずに進み続けていたからなのだとか。

 また、高いクオリティを維持できているのは、高いクオリティを保つ“意地”がチーム全体に浸透しているからだと渡邊氏は分析。「ハイクオリティになるまでリリースしない、とつねに言っているので、『ウマ娘』のように僕がチェックしていないところもものすごいクオリティだったのかなと」と発言していた。

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 続いては、ここまでタイトルを何度も作り直してきた渡邊氏へ“ゲームを作り直すことに躊躇はないか?”という質問。渡邊氏も「作り直そう」と言うのは心苦しいところがあるようだ。しかし渡邊氏は「でも、売れなかったときのほうがチームみんなが辛いです。なので作り直すことと比べたら売れたほうがいいに決まっています」と、躊躇することはないとのこと。

 それに付随して“作り直しが起きないように注意することはあるのか”という質問に「ないです」と渡邊氏は即答。作り直しは必ず起きるものとして、作り始めているそうだ。そうなると本来であれば作り直し前提のスケジュールを組むべきだが、そこまではサイゲームスの開発力では難しいとして、作り直しが前提にないスケジュールで開発を進めているという(けっきょく作り直しはするのだが!)。

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 最後は来場者からの質疑応答のコーナーが行われセッションは終了。会場のスクリーンには゛サイゲームスは「九州が大好きです!」“というスライドが映し出され、本セッションの幕は閉じたのだった。

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ちなみにCEDEC+KYUSHU 2022の会場では物販もあり、サイバーコネクトツーブースでは松山氏自ら、自身の著書である『エンターテインメントという薬』や、原作を務める『チェイサーゲーム』などを販売していた。ファミ通.comでも連載中なので、読んでみてね。
『チェイサーゲーム』特設ページ