サイゲームスの初期より在籍し、2015年3月に発足したアニメ事業部では事業部長を務める竹中信広氏。2016年にはアニメ制作スタジオであるサイゲームスピクチャーズが設立され、同スタジオの取締役も務める。
本記事では、竹中氏にアニメ事業部についてお聞きしたインタビューをお届け。サイゲームスのアニメ事業部が目指す未来についてや、テレビアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』や『ゾンビランドサガ』など、人気作品の制作秘話もお聞きした。
竹中信広(たけなか のぶひろ)
サイゲームス・アニメ事業部事業部長。サイゲームスピクチャーズ取締役も務める。(文中は、竹中)
おもしろい作品を作る。まずはそこから始める
――まずはアニメ事業部設立の経緯を教えてください。
竹中社内で「アニメを作りたい」という声が大きくなったのが、最初の経緯です。その発端は、アニメ事業部が作られる前に製作した『神撃のバハムート GENESIS』でした。当時のテレビアニメとしてはクオリティーが非常に高く、放送後にはすごく大きな反響をいただいた作品で。その後、じつはサイゲームスにさまざまな職種で入社したいという応募が増えたんです。会社的なブランド力強化にもつながりますし、社内でアニメを作りたいという声も多かったので、それだったらサイゲームスとしてもアニメ事業部を立ち上げようと、社長の渡邊(※渡邊耕一氏)が決めました。
――『神撃のバハムート GENESIS』のころは、どの部署で製作していたのですか?
竹中当時、アニメに関わっていたのが僕ひとりだけでして、そのとき在籍していました社長室という部署でやっていました。じつは僕はアニメ事業部を立ち上げることには反対していたんです。サイゲームス主導でアニメを製作して、それを黒字化して事業にするのはかなり難しいのでは、と考えていまして。
――なるほど。ゲームの宣伝としてアニメを作るのはいいけど、収益化するのは難しいぞ、と。
竹中そうです。さらに、サイゲームスはつねに最高のコンテンツを作ることを目標としている会社なので、収益を出しながらもハイクオリティーなものを作るというのは、かなりたいへんなんです。 だから「サイゲームスブランドを担保しながらでは、収益化は難しいです」と反対していたのですが、それでも事業部を作りたいという声が大きかったので設立に至りました。
――素人目からすると、アニメ業界にいきなり参入するというのは、難しいように思えるのですが……。
竹中参入するだけなら、正直お金を払えばいいだけなので簡単です。ですので、新規参入はたくさんある業界ではあります。ただ、じつは継続して事業を続けている会社というのは少なくて。しっかり収益を上げて、事業として継続していくことが難しいです。たとえば大手さんですと、1クールのアニメがうまくヒットしなくても、過去のコンテンツがヒットしていれば、そこでプラスマイナスゼロにできたりするので、また新たなチャレンジができたりします。そこが、キャラクタービジネスの強みなんです。ですが、サイゲームスはそこがゼロの状態から、いきなりアニメを事業にしなくてはいけなくて。
――なるほど。では、アニメ事業部を立ち上げてから、どのような目標を立てられたのでしょうか。
竹中正直に言って、最初はノープランでした。アニメ事業部は設立されましたが、そのつぎは何をすればいいのか決まっていなくて。ただ、目標としては絶対に黒字化しなくてはいけません。いかに収益を上げて、継続的にサイゲームスでアニメを作っていけるのかを考えました。そして、メディアミックス展開を通して、ちゃんと視聴者の皆さんに楽しんでもらえる作品を作らないといけませんでした。だから、まずはそこのバランスを考えるところから始めていきました。
――なるほど。先ほど仰っていた、収益とクオリティーの担保。そのバランスはどのように取っているのでしょうか?
竹中まず、作品としておもしろいものを作ることです。と、偉そうなことを言っていますが、正直本当に作ったものが売れるかどうかなんて、わからないんですよ(苦笑)。ビジネス的にリスクを低くして作品を作ることは可能なんですが。
――こういう路線のものをこのくらいの予算で作れば赤字にはならない、みたいな。
竹中えぇ。でも、それはおもしろい作品を作っているのではなく、ただリスクを減らしているだけですから。もしかしたら黒字化は可能かもしれませんが、結果的にファンがそこで付かなければ、サイゲームスが作るアニメとしてのブランド力が落ちると思ったんです。“サイゲームスの作るアニメはおもしろい”と思ってもらえないと、継続的にアニメを見てくれないだろうと考えていたので、作る時点では利益を上げるバランスを見ることを止めて、まずおもしろい作品を作るということを目標にしました。
――おもしろい作品を作る、というのがそもそも難しそうに感じます。
竹中本当に難しいところです。まず、おもしろいという価値観が、人それぞれ違います。もちろん皆さんに受け入れてほしいと思って、いろいろと考えて作るわけですが、最終的には“勘”です。その勘を頼りに、担当スタッフ陣がしっかりとおもしろい作品だと感じられれば、それがひとつの答えだと思うんです。ですので、スタッフ陣も作品づくりを楽しめる人、そして自分の作った作品をおもしろいと言える人たちを集めるようにしています。
――製作自体も楽しんでいる人たちで、アニメが作られていると。
竹中そうなるように努力しています。アニメ『プリンセスコネクト!Re:Dive』や、『ウマ娘 プリティーダービー』などは、さまざまなスタッフに任せながらもいい結果が出ていますから、その点は成功していると言っていいでしょう。
――とはいえ、どれだけおもしろいものを作っても、見てもらえないということもあると思いますが、そういったジレンマはどのように解消されているのでしょうか。
竹中『ウマ娘 プリティーダービー』の第1期はまさにそれでした。ゲームがリリースされた後の、 いまのほうが観てもらえていると正直感じています。ただ、いま観てもなお、ファンの方々は「おもしろい」と言ってくださっているので、時代に埋もれた作品ではないということですよね。そこはつねに重要視していて、埋もれないための何かひとつの信念みたいなものを作品に入れ込むのが大事だと考えています。「この作品のこの部分は唯一無二だよね」とか。 ある特定の話になると必ず話題に挙がる作品になるとか。いつでも思い出してもらえる要素が大事だな、と感じています。
――確かに、いま見てもなお楽しめる作品というのは大事ですね。
竹中事業としてほかの会社さんの作品に出資することもありますが、その判断も“時代に埋もれない作品”であることを重要視しています。利益が出るのかはわかりませんが、必ず歴史に残るアニメ作品になるだろうと考え、出資をしています。たとえば、映画『この世界の片隅に』は、まさにそれでした。結果的には大ヒットとなりましたが、そもそも収益面はさほど考えずに「出資しても絶対に後悔しない作品になる!」と感じていたので、出資した作品です。
――いつ見ても楽しめる作品選びというのも、難しそうなところですね。
竹中それも結局は、勘なんですよね。ただ、結果的にこれまでうまく継続できているので、そのまま続けています。もちろん今後うまくいかなくなることもあると思いますが、そのときはそのときで、別の手段を考えればいいかなと思っています。
――なるほど。その考えがあって、『ゾンビランドサガ』や『ウマ娘』が成功したというわけですね。『ウマ娘』は、原作がゲームでありながらもアニメが先に放送される特殊な作品でした。
竹中そうなんです。アニメが完成してからゲームのほうが完成したので、オリジナルアニメを作っているのと同じような状況になっていました。そうすると、やはり設定や物語もつじつまが合わない箇所が多少なりとも出てきます。ですのでアニメはアニメ、ゲームはゲームと、それぞれ別のコンテンツとしてポイントを押さえつつ、独自の進化をしていくのかな、と考えています。
――『ウマ娘 プリティーダービー』はゲーム側がアニメとリンクしたイベントをすぐに展開していて驚きました。
竹中企画の当初から、ずっとやりたいことでした。ただ、どうしても、アニメとゲームのタイミングを合わせることは難しいんです。今回は、ゲームもアニメも、いちばんいい形になるように試行錯誤しました。結果として、うまく収めることができて、今回の試みがファンの方々に喜んでいただけたようで、安心しました。今後もアニメファンの方はゲームへ、ゲームファンの方はアニメへと、どちらも楽しんでいただきたいです。
――ゲームとアニメ、それぞれで相乗効果を狙うというのが、そもそもの目的ですしね。ちなみに、『ウマ娘』や『グランブルーファンタジー ジ・アニメーション』などのように、ゲーム原作だからこその苦労はありますか?
竹中やはりゲームの制作チームの意図や意思がまず重要になる点ですね。ただ、以前はアニメ事業部自体そこまで実績がなかったこともあり、ゲーム制作チームに比重が傾いていた印象がありましたが、 最近成果が出始めたおかげで、やっとアニメ事業部も信用いただけるようになって、意見を聞いてもらえるようになりました。ゲームチームの皆さん。もう少し、話を聞いてください。あ、いまのところ太字で書いておいてください(笑)。
――わかりました(笑)。ここまで苦労された点も多いと思いますが、とくに苦労されたポイントはありますか?
竹中いちばんたいへんだったのは、やはり黒字化させることです。視聴者が喜ばない状態での黒字化はサイゲームスとして作る意味がなかったので、その環境をどう作り上げるのかに、とても苦労しました。ようやく花開いたのが、『プリンセスコネクト!Re:Dive』なのかなと感じています。その形を作り上げるまで、長い時間が掛かりました。と言っても、いまでも苦労しかありません(笑)。
アニメもサイゲームスと呼ばれるために――
――オリジナルアニメ『ゾンビランドサガ』は、どんな意図で製作されたのでしょうか?
竹中アニメ事業部としては、 ゲーム原作のアニメを作っているだけでは、 大きくならないと思ったからです。ブランドを作るうえでは、やはりオリジナルタイトルも重要だと考えていて、何かオリジナルで作品を作ろうという構想はつねにありました。そのとき、思いついたのが、ゾンビ×アイドルという、当時は誰にも理解してもらえない企画でした(笑)。僕としてはこれなら既視感なく、おもしろい作品が作れるという自信がありました。正直、ここまで反響をいただけるとは予測はしていなくて。第2期が作れるまでヒットしてくれて、よかったですけど。
――『ゾンビランドサガ』の2期制作決定は、やはりヒットが要因だったのでしょうか?
竹中うまくヒットしてくれて、収益化できたのが理由のひとつです。それと、制作スタッフたちが『ゾンビランドサガ』をすごく愛してくださっていて。第1期が終わったあと、すぐに「第2期は絶対作りましょう!」という話が、当然のようにスタッフ陣から出てきて。個人的にもとてもうれしかったです。
――今後もオリジナル作品は作りますか?
竹中はい、じつはすでにいくつか動いています。ただ、忘れてはいけないのは、我々はサイゲームスのアニメ事業部ということです。ゲームタイトルをアニメ化するのが、大きな軸だと思っています。その中から、サイゲームスブランドを広げていくために、オリジナルのおもしろいアニメを作っていくということです。そこはできる限り継続して、製作していきたいです。
――ゲーム原作はもちろん、オリジナルタイトルにも期待しています。ちなみに、ほかのメーカーのゲームタイトルをアニメ化する、というようなこともあるのでしょうか?
竹中いまのところそういった話はないのですが、今後アニメ事業部がもっと大きくなって、スタッフがもっと増えていけば、僕個人の考えとして、可能性はあると思います。
――そちらも今後を楽しみにしています! 御社ではサイゲームスピクチャーズというアニメ制作スタジオを設立されていますが、その経緯を教えてください。
竹中サイゲームスのゲーム作品のCMやPVをアニメで作ろうとした際、外部に発注すると制作のスケジュールが嚙み合わないということがありまして。それなら、短いアニメでもいいので、しっかりと作れる環境が自分たちにあったほうがいいのでは? と考えて立ち上げたのがサイゲームスピクチャーズでした。
――そんな経緯だったんですね。サイゲームスピクチャーズで目指しているのは、どんなことになるのでしょうか?
竹中日本のアニメ業界というのは、日本のみならず海外からも注目されていて。いろいろな需要がある中で、作る環境が足りていないんです。需要があるのであれば、作る環境を整えて、迎え入れればいいと思うんですよ。とは言うものの、クリエイターの数も少ないですから、サイゲームスピクチャーズとしては、ちゃんと新卒をイチから育てて、その環境をしっかり整えられる制作会社になることを目指しています。
――新卒の採用もあるというところで、会社の規模感はどれくらいになるのでしょうか?
竹中大きなスタジオと比べると、まだまだです。2021年に新卒が16名入社し、それでも50名程度の会社です。いまのところはフリーランスの方々の力を借りているところが大きいですし、中規模にも満たない、というのが正直なところです。ただ、スタッフ募集は今後も続けていきます。若くてやる気のあるスタッフをしっかり育てていき、ここで働き続けたときの将来のビジョンが見えるような会社を目指しています。
――アニメを製作するうえでの目標はありますか?
竹中サイゲームスピクチャーズは“カラーのない制作会社”にしたいんです。たとえばアニメスタジオって、そのスタジオの色がありますよね。アクションに強いですとか、描き込まれたアニメーションが得意ですとか。サイゲームスピクチャーズは大きな方向性として“手描きのアニメーションを中心にしたスタジオ”を目指すというのは掲げているのですが、そういった手法以外のジャンルなどの色を感じさせないスタジオにしたくて。
どういうことかと言いますと、“作りたいアニメをそのまま形にできる制作会社”にしたいんです。何か作品を見たときに、とくに作品からはその特色が見えないのに、見終わったあとに「あ、この作品もサイゲームスピクチャーズなんだ」と、あとで感じてもらえるような。もちろん監督さんなど、クリエイターの色はあるべきです。そのクリエイターが「こういう作品を作りたい」とお話を持ってきてくれたときに、うちの色で実現するのではなくて、その色をそのまま出せる会社になりたいんですよ。
――なるほど。カラーがないからこそ、どんな色にも染められる、と。最後にアニメ事業部としての、今後の展望などもうかがえれば。
竹中ゲームでもアニメでも、単体で見ておもしろいものにして、ブランド力を高めていく必要があると思っています。もちろん、サイゲームスはゲーム会社なのでゲームが主体だと思います。 ただ、 僕としてはそれだけでなく、“アニメもサイゲームス”と言われるようにするのが目標です。オリジナルアニメもたくさんヒットさせて、ゲーム事業部から「ぜひゲーム化させてください」と言われる状況を作りたいですね。
――いままさにヒット中なのでうかがいますが『ウマ娘』第3期の予定はありますか?
竹中『ウマ娘』に限りませんが、ゲームが続く限りは、アニメも製作していきたいです。ファンの方が望んでくれる限り、期待には応えていきたいです。
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