エレクトロニック・アーツのバトルロイヤル型FPS『Apex Legends』(エーペックスレジェンズ)。3人1組のチームで、それぞれのレジェンドが持つ能力を駆使しながらチャンピオン(1位)を目指す。
レジェンドは、現時点で総勢23人がゲーム内に登場している。それぞれユニークで魅力的なレジェンドたちが生まれるまでに、どのような苦労があるのだろうか。本稿では、レジェンド制作に深く携わる4人のキーパーソンにレジェンド誕生までの過程や苦労を語ってもらった。
デヴァン・マグワイア
『Apex』のレジェンド開発チームをまとめるリードレジェンドデザイナー。プレイに関わるデザインもサポートする。(文中はデヴァン)
アマンダ・ドリオン
『Apex』のナラティブディレクター。レジェンドに関わるストーリー全般を担当。ヴァルキリーを除くホライゾン以降のすべてのレジェンドに携わる。(文中はアマンダ)
アフィド・ロズリー
『Apex』のアートディレクターで、レジェンド関連のアートを担当。コンセプトをアートに反映させ、ビジュアル面でレジェンドに命を吹き込む。(文中はアフィド)
モイ・パラ
『Apex』のリードアニメーター。アニメーションの監督やモーションキャプチャーのディレクションを行うほか、グッズ制作に携わることも。
いくつものアイデアからレジェンドの個性が生まれる
――レジェンド制作の流れを教えてください。
デヴァン最初に、ワンシートと呼ばれるものを用意します。これはレジェンドの大まかなアイデアを記述したもので、レジェンドの設定や能力、レジェンドを追加する思惑といったものをまとめたシートです。
それをデザインチームに確認してもらって話し合いを進め、プロトタイプを作る価値があると感じたら、すぐにゲームエンジン内で制作してプレイテストします。プレイテストの際には、初期プロトタイプのキットをたくさん作って、ゲームプレイの観点から既存のレジェンドにはない体験をプレイヤーに提供できるものを探し、そのうちのうまくいったキットを並べてさらに吟味します。
この工程を経て、何が機能し何が機能しないかを見つけ出していくんです。新しいシーズンが近づいてくると、作成したプロトタイプのキットを私たち4人で確認し、どのキットを採用するのか決めます。その後、そのレジェンドに詳細な設定と個性を与えていき、ゲームプレイ用の人型ダミーからゲーム内で動く生命に変えていくのです。
アマンダストーリー設定を決める段階では制作中のレジェンドはまだ見た目も決まっていないので、ダミーがベースになります。アビリティーもまだ用意されていません。
たとえばニューキャッスルのときは“シールドを持っているレジェンド”という漠然としたイメージでした。しかし、シールドを持っているという設定だけだと、無数のプロトタイプを作成できてしまいます。
そこで、レジェンドの輪郭をよりはっきりさせるために、その時点の『Apex Legends』にどの要素が足りていないかを改めて調査し、“気さくなスーパーヒーローのような守護者”という設定にたどり着きました。そこからはほかのメンバーも交えて性格やストーリーの背景を制作していきます。
アフィド制作しているレジェンドがどんな人物なのかわかってきたら、物語や性格、そしてアートなどのアイデアをつなぎ合わせたムードボードを作ります。
たとえば“ナイフを持っている”というアイデアがあったとしたら、そのナイフにはどんな意味があるのか、ほかのレジェンドと差別化できるものなのかといったことを煮詰めていきます。ひとりのレジェンドに対して複数のムードボードや参考資料をまとめたものを作成して、レジェンドのシルエットを決めるためにデザインのアイデアを練ることから始めるんです。
ときには、レジェンドをどのように表現するかについてアイデアを出し合い、会話の中からレジェンドの魅力の源を特定することもあります。何度も同じことをくり返し、アートにおける個性とシルエットやアイコンのちょうどいいバランスを探りながら、レジェンドを視覚化していくんです。
モイレジェンドのアイデアは、デザインから生まれることもあれば、アニメーションから生まれることもあります。制作するときのお決まりの方程式がなく、すべてのレジェンドがまったく違う道筋を通って生まれてきているんですよ。
だから、レジェンド開発チームの誰でもアイデアを出すことができるんです。モーションキャプチャーにおいては、レジェンドをできるだけ生き生きと表現することに力を入れています。
――それぞれの分野でかなりの苦労がありそうですが、皆さんが手掛けた中でいちばん難しかったレジェンドは誰ですか?
デヴァンゲームデザインの点からはシアですね。何度も作り直しました……。最初期の段階だとシアは“音”がテーマでした。ゲーム中に発生する音を活かした独特なゲームプレイを提供できる変わったリコンクラスのレジェンドを作ってみようとしたんです。
ところが、いざ作り始めてみるといろいろな壁にぶつかりました。アクセシビリティーの課題だったり、音が重要なのにボリュームが小さいとすぐに聞き逃してしまったり。プレイ環境や身体的な特徴の影響で音に頼れなかったら、ゲームプレイが破綻してしまいます。
そして、方向転換して正しい地点に着陸させようと現在のシアに生まれ変わっていきました。ただ、正しい地点という意味では、まだたどり着けていないとも思っています。
アフィドシアは外見をどのようにするかも非常に迷走したレジェンドです。とくに初期の段階ではかなり試行錯誤しました。あるときはフードをかぶらせたり、いまとはまったく違う見た目の要素を取り入れたりと、方向性が決まるまではクレイジーなアイデアばかりでした。
最終的に現在の見た目に決まるまでに掛かった時間は、レジェンドの中でもいちばん長かったですね。
アマンダ私はシアの外見がいまのものに定まるころにシアの制作チームに合流したのですが、ほかのデザイナーが「もうシアはイヤだ!」と仕事を押し付けてきたほど、たいへんだったようです(笑)。
シアの設定を考えるうえでたいへんだったのは、シアの外見上のポップカルチャーとのつながりが非常に薄かったことです。というのも、レジェンドをパッと見たときに別の何かを連想できる要素があると、コミュニティーにも親しまれやすい傾向があるんです。ところがシアは性格の面でもちょっとなじみにくい部分があったので、どうすれば彼の魅力をもっと引き出せるだろうかと、とても苦労しましたね。
でも、いまの彼には非常に満足しています。一方、アッシュは『タイタンフォール』時代に設定が固まっていたので簡単で助かりました(笑)。
モイアッシュはサイボーグだし、ミステリアスだし、ネズミもいるということで、アニメーションで表現するのも楽でした。その点、同じミステリアスなレジェンドでも、クリプトは控えめで秘密主義なので、いつもポケットに手を入れていて、動きが最小限なんです。
そのため、少ない動作の中で何を表現すればいいのか悩みました。アッシュもそうですが、ヴァルキリーなどのように、デザインの段階で特徴がはっきりしているキャラクターはアニメーションも作りやすいですね。
――レジェンドのストーリーの中でいちばん気に入っているのは誰ですか?
アマンダホライゾンだと思います。彼女のバックストーリーは私がチームに参加する前に書かれていましたが、彼女の母親としてのストーリーは私がチームに参加して最初に取り組んだことなんです。
『アウトランズ・ストーリーズ-“約束”』のストーリーも担当しました。私自身が母親になったこともあり、子どもたちにはいつも愛されていると感じていてほしいという思いを込めました。私にとってホライズンは、子どもといっしょにいたい、愛情を伝えたい、子どもが孤独を感じないようにしたいという気持ちを表現する方法でした。
息子がよりよい世界で成長できるようにエネルギー危機を解決し、ブラックホールから抜け出して息子のもとに戻って約束を守るというホライゾンの楽観的とも言える明るさは、私にとってもいい逃避先になってくれました。
モイ私もホライゾンがいちばん気に入っています。
アフィド同じです。
生みの苦しみも楽しい過程のひとつ
――レジェンド制作をしているときに、もっとも充実感や達成感を味わえる瞬間は?
アマンダすべての部分が好きなのですが、制作の初期段階がいちばん好きです。生みの苦しみが楽しいんです。初期段階では壁に頭をぶつけながら何かを見つけ出そうとして間違うこともあります。
でも、その間違いすらもクリエイティブプロセスなんです。それがいちばん好きですね。
モイ私にとっては制作が終わったタイミングでそれまでを振り返り、プレイヤーに遊んでもらう瞬間を見届ける瞬間ですね。コミュニティーからの反応を見ると報われたような気持ちになります。
制作中に起こった数々の出来事を振り返り、そしてプレイヤーの反応を糧にして、つぎはもっとクールですばらしいものを作り上げると決意を固めるんです。たとえばランパートは、制作中にかなりの変化を遂げました。
最初のアイデアではロボットや、おばあちゃん、とても鼻持ちならない気取った女の子といった案がありました。そうした過程を経て、最終的に本当にクールなものができたという実感があります。だからこそ、制作全体を振り返って、コミュニティーの反応を見届けるのが、もっとも楽しいですね。
デヴァンふたりと同じことを言いたくはないのですが、実際その通りなんですよ。初期段階の苦悩も楽しいですし、プレイヤーに遊んでもらうときも最高の気分です。そのうえで、ほかに挙げるとすれば、私がレジェンドを制作するときに信じられない体験をする瞬間がいつも2回あります。
1回目が、もともとはなんの特徴もない人型のダミーから始まったものが、みんなの努力によりレジェンドとして生まれ変わる瞬間。2回目が、テストプレイを行う際にテスターがプレイの中でレジェンドの役割やプレイスタイルを理解していく瞬間ですね。一切の説明なしにゲームプレイ上のコンセプトを理解してもらえたとき、自分の努力が報われたような感覚になります。
アフィドアート面では、最初のスケッチを描いて皆を呼び出して、みんなが「ああ、この絵には何かがある」と共感してくれる瞬間があるんです。するとみんなの歯車が噛み合って新しいフェーズに進めるんです。
つぎのフェーズに進むという点で言えば、3Dモデルが完成する瞬間もうれしいですね。どちらもレジェンドの誕生に大きく近づく瞬間なので、とくに印象的です。