Keywords Studios(キーワーズスタジオ)は、ゲームの開発からデバッグ、翻訳、カスタマーサポートなど、ゲーム制作を全面的にサポートするスタジオだ。
1998年にアイルランドで設立されて以降、ゲームメーカーやゲーム開発者がゲーム制作において直面するあらゆる課題に対して、具体的なソリューションとリソースを提供することを方針として事業を展開。現在、世界5大陸24カ国に70以上のスタジオを保持している。グループのスタッフは全世界で約12000人(2022年12月末現在)。ゲームソフトの売上ランキング世界上位25社中、23社のゲームメーカーとの取引きがあるという。
ファミ通では、CEOのベルトラン・ボドソン氏の来日に合わせてインタビューを実施。同社の現状や今後の戦略などをうかがった。
ベルトラン・ボドソン氏(左)
Keywords Studios CEO
ハンサリ・ギオーム氏(右)
キーワーズ・インターナショナル 代表取締役
※ベルトラン・ボドソン氏の取材にあたっては、2022年10月にキーワーズ・インターナショナルの代表取締役に就任したばかりのハンサリ・ギオーム氏に通訳を務めていただいた。撮影はせっかくの機会ということでツーショットで納まってもらった。
※本記事はKeywords Studiosの提供でお届けしています。
戦略のカギとなるのは3つの部門(クラスタ)
――まずは、改めての質問ですが、キーワーズスタジオがどのような会社なのか教えてください。
ベルトラン端的に言うと、クリエイターを支援する会社ですね。私は、キーワーズスタジオが“ゲーム業界のソリューションプロバイダ”(※)であることに誇りに持っています。
※ソリューションプロバイダ……業務上で必要となるコンピューターシステムの構築などの解決を請け負う企業
――ソリューションプロバイダですか?
ベルトラン具体的にお話ししますと、キーワーズスタジオには3つの部門(クラスタ)があります。ひとつが“クリエイト”部門で、3000人のエンジニアやアーティストなどがゲームに生命を吹き込んでいます。クリエイティブに関する多くの部分においてパブリッシャーと共同開発し、彼らの“パートナー”として仕事をしています。
タイトル完成後は世界の市場に向けてリリースできる状態にするために、“グローバライズ”チームが幅広い地域を対象に、QA(品質保証)やLQA(言語品質保証)、ローカリゼーションを行います。
最後に“エンゲージ”と呼ばれる部門がマーケティングやプレイヤーサポートを担当します。“エンゲージ”はその名の通り、ゲームを市場に提供してプレイヤーに届け、プレイヤーとの関係がきちんと構築されるようにしているのです。
――開発からリリースまで、ゲームに関わるすべてのことをサポートしているのが、キーワーズスタジオということですね。
ベルトラン私たちは、いわばゲームメーカーに対してサービスを提供するパートナーですね。このビジネスでは、キーワーズスタジオが世界最大の規模を誇っています。モバイルゲームはもちろん、家庭用ゲーム機向けの大型タイトルにもキーワーズスタジオは参加しておりまして、『ELDEN RING』や『NieR Replicant ver.1.22474487139...』、『百英雄伝 Rising』などに関わっています。公開されていないものも含めると、枚挙にいとまがないほどのタイトルを手掛けています。
――以前お話をうかがったときは、キーワーズスタジオには7つのサービスラインがあるとのことだったのですが(アートアセット制作、ゲーム開発、音声制作、機能デバッグ、翻訳、言語デバッグ、カスタマーサポート)、それが大きく3つの部門に集約されているのですね。
ベルトランそうですね。パブリッシャーさんには大きく分けて3つの決断の中心があり、それに合わせて便宜上簡略化した感じです。ゲーム開発などを中心とする“クリエイト”と、品質管理などをおこなう“グローバライズ”、そしてマーケティングなどを担当する“エンゲージ”です。サービスラインはサービスラインでそのまま機能しています。
大きく3つに整理したことで、チーム間でもコラボレーションしやすくなりました。“クリエイト”でゲーム開発とアートを担当しているのは約25のスタジオなのですが、以前よりコラボレーションが活発になりました。適材適所にベテランや若手を配置していまして、グローバルプラットフォームの成長も促されています。
ゲームメーカーにできる限りよいサービスを提供したい
――なるほど。では、キーワーズスタジオがグローバルに事業を展開していく上での戦略を教えてください。
ベルトランゲームメーカーに、できる限りよいサービスを提供することです。究極のテクニカルソリューションを全世界に向けて提供する企業でありたいですね。ゲームメーカーがゲームに関して必要としていることであれば何でも対応したいですし、実際に取り組んでいます。
――とにかくゲームメーカーの役に立ちたいということですね?
ベルトラン“クリエイト”、“グローバライズ”、“エンゲージ”をそれぞれ高いレベルでおこなうことができ、単に仕事を請け負うだけではなくて、パートナーになりたいと思っています。実際のところ、クライアントのチームには、こちらからも積極的に提案させていただいています。深く関わり合いながらお仕事をすることで、“ベストなパートナー”として、魅力に感じてもらえれば……と考えています。引いてはそれが、すばらしいゲームに結びつくのです。
ちなみに、キーワーズスタジオはいま世界の優秀なスタジオを積極的に傘下に収める戦略をとっていますが、これも“できる限りよいサービスを提供したい”という発想にもとづいています。たしかな技術に裏打ちされたしっかりとした背骨を持つことが、全体の強化につながるからです。
――パートナーとしてゲーム開発に携わる上で、もっとも大切にしているポイントは?
ベルトラン言うまでもなく、もっとも重要なのはクオリティーです。エンジニアリング、グローバライズの拠点、マーケティングを問わず、クオリティーの高いものを提供できるように心掛けています。
そして真のパートナーシップですね。お互いに信頼関係を築いて真のパートナーとなることで、今後4年、5年間のロードマップを共有する関係性を持てるのです。それだけ、長期的な視野を持って先へ進むことができるわけです。キーワーズスタジオのユニークなところは、トップクラスのパブリッシャーのほとんどを含む約1000社のゲームメーカーにサービスを提供してきて、各社が直面する課題を見て、洞察力を得られたという点です。あるゲームメーカーが抱える課題が以前にほかで何度も経験したことであれば、パートナーとして有効な解決方法をアドバイスできるのです。
――現在取り組んでいる事業の中で、もっとも注力している領域はありますか?
ベルトランどの領域ということはないです。ちなみに、いま私の仕事時間の4割は、世界中のゲームメーカーを訪問して、真の戦略的なパートナーシップの構築を模索することに費やしています。ただお会いするのではなくて、各社が何を欲しているかを確認しているんですね。基本的に私たちは、ゲームメーカーがゲームを作る上でもっと想像力を働かせられるようにお手伝いしたいと考えています。リソースが不足していればそこを埋めることができ、テクノロジー面での難題があっても、すでにキーワーズスタジオのどこかですでに直面した可能性が高いので、援助の手段を考えることができます。締め切りが迫っていて、テストでクオリティーを求める場合も、当社のネットワークをフルに使えますし。
――なるほど。
ベルトランゲームメーカーの中には、自社開発チームを50〜100人の規模に抑えて、ほかはひとつの戦略的パートナーに託すということを考え始めているところもあります。日本及び欧米でも、そういったニーズに対応すべく援助をしたいと考えています。AAAタイトルになる可能性を持ったとてもよいアイデアがあっても、人材が足りないという場合もお手伝いできます。彼らにはもっと多方面でクリエイティビティーの翼を広げてほしいのです。
――世界中でいろいろなメーカーさんに会っているとのことですが、印象的な意見などはありますか?
ベルトランはい。いくつかキーとなるメッセージをいただきました。とくに“クリエイト”サイドの需要は多く、ゲームメーカーが作りたいと思う優れたタイトルを開発するための人材が不足しています。そこで教育に多くの時間を割き、優れた人材を集める努力をしているわけですが、長期的には業界のためにより多くの人材を育てて、すばらしいエンジニアを派遣したいと思っています。Unityやエピックゲームズとのパートナーシップの中で、どうしたらこうした人たちにゲーム業界で仕事ができるようになってもらえるかを模索しています。長期的に見て、“クリエイト”には超強力な人材が必要になります。
――クリエイターはどこでも不足しているということですね。
ベルトランそうですね。一方で、“グローバライズ”サイドにおいては、チームを拡大するための人材を集められるように、時には同じ時間帯にある世界各地域のキーワーズスタジオの拠点をもっと早く使えるようにしてほしいと言われます。最近は「なぜ2000人もの自社テスターが必要なのか?」と考えるゲームメーカーが増えています。コアのテスターを自社に置きつつ、同じ時間帯あるいは地理的に近い、キーワーズスタジオのようなパートナーのサービスを利用する時期が来ていると思います。
――なるほど。開発を巡る状況も、日々変わっているのですね。
ベルトランゲームメーカーには、プレイヤーに対してさまざまなサービスを提供できるマーケティング担当者がいないことが多いので、“エンゲージ”サイドにはその点を求められています。大手代理店では一般的なマーケティングはできてもゲームを理解していない人が多いのですが、キーワーズスタジオではこうしたマーケティングが可能です。歴史的に当社はコンテンツトレーラーやシネマチックなどを手掛けてきました。また、プレイヤーサポートも得意です。そこでこれをどのように組み合わせるかを考え、ほかのコミュニティーマネージメント、信頼性と安全性、インフルエンサーマーケティングなども含め、プレイヤーをエンゲージするための提案にまとめたのです。ほかにこのような提案をするところはありませんでした。当社では、現在これを構築しています。
――日本のキーワーズ・インターナショナルにはどんな役割を期待していますか?
ベルトラン多くを期待しています。日本は巨大な市場ですし、歴史的にもゲームの生みの親と言えます。すべてはここから始まったのです。任天堂さんやソニー・インタラクティブエンタテインメントさん、セガさんなど驚くべき創造性があるゲーム会社があり、私たちはどこにいても日本のゲームとともに育ちました。そんなすばらしいパートナーとともに可能性を拡大していくにはローカルチームが必要であり、日本への理解が必要です。日本のゲーム会社には、Keywordsが持つグローバルな筋力を利用してもらえると思っています。
――それだけ日本市場に注力しているということでしょうか。
ベルトランはい。日本においてはローカル、グローバルの両面で同時に事業を進めています。今回来日したかったのはそのためでもあります。私たちは多くの日本のゲームメーカーとお付き合いがあり、長期的パートナーになっていることをうれしく思います。今後もさらにこの関係性を深めていきたいです。日本での活動だけでなく、日本のベストなタイトルを世界に紹介していくお手伝いもしたいです。
過去実績として、当社の関連会社のLAKSHYAが『ELDEN RING』のアートのお手伝いをさせていただいたのを始め、全部で5つの関連スタジオが参加しました。『ELDEN RING』の成功と、その一部を支えられたことを誇りに思っています。
ゲームテクノロジーは、ゲームを超越して拡大していく
――ところで、ゲーム関連で注目しているトピックを教えてください。
ベルトラン業界を離れて広い視野で見たときに、ゲームの魅力は独自に専門化した業界にあると思います。私が興味をそそられるのは20年後、30年後、40年後にこの業界が何をするかです。
“ソフトウェアが世界を飲み込む”とよく言われますが、正直なところ今後はゲームが世界を導いていくのだと思います。ゲームテクノロジーは、今日のゲームを超越して拡大しています。ビジネス方面でもゲームエンジンやゲームテクノロジーを参考にすることが多いですし、アニメーションや映画も、ゲームテクノロジーをベースにしています。Unreal Engine 5でアニメーションが作られていたりもするわけです。
――ゲームのテクノロジーが、ゲームを越えて広がっていくというわけですね。
ベルトラン教育方面でも、ゲーミフィケーションのニーズが高まっているように思います。ゲーミフィケーションのノウハウを活かしての、さらに有効な方法が期待できそうです。患者の薬の管理など、医療の分野もゲーミフィケーションから大きな貢献を得られそうです。メタバースの話をせずとも、ゲームは5、10、15年後には多くの業界を助けることができます。これはとてもすばらしいことだと思います。
私には子どもが3人いまして、12歳の娘はプログラミングやエンジニアリングに興味があって、コードを書いてゲームを作っていますが、これからも続けてほしいと願っています。興味を持っているのであれば、将来必ず長く通用するキャリアにつながると思うからです。今後ゲーミフィケーションが、世界の多くの地域に、どんなに大きく、また重要な影響を及ぼすかは本当に予想がつきません。
――お話をうかがっていると、キーワーズスタジオさんの事業の幅も今後ますます広がっていきそうですね。
ベルトランキーワーズスタジオはゲームを中心に考えています。ゲームは私たちのDNAであり身体の中に流れているものです。パートナーに対して、キーワーズスタジオのグローバルな筋力を使って、最初から最後までサービスを提供できることを誇りに思っています。長期的視野を持って日本を深く理解し、パートナーシップを築いていきたいですし、日本でも投資を行い、ゲームのDNAを基礎とした、ファンの皆さんが喜ぶものを提供したいと考えています。
――今後の展開に期待しています。
ベルトランちなみに、せっかくの機会なのでお話しておきたいのですが、キーワーズスタジオではただいま人材を求めています。さきほどお話しした通り、キーワーズスタジオは、真のゲームファンに魅力を感じてもらえるDNAを持っています。長くゲームに親しんできた、情熱を持った社員がたくさんいるのです。彼らは非常にクリエイティブで社内を元気づけ、コミュニティも作っています。
私たちは、クリエイティブで適切な資質をもったゲームファンの中から、ベストな人材を探しています。キーワーズスタジオは、世界でもっとも優れた雇用主になりたいと思っています。テスト、ローカリゼーション、LQAなどからキャリアをスタートさせエンジニアリングに移ることや学習プログラムなどを利用して、海外で働いてまた戻ってくることも可能です。海外拠点を行き来できることは、グローバルプラットフォームの強みかもしれませんね。優れた雇用主として、ゲームに情熱を持つ人たちに素晴らしいキャリアを提供したいと思っていますので、気になった方はお気軽にお問い合わせください。