ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのなんでもゆうこがおすすめするタイトルは、プレイステーション5、プレイステーション4、Nintendo Switch、Steam用ソフト『タクティクスオウガ リボーン』です。

【こういう人におすすめ】

  • オリジナル版のファン
  • タクティカルRPGに興味がある人
  • 緊張感のある物語を楽しみたい人

なんでもゆうこのおすすめゲーム

『タクティクスオウガ リボーン』

  • プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、PC(Steam)
  • 発売日:2022年11月11日(※)
  • 発売元:スクウェア・エニックス
  • 価格:パッケージ版:5480円[税込]、ダウンロード版:5480円[税込]、デジタルプレミアムエディション:8780円[税込]

※Steam版は2022年11月12日発売。

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 丸6日と14時間35分。本稿執筆時点(2022年12月10日)での『タクティクスオウガ リボーン』の総プレイ時間だ。時間に直すと158時間35分。やりこみ勢の方にとっては「大したことないじゃん」と思われるかもしれないが、自分にとってはとんでもない数字なのだ。だって私はこれまで、タクティカルRPGというジャンルをほとんど遊んだことがなかったのだから。

 そんな私がいま、PS5を起動させては本作を楽しんでいる。モニターの前で毎晩のように一喜一憂するのはもちろん、仕事のために時間が取れないときも、戦闘をAIに任せてオートで育成を進めているほどだ。もはや毎日のルーティン、日課と言っていい。

 タクティカルRPGのファンのみならず、筆者のような初心者をも夢中にさせる本作。その魅力を探ってみよう。

 なお、本記事には序盤のネタバレがある。未プレイの方は注意されたし。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

プレイヤーの心を揺さぶる鮮烈なストーリーと群像劇

 本作のもととなったのは、1995年にスーパーファミコンで発売された『タクティクスオウガ』だ。クォータービューで展開する戦術性の高いバトルやプレイヤーの心をえぐるストーリー、前作『伝説のオウガバトル』のキャラクターの再登場などで注目を浴び、人気となった。

 2010年には、プレイステーション・ポータブルで『タクティクスオウガ 運命の輪』が発売。スーパーファミコン版をもとに、システムやキャラクターの追加が行われた。その『運命の輪』をさらに改良し、新たに“生まれ変わった”のが本作『タクティクスオウガ リボーン』だ。

 さて、本作のストーリーについて語るためには、まず舞台となるヴァレリア島の情勢について説明する必要がある。

 ヴァレリア島には、貴族階級のバクラム人、人口の7割を占めるガルガスタン人、そして少数民族のウォルスタ人という3つの民族が暮らしている。このうち、バクラム人とガルガスタン人は、島の覇権を巡って争っている。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

 この戦いは、バクラム陣営がガルガスタン陣営に攻め込んだことに端を発するものだが、その煽りを受けたのがウォルスタ人。数で勝るガルガスタンが、島での支配力を高めようとウォルスタ人を弾圧し、まるで奴隷のように扱っているのだ。

 ウォルスタ人はそんな状況を覆すべく、“ウォルスタ解放軍”を組織してガルガスタンへの抵抗運動を開始。主人公のデニム・パウエルらは解放軍の一員として、港町ゴリアテでゲリラ活動を決行する――。

 オリジナル版を未体験の私は、こんな思いもよらないハードなシーンからのスタートに度肝を抜かれた。ゴリアテはデニムにとっての故郷だが、それと同時に、かつてバクラムと手を組む暗黒騎士団ロスローリアンに襲撃を受け、父が連れ去られたという辛い記憶が残る場所でもある。

 襲撃によって港町を焼き尽くされたことへの反感、暗黒騎士団への恨み、ウォルスタ人を虐げるバクラム、ガルガスタン両陣営への怒り……。紛争状態に置かれた場所が持つ、一触即発のピンと張りつめた空気だ。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】
【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

 衝撃的な展開はそれだけに留まらない。物語の序盤を体験した私は今後の展開を予測し、ヴァレリア島におけるウォルスタ人の復権を目指す王道のストーリーがくり広げられていくのだろうと想像した。しかし、その期待をいい意味で裏切ってくれるのが本作なのである。

 私がもっとも心を揺さぶられたのは、おそらくオリジナル版のファンもそうであったように、ストーリー分岐部分で待ち受ける“究極の選択”だ。チャプター1の終盤、デニムたちはウォルスタ人を束ねるロンウェー公爵から、このような命令を受ける。5000人のウォルスタ人が捕らえられたバルマムッサの町へ行き、そこで奴隷のように働かされているウォルスタ人たちに武装蜂起を呼びかけろ――。

 特命を帯びたデニムたちはバルマムッサに潜入し、捕らえられた同胞たちに接触。説得を試みる。だが彼らに戦う気力は残っておらず、説得は失敗に終わってしまう。

 気を落とすデニムたち。しかし、じつはこの指令は表向きのものだった。デニムたちを導いてくれた騎士レオナールから告げられた本当の指令とはーー。

 「よく聞いてくれ……。これから町の住人をひとり残らず殺すんだ」。

 同胞5000人を自分たちの手で殺し、その犯行をガルガスタン人の手によるものと偽って反ガルガスタンの機運を高めることこそが、ロンウェー公爵の真の目的だったのだ。理想のために手を汚すのか、それとも命令に背いて袂(たもと)を分かつのか。若きデニムも、そして私も、このあまりに重い問いかけに、大きく悩むことになる。

 “僕にその手を汚せというのか”というチャプター1の副題は、このシーンを表しているのである。

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 さんざん迷ったあげく、私はレオナールの意見に賛同し、虐殺に加担することを選んだ。

 デニムは“ゴリアテの虐殺王”とのそしりを受けながらも仲間たちと理想のために奔走するが、その結果多くの憎しみを生むことに。本当にこれでよかったのかと自問自答しながら進めていくと、今度は解放軍の未来を憂いた騎士レオナ―ルが公爵の暗殺を計画。そればかりか公爵暗殺の罪をデニムに着せようと牙をむく。

 民族のためとはいえ、いくらなんでも冷徹すぎるよレオナ―ル。動揺しつつも返り討ちにすると、「強くなったな……、少年よ。あとは……頼んだ……」という言葉を残してレオナ―ルは息絶える。最期の言葉に、理想のために冷徹にならざるを得なかった彼の本心が垣間見えた気がした……。

 その後も数多くの対立や別れ、再会など怒涛の展開が待ち受け、先が気になりすぎて止められない。タクティカルRPGの経験が浅く、プレイ開始時は投げ出さずに続けられるかということすらも不安に思っていたはずの私は、気が付けばすっかり沼にはまっていったのだった。

初心者に優しいシステムに助けられユニット消失もなし

 本作に熱中できるのは、純粋に戦闘が楽しめるよう配慮されたゲームデザインによるところも大きい。

 たとえば、敵が落としたアイテムは戦闘中に拾いに行かずともステージクリア後にまとめて入手できる。また、経験値はステージのクリアー後に出撃ユニット全員に分配されるため、スーパーファミコン版のように、石をぶつけて経験値を稼ぐといった面倒な手間は必要ない。スキルの成長には時間がかかるものの、AIによる自動操作を有効にして訓練用の敵と演習をくり返せば、放ったらかしで育成できる。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

 個人的に攻略にもっとも役立つと感じたのは“運命の輪 C.H.A.R.I.O.T.”システムだ。これは簡単に言うと、AT(ユニットの行動順)をさかのぼって行動をやり直せる機能のこと。

 戦闘不能からの蘇生が間に合わなかったり、奈落へ転落させてしまったりとユニット消失への不安がつきまとう本作だが、仮に不測の事態が起こってしまっても、即“C.H.A.R.I.O.T.”を起動すれば大丈夫。

 任意のターンまで手軽に時を戻せるこの初心者に優しいシステムのおかげで、なんとか全員が生存したままの状態で続けることができた。こういったシミュレーション系ゲームにおいて、大事に育てたユニットとの突然の別れはトラウマものだが、涙でモニターが曇るような事態に陥らず、本当に感謝している。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

 そのほか、人間からドラゴン、アンデッドまで、多様なユニットを集めて育成し、自分だけの部隊を作成できる点にも触れておこう。高低差のあるステージには、飛行できる有翼人部隊で挑んだり、魔獣や竜の調教に長けたビーストテイマーとドラゴンを組み合わせて敵陣に突撃させたりと、臨機応変に部隊を編成して攻略できるのは楽しい。

 本作はゲームバランスも絶妙で、一部のボス戦を除く前半のチャプターでのバトルは、演習でのレベルアップを挟まずともどんどん進めていける。そこで狙われやすいユニットのカバーのしかただったりスキルの効果的な使いかただったりを学ぶことで、尻上がりに難易度が上がる終盤での戦いを勝ち抜く力をつけるわけだ。また、マップのバリエーションの豊富さは緊張感を持続させ、各ステージをクリアーしていく達成感を高めてくれる。

 さらに、年末年始の休暇をフルに使ってもクリアーできないほどのボリュームである点も特筆すべきだ。地下100階への到達を目指す“死者の宮殿”や、島に隠された“禁呪”の解明、多数の素材を用いたアイテム合成など、多数のやり込み要素がある。

 そのうえ、前述したシナリオ分岐の網羅も目指すとなると、おそらく数ヵ月間は遊んでいられるだろう。パッケージ版とダウンロード版が5840円[税込]という比較的手頃な価格であることを考えると、非常にコストパフォーマンスの高い作品と言える。

【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】
【ネタバレ有】『タクティクスオウガ リボーン』理想のために同胞を殺せるか? 突きつけられた非情な決断が心をえぐる【おすすめゲームレビュー】

 発売日から連夜続く私の物語も、いまだ終わりを迎えてはいない。現在は死者の宮殿を攻略中となるが、恐らくこの原稿が公開されるころには踏破し、ヴァレリア島を巡る紛争も終局へと近づいていることだろう。

 そして、これまでの軌跡を振り返りつつボスを倒し、感慨深くエンディングを眺めたあとは、もう1度“New Game”を選択するつもりだ。まだ見ぬデニムの物語、そして新たな仲間との出会いを求めて。