レオフルより2022年12月15日に発売されたNintendo Switch版『鳥類弁護士の事件簿』。

 タイトル通り、主人公の弁護士ジェイジェイ・ファルコンが鳥ということで、トリわけ注目を集めているアドベンチャーゲームだ。なぜそんな一風変わった作品が生まれたのか、制作者のJeremy Noghani氏に開発の経緯を聞いた。

 ネタバレはないので、未プレイの方もご安心を。

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『鳥類弁護士の事件簿』とは

 動物たちが生活を営む、すこし不思議な19世紀のパリを舞台にしたアドベンチャーゲーム。

 ハヤブサの弁護士ジェイジェイ・ファルコンが事件を調査し、法廷では検事とバトルをくり広げていく。本作は、風刺画家J.J.グランヴィルの作品集『動物たちの私生活・公生活情景』をもとにしたキャラクターとクラシカルな雰囲気が特徴的。

 最初にリリースされたPC版から7年を経て日本語版がNintendo Switchにて発売された。

なぜ鳥なのか? 最初にして最大の疑問

――これまでさまざまな擬人化の作品を見てきましたが、鳥の弁護士というのは大きなインパクトを受けました。ファルコンたちは風刺画家J.J.グランヴィルの絵がもとになっているとのことですが、キャラクターとして登場させたいきさつをお聞かせください。

Jeremy Noghani古い本の挿絵を見ていて偶然J.J.グランヴィルの動物画に目が留まり、現代的で生き生きとした姿に心を奪われました。その動物たちをゲームに登場させるというコンセプトが生まれたのは当然の流れだったといえるでしょう。

――その中でも、鳥を弁護士や検事など司法に携わる職業に選んだ理由というのは?

Jeremy Noghani鳥を主役にしたのは、見た目が気に入ったという理由もありますが、鳥はおもしろくて魅力的な動物だからです。

 それに、動物に対してふだん私たちが抱いているイメージとは異なる役割を与える――具体的には“猛禽類なのに弁護士”というような意外性のあるキャラクターを主役に据えればおもしろいゲームになるだろうなと。おもしろいでしょう?(笑)

『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開

――ファルコンは市民を支える弁護士ですから紳士然としていますけど、本来ならハヤブサは狩りをする鳥なんですものね。ちなみに本作は革命も題材のひとつですが、J.J.グランヴィルが描いたファルコンの原画に添えられた文に“革命”の文字があることは関係していますか?

Jeremy Noghaniグランヴィルの絵に添えられた物語には当時の社会を風刺したものが多く、革命や不正、貧困などはよく使われたテーマです。

 その物語をそのままゲームに持ち込もうとは思いませんでしたが、グランヴィルの社会風刺の精神は大切にしようと心掛けていました。

 敬意を持って彼のキャラクターを使うにはそうするべきだと思ったからです。

――キャラクターといえば、会話中のアニメーションも本作ならではの要素ですね。おもに口もとが動きますが、原作の絵から表情を大きく変えてしまうのには抵抗があったということでしょうか。

Jeremy Noghani正直に言うと、当時の私の技量では、あれが限界だったからです。グランヴィルのように描けないのは当然でしょう!

 ですが、口の動きや振り返るといった動作はキャラクターを生き生きと描く上で欠かせないものなので、各キャラクターの個性を伝えられるような動きにはこだわりました。たとえば、狐が芝居がかった動作で本を閉じる姿は印象に残るのではないでしょうか。

――ああ、確かに! 狐のファン王子はキザッたらしい感じで本を閉じていましたね。そこだけでも個性を感じられましたし、アレンジされた部分なのに、元からそうであったように自然でした。

『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開

――著作権が消滅したパブリックドメインの絵を背景に使う手法も斬新に感じました。アレンジする際はどのような部分に気を使われましたか?

Jeremy Noghaniパブリックドメインの画像を使うにあたって、古い本やサイトを調べて物語の時代の背景としてぴったりなものを探すというのは、楽しい試みでした。ボタンやウィンドウの縁取りも、150年前のデザインなんです。とくにマップ画面の出来栄えには満足しています。高解像度での表示に耐えうるものを見つけるのに苦労しましたから。

――マップはパリの街並みを見下ろす、細密な絵でしたね。これも作品の雰囲気を高めていますね。

『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開
『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開
『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開

――音楽もすごく雰囲気とマッチしていました。作曲家サン・サーンスの『動物の謝肉祭』の曲を取り入れられているのですよね。また、オリジナル楽曲もそれらクラシックに溶け込んでいます。選曲や作曲で意識されたところをお聞かせください。

Jeremy Noghani作品のテーマを考えると、19世紀のフランスで生まれた有名な楽曲を使うアイデアは自然と生まれました。

 それ以外では、作曲家のリンドン・ホーランドに協力してもらってそれぞれのシーンやキャラクターにふさわしい楽曲を探しました。できるだけ物語の時代性を反映させるよう心掛けたのです。

 また、ファルコンの事務所のBGMとして、有名なクラシック音楽を使用してはあからさますぎると思ったので、雰囲気に合ったものをリンドン・ホーランドに作曲してもらいました。彼はすばらしい仕事をしてくれたと思います。

――1日の始まりを感じさせる静かで美しい曲ですよね。ところで、本作がPCでリリースされた当時は日本語版の配信予定はなかったそうですが、今回実現したきっかけとは?

Jeremy Noghaniオリジナル版の開発に使用したゲームエンジンの仕様のために、Nintendo Switchへの移植やオリジナル版のローカライズは不可能だと思っていました。ですが、あるゲーム業界のイベントで、移植を委託しているVertical Reachのスタッフと出会いました。彼らはビジュアルの向上や、新機能を搭載したうえでNintendo Switchに移植するというすばらしい成果を見せてくれました。

 その後、レオフルからローカライズを打診されたのです。オリジナル版を整備、改善したローカライズ版をNintendo Switchでリリースするというのは願ってもない選択肢でした。

――いいご縁に恵まれたと。それにしても、日本語訳がすばらしいですね。ダジャレなどは日本語独自だと思いますが、監修作業はどのようにされましたか?

Jeremy Noghaniローカライズをしてくれたレオフルの回答はこうです

 ――『鳥類弁護士の事件簿』へのローカライズを進める前に、まずはゲームをプレイし、スクリプトを徹底的に確認しました。具体的には、英語圏の文化になじみのないプレイヤーには理解しづらい慣用句やダジャレ、ジョークがたくさん含まれていましたので、ローカライズをおもに担当する翻訳者のためにそのような箇所に注釈をつける作業です。

 日本のプレイヤーができるだけゲームプレイに集中できるよう、自然でストレスのない表現を心掛けました。一部のキャラクター名が変わっているのも、そのままカタカナ表記にしてしまっては脚本家の意図を伝えられないからです。その結果、かなり自由度の高いローカライズとなりました。中国語へのローカライズも同様のプロセスで進めました

 翻訳完了後はスクリプトを1行ずつ確認し、フォントの種類は表示サイズ、表示速度なども調整しました。

 また、英語版のファンだと公言していた『はーとふる彼氏』のクリエイター、Moaが翻訳のチェックを行い、フィードバックを提供しました。Moaと翻訳者、私の3名で英語版スクリプトと照合し、ちゃんと意味が通っているかを確認しました――

――安心の“トリ”プルチェック! 本作は、長いセリフは文字サイズを小さくしてウィンドウに収まるようにしていますよね。変なところで改行されるなんてこともなくて、とても読みやすかったです。あの『はーとふる彼氏』のMoa氏はファルコンたちを描いた記念イラストも公開されていますね。

名作に国境なし! 凸凹コンビの誕生ヒワ

――作中には「異議あり!」や、ハシゴのネタなど、『逆転裁判』シリーズのオマージュが見られますが、やはり思い入れがあったのでしょうか。

Jeremy Noghaniもちろん、大好きなシリーズです! 多くの欧米人と同じく、私もニンテンドーDSの『逆転裁判』から始めましたが、 『逆転裁判3』がいちばん好きな作品です。

 『鳥類弁護士の事件簿』には『逆転裁判』へのオマージュをいくつか込めましたが、このゲームならではの個性を発揮できるよう注意を払いました。みなさんにこのゲームのいいところが伝わるとうれしいですね。

『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開

――やはり世界中で人気なのですね。本作の主人公ファルコンと助手のスパロウソン君はとてもいいコンビで、『逆転裁判』の成歩堂龍一と綾里真宵も思わせます。本作のファルコンとスパロウソン君はどんなコンビにしようと考えて作られたのでしょうか。

Jeremy Noghaniファルコンとスパロウソンの性格は、グランヴィルの絵から受ける印象で決めたと思います。スパロウソンは生意気で好奇心旺盛な表情をしていると思いませんか?

 対して、ファルコンはストイックでありながら自分でも何をやっているのかわからず、すこし困惑しているような表情をしています。理想主義者と現実主義者、楽観主義者と悲観主義者……といった対比が伝わるよう心掛けました。

『鳥類弁護士の事件簿』開発者インタビュー。エキセン鳥ックなアドベンチャーが孵化したトキの話をドバッド公開

――ファルコンが酒場で管を巻いているあいだスパロウソン君は焼きたてクロワッサンを買っていたりするのもその表れですね(笑)。ちなみに物語はマルチエンディングですが、多くのプレイヤーが最後に到達しそうなあるルートが、あのような結末なのが驚きです。エンディングの順序は意図されたものですか? 

Jeremy Noghani目標は、プレイヤーたちが最初に行きつくエンディングが均等に分かれるようにすることでした。ほとんどのプレイヤーは正統なプレイをし、それにふさわしいエンディングに到達すると思います。

 ですが、なかには「どうなるか見てやれ」と、つねに「いいえ」を選ぶあまのじゃくなプレイヤーもいます。そういうプレイヤーのために、予想から大きく外れるであろうエンディングを用意しました。改めて考えると、暗すぎるエンディングかもしれませんね(笑)。

 でも、3つのエンディングがそれぞれまったく違うトーンだからこそいいのだと思います。プレイヤーによって到達するエンディングの順番は異なるでしょうから、好きなエンディングもそれぞれだと思います。

――今後、新たなエンディングが加わる可能性はありますか? また、スタジオの次回作についてお聞かせください。

Jeremy Noghaniいまは動物をテーマにした別の作品、といっても今度はRPGですが、『Small Saga』を作っています。移植チームは『Tartarus Key』というホラーゲームを開発中です。

 今後のことははっきりとは言えませんが、何らかのタイミングで『鳥類弁護士の事件簿』の開発に戻りたいですね。

――新作、続編も期待して待っています!

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