著名クリエイターがデザインしたおもちゃがオマケとして付いている“クリエイターズグリコ”が江崎グリコより発売中。

 そのひとつに、『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二氏が手掛けたものがある。『DQ』を思わせる中世風の部屋に、鎧や宝箱、椅子を置いたり壁をカスタマイズできるという、遊び心のあるミニ・ジオラマとなっている。その発売を記念してインタビューを実施した。

 堀井氏のさまざまな思い出話をうかがうとともに、『DQ』シリーズにも多くある多彩な“オマケ”にまつわるエピソードを直撃!

※記事内では『ドラゴンクエスト』を『DQ』と表記し、副題を省略している場合があります。

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堀井雄二 氏(ほりい ゆうじ)

1954年生まれのゲームクリエイター。1983年に『ポートピア連続殺人事件』を開発しゲームクリエイターとしてデビュー。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』、『軽井沢誘拐案内』の“堀井アドベンチャー三部作”を手掛けたのち、1986年に『ドラゴンクエスト』をエニックス(当時)よりリリース。国民的RPGシリーズを生み出した。現在、『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』ほかを開発中。(文中は堀井)

堀井さんに聞くグリコの話

――僕は人生で初めてプレイしたRPGが『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』でして、直接お会いできてとてもドキドキしています。

堀井DQV』というと、スーパーファミコンで?

――ええ。

堀井どっち選びました?

――ビアンカでした。

堀井やっぱりビアンカですよね(笑)。だいたいビアンカを選ぶようにシナリオを書いたんですけど、けっこうフローラ派も多くてびっくりしました(笑)。

――(笑)。本日は『ドラゴンクエスト』などゲームのお話もお聞きしつつ、クリエイターズグリコについてのインタビューとなっております。グリコは歴史の長い商品ですが、「こういうグリコのおもちゃを持っていたなあ」という幼少期の思い出はあるでしょうか?

堀井建物の造形物があった気がしますね。五重塔とか、船とかいろいろなおまけがあったと思います。当時、プラスチック素材が出たばかりで、そういう細かな造形物がたくさん増えたのですよね。やっぱりあの、キャラメルにおまけが乗っているというデザイン、ボックスのデザインが好きでしたね。

――ステージでは鉄人28号のお話などもされていました。どういうおもちゃを持っていたか、かなり詳しく覚えているのですね。

堀井そうですね、箱を開けるときのうれしさとか覚えていますね。おもちゃでいうと、ただのモノではなくて、動かせる、可動できるもののほうが好きでしたね。

――組み合わせて遊べるものとか。

堀井そうそう、パーツとパーツを組み合わせたりね。今回のクリエイターズグリコも、バリエーションの壁や床、小物を組み合わせて好きな部屋を作れるというものにしました。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る
『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る
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『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

――ステージで公開されていた企画イラストでは、壁や床などのパーツだけではなくて、部屋ごといくつも組み合わせてエリアを広げていけるようなイラストも紹介されていました。

堀井最初はそういうアイデアだったのですが、やっぱりコストなどを考えると実現が難しいようで、現在の形に落ち着いたんです。アイデア段階では、置ける小物としてタルも置きたかったんですけどね(笑)。

――タル、いいですね(笑)。小物にはそれぞれカラーバリエーションが数パターンあると。宝箱は中が金色になっていて、細かい塗装もすごいですね。

堀井凝ってますよね。

――『ドラゴンクエスト ウォーク』のマイハウスみたいにレイアウトを楽しめますね。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る
『ドラゴンクエスト ウォーク』マイハウス

――今回のお話というのはどういう経緯で?

堀井直接お話をいただきまして、「楽しそうだからやる!」と、ふたつ返事でオーケーしました。ほかの方のおもちゃを見て、コストとか気にしないで「もっと凝ればよかったな」と思いましたが(笑)。

――堀井さんのものもとても凝っていますよ! 今回の商品では『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』の開発でごいっしょされていた、レベルファイブの日野晃博氏もご参加されていますね。

堀井日野さん、かわいい人形作っていましたね。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る
『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

――そこのつながりで話が来たのかと思いましたが直接だったわけですね。

堀井そうそう。ところで話を戻しますが、タツナミシュウイチさんの、プログラムがブロックでできるおもちゃとかもすごいですよね(“さわれるビジュアル プログラミング”)。僕は鉄道模型が好きなので、情景が作れるものも興味を惹かれましたね。

――ジオラマがお好き。

堀井鉄道模型をかなり作っていたときもありましたし、あとは木製の帆船模型も。あれって作るのにすごく時間が掛かるんです。本物の船を作る工程といっしょなんですよ。板を丸めていったり、貼ったりと。

 途中まで作ったんですけどさすがに辛くなって、完成品を買ってしまいましたね。

――(笑)。

堀井100時間くらい製作に掛けたんですけど。

――途中まで作った上で完成品を買っちゃうと、途中まで作ったものも、それはそれで残っているわけですよね?

堀井置いてある、置いてある(笑)。作ったりするの楽しいんですよ。分冊百科ってあるじゃないですか。あれもついつい買っちゃうんですよ。

――最近なにか買われたものは?

堀井鉄道模型と……“中世の街を作る”というのを何冊か買ったんですけど。あれもすごくて、レンガをひとつひとつ貼っていくんですよ。

――たいへん(笑)。

堀井作りながら「細かいな~」と思って。時間ができたら作ろうと思っているのですけど。それこそ完成品で売っていないかなと思って探したんですけど、なかったんですよ。誰か作ってほしいですね(笑)

――そのほかに過去にハマった趣味というのは?

堀井いろいろありましたねえ。カメラにハマったときは、自分で現像までやったんですよ。暗室で焼いたりして。酢酸という食酢の何100倍も酸っぱい、匂いの強い液を使ってね、ちゃんと洗わないと茶色くなってしまうんですよ。モノクロだったので。いろいろ撮っては焼いて、やっていましたね。模型も作ったし。

 最近は時間があるとテレビドラマを見ていますよ。NetflixとかU-NEXTとかいろいろありますよね。トレンディードラマを観ています。『silent』とか『アトムの童(こ)』とか『ファーストペンギン!』とか

――おお、『アトムの童(こ)』もご覧になっているのですね。

堀井おもしろいですよね、ゲームづくりの話で、ゲーム業界が舞台になっていて。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

ゲームに入れ込むオマケ要素

――『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』のふくびきけんや、ゲームボーイ版『DQIII』のモンスターメダルなど、ゲーム中にも“オマケ”的なものが登場する作品があります。物語の本筋には関係ないけど、あるとちょっと楽しい要素を考えたり入れ込むのはお好きなのでしょうか?

堀井そうですね、『ドラゴンクエストIV』からカジノを入れたりね。ちょっと息抜き的なことができるといいと思って。すごろくを入れたこともあったしね。

――スーパーファミコン版『DQIII』などにありましたねえ。ファミコン版の『DQI』や『DQII』のころは“容量との戦い”とよく言われたと思うのですが。

堀井ええ。

――それでも『DQII』からふくびきけんが入っていたというのは、やっぱりこだわりで?

堀井こだわりです。グラフィックチームから「こういうのできるよ」と言われて実装したのですけど、やっぱり、通常のコツコツレベルを上げてゴールドを貯めて装備を揃えて……というのに比べると、ズルっこですよね。スロットを当てるとそっちのほうが得だというのは。

 でも、そのズルを許しちゃう。ズルができたほうが人間ってなぜかがんばるんですよね。

――なるほど。長い『ドラゴンクエスト』シリーズの開発の中で、「本当はこういうネタを入れようと思ったんだけど入れられなかったな」と、ボツになったアイデアというのはありますか?

堀井そうですねえ、『ドラゴンクエスト』の中に『ポートピア連続殺人事件』みたいなアドベンチャーを入れようとしたことがありました。ですが、それこそ時間と容量の制限で入れられなかったですね。ちょっとそのエッセンスを入れ込んだイベントもあるんだけど。

――『ポートピア連続殺人事件』には急に地下ダンジョンが出てきますが、それの逆の構造で(笑)。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

堀井あと『軽井沢誘拐案内』の終盤はRPGにしちゃったりしましたね(笑)。『軽井沢誘拐案内』は僕がひとりで全部作った最後のゲームでした。絵も描いてシナリオもプログラムもして、まったくひとりで作ったんですよ。あれはPC-8801で作ったんじゃなかったかな。

――へええ。

堀井オホーツクに消ゆ』では『LOGiN』(※)の連載企画で、北海道に現地取材に行ったりしましたね。

※……LOGiN(ログイン)。アスキー出版(当時)より発売されていたPC専門雑誌。ちなみに、ファミ通はもとを辿っていくと『LOGiN』の1コーナーだった“ファミコン通信”が独立して雑誌化される形で生まれたのだった。

堀井さんの幼少期の思い出話

――思い出話でさらにさかのぼってみますが、幼少期のころグリコ以外にも好きだった駄菓子とかお菓子とかっていうのはありますか?

堀井パッケージに付いてる当たりを集めるとおもちゃがもらえるお菓子ってあったじゃないですか。

――ありますね。

堀井あれがね、かんたんに当てられない物があったのですよ。トリがしゃべるんですよ。おそらく中に小さなレコードが入っていて、電気的じゃないんですけど、引っ張るとしゃべるんですね。「こんにちは」とかいろいろ言うんですよ。すごく楽しかったですね。

 あとはラジコンの景品。他人が持ってるのを見て、すっごく羨ましかったんですよ。

――ふふふ。

堀井当時ラジコンって夢があったんですよ。線がついたリモコン式のおもちゃはそれ以前からもあったんですけど、ラジコンは「ええっ線がなくて動くんだ!」という驚きがありましてね。ラジコンには夢がありましたね。

――当時というのはどういったお店で買うわけですか。

堀井商店街の中にお菓子屋さんがあって、向かい側におもちゃ屋があったんですよ。そこで買っていたんですけど、いつのまにお菓子屋さんがケーキ屋になってしまって、その後はジャスコで買っていた気がしますね。

 そうそう。ある日、おもちゃ屋さんに『赤胴鈴之助』(※)の鎧があって。

※1954年連載開始の少年マンガ。北辰一刀流の少年剣士・金野鈴之助が主人公。鈴之助が父親の形見である赤い胴を身につけることから“赤胴鈴之助”と呼ばれた。

――おお。

堀井それを買った覚えがありますね。鎧ってなんか高そうに思うじゃないですか。それがなぜか30円で売っていたんですね。

――30円!?(笑)

堀井そう。それで「えっ30円! やったあ!」と思って急いで30円取りに帰って買った覚えがありますね。子どもが身につけられるサイズの道着のようなものでしたけどね。在庫処分だったのかな。

――時代的には、子どものころには電子ゲームというのはなく、電子ゲームが出てくるのは堀井さんが学生のころでしょうか。

堀井PONG』を見たのは高校生のころですね。ダイヤル式で遊ぶ対戦ゲームの。あれを友だちが持っていたんですね。

 大学に入ると『ブロック崩し』にハマりました。当時のゲームってゆるくて、僕が行っていたお店では1回50円で、決まった点数以上を出すとリプレイができるんですよ。ということはうまくなればなるほど、50円で何回でもプレイができるんですよ。

――そしてご自分のPCを買って「自分でもゲームを作ってみようか」と。

堀井最初にPCを買ったのは27歳のころですね。大学を卒業してしばらく経ってから。マイコンというのが流行り始めて。

 26歳のころのお正月の新聞に“これがマイコンだ!”というマイコン特集の記事が掲載されていまして。僕はそのころマンガの原作をやっていましたから、その記事には“マイコンに物語のプロットを作らせている”ということも書いてあって、「えっそういうこともできるの!?」って買ったのが“パピコン”とも呼ばれていたPC-6001というPCです。

――相当高価だったのではないですか?

堀井あの機体はテレビに接続できて、ブラウン管のモニターがいらなかったんですよ。だから本体だけで10万円くらいで、まだ買える範囲だったんです。本当に本格的なPCを揃えようとすると、本体と、モニターと、ハードディスクドライブで120万円くらいしましたから。

――おお、それに比べるとだいぶん安いですね。

堀井気軽に買えたわけですよね。

――とは言っても、当時おそらく大卒初任給が数万円の時代ですよね。

堀井ライターをやっていて、そこそこ稼いでいたので(笑)。

――(笑)。

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

『DQ』シリーズの最新情報は……?

――最後に、まだなかなか言えることは少ないと思いますが、『DQXII』やHD-2D版『DQIII』の続報などは……?

堀井『DQXII』もHD-2D版『DQIII』も、どちらもがんばって作っています! まだあんまり言えないけど。『DQIII』がそう遠くない時期にまた続報がお届けできるかと。『DQIII』も大きな期待を寄せていただいているようでありがたいです。

――すごく楽しみにしています。

堀井いままでって、『DQI』、『DQII』、『DQIII』っていう順番で移植・リメイクしてきたんですよ。

――スーパーファミコンやゲームボーイでも、『DQ I・II』が出た後に『DQIII』が発売されるという流れでしたね。Wiiでは『DQ I・II・III』というパッケージもありました。

堀井でもその3作の中ではやっぱり『DQIII』がゲーム的にいちばん完成度が高いので、今回は「いきなり『DQIII』で行っちゃえ~!」って(笑)。

――ははは。

堀井今回は、逆の順番で『DQIII』を遊んだ人が『DQI』、『DQII』と遡って遊んでもらえるといいなと思っていて、じつはそのための仕掛けも用意しているんですよ。『DQI』『DQII』『DQIII』と順番に遊ぶことで、『DQIII』でわかる仕掛けがあったじゃないですか。

――ええ、はい。

堀井こんどは逆もやりたいなと思って。『DQIII』から始めて『DQI』、『DQII』も遊ぶと「おおっ」となるようにしたいなと。

――おおお、楽しみにしています! リメイクとなるHD-2D版『DQIII』も、きっちり堀井さんが開発に加わっているわけですね。

堀井はい。関わっています。

――HD-2Dで描かれる『DQIII』は、堀井さんの目から見ていかがですか。

堀井キレイですよね。それこそジオラマっぽくもあるというか。

――確かに! 夜のアッサラームとかすごくきれいな街並みになりそうですよね。あ、あと、HD-2Dで描かれるぱふぱふも期待しています!

堀井ありがとうございます!

『ドラゴンクエスト』堀井雄二氏が“グリコのおもちゃ”を制作! ゲームにも活きるオマケ的発想の根源と『DQ』最新情報に迫る

[2022年12月7日21時]
一部文言を追加しました。