2022年11月12日に福岡県・九州産業大学にて開催された、CEDEC+KYUSHU 2022。本イベントは、日本最大のコンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンスとしておなじみのCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)の九州版だ。
セッションのひとつとして、フロム・ソフトウェアによる“狭間の地へようこそ!「ELDEN RING」におけるオープンフィールドおもてなし術”が披露された。登壇したのは、フロム・ソフトウェアの福岡スタジオに所属するチーフ3Dグラフィックアーティスト・宮内 淳氏、ビジュアルアーティスト/モーションデザイナー・森田鉄平氏だ。
書籍『ELDEN RING OFFICIAL ART BOOK Volume I』の購入はこちら(Amazon.co.jp) 書籍『ELDEN RING OFFICIAL ART BOOK Volume II』の購入はこちら(Amazon.co.jp)飽きない背景でプレイヤーをほんのり誘導
『エルデンリング』と言えば、2022年6月末の時点では世界累計販売1660万本を突破した、大ヒットタイトル。『DARKSOULS(ダークソウル)』シリーズの流れを汲みつつ、オープンフィールドで冒険をくり広げていくアクションRPGだ。
『ダークソウル』シリーズは基本的には用意されたレベルデザインを進むゲームとなっており、ステージの最奥にいる大ボスを目指しながら、中ボスを倒したり、脇道を探索してみたり、ときにはショートカットを解放するなどして、ゴールを目指すゲームだった。
『エルデンリング』はプレイヤーが自由な選択を取ることができ、ゲーム開始からいきなり大ボスに向かってもいいし、大ボスそっちのけで探索やバトルに没頭してもいい。そのため、プレイヤーたちを飽きさせずに毎回新鮮な体験をしてもらうには、いろいろと工夫がいるようだ。
飽きさせない背景作り
まずは背景について。
広大なオープンフィールドで描かれる本作では、必然的に移動する時間も多くなる。フィールドに同じような風景が続くと「同じ景色ばかりだな」とプレイヤーは飽きてしまいがち。そこで、大・中・小に分けたさまざまな工夫で対処した。
大の部分では、まず各エリアごとにテーマカラーや雰囲気を変えて、大きく特徴付けした。これらはストーリーの区切りが付いたことも感じさせるようにしているという。たとえば
- “リムグレイブ”は緑をテーマに雄大な草原が広がりつつ黄色がかった空。
- “湖のリエーニエ”は広大な湖が広がり、青をテーマにクリスタルや濃い霧などを採用。
- 不気味な植物や骨が並ぶ“ケイリッド”は赤をテーマに。
- “アルター高原”は黄色がテーマ。
と、大きく分ける工夫がなされているのこと。
“ランドマーク・中”になるのは、有用なアイテムがある砦や、商人がいたり祝福(チェックポイント)がある教会など、なるべくプレイヤーに立ち寄ってほしい場所を指す。
ここを少しだけ目立つようにして、遠くからでも視認できるような目標に調整。こちらは“ランドマーク・大”ほどに派手ではないが、キメの絵となるスポットでは視認できるようになっている。
“ランドマーク・小”は、敵が少し固まっている野営地、ちょっとした洞窟などの小規模な場所。見つけにくい場所もあるので、多彩な方法でプレイヤーを誘導している。洞窟の入り口に松明を設置したり、調べると道筋を教えてくれる像や幻影があるのもそれに該当する。
ほかにも、光るアイテムやスカラベなどを適宜置いて、細かくプレイヤーの目に留まる要素を用意した。これらのおかげで、どこへ行っても飽きが来ない景観づくりを心がけたという。
建物や探索要素について
また、冒険の中で重要な場所となる、ランドマークにも気を配ったという。本作はあくまでプレイヤーの自由な選択で冒険を進めるものだが、その最終目標や冒険の中で重要となる場所は、地図やUI(ユーザーインターフェイス)に頼らず背景で魅せることでほんのり場所を促している。こちらも、大中小に分けて用意したそうだ。
“ランドマーク・大”は、進行上で必ず訪れることになる巨大なダンジョン。各エリアのゴールと言ってもいいだろう。そのため、かなり遠くからでも視認できるようになっているほか、エリアを移動した際に印象に残るような画面作りにした。
たとえばゲーム開始後、初めてリムグレイブの地に立つと、まず遠くに巨大ダンジョンのストームヴィル城があることがわかるようになっている。また、リムグレイブ→湖のリエーニエに行く際の崖からは、魔術学院レアルカリアがど真ん中に位置するような風景に。印象的なビジュアル体験とともに、プレイヤーのゴールがわかるようになっている。
ちなみにフィールドには巨大ダンジョンへたどり着ける道しるべとなるように、街道が設置されている。もし道に迷っても、街道を辿ればおのずとたどり着けるようになっているという。また、ランドマークとなる建物は、基本的にどこから見ても印象的に視認できるように調整したそうだ。
ランドマーク・中
ランドマーク・小
といったように、目標への誘導強度を変えることで、プレイヤーの自由な選択を実現。まずはランドマーク大を目指してもらい、その途中にランドマーク中が目に入るので、そこに立ち寄ろうとする。その道すがらでランドマーク小を発見し……と、冒険の目標の中で、新たな目標を発見できるように、プレイヤーの意思決定を阻害しない程度に、ゆるやかな誘導を取り入れたのだとか。
ちなみに内部的には、メモリ確保がかなりキツかったのだとか。『ダークソウル』シリーズでは、確保したメモリをフルに使って背景を制作し、オーバーした場合はそれを調整、という流れで制作。
『エルデンリング』は制作中、拠点や砦などのスポットが増えたり位置が変わることも多かったため、絶対的な背景に約半分程度のメモリ、ユニークな建物などに約半分、と割り当てたそうだ。少ないメモリ量で背景を実現するため同じ岩のパーツを組み合わせや置きかたを変えて地面にするなど、多彩な工夫が取り入れられているという。
泥臭くもカッコイイモーションづくり
続いてはキャラクター編。背景が個性的ならば、その世界観に合う個性的な敵キャラクターも重要となる。今回はモーションとカットシーンの部分から、キャラクターへの個性付けが語られた。
『エルデンリング』の全キャラクター共通となるモーションのコンセプトは、泥臭いカッコよさと、殺気。“泥臭い”というのはあいまいな言葉ではあるが、本作では飾り気がなく、生きるために必死で、本能的な動作を示したという。この範囲の中で、いかにカッコイイモーションにするのかがポイントとなる。
星砕きのラダーンは、まさにプレイヤーを殺しに来る存在。なりふり構わず剣を振り下ろす姿は、非常に泥臭い。一方で待機モーションは、戦いに自信のあるラダーンだからこそ、どっしりと構えたカッコイイ姿にしたという。
“殺気”の演出では、手加減のない攻撃や、刃がつねにプレイヤーに向けられているようなことを気を付けたという。敵と対峙したときに恐怖や緊張感を味わってほしくて、モーションを作っていったそうだ。
また、モーションから各キャラクターの特徴強化も実施した。各敵キャラクターのモーションデザインは、基本的にはデザイナーがひとりで専任されていたそうで、実際にどのような提案をしたのかが語られた。
巨人の“ミミズ顔”は、武器を持っておらず、自分の身体で攻撃するうえで“殺気”を感じさせる必要があった。“理性がない”というところから、自分の頭を叩きつけるような攻撃モーションにしたという。また、恐怖感の演出のために、頭をかきむしるなどのモーションも取り入れた。プレイヤーを捕らえ咀嚼する攻撃での死亡時にはプレイヤーを飲み込むようにして、インパクトも残したという。
“接ぎ木の貴公子”は、複数の腕があるキャラクター。それでいて元王子らしい剣技、そして歪みのある動きが求められたという。ゲーム中にも実際に採用されたモーションの一部は、当初見せたところディレクターからはOKが出なかったという。
そこで、虫のようなモーションを取り入れた。複数ある腕を捻ったり、ウネウネと這いずり回る、ゲーム中でも見られた“接ぎ木の貴公子”の気持ち悪さが演出され、キャラクター性がより強まったのだ。
カットシーンでのこだわり
バトル中だけでなく、カットシーンでのモーションでも個性を付けつつ物語が語れるという。カットシーンのモーションは、プレイヤーのカメラ操作がないので、よりどこかに注目して魅せることができる。また、バトル中にはない特別な動きを付けることも可能だ。
大ボスのひとりである“接ぎ木のゴドリック”は多数の腕を持ち、王らしい風格がありながらも力を欲している存在。多数の腕については、いきなりそれを見せるのではなく、見たときにインパクトがあるように、ジワジワと匂わせる手法を取った。
登場シーンでは、カットごとに竜を撫でる手があること、斧を使う手が2本存在すること、そして最後に隠れていた無数の腕が見えることで、異様さをより際立たせている。
それらの“異様”な要素は、カットシーン外でもじわじわ感じられるようにしたという。たとえば、近くにいるキャラクターからは「蜘蛛」と称されていることがわかるほか、ゴドリックの城には袋に包まれた、またはブラ下げられた死体が無数にある。
そういった描写からもゴドリックの特徴が強化されているというわけだ。
また、当初ゴドリックのキメシーンは、製品版とは異なるポーズだった。制作初期のビデオコンテも公開され、単純に構えるだけのゴドリックが見て取れた。そこから王としての風格出すため、斧をドッシリと構える王の風格漂うポーズに変えられている。
当初のポーズは、コンセプトアートのポーズを参考に作られたもの。デザイン画としては十分見栄えのあるものなのだが、それをモーションに落とし込むと風格が足りなかったのだとか。思い切って大物感漂うモーションに変更したことで、現在のゴドリックらしいポーズになった。
“力を欲している”という部分は、ゲーム内テキストからも見れる設定。竜の力を欲しているときには、本当に「欲しい!」と思っているような、力を渇望しているポーズを取っている。このシーンは、戦闘中盤にゴドリックが竜を腕に装着するシーンにもつながっている。冒頭で予兆を感じさせながら、戦闘中に弱き男が自らの腕を切り落とし、竜を自分のモノとする、という一連の流れを演出した。
さまざまな手法やモーションを取り入れることで、プレイヤーの印象に残りやすいシーンにしつつも、キャラクター性がより強調されているように思う。
といったところで、最後のまとめへ。
“つねに刺激に満ちた冒険を届けたい”というコンセプトを実現するために、フィールドの多彩な変化と発見、そして特徴的な敵とのバトルについて語られた。『エルデンリング』に詰め込まれた“刺激”は、まだまだほんの一部だ。
すべての要素において、「ひとつひとつ丁寧に向き合うことを心がけています」と語られ、本セッションは終了となった。