いきなりドキュメンタリー番組みたいな写真から記事を始めてみた。
“人”を題材にしたドキュメンタリー番組が好きなのだ。実直に手を動かす職人や縁の下の力持ちがスポットライトを浴びる番組なんかは、見ていて泣きそうになる。
「かっこいいなー」と思うあまり、その業界全体も魅力的に見えてくる。魔法みたいである。この魔法を活用すれば多くの人がオンラインゲームに興味を持つと思うが、映像コンテンツを作るのはたいへん。
そこで、冒頭のドキュメンタリー番組風写真である。取材記事の合間に挟む写真を加工してドキュメンタリーっぽくしたらおもしろいのではないか。
この写真がSNSでバーッと拡散されたら、「どんなゲームなんだろう」と興味を持ってもらえる可能性もある。そんな蜘蛛の糸より細い可能性を信じつつ、魔法を使ってオンラインゲームファンを増やしたい。
※本稿は2015年7月に制作した記事に少々の修正を加え、再掲載したものです。肩書等は当時のままにしてあります。
写真をドキュメンタリー番組っぽくする方法
誰をネタにしようかと考えて、最初に思いついたのが、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの中村聡伸さんだ。PC用MMORPG『ラグナロクオンライン』(以下、RO)好きが高じて『RO』運営チームに所属することになった彼は、生放送などで人前に出ることも多く、熱心なプレイヤーにはおなじみの存在である。
あまり『RO』を知らない人が、中村さん(ひいては『RO』)に興味を持つように、ドキュメンタリー風に紹介していく。
中村さんの前職はPCゲーム雑誌ログインの編集者。手始めに彼と『RO』の出会いをドキュメタリー番組っぽくしてみよう。
彼と『RO』の出会いは2002年にさかのぼる。当時は開発元の韓国GRAVITY社が日本でのβテストを直接行っていた。既に遊んでいたプレイヤーのイラストやプレイ日記をネットで見かけたのがきっかけだ。
ガンホーさんが日本での運営を引き継ぎ、日本語サポートを強化してβ2テストが始まった2002年8月、プライベートで遊んでいた彼の感性に、ログイン編集者としての本能がクロスオーバーする。
中村さん「これからは日本人のプレイヤーも絶対に増える。紹介しないとログイン魂がすたる」
出ました名言! これをドキュメンタリー風にするとこうなる。
ぐっと迫力が出た。ドキュメンタリー風にする方法を研究したところ、
- 写真のコントラストを強くする
- 写真のなかの1色を強調するなどして印象的に
- 画面上部の左右にロゴや内容を端的に表したテキストを入れる
- 印象的なセリフを字幕表示
こういった法則が見えてきたので適用してみたのだ。研究したといっても録画してあった番組を見ただけである。新潟の研磨職人がかっこよかった。“ドキュメンタリー”で画像検索したら、似た雰囲気の画像がたくさん出てきたので間違ってはいないと思う。
それでは、小細工を駆使して中村さんの半生をまとめていこう。
『RO』に寄り添った連載記事“わくわくラグナロク”
「ゲーム雑誌の編集者として、いちばんおすすめしなきゃならないのは『RO』だ」という使命感に突き動かされ、中村さんは連載記事を始めたいと上長に直訴した。
こうして始まった『RO』記事“わくわくラグナロク”は長期連載企画に成長。ほかにも特集記事やムックの制作もひとりで取り仕切ることになる。
中村さんはほかにも多数の担当タイトルを抱えていたため、『RO』のプレイに時間を割けない時期もあった。それでも『RO』に対するモチベーションは下がらない。それはなぜか。
『RO』に接するうえで、中村さんはあるこだわりを胸に秘めていた。会社ではほとんど『RO』に触れず、プレイするのは自宅に帰ってから。彼にとって、あくまでもプライベートで遊ぶことが大切だったのだ。
仕事とプライベートを切り分け、ある意味ではドライにゲームと接してきた中村さん。彼がプライベート側に置いた唯一のゲーム、それが『RO』だったのである。
中村さん「必要ならつぎは私が解説しますよ」
あるとき、中村さんに転機が訪れる。大規模な対人戦大会“RJC”で、2006年から解説を務めることになったのだ。
“大量の情報を咀嚼して、理解しやすいように順序よくアウトプットする”という行為は、記事作りにも似ている。2005年大会の終了後、広報担当者からメールで感想を問われた中村さんは「もう少し実況と解説で場を盛り上げてみては? 必要ならつぎは私が解説しますよ」と返信したのだという。すごい自信である。
なお、密着取材している感を出すために、この辺から会議室以外の写真も使用する。「いろいろな場所でインタビューしているんだな」と思い込みながら読んでほしい。
RJC2006でついにプレイヤーの前に姿を現した中村さん。大会の賑やかし要員かと思いきや、知識が豊富でしゃべりも軽快。見ている人は「誰だこいつは」と思っただろう。
ちなみに、中村さんの『RO』知識量は業界内に知れ渡っていて、取材でいっしょになったライターと雑談していた内容がそのまま他メディアに載ったこともあるらしい。敵に塩を送りまくりである。
ゲーム雑誌編集者から『RO』運営メンバーへ
ログインは2008年5月発売号をもって休刊。中村さんはエンターブレイン(当時の社名)を離れることになり、担当していたメーカー各社に退職の連絡をした。
この1通のメールがガンホーさんの偉い人の目に留まり、「うちに来てもらおう」という話に発展する。ドラマチックに表現するとこんな感じだろう。
「運命が、動いた」。日本語として微妙におかしい気もするが、読点を挟むと深い意味のありそうな言葉になる。
- ボウリングでガターを連発していたが、最後に球の重さを変えた→運命が、動いた
- 目玉焼きにしょうゆをかけた→運命が、動いた
- アイドルポスターにキスをしていたらお母さんに見られた→運命が、動いた
悪くない。表現に困ったら今後も使おう。
閑話休題。その後、さらに偉い人による面接を受けることになった中村さん。「ガンホーに入社してやりたいことは?」に対する回答がまたドキュメンタリー番組っぽくていい。
『RO』にはばかが足りない。ばかは少ないほうがいい気もするが、とにかくガンホー上層部は心を動かされた。それでいいのか。
無事に入社が決まった中村さんは、エイプリルフール企画を始めとする飛び道具系を担当することになった。変なキャンペーンの陰には中村さんが潜んでいる。
エイプリルフール企画なんかはゲーム系以外のメディアにも取り上げられやすいし、広報戦略の幅が広がったのは間違いないだろう。ばかが役に立っている。
中村さんは入社3日で新施策に関するインタビューを某メディアから受けるなど、いきなり中核メンバー入りを果たしている。信頼を得るのが早すぎだ。
現在の中村さんのおもな担当分野は、Webサイトやブログといった公式として情報を出す部分。テキスト執筆や情報収集には編集者としての経験がばっちり活きている。
プレイヤーの動向をブログやSNSでチェックするうえで、重要なのは発言の背景を考えること。「こういうアイテムがほしい」という意見があったとして、“なぜほしいのか”、“何が不満なのか”を突き止めないと、的外れな対応になりかねない。
それと、もうひとつ気をつけているものがある。言葉だ。人は無意識のうちにネガティブな言葉を使ってしまう。Webサイト用の原稿などでは、可能な限り前向きな言葉に直しているという。
たとえば、「○○と○○は禁止です」は裏返せば「○○と○○以外はオーケーです」と書ける。「18歳未満立ち入り禁止」よりも「18歳以上の方は入場できます」のほうが明るく感じる。
楽しい遊びを届ける業界なんだから、ポジティブな言葉を使いたい。「ばかには自信があります」とか言ってた人の口から出た言葉とは思えない。
世界チャンピオンがガンホー社員になった
中村さんの場合はRJC以前からガンホーさんと付き合いがあったわけだが、RJCやRWC(RJCは国内大会、RWCは世界大会)そのものが縁で入社した人もいる。『RO』運営チームの栗山知也さんだ。
彼は2012年に韓国で開催されたRWC2012の優勝ギルド“Greensleeves”メンバー。つまり元世界チャンピオンである。
プロスポーツ選手でいうところのセカンドキャリア真っ只中。彼の選手としての原点や現在の仕事ぶりに迫りたい。
人とは少し違うプレイスタイル&ロジック
2003年頃、友だちが遊んでいるのを見て『RO』に興味を抱いた栗山さん。「自宅で人とゲームができるなんて」と時代の流れを感じつつ、狩りやアイテム集めを楽しんでいた。
プレイヤーが有志で開催していた対人戦イベントに興味を持ち、栗山さんは徐々に対人戦にのめり込んでいく。バランスやルールが整備されていないインディー対人戦時代。わいわい感が楽しかったのだと思う。
ふとしたタイミングでRJCの存在を知った彼は、こう思ったそうだ。
「出場しようかな」ではなく「優勝しようかな」。この時点で読者の共感を得られないのは確定的だが、強い気持ちで書き進めたい。
栗山さんの思考の根底には、負けず嫌いな性格があるという。負けたらつぎは絶対に勝つ。“勝ちたい”ではなく“勝つ”。負けるたびに強くなっていく。そういうキャラ、バトルマンガで見たことある。
「試合を見て“自分たちのほうが強い”という自信があったんですか?」と聞くと、少し迷った後にこう答えてくれた。
思考のベクトルが微妙にずれている。勝つことは目標ではなく前提条件。この意識の差は大きい。基本的なロジックが、FPSなどに競技として取り組むプレイヤーに近いように感じた。
ちなみに、栗山さん(Greensleeves)が初めて世界大会の代表になったのは、インドネシアで開催された“RWC2010”。アウェイにも関わらず大健闘の準優勝だったのだが、栗山さんはとくに喜んでいるように見えなかったという。
冷静! み、見える。心のなかで眼鏡をクイッてやってる姿が見えるぞ!
栗山さんの意外な才能
思考パターンが特殊すぎて理解が追い付かないのだけど、栗山さんが極まったプレイヤーだということはよくわかった。そんな彼がなぜガンホーさんで働くことになったのか。
RWC2012で世界一に輝いた後、Greensleevesメンバーを招いた優勝報告会が実施された。ここで、栗山さんが意外な才能を発揮する。人前で緊張する様子を見せず、何より試合の分析がわかりやすかったのだ。
ステージを見た関係者数人から「うちに入れたほうがいいんじゃないか?」という声が挙がった。プロ野球のスカウトみたいだ。どこで誰が評価しているかわからない。石油王が僕の仕事ぶりを見ている可能性もあるわけで、原稿を書く手に力が入る(連絡待ってます)。
スカウト(そんな人いないけど)の目から見た栗山さんの評価
- 素人なのに筋道立てて話すのがうまい
- 人前に出られる人材としては、世界一はベストな経歴
- クレバーなタイプだから仕事もできそう
- うにせんべい(栗山さんのキャラ名)はうまい
栗山さんは翌年のRJC2013にゲスト解説として招待されるのだが、そこには「近くで人間性が見たい」というガンホーさんの思惑もあったのではないかと思う。
RJC2013終了後、スタッフ間で「栗山くん、ガンホーに入りたいって言ってたよ」と噂が流れた。ガンホーさんからは「興味があったらぜひ応募してくださいね」と形式ばった連絡を入れたそうだが、『RO』運営チームからすれば狙いどおりだろう。
栗山さんはソッコーで履歴書を送り、2013年7月にガンホー入社が決定した。
プレイヤーのために妥協は絶対しない
栗山さんの初めての大仕事は2013年9月のゲーム内イベント“古代遺跡探険隊”。入社2ヵ月でイベント企画担当。むちゃ振りもいいところだが、『RO』の全体を統括する偉い人としては、経験を積ませる意図もあったという。「栗山君ならある程度はやってくれると思ったんです。周りのサポートもありますし」。
ここで、栗山さんの対人戦ロジックが役に立つ。イベント完成像から作業スケジュールを逆算し、ぎりぎりまで要素を詰め込んでいった。
「この期間でこんなの作ったらバグが出るかもしれないよ」、「でも、こうしたほうが絶対おもしろくなります」。ドラマだったら栗山さんは熱血新入社員役だが、めちゃくちゃ冷静に反論したんだろうなーと想像に難くない。
情熱を心中に秘めて作られた“古代遺跡探険隊”は大成功。多くのプレイヤーが参加する人気企画となった。
上司が心配するほど多くの要素を検討したのだから、そうとう忙しかっただろう。新人の作業量の常識の超えていたはずだ。帰宅時間とか大丈夫だったのだろうか。
プレイヤーの視点を理解することが大切。このゲーム運営の基本を大切にしているからこそ、『RO』は12年以上も続いているのだ。
栗山さんはプレイヤーとしての感性や知識を活かして、新たな境地に挑んでいる。RJC新ルールの策定だ。新ルールの基本コンセプトは“いろいろな職業が活躍できる大会”。
これまでは職業ごとの強弱が明確にあり、チーム構成(1チームは7人)のマンネリ化が進んでいた。初めてメイン担当として関わったのはRJC2014。観戦者は多いものの、参加者数は頭打ちだと感じた。
いつの世も、若い力が壁を打ち破るものだ。ドキュメンタリーっぽくなってきたぞ。栗山さんはまず社内の『RO』プレイヤーから意見を求めた。すると、いくつかの課題が浮き彫りになった。
そもそも7人も精鋭メンバーを集めるのが難しいのである。これまでのRJCは7人が連携してひとりを討ち取る戦いだった。精密機械どうしのような戦いになるため、見ている側が「自分が参加しても勝てないだろうな」と、壁を感じるのも当然だ。
そこで、1チームを5人に減らし、人気コンテンツ“攻城戦”でよく使われている装備を使用可能にした。装備によってキャラクター特性が変化するため、チーム構成の選択肢は一気に増える。
うおおおおお! それっぽい! このセリフ、ドキュメンタリーっぽい! ドキュメンタリー好きとしては興奮を隠し切れない。栗山さん、おれ一生ついていきます!
気を落ち着けて解説する。たとえば、これまでの定石では、スキル使用後のディレイを軽減できるミンストレルは必須の職業だと言われていた。だが、解禁された装備アイテムの中にはスキルディレイをカットするものも含まれている。ミンストレルなしの構成も実用的なラインになってきたのだ。
自由度が高くなるのはすばらしいことだが、変化を嫌う人は少なくない。イチから考えなければならないことをハードルに感じる人もいるだろう。
もちろん、そのへんのフォローも考えられている。現在は練習用の特設ワールドがオープン中。オートマッチング機能も備えているため、ひとりでも練習できる。ここで息の合う人を見つけてチームを組むのもいいだろう。
ふつうにいい話になってるなーと思っていたところ、ど真ん中に「常識を、破壊する」という剛速球が決まった。もう1軒行くぞ! みたいな気持ちでさらに話を聞きたい。つぎはもう少し親近感がわく人がいい。
ふつうの人の話でもドキュメンタリーっぽくなるか
中村さんと栗山さんに取材したぶんは、内容も写真もそれなりにドキュメンタリーっぽくなっていると思う。
とはいえ、彼らがやや特異な経歴の持ち主だから、という可能性もある。今回のメソッドがふつうの人にも通用するか試したい。
そこで、デザイン担当の松尾望さんにも協力してもらうことにした。“写真に華がない”という弱点も解消されるので、とても助かる。
松尾さんが『RO』に出会ったのは、北海道のゲーム開発会社でグラフィッカーを務めていたとき。ドット絵のアニメーションに苦戦していた彼女は、勉強として『RO』に触れてみることにした。『RO』のドットデザインの秀逸さは、同業者にもよく知れ渡っていたのだ。
そのグラフィックにほれ込み、仕事とは無関係にのめり込んでいく松尾さん。やばいやばいと思いながらもハマッていく。いまの言葉で言うと“沼”だろうか。
ちょうど前の開発会社を退社予定だった松尾さんは、自分の好きなゲームに関わりたいと一念発起。RJC2011で実施されていた就職セミナーや面接で北海道と東京を何往復もしつつ、見事にガンホー入社を果たした。
彼女がゲーム業界に入ったのは“好きなゲームを作りたい”という夢があったから。夢をかなえた彼女ではあるが、移動や引越しで出費がかさみ、しばらくは節制した生活を送ることになった。
絵を描ける運営スタッフは貴重な戦力
松尾さんの最初の担当はメンテナンス作業。得意分野はグラフィックデザインだが、向き不向きを知るために、一通りの業務を担当したいと自分から申し出た。夢をかなえてテンションが上がっているかと思いきや、冷静。
メンテナンス担当は言わば最後の砦だ。自分のミスがそのままプレイヤーの手に渡る可能性もあるので緊張感がすごい。そのぶんプレイヤーの反応がすぐに返ってくるのがうれしい。
現在の作業はグラフィック周りが中心だ。衣装装備がランダムで手に入る“コスたま”のラインナップを考えたり、開発会社から上がってきたドット絵を修正したり。
コスたまの衣装装備にはプレイヤーからデザインを募集したものも含まれている。絵をそのまま開発会社に渡すのではなく、可能な限りデザインの意図を読み取り、細部まで指定を書き込んで発注する。
ちなみに、松尾さんはユーザー時代にアイテムデザインコンテストに応募したことがあるが、あまりにも細かいデザインだったため、「これは再現できないんじゃないか?」とボツになったそうだ。松尾さんが間に入ってくれるいまなら、超細かいデザインも制作可能かもしれない。
松尾さんはゲーム内イベントの企画を担当することもある。プレイヤーからモンスターの配置などを募集した“アドベンチャーズタワー”は松尾さんが担当した企画だ。
各階にはコンセプトを説明するNPCがいて、クリックするとプレイヤーが用意したイラストが表示されるようになっている。これはデザイナーならではの発想だろう。
ちなみに、100階のNPCで表示されるイラストは松尾さん作。ちゃっかり自分の絵をいいところに配置している。
松尾さんは絵やデザインに対するこだわりが人一倍強いのだ。1ドットのズレすら見逃さず、開発元から上がってきた装備は複数のキャラクターに着させてチェックする。見た目がきれいでも『RO』に合わなかったら意味がない。
この熱意は仕事をお願いするイラストレーターの選定にも関係する。どんなにうまくても『RO』に合わない人は起用しない。『RO』熱の高い作家を探すため、2次創作系の即売会の視察も怠らない。自分の正体を明かしていないらしいが、この記事でバレるぞ。
本来なら運営会社にグラフィッカーは不要な職種だ。だが、松尾さんのおかげで開発会社に具体的な提案ができるようになり、アイテムグラフィックの質は確実に向上。それが日本のみならず韓国や台湾でも好評を博している。
松尾さんは『RO』における2Dアイテムデザインのクオリティーを引き上げた立役者なのである。
機材にこだわると職人っぽくていい
松尾さんが熱意のあるデザイナーで、好きな職場で楽しく働いているのはよくわかった。せっかくなので、日常的なエピソードがあれば聞いてみたい。ふつうの女子っぽいところを見せて親近感を抱いてもらおうという作戦である。何かないですか?
精密さが重要なグラフィックの仕事をしているのに、びよんびよん跳ねたらだめだろう。「女子っぽいエピソードないですか?」と聞いたからダイエットの話をしてくれているのだろうか。
理由を聞くと「跳ねると集中力が上がるらしいんですよ」という回答。ダイエットのためでもないのか。揺れたら絵に影響しそうだけど。
自宅でもイス代わりにバランスボールを使っているので、ふつうのイスだと違和感があると言っていた。すごくおもしろいエピソードだとは思うが、何かこう、少し違う気がします。
ほんわか話を聞くのは諦めて、栗山さんと中村さんにも機材や持ちもののこだわりを聞いてみた。
栗山さんは職場も自宅も同じデバイスで統一している。マウスは“ZOWIE GEAR FK2”、マウスパッドは“SteelSeries Dex Gaming Mousepad”、キーボードは“REALFORCEシリーズ”。対人戦には精密な動きも重要なのだ。
中村さんのこだわりは自宅のPCデスク。4台のPCをコックピット状のPCデスクに設置し、プレイ中に待ち時間が発生するのがもったいないため、つねに複数のPCを起動している。1秒たりともムダにしないための工夫は、別の部分にも表れている。
写真をよく見ると、下のほうに鉄アレイが置いてある。中村さんはつねに複数のことをしていないと「ムダがあるんじゃないか」と感じるため、軽い運動で気を紛らわせているのだとか。鉄アレイのほか、強さの違う3種類のハンドグリップも用意している。
中村さんの発言内容が難解になってきたので、話を松尾さんに戻す。いまの『RO』で見てもらいたいのはどこか。返答は“進化”。「『RO』がかわいいゲームだというのは、ご存知の方も多いと思います」。
昔は開発側の都合で制限も多かったが、いまは違う。体に被るデザインの表現ができるようになり、特殊なエフェクトを施せるようになり、外見に反映される装備が増えた。
『RO』は見た目で楽しめるゲームとして、いまなお進化を続けている。
斬新な仕組みを提案すると、「こんなのできない」、「時間がかかりすぎる」と苦言を呈されることもある。それでも松尾さんはアプローチを諦めない。それは中村さんと栗山さんにも共通する想いだ。
画像の加工に10時間以上かかってしまった
最後に、ドキュメンタリー番組っぽく「あなたにとってオンラインゲームとは」という質問をぶつけた。
以下の部分はスガシカオさんか中島みゆきさんの歌声を思い浮かべながら読んでください。
当初の予定では中村さんと栗山さんに話を伺い、読者に「おもしろい人が『RO』を運営しているんだな」と思わせつつ親しみを持ってもらいたかった。
だが、彼らの経歴が特殊なあまり共感しにくい話題が多かったので、急遽、一般的な流れで入社した松尾さんにも手伝ってもらった次第である。
ガンホーさん、いつもネタ記事に付き合っていただきありがとうございます。助かってます。