ファミ通.comがアニメ業界の気になる人たちへとインタビューする連載“アニメの話を聞きに行こう!”。連載第4回で取り上げるのは、2023年放送予定のアニメ『TRIGUN STAMPEDE(トライガン・スタンピード)』。内藤泰弘氏が描く壮大なSF大作マンガの新作アニメーション作品です。
インタビューを行ったのは、原作者のマンガ家・内藤泰弘氏、監督を務める武藤健司氏、本作の制作を担当するアニメーション制作会社・オレンジ所属のプロデューサー・和氣澄賢氏の3名。ここでしか聞けないお話を、前編・後編に分けてたっぷりとお届けします。
前編となる今回は、内藤先生による『トライガン』連載当時の思い出話や、『TRIGUN STAMPEDE』の企画立ち上げの経緯、今回がアニメ初監督となる武藤氏の知られざる魅力(?)などの話題を掲載。ぜひ最後までお楽しみください。
(前後編の前編。後編はこちら)
内藤泰弘(ないとう やすひろ)
マンガ家。代表作は『トライガン』、『血界戦線』で、いずれもアニメ化されている。またゲーム『ガングレイヴ』シリーズのキャラクターデザイン及び原作も担当。
武藤健司(むとう けんじ)
オレンジ所属のアニメーション監督。『宝石の国』や『HELLO WORLD』、『BEASTARS』などの絵コンテ・演出を経て、『TRIGUN STAMPEDE』が初監督作。
和氣澄賢(わき きよたか)
アニメーション制作会社・オレンジ所属のプロデューサー。『宝石の国』、『BEASTARS』、『ゴジラS.P』に続き、『TRIGUN STAMPEDE』を手掛ける。
原作『トライガン』執筆時の思い出
――『トライガン』、とても懐かしいですね!
内藤ええ……。1995年連載開始ですからねえ。
――原作となるマンガ作品はその後、紆余曲折もありつつ2007年まで連載されました。
内藤紆余曲折。掲載誌がなくなっちゃったりとかですか!(※)
※『トライガン』は1995年に『月刊少年キャプテン』(徳間書店)で連載開始されるものの、同誌が1997年で休刊。その後『トライガン・マキシマム』として『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)へ移籍し連載が再開された。
――(笑)。
内藤当時は毎月原稿を上げることに必死で、まさか2022年にもなって再びアニメ化されるなんて思いもしませんでした。
マンガ『トライガン』1巻 Kindle版(Amazon.co.jp)――そもそも『トライガン』という作品は、どのようなきっかけで生まれたのですか?
内藤イギリスのサイモン・ビズレーというマンガ家さんの、SFとウエスタンを組み合わせたような短編がアメコミにあったんですよね。それは異形の怪物と髭をたくわえたガンマンが行く先々でバカンバカン人を殺していくという話で、僕はそれが大好きだったのですが、当時国内を見回してもそういった世界を描いている人が誰もいなかったんで、「じゃあいっちょやってみるか」と思ったのがきっかけです。
つぎに主人公はどうしようと考えて、「凄腕のガンマンだけど、トラブルが起きそうになるとすぐに土下座しちゃうような人だったらおもしろいな」と。最初はそのくらいで描き始めました。
――SFであり、ウエスタンである。主人公は平和主義のガンマンである、くらいしか決めずに描き始めたということですか。マンガは全17巻ですが、あの壮大な世界設定とストーリーは、連載開始当初には……。
内藤ぜんぜん考えていませんでした。結果その後地獄を見ることになるんですが。
――なんと。
内藤連載中はひたすら「命を選別する傲慢さ」とか、「絶望的な被害者の復讐する権利」とか「悪人の命を救う事による二次被害」みたいな話を延々と……自分と対話しながら描くことになるんですね。
ヴァッシュの「人を傷付けない、殺さない」という平和主義を治安も最悪な無法地帯でやる無茶さに対して、当然周囲のキャラクターは突っ込んで来るわけで。
――やられる前にやらないと自分が死んでまうやろ、と、お前の考えは甘いわ、と。思わずウルフウッドの口調になってしまいましたが。
内藤それはあの世界においてある種正論なのですが、「それでも殺さない」という信念をこいつ(ヴァッシュ)は貫こうとしてきやがるんだがどうしたらいいんだと。観念的にならず説教臭くせず、娯楽作品の体を保ちながらひたすら考えてのたうちまわって……血と汗と涙でベタベタになった道みたいな漫画だったなと、振り返ってみると思います。
描いている最中はとにかく格闘していただけで、「今後の物語はこういうふうにコントロールするから大丈夫」とか「速攻展開組めたんで、今回は余裕で終わったわ」みたいに気分よく筆を置けた記憶はほとんどありません。ひたすら「今月も生き延びた」という想いだけでした。
――設定なども最初からかなり緻密に作り込まれていたのかと思っていました。
内藤そんなことはないですね(笑)。毎回必死に最高値を叩き出そうと自分を削ってるだけでした。そんなデタラメな作りかたをしたものが、いまでもアニメ化されたり、こうして皆さんに楽しんでもらえているというのは本当に運がいいと言いますか、しみじみ感謝しています。才能があって努力を尽くした人でも、必ずしも報われるわけではないですから。ありがたいです。
――作品の力ですよ! そういった制作環境で、メリルやウルフウッドといったキャラクターも連載しながら考えられたのですか?
内藤そうですね。メリルとミリィはにぎやかしにこういうキャラクターがいるといいんじゃないでしょうかという感じで初手から作りました。
ウルフウッドは友人から「敵か味方かわからないキャラクターがいるといいんじゃない?」と言われ、「なるほど! そうすね!」と登場させました。
――わりとふわっとしたアドバイスであの人気キャラクターが!(笑)
内藤生まれてきたんですよ(笑)。そうこうしながら連載を続けていたんですけど、途中からひとつ難問にぶち当たりまして。
――あら。
内藤これがなかなか難しい問題で、それは、「このマンガって、いったいどうやって終わればいいのかな?」と。
――(笑)。
内藤とくに思い付かないまま描き続けていたら、最初のアニメ化(マッドハウス版。1998年放送) の話をいただきまして。そのときに西村監督(※)や黒田さん(※)とファミレスで……忘れもしない、南阿佐ヶ谷のデニーズで。
※西村聡氏。前回のアニメ『トライガン』の監督。
※黒田洋介氏。アニメ脚本家で、『トライガン』ではシリーズ構成を担当。
――具体的な店名まで覚えているんですね 。
内藤そのときは原作マンガが連載中の状態ですから、アニメはアニメなりの終わらせかた、盛り上げと決着の付けかたを考えなければならないわけです。そこで、アニメのシリーズ構成について構想を聞く中で「あぁ、なるほど、この話ってそうやれば終わらせられるのか!」って、そのとき初めて理解しましたね。
――自分のマンガなのに!(笑) ということは、原作マンガのクライマックスもアニメ化を経たからこそ生まれた発想だったというわけですか。
内藤もちろん、自分がラストを描くときはアニメと同じ結末には行かないだろうとは思いましたし、実際に異なるものにはなっているのですが。連載途中のストーリーを黒田さんたちにまとめていただいて「こういう結末を描くことができる」とひとつわかったことで、広がるだけ広げた世界に道筋ができたように感じました。だからマンガ版のラストは、アニメから受けた影響でたどり着けたものだと思っています。
――アニメ制作が原作マンガにも好影響を与えていたというのは、なんだかいいお話ですね。『トライガン・マキシマム』が連載されていたころの『ヤングキングアワーズ』って、平野耕太先生の『HELLSING』などもあって、描き込み量もすごく、作者の情念が強くページに込められた作品が多かった印象が強いです。
内藤『ジオブリーダーズ』や『エクセル・サーガ』なんかもそうですよね。怨念じみたというか、個々の執念を感じる作品が多かったですねぇ。『ヤングキングアワーズ』は、それぞれの作家の描いているものに対して、すごく肯定感をくれるところがあったと思います。それでみんなうれしくなって、気合いの入りまくったマンガを仕上げていたのかもしれません。
内藤ただ、ひとつ理不尽に感じたのは、散々締め切りを延ばしてもらって、それに心を痛めながら死にもの狂いでそれこそ不眠不休で描いて、ギリギリ何とか入稿できた! とぶっ倒れてたら……ヒラコーが原稿を上げたのはさらにその1日後だったという(※)。
――わははは(笑)。
※ヒラコー……『ドリフターズ』などの作者の平野耕太氏。
内藤それぐらい限界を超えて待ってくれる編集長だったんですけどね。編集長が製版所で「俺がこの刷版を自分のクルマで印刷所へ運べばいいんだろう!」って啖呵を切ったという伝説があります。さすがに僕はそこまで引っ張ってはいなかったと思いますが、あのときは「チクショー……仮眠取ればよかった…」と思いました。
――雑誌を作るときは折ごとに校了日が異なりますから、きっとその都合ですよ!(※)
※折……おり。雑誌は16ページごとに1枚の大きな紙を印刷し、折と呼ばれるそれを裁断・製本して作る。編集部は折ごとに数日に分けて印刷所に入稿するので、同じ雑誌でも締切日が異なるというのはふつうだったりする。という出版事情を知っている編集者がよその編集部の都合を勝手に釈明せずにおれなかった発言。『ヤングキングアワーズ』編集部が実際どうだったのかは不明。
『TRIGUN STAMPEDE』始動!
――そんな内藤先生の血と汗と涙の結晶である作品のオリジナル新作アニメ『TRIGUN STAMPEDE』ですが、いま『トライガン』を改めてアニメ化しようというのは、経緯があったのでしょうか?
和氣もうひとり東宝のプロデューサーの武井さんという方がいるのですが、その方が発端でしたね。
――武井プロデューサーは2022年7月にアメリカで行われたアニメエキスポで制作経緯について、「ひと言でいえば『トライガン』が好きだからです」という発言をしていました。
和氣僕はといえば、もともとは武藤監督 がほかの作品でやっていた演出のおもしろさを武井プロデューサーにお伝えしていまして、それが合致して、「武藤さんに新しい『トライガン』の監督をやってもらいましょう」という話になったんです。
内藤和氣さんの中では、「武藤さんを監督にして、何かいっしょに作れないかな? どんな企画がいいのかな?」とずっと考えていて、そこへ『TRIGUN STAMPEDE』の企画が舞い込んできたような順番なんですよね?
和氣はい。以前から武藤さんに監督をやってもらうことをずっと考えていましたね。
TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』PV第一弾
――和氣プロデューサーから大きな期待を寄せられていたという武藤さんは、最初に「『トライガン』の監督を」という話が来たとき、どんなふうに感じたのでしょう?
武藤じつは最初に話があったときは“『トライガン』の原作をそのままアニメにする”ということだと思ったんですよね。だからそのときは「そのままやるなら僕じゃなくてもいいんじゃないかな」って。
――えぇっ!?
和氣原作そのままとは言ってないよ(笑)。
武藤そう、僕の勘違いだったんですけど(笑)。
内藤武井プロデューサーもそういうふうには考えていなかったはずですね。僕のところに話が来た段階でリブートとおっしゃっていましたから。
武藤なぜか一瞬勘違いしたのですが、よく話を聞いて、「あっそういうことじゃなかったのかと」改めて驚いた覚えがあります(笑)。
――初監督としての不安を感じるというより、“いかに自分のオリジナリティーを出せる企画なのか”というところが大事と感じていたのですね。
武藤それを前提にしないとよい関係での作品づくりができないというのは、これまでの経験から身に染みていたので。プロデューサーともいちばん最初に話したのはそういったことだったと記憶しています。
――和氣プロデューサーが思う、武藤監督の演出の特徴・強みというのはどんなところにあるのでしょう?
和氣アニメの中で起こるドラマというものをお話で見せるだけでなく、アクションの中でキャラクターの感情の動きで表現するということに秀でているんです。
アニメも実写もそうですけど、アクションの最中って感情が乗らない時間になってしまいがちなんですよね。そこでどうやってキャラクターに感情移入してもらうかというのを考えて、観ている人が感動できるアクションシーンを作れるのが武藤さんの強みだと思っています。
――とのことですが、武藤さんご本人はいかがですか? ご自身の中にアクション中にも感情を描くための演出論みたいなものがあるのでしょうか。
武藤演出論……なんでしょうか。それはシナリオでもあると思うんですよね。シナリオ段階でアクションシーンが感情の動かないものになっていたときは、やりとりの順番を組み替えたりして、絵コンテの段階で感情が動く構成に変えたりしますね。
あと個人的には、派手に殴ったり蹴ったり斬り合ったりしなくても、アニメの場合はただキャラクターが急いで走っているだけでも、アクションとしてエモーションを伝えられるものだと思っているので“なるべく戦わない”ようにしています。
と言うと「『トライガン』なのに」と感じるかもしれないんですけど、本当に必要なときだけ銃を抜いて撃つ、剣を握って斬るというのがいいんじゃないかなと、以前から思っていました。
いま話しながら気づいたのですが、結果的にそれがヴァッシュ・ザ・スタンピードというキャラクターとも噛み合うところがあったのかなと。
原作者とアニメ化と
――武藤さんを監督に指名して、いよいよ内藤先生にアニメ化の許可をもらいに行ったわけですね?
和氣内藤先生にお会いしたときの日付は記録しているんです。2017年の6月16日でした。内藤先生の六本木でのイベントのあとだったのですが、僕と武井さんと当時『血界戦線』のプロデューサーだった岡村さん(※)でいっしょに食事をさせていただき、企画についてご相談しました。
※岡村和佳菜氏。アニメプロデューサーで、『血界戦線』以外に『天気の子』なども担当。
――内藤先生はそのときのことを覚えていらっしゃいますか?
内藤覚えています。東宝の岡村さんが「少しお時間いいですか?」と聞いてきたので「大丈夫です!」と。
付いて行ったら、白いカッターシャツを着て、髪を撫で付けた目付きの鋭い痩せた男がいるわけですよ。なんか独特のムードがあって、殺し屋みたいな。それが武井さんだったわけですけど。なにか刃渡りの長めの包丁的な物で刺されるんじゃないかと思って(笑)。
――殺気を感じて(笑)。
内藤お店の雰囲気もまた武井さんの佇まいとマッチしていたんですよね。中華料理屋で、提灯で赤みを帯びた、少し怪しげなライティングで……という。ひとたび鳩がバタバタッ! と飛び立てば、それを合図に銃撃戦が始まってもおかしくない場所でした。
――サイバーパンクというかハードボイルドな雰囲気の情景が浮かびますね。
内藤もちろんそんなことが起こるはずもなく、卓を囲んで仲よくお話したんですけど。まず聞かれたのが「『トライガン』のアニメを3DCGで作るのって、どう思いますか?」ということで。要するに「手描きじゃないアニメって抵抗ありますか?」と。僕は「可能性のたくさんある、これからが楽しみな表現だと思いますし、いいんじゃないでしょうか!」と答えました。
その上で「武藤さんというすごく才能がある若い人がいるので、この人に監督をやってもらおうと思うんです」というところまで、その日は話があったと記憶しています。
――そうしてプロジェクトが動き出した2017年から今年の制作発表があるまで5年が経過しているんですね。この5年というのは、アニメの制作としては長いほうなのでしょうか?
和氣長いですね。弊社、オレンジはCGのプロダクションなので、作画のアニメよりも比較的長いスケジュール感で作品を作ってはいるのですが、その中でも時間をかけた作品になりました。
――ここでとくに時間がかかった部分というのは?
和氣あらゆる部分で時間が掛かったんですよね。
お話を作る、ビジュアルを作る、モデリングをする、アニメーションとして動かす……全体のクオリティーを引き上げるために、それぞれのセクションで時間をかけました。
内藤かかった時間を物語るもののひとつだと思うのですが、もうひとつの現れとして設定資料の膨大さがあります。設定資料が作られると、一度、原作者である僕のところにすべて届いて、それに目を通しているのですが、ほかでは見たこともないほどのボリュームで、ちょっと桁が違うんですよ!
すでに公式からアートワークがいくつか公開されていますけど、あの量はほんの上澄みってくらい、みっしりとした物量の新鮮な資料を毎月送っていただいて。
――複数回アニメ化を経験されている内藤先生が驚くほどの量が。
内藤「こういうアイデアがあって、そのコンセプトアートがこれです」というぶっ飛ばした内容から、キャラクターや世界の掘り下げ・再構築のアイデアを膨大なテキストに起こしたものもあって、『トライガン』という作品に対しての異様な時間のかけかた、分析のしかたを目の当たりにして驚きました。
――それに対して内藤先生から「これは違う」とかチェックをされるわけですね。
内藤もちろんやっていますが、一方で原作者の発言って重く受け止められやすいんですよね。何年かやり取りして、このチームの熱量と緻密さとバランスは信頼に値すると確信しまして。プロジェクトを俯瞰して見たときに、変に僕の重力に引っ張られないほうが何というか……最終的な“飛距離”が凄いところまで行く可能性を感じたので、途中からはあまり口を挟まないようにしています。
武藤でも、ポイントポイントではすごく有効なアドバイスをいただいています。短い言葉ではあるけれども、非常に的確なアドバイスをいろいろといただいているので、ありがたい限りです。
――内藤先生からもらったアドバイスで印象的だったものはありますか?
武藤ええと……それはね……あの……いろいろとあったんですよ。
内藤そこはスッと思い出してくださいよ!(笑)
和氣急に聞かれると思い出せなかったりするよね(笑)。
武藤すみません(笑)。ああ、その後、もっとも大きな指針となったのは「『トライガン』は痛快であるべし」という言葉ですね。
過酷な世界が舞台なので、キャラクターの掘り下げをすればするほど暗い過去などが垣間見えて、ドロドロした雰囲気になりかねないんです。だけど「作品の本質としては痛快なものなんだ」と。
――ああ……なるほど。あの荒廃した世界設定、人物設定だと過度に殺伐としてしまうかもしれないんだけど、痛快さが作品の芯にある。
武藤“『トライガン』とはなんぞや”を示す言葉があったおかげで、毎回軌道修正ができたように思います。キャラクターに関しては、ヴァッシュとウルフウッドをすごく大切にされているというのもわかりましたし。
内藤先生はヴァッシュに似ている?
――『トライガン』連載時の話をもう少しお聞きしたいのですが、当時の連載作品に「負けてらんねえ!」というライバル心などは芽生えなかったのでしょうか?
内藤いやぁ、僕は『HELLSING』も『ジオブリーダーズ』も『エクセル・サーガ』も、ふつうにファンでしたね。「このマンガおもしろいなぁ」と思っていましたよ。
武藤なんか内藤先生のそういうところ、ヴァッシュっぽいですよね。
内藤えぇっ!? 俺がですか?
武藤そうです。じつは「内藤先生はヴァッシュっぽいなあ」って、お会いするたびにいつも思っていたんですけど……。
内藤えーっ!? あんな頭のおかしい奴と似てると思われてたの!?
一同 (爆笑)。
武藤いやいやいやいや(笑)。
内藤俺、マンガの終盤のほうでは、ヴァッシュを描きながら「こいつは狂人である」と結論付けていましたよ。
――ガハハハ。原作の終盤にはもう本当に多くの人が死んでいってヴァッシュもとても苦悩するんだけれど、自身の信念である平和主義を手放さなくて、どうにか撃たずに、撃たれずに済ませたいとする……。
内藤だからもう狂人の域なんですよ(笑)、彼の「ラブ・アンド・ピース」と言い続けるあのさまは。
武藤いや、内藤先生って突然平和主義者になる瞬間がある気がして、不思議だなと思っているんですけど……。
内藤そうかなあ(笑)。
――ほかのマンガ雑誌のシステムの話を聞くと「他作品のほうが人気が出たら自分は蹴落とされちゃう」と感じるのかなとも思うのですが。
内藤先ほどの話とも通じますけど、『ヤングキングアワーズ』は蹴落とされるとかそういうことをあまり気にせず描かせてくれるような雰囲気がありましたね。運よく連載に手応えがあったというのもありますが、僕個人はそういうふうに感じていました。
――内藤先生の作品というと『血界戦線』もアニメ化されていますが、マンガ家さんにとって自身の作品がアニメ化されるというのはどういった気持ちになるものなのでしょう?
内藤これは毎回思うんですけど……いつもひとりで部屋にこもってマンガを描いている男が、いきなり椅子ごとロケットにくくり付けられて、火を吹きながら行ったことのない高さまで飛ばされるみたいな(笑)。アニメが放送されているあいだは成層圏の上のほうまで連れていかれて、放送が終わるとともにプシューっと自分の部屋に降りてきて、いつもの生活に戻るという感覚です。
――自分のものではない力で一気に飛ばされるような。
内藤まったくコントロールできない力で飛ばされるんです。毎回。
――今回のアニメ化もものすごい高性能ロケットが付きそうですね!
内藤それはもう武藤監督始めチーム全体の挑戦というヤバい燃料が詰まったロケットですからね。もう俺は覚悟を決めるだけです(笑)。この壮絶な取り組みから創られるものが、少しでも多くのユーザーの皆さんに届いてほしいです。
武藤僕としては、“内藤先生の遺伝子を抜き取って、それを触媒に新しい生命体を作り上げようとしている”というイメージが強いかもしれません。伝わりづらいたとえかもしれませんが(苦笑)。
後編へ続く!(2022年11月27日公開予定)
作品情報
- 『TRIGUN STAMPEDE』
放送時期
- 2023年1月よりテレビ東京ほかにて放送予定
メインスタッフ
- 原作:内藤泰弘(少年画報社 ヤングキングコミックス刊)
- 監督:武藤健司
- ストーリー原案:オキシタケヒコ
- 構成・脚本:稲本達郎 岡嶋心 上田よし久
- コンセプトアート・キャラクター原案:田島光二
- チーフデザイナー:大津直
- キャラクターデザイン:渡邊功大 諸貫哲朗 阿比留隆彦 佐藤秋子 二宮壮史 天野弓彦
- セットデザイン:青木智由紀 藤瀬智康 榊枝利行 上條安里
- クリーチャーデザイン:山森英司
- スペシャルエフェクトデザイン:押山清高
- CGチーフディレクター:井野元英二
- VFXアートディレクター:山本健介 早川大嗣
- 色彩設計:橋本賢
- 美術監督:金子雄司
- 画面設計:斉藤寛
- 撮影監督:青木隆 越田竜大
- 編集:今井大介
- リレコーディングミキサー:藤島敬弘
- サウンドエディター:勝俣まさとし
- 音楽:加藤達也
- 制作:オレンジ
メインキャスト
- ヴァッシュ・ザ・スタンピード:松岡禎丞
- メリル・ストライフ:あんどうさくら
- ロベルト・デニーロ:松田賢二
- ニコラス・D・ウルフウッド:細谷佳正
- ミリオンズ・ナイヴズ:池田純矢
- レガート・ブルーサマーズ:内山昂輝
- ザジ・ザ・ビースト:TARAKO
- ウィリアム・コンラッド:中尾隆聖
- ヴァッシュ・ザ・スタンピード(幼少期):黒沢ともよ
- ミリオンズ・ナイヴズ(幼少期):花守ゆみり
- レム・セイブレム:坂本真綾