才能はあるのに、だからこそ割り切れない。完成に勝るゴールなんてないのは百も承知のくせに、それでも「いや……」がついてくる。そうして身動き取れなくなるうちに自嘲的になったり殻に閉じこもって放り投げる、めんどくさいひと。
青い、苦い、痛い、辛い! でもわかりすぎて愛おしい! 本日Nintendo SwitchとPCで配信開始されるゲーム『GOODBYE WORLD』は、若きクリエイターのそんな生みの苦しみを描く物語です。
ふたりのゲーム開発者の物語を描く、“漫画家漫画”ならぬ“ゲーム開発者ゲーム”
本作の中心となるのは、ややめんどくさい性格のプログラマーの“蟹井”と、ひとあたりのいいグラフィック担当の“熊手”というふたりのゲーム開発者。もとは専門学校で出会ったふたりが、自分たちのゲームで勝負しようともがきます。
しかしコレというゲームはなかなか完成しません。暮らしのためにバイトする日々が続き、パブリッシャーへの持ち込みは失敗するという、どん詰まりの日々。そんな中で熊手がある決断を下したことで事態が動き始めます。
というわけで本作は、映画づくりがテーマの映画などと同じくメタ的な構造を持った作品です。“漫画家漫画”のような“インディーゲーム開発者インディーゲーム”と言ってもいいでしょう。
もちろん多くの優れた漫画家漫画や映画テーマの映画などがそうであるように、プレイヤーがゲーム開発者じゃなくてもちゃんと楽しめる、もっと普遍的な悩みに通じる物語になっています。創作や表現に悩んだことがある人なら、自分や周りの人に蟹井や熊手を見いだせるはずです。
物語パートとゲーム内ゲームパートの二部構成
全体は話が進行していく物語パート(全13章)と、ゲーム内ゲームパート(全12ステージ)で構成されています。基本的には各章の頭で蟹井が遊んでいるゲーム『BLOCKS』をプレイし、それが終わると物語パートに移行、それが終わると次の章に進む、という仕組みです。
『BLOCKS』は蟹井がゲームボーイ風の携帯ゲーム機で遊んでいるゲームで、“マップ内に限られた数配置された特殊ブロックを別の場所に置く”ことでゴールへのルートを作り出す、一種のパズルプラットフォームアクションゲームになっています。
Steamで公開されている体験版の範囲では比較的簡単な内容にとどまっていましたが、その先のステージではもうちょっと難しくなっていき、全滅してしまうことも。
物語パートの舞台装置としてのゲーム内ゲーム
しかし「『BLOCKS』の出来によってエンディングが分岐!」とか「クリアーしないと進めないぞ!」的なことはありません。残機がゼロになってしまっても話はそのまま進みます。
ではまったくゲーム体験上の意味がないのかというとそうでもなく、いい感じにどん詰まっている蟹井がぼんやりと上の空で遊んでいる感じを体感できる舞台装置として機能しています。
『BLOCKS』は蟹井いわく「微妙」なゲームで、確かに派手さはないんですが、それでもなんとなくプレイしてしまう“いい感じのぬるさ”なのが蟹井の心境とうまくシンクロさせてくれる感があります。ちなみにエンディング後におまけコンテンツとして通しでプレイすることも可能です。
2時間のインディペンデント青春映画のような作品
逆に物語パートそのものは自動進行で、セリフ送りぐらいしかプレイヤーが干渉できる部分がないのも特徴です。アドベンチャーゲームというより、インタラクティブストーリーと言ったほうが近いかもしれません。
クリアーまでは『BLOCKS』にどれだけ時間を使うかによって多少変わってきますが2時間前後程度といったところ。1本の良質なインディペンデント青春映画を観たような体験ができます。
サウンドや振動機能など、細かな演出が沁みる
ストーリーをじっと体験するシーンが多い本作ですが、サウンドや細かな演出の質が高いので飽きません。
サウンドは爽やかなサーフロック風のオープニング曲がめちゃくちゃカッコいいのですが、各シーンに丁寧に入っているちょっとした効果音なども非常に効果的です。
また画面内の演出と連動して振動機能もしっかり使われているので、PC版でも振動入りのコントローラーでのプレイをオススメしたいところです。