2022年9月15日~18日に千葉県・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2022にて、大々的にブースを展開していたヨーロッパ・パブリッシャーの雄、THQ Nordic。同社のタイトル戦略にはひとつの特徴がある。IP(知的財産)の有効活用だ。
THQ Nordicでは、ときに自社の、ときに他社から往年の名作や人気作のIPの権利を取得し、リメイクやリマスターを積極的に展開している。他社からIPを獲得して展開する例としては、最近では1992年にリリースされ人気を博した古典的サバイバルホラーを“リ・イマジネーション”した、『アローン・イン・ザ・ダーク』が挙げられる。
さらには、東京ゲームショウ2022に出展していた『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』や『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』も、IPの有効活用の適例と言えるかもしれない。ここでは、東京ゲームショウの会期中に行った両作のクリエイターへの取材から、THQ NordicのIPに対する関わりかたを見ていくことにしよう。
『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』では、リメイクの経験を活かして完全新作に着手
『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』は、8月に行われた“THQ Nordicデジタルショーケース2022”で発表された、Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One、PC向けに発売予定のアドベンチャーゲーム。
ご存じの通り『スポンジ・ボブ』と言えば、アメリカで1999年から放送を開始するや子どもから大人まで幅広い層で大人気を博しているテレビアニメ。日本でもNHKなどで放送されており、ご覧になった方も多いのではないかと思われる。
そんな人気作がゲーム化されるのは極めて自然の流れで、2001年から相当数のシリーズ作がTHQ(当時)よりリリースされてきた。日本では、2007年に2007年にWiiやプレイステーション2向けにその名もずばり『スポンジ・ボブ』が発売され、(英語タイトルは『SpongeBob SquarePants: Creature from the Krusty Krab』)、以降何作かニンテンドーDS向けにリリースされている。
海外サイトを見ると、2001年以降毎年のように『スポンジ・ボブ』シリーズ作が世に送りだされており、そういえば、E3に行くたびにTHQブースには『スポンジ・ボブ』関連作が出展されていたなあ……と、この原稿を書きながら記者もふと思い出してしまった。THQにとって『スポンジ・ボブ』シリーズは看板タイトルだったと言えそうだ。
その後、2012年の旧THQの倒産により、『スポンジ・ボブ』シリーズの権利はアクティビジョンに移行されたりもしたのだが、2016年に新生となったTHQ Nordicにとって、THQブランドのIPは愛着があったのか、どうやら『スポンジ・ボブ』の権利を買い戻したようで、2020年には新作『スポンジ・ボブ: Battle for Bikini Bottom - Rehydrated』がNintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One、PC向けに発売された(Nintendo Switchパッケージ版が2022年12月15日発売予定であることが発表)。THQブランドとしては、9年ぶりの『スポンジ・ボブ』シリーズ作となる同作は、2003年にプレイステーション2、Xbox、ゲームキューブ向けにリリースされた『SpongeBob SquarePants: Battle for Bikini Bottom』のリメイク作となる。オーストリアのデベロッパーPurple Lampが開発を担当している。
今回東京ゲームショウ2022に出展されていた『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』は、『スポンジ・ボブ』シリーズの完全新作で、開発を手掛けるのはリメイク作を作ったPurple Lamp。“リメイク作を作って『スポンジ・ボブ』の何たるかの真髄を学んだ開発会社が、満を持して放つ完全新作”といった趣きのタイトルだ。
プレゼンを担当したPurple Lampのゲームデザイナーであるダニエラ・エチュゼンガー氏によると、本作は、願いが叶うという人魚の涙を手に入れたスポンジ・ボブとパトリックが、7つの世界を冒険するというもの。7つの世界にはそれぞれ異なるテーマがあり、ひとつめがウエスタンで、ハロウィンや紀元前の世界をモチーフにした世界もあるという。7つの世界をモチーフにしたコスチュームなども登場する。コスチュームは30種類以上になるようだ。7つの世界はそれぞれアニメの有名なエピソードをベースにしており、「ああ、こんなシーンあった!」「こんな音楽が流れていた」と感じられるような内容になっているという。
以下、気になったことをダニエラ・エチュゼンガー氏に聞いてみた。
誰でも知っているIPに、新作ではさらにストーリーの楽しさなどを盛り込んだ
――『スポンジ・ボブ』というIPの魅力はどこにあると思いますか?
ダニエラ20年の歴史があって、誰でも知っているIPですよね。好きな層も広いので、大人やお子さんがいっしょに遊べる。そこがすごく魅力的です。
――新作を作るにあたって心がけたことは?
ダニエラ『スポンジ・ボブ: Battle for Bikini Bottom - Rehydrated』はとてもよいゲームでした。同作にもっとストーリーの楽しさやおもしろさを詰め込めないかということで、新作を考えました。
『スポンジ・ボブ: Battle for Bikini Bottom - Rehydrated』をリリースしたあとに、ファンの方からも「さらに新しいものを!」という声が多かったので、よりよりストーリーでよりよりアクティビティー、さらにはよりダイナミックな動きが実現できるように、ということで挑戦しています。
ちなみに、学習することで最終的に15のアビリティーを身につけられるようになっていますよ。
――オススメのアビリティーはありますか?
ダニエラ私のお気に入りは空手キックです。本作から入った新しいアビリティーですね。敵と戦うときに重宝しますし、移動するときにも使えます。ほかのアビリティーと組み合わせて使うこともできるんですよ。
――本作には7つの世界があるそうですね。
ダニエラ個人的に気に入っているのはハロウィンの世界です。スポンジ・ボブは怖いのが嫌いなキャラクターなので、彼を怖がらせるのではなくて、彼にとっていかに楽しい世界にできるのか……ということを考えるのが、私にとっては楽しかったです。
――最後にメッセージをお願いします。
ダニエラ私たちが楽しんでゲームを作っているのと同じくらいに、日本の皆さんもゲームを遊んで楽しんでいただけたらと思っています。ご期待ください!
リメイク作である『スポンジ・ボブ: Battle for Bikini Bottom - Rehydrated』をさらに発展させつつ、幅広い層に知名度があるブランド力を活かして、もっと多くのユーザーに訴求したいという方針が、『スポンジ・ボブ』というIPの戦略としてあるようだ。
『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』PS Storeサイト 『スポンジ・ボブ: The Cosmic Shake』Steamサイト『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』では、より豊かなゲーム体験を提供できるように最新テクノロジーを駆使した
エイリアンであるクリプト-137が1950年代の地球に襲ってくる、パンデミック・スタジオ開発によるエイリアン侵略アクションアドベンチャー『デストロイ オール ヒューマンズ!』が、プレイステーション2とXbox向けにリリースされたのは2005年(日本では2007年発売)。同作は北米を中心に人気を博し、2作目『Destroy All Humans! 2』(2006年)、3作目『Destroy All Humans! Big Willy Unleashed』(2008年)、『Destroy All Humans! Path of the Furon』(2008年)とシリーズを重ねてきた(2作目以降は日本では未発売)。
以降、シリーズの流れは途絶えたが、リメイク作となる『デストロイ オール ヒューマンズ!』が、プレイステーション4、Xbox One、PC、Nintendo Switch向けに順次発売。今年2022年には『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』が、プレイステーション5、Xbox Series X|S、PC向けに発売された。THQ NordicのIPを有効に活用するという戦略のもと、華々しく蘇ったシリーズと言えるだろう。
『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』の開発は、リメイク版『デストロイ オール ヒューマンズ!』に続き、ドイツのデベロッパーであるBlack Forest Gamesが担当。プレゼンを担当してくれた、Black Forest Gamesのプロデューサー、アナ・コレイア氏とレベルデザイナーのヴィンセント・ゲーミン氏、THQ Nordicの担当トビアス・グリムス氏は、「オリジナルのテイストは残しつつ、カットシーンに最新の技術を導入することで、ちょっとしたユーモア感覚を盛り込んだりと、適宜アップグレードしています」と、当時なかった最新のテクノロジーを駆使して、ゲームプレイに対するフィーリングをさらに豊かなものにしているという。たとえば、武器のエフェクトを派手にして、いかにパワフルかをアピールしているのはそのひとつ。
せっかくの機会なので、リメイクについて少し聞いてみた。
“なるべくオリジナルデベロッパーが開発したように見えるように”
――リメイクするにあたっていちばんこだわったポイントは?
アナオリジナルゲームの特徴をなるべく残したいという思いはありました。オリジナルのファンの方がリメイクも楽しんでもらえるように……ということを大事にしました。
本作はボイスオーバーが多いので、なるべくオリジナルと同じ声優さんにお願いするようにしているというのはそのひとつですね。
技術的な制約はいろいろとありますが、“なるべくオリジナルデベロッパーが開発したように見えるように”というところはこだわったポイントです。
――“オリジナルデベロッパーが作ったように”ですか?
アナはい。ストーリーや武器、使える能力などは、オリジナルを維持しつつ、よりよくプレイできるようにプラスアルファしています。世界をより大きくしたり、より細かいところを作り込んだりとかですね。
たとえばですが、同じ武器でももっと多くの人間をいっぺんにターゲッティングしないといけなかったりして、少し操作の難しさをアップさせたりもしています。
ヴィンセント本作の舞台はサンフランシスコのベイシティなのですが、オリジナルのゲームはマップが小さくて、ゴールデンゲートブリッジもなかったんですね。プレイヤーさんからしたたら、「サンフランシスコのベイシティだったら、ゴールデンゲートブリッジがあるはず」という感覚だったのに、なくてがっかりしたということがあって、そういった作り込みもしています。
とにかく、ユーザーユーザーの方がより豊かなゲーム体験をできるように最新テクノロジーを使おうと決めました。
――『デストロイ オール ヒューマンズ!』というIPの魅力はどこにあると思いますか?
アナそこまでシリアスではない、ファンタジー的でユーモアなところでしょうか。デモでプレイしている方を見ていても、皆さん「おもしろいな」と笑ってゲームをプレイされていて、そんなところが本作のいちばんの魅力かなと思います。
あとは、プレイヤーがエイリアンの立場に立って人間を攻撃するという視点が、何よりもユニークですよね。
――今後『デストロイ オール ヒューマンズ!』というIPはどんな感じになりそうですか?
アナ努力を続けて、『デストロイ オール ヒューマンズ!』というIPを継続していければと思っています。『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』の評判がよければ、つぎのチャンスが得られると思うので、結果が気になるところです。
――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
アナご存じのとおり、『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』に出てくる“タコシマ”は、日本にインスピレーションを受けて作られています。私たちも“タコシマ”をリスペクトして楽しみながら作っているので、日本のユーザーの皆さんにも楽しんでいただけたらと思います。
ヴィンセント私もこのゲームを開発するのが大好きで、取り組んでいるので日本のプレイヤーの方も私たちがゲームを開発するのと同じくらい楽しんでくれたらと思っています。
トビアス『デストロイ オール ヒューマンズ!』というIPの仕事ができるのは名誉なことだと思っています。日本のファンの方には、私たちがどれくらい愛をもって本作を作ったかということを感じてもらえたらと思っています。とくに“タコシマ”は、私にとってもお気に入りのロケーションで、すごく美しい場所なので、ぜひ楽しんでみてください!
言うまでもないことだが、愛を持ってIPに接しているというのが、『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』のクリエイターと接していて実感するところ。『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』の評判がよければつぎにつながるとのことだったが、つぎがあるとしたら3作目の『Destroy All Humans! Big Willy Unleashed』のリメイクになるのか、それとも完全オリジナルの道を歩むのか……続報を待ちたい。
『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』PS Storeサイト 『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』Microsoft Storeサイト 『デストロイ オール ヒューマンズ!2 - リプローブド』Steamサイト