2022月9月15日~18日に開催中の東京ゲームショウ2022。セガブースでは、2022年9月14日に発表されたばかりの『龍が如く 維新! 極』の試遊が可能だ。
本記事では、『龍が如く 維新! 極』の開発を手掛ける、龍が如くスタジオ代表の横山昌義氏と、『龍が如く』シリーズチーフプロデューサーの阪本寛之氏に、『龍が如く 維新! 極』についてお聞きした。
さらに、同時発表された『龍が如く7 外伝 名を消した男』、『龍が如く8』についても、どんな作品になるのか聞くことができたので、前後編のインタビューとしてお届けしよう。
横山昌義 氏(よこやま まさよし)
龍が如くスタジオ代表/制作総指揮
阪本寛之 氏(さかもと ひろゆき)
『龍が如く』シリーズチーフプロデューサー
体制の変わった、龍が如くスタジオの1年
――2021年10月より、龍が如くスタジオは新体制となりました。横山さん自身は「自分の仕事はあまり変わらない」と中野英雄さんのYouTubeチャンネルでおっしゃっていましたが、チーム全体としての変化はありましたか?
横山いままでは『龍が如く』チーム、『JUDGE EYES(ジャッジアイズ)』チームという感じでIP別にチームを分けていましたが、それを全部取っ払うことにしました。現在、龍が如くスタジオは職種別に変更したんです。
たとえばプランナーならプランナー、デザイナーならデザイナーの大きなひとつのチームで動いています。そうなったことで、複数タイトルをスタジオ内で回しやすくなりました。もちろん、どちらもメリットがあります。以前のようにIP別のチーム編成の場合、専門の特化した場所で、スタッフが自身の得意な能力を発揮できますし、彼らが専念できるぶん、そのIPに対しての理解が深まります。
一方、職種別の場合だと、たとえば阪本は『龍が如く』シリーズのプロデューサーをやりながらも、ほかで動いているタイトルに関わるスタッフの面倒も見る必要があります。そうすることで、上に立つ人間はすべてを網羅して知っていくことになるわけです。結果、何かしらのリスクが起きたときの問題把握は早くなりますし、判断などの速度感も上がります。
また、職種別になると、現場のスタッフもほかのスタッフの面倒を見たり、ほかの分野についての知識を得られるなど、広がりが持てます。例を挙げると、いま龍が如くスタジオでは、アンリアルエンジンとドラゴンエンジンの2種を使っているのですが、特定のIPのスタッフが片方のエンジンばかり使っている状況だと広がりがないわけです。ドラゴンエンジンの発展になりませんし。ただ、職種別の編成にしたことで、ふたつのエンジンのいいところを互いにフィードバックさせるということもできるようになりました。
――2種類のエンジンを使いこなせる、IPではなく職種のスペシャリストが誕生することになりますね。
横山そういった組織変更のおかげで、スタジオ全体はすごくいい方向に向かっていると思います。また、そのメリットを活かした結果、3本同時に新作を発表することが可能になりました。
海外では初となる『龍が如く 維新! 極』
――今回『龍が如く』シリーズ3作が一挙に発表となりました。まず『龍が如く 維新! 極』のお話から伺います。『龍が如く 極』、『龍が如く2 極』から、もしあるとしたら『龍が如く3』または『龍が如く 見参!』が“極”になると予想していましたが、なぜ今回『龍が如く 維新!』が“極”になったのでしょうか。
横山海外では『龍が如く』シリーズのナンバリングタイトルはすべて発売されているため、『龍が如く3』も遊んでもらえているのですが、「『龍が如く 見参!』と『龍が如く 維新!』は海外の方が遊べる環境になかったんです。そこで、「どちらか“極”にしたほうがいいのでは?」、ということになり、多くのファンの方がリメイクを期待していた『龍が如く 維新!』を選びました。
阪本なぜか『龍が如く 維新! 極』を発表してから急に、海外のメディアから「『龍が如く 見参!』はどうしたんだ!!」と聞かれるようになったことは驚きました。発表までは、リメイクしてほしいという声は大きくなかったので。
横山正直なところ、『龍が如く 維新! 極』に“極”と付けたのは日本のユーザー向けなんです。日本人にとってはリメイク作品なので。ただ、海外の方から見れば、これまでリリースされていなかった『Like a Dragon: Ishin!』という新作タイトルなんですよ。ですので、これまでの“極”の立場とは少し違います。
――わかりました。ちなみに今後、もしかしたら『龍が如く 見参!』も“極”になる可能性もありますか?
横山もしも『龍が如く 見参!』を作り直すとしたら、ストーリーから変えるでしょうね。とくにラスト付近は、深くは言いませんが完全に変更すると思います(苦笑)。おそらく、“極”化すると仮定したら『龍が如く 見参!』は全タイトルの中でいちばん開発費が掛かりそうなタイトルです。今後あるかもしれませんが、『龍が如く 見参!』をやるとなると相当の気合と覚悟が必要になりそうですね(笑)。
――今回初めて遊ぶ海外ユーザーに受け入れてもらえるならば、望まれそうな気もします。
横山ただ、現段階では議論の場にも上がっていませんよ?(笑)。「『龍が如く 見参!』のリメイクは?」って言われ始めて、まだ3日しか経ってないですから!
――ちなみに、『龍が如く 維新! 極』のゲームエンジンは何を使用していますか?
横山アンリアルエンジンです。アンリアルエンジンは昼のシーンの描写に強いというのが大きな理由です。公開されているトレーラーなども見てもらえばわかるのですが、アンリアルエンジンは昼のライティングがとても自然に描写できるんです。ドラゴンエンジンは『龍が如く』シリーズを作る専用エンジンゆえに、夜の街を描くことに特化していて、昼のシーンを描くのが苦手なんですよ。
阪本アンリアルエンジンは川や木など、自然の造形物を描くのが得意なんです。これもドラゴンエンジンでは、夜の街の建物などに特化しているので苦手なところです。『龍が如く 維新! 極』は昼のシーンが多く、自然の多い街並みで遊ぶゲームですから、アンリアルエンジンを選びました。
――シンプルな理由で使い分けていたんですね。続いて気になったのは、今回はオリジナル版とは異なる新キャストも迎え入れています。なぜキャストを変更したのか教えてください。
横山『龍が如く0』に登場した久瀬大作(声:小沢仁志氏)、阿波野大樹(声:竹内 力氏)、渋澤啓司(声:中野英雄氏)の3人を、もう1度使いたかったんですよね。とくに渋澤は『龍が如く0』の物語の中で「龍を背負っているのはお前だけじゃない」と桐生一馬と対立します。
『龍が如く 維新! 極』は坂本龍馬と武市半平太の物語なので、関係性がうっすらリンクしているわけです。そこで今回は「時代が異なればこのふたりが出会っていたら、もしかしたら関係性も変わっていたのかも」というニュアンスを入れたかった部分もあります。それがファンの方々に伝わるかどうかはわかりませんが、ぜひ感じ取ってほしいなと思っています。
――システムについてもお聞きしたいです。オリジナル版では新選組隊士をカードとして引き連れて、バトルダンジョンに挑むことができました。今回、隊士カードが通常バトルで使えているように見えますが……?
阪本当時はプレイステーション Vitaとの連動で、バトルダンジョンのみ外に持ち出して遊べるという仕様で、隊士を使えるのも、バトルダンジョンの中だけでした。
横山じつは当時、我々は「通常のバトルでも隊士を使えるようにしたいな」と思っていたんです。ただ、本編のバトルはシリアスで、バトルダンジョンはゲームライクでコミカルだから差別化できていいのかなと思っていましたし、隊士カードのシステムがそこまでおもしろいものになるとは思ってなかったんですよ。
阪本ところが実際に完成したら、隊士カードを使うバトルがとてもおもしろかった。ただ、連動の仕組みなどが動いていたので、そこからの変更はできず……。そんなわけで、じつは『龍が如く 維新! 極』で真っ先に変えようとなったのは、隊士をダンジョン外でも使えるようにすることでした。さらにはっちゃけて、誰も知らなかった新選組隊士ということで春日や石尾田などのキャラクターのカードまで使用できます。あとクマとか犬も(笑)。
――まさにオールスターですね。春日一番に関しては、『龍が如く7』の主人公ですから、隊長役のいずれかと交代もあるのかなと思いましたが、いち隊士なんですね。
横山かなり迷ったところです。春日も重要な役で登場させたかったのですが、春日の声は『龍が如く 維新! 極』のメインキャラクターである岡田以蔵の声と同じく中谷一博さんが演じています。それは主人公・桐生一馬とライバル・錦山 彰の関係性から、岡田以蔵は中谷さんであるべきだったからです。演技はまったく別モノなんですが、声としては中谷さんの声ですから、似ているといえば似てますよね。それが混在してしまうと、ドラマを成立させるのが難しいのかなと。
阪本あと、春日に似合う役どころもなかったんです。たとえば新選組の隊長の中で、春日一番にピッタリだという人物が思いつかなくて。さすがにキャラクター性を変えてまで配役するわけにはいかないですから。
――なるほど。発表会を見て、バトルとキャストが大きな変更点だな、という印象でしたが、お話を聞いて納得です。
阪本はい。いかに隊士カードを組み込みつつ、バトルシステムをパワーアップさせるのかは、まだまだチューニング中の部分です。当時ディレクターをしていて、「どういう理由でこう調整した」というのは自分でわかっていますから、そこをさらにどう強化するのかという部分で、現場のスタッフたちと調整しています。
東京ゲームショウの試遊ですでに遊んでもらっていますが、かなり“極まった”バトルに仕上がりそうだという手ごたえは感じています。ゲーム本編でも、終盤はもう完全に極まったステータスで戦うようなものになると思います。オリジナル版ではそれがバトルダンジョン内のみで可能だったんですが、それを本編の中でも味わえるようにしています。
――念のための確認ですが、バトルダンジョンは健在ですよね?
阪本存在します。本編のみならず、ダンジョン内の敵もより難易度の幅があるんです。たとえば、今回は敵もスキルを使用するという変更を行いました。トレーラーでも徳川慶喜が極太のレーザーを撃っていたと思うのですが、ああいった多彩なスキルを使ってきます。「徳川慶喜がレーザーを撃つ」ってなんだよ、って思われるかと思いますが(笑)。
――家紋から撃っていて驚きました(笑)。聞く限り、バトルシステムはかなり手が加えられていそうですね。
横山どうしてもバトル部分はインフレを起こすので、バランスも変更しています。オリジナル版は短銃が強すぎて、武器強化で短銃を育てていたらそれだけで終わってしまうような感じでしたが、そこも変えています。なるべくバトルスタイルのバランスは均等を目指していますが、そのぶん隊士カードのスキルがはちゃめちゃなんです。
――武器といえば、オリジナル版での育成はバトルダンジョンでの素材集めで、装備を強化するのが成長要素のひとつでした。そこに大きな変更はないのでしょうか。
阪本そこのゲームサイクルは同じです。ただ武器などの合成は、より幅を持たせられるようにしています。
――また、トレーラーを見る限りではミニゲーム、プレイスポットは減ったりはしていないように見えました。
阪本オリジナル版にあったものは登場します。カラオケに曲が追加されたりはしますけどね。
――ほかに大きく変えたところはありますか?
横山チュートリアルですね。オリジナル版は日本でしか発売されませんでしたし、『龍が如く』シリーズのキャラクターが登場人物を演じるというスターシステムで、完全に『龍が如く』シリーズファンに向けたタイトルでした。ですので、チュートリアルも正直雑で、「『龍が如く』ではこうでしたよね」みたいなのが前提だったんですよ。なので、海外スタッフに聞いたら「これは『龍が如く』ファンにしかわからない」と言われてしまって。
今回は海外発売もありますから、シリーズのお決まりに頼りがちだったところをフラットに考えました。これまでのナンバリングタイトルが好きな海外ファンにも受け入れてもらえるとは思いますが、さらに『Like a Dragon: Ishin!』は単純なる時代劇モノとして、海外ファンもきっと遊んでくれると思っています。初めて遊ぶ人にも遊びやすくなるよう、チュートリアルは丁寧に作り直しました。
――昨今は時代劇、さらに日本を舞台にしたゲームが海外に受け入れられている環境なので、いい方向かもしれませんね。
横山ただ、幕末の動乱の時代というのは、海外に伝えるのは難しい部分です。もともと『龍が如く 維新!』のストーリーラインでは、歴史描写はあまり重要視していませんでした。わかっていれば伝わるとは思いますが、ゲーム内ではそこがわからなくても遊べるようにしていたのはよかったポイントかもしれません。
オリジナル版を遊ばれた方はわかると思うのですが、ゲームでは「長州藩と薩摩藩がなぜモメているのか?」など思想の部分は描いていなくて。長州藩と薩摩藩という組が抗争している感じにしていて、新選組がなぜ京都にいるのかも詳しく描いていません。基本的に殴って解決、という仕組みにしていたので、そのままローカライズしても海外プレイヤーも受け入れやすいのかなと思います。
――追加要素はありますか?
横山発表やインタビューで言ってることが、ほぼすべてに近いです。『龍が如く 極』などは追加ストーリーがありしましたが、それが“極”に必要な要素だとは思っていなくて。グラフィックが向上しているのもありますが、バトルシステムが大きく変わっていることや、キャストの変更が大きなところです。ミニゲームはほぼほぼそのままですし。
阪本ただ、サブストーリーは若干増やしています。田中シンジやタツ姐といったシリーズキャラクターが出てくるサブストーリーがあったりします。シリーズファンにとっては、まさに『龍が如く』のお祭りみたいなタイトルですが、知らないと楽しめないという要素ではないので、初プレイの人もご安心ください。