プレイステーション5用のVRヘッドマウントディスプレイ“PlayStation VR2”(以下、PS VR2)。アメリカのカリフォルニア州サンマテオにあるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)本社で試遊イベントが行われたので、そこでわかったことなどをお伝えしましょう。
SIE本社では4タイトルをプレイ
今回現地で体験できたのは以下の4タイトル。特に注目度が高いだろう『バイオハザード ヴィレッジ』と『Horizon Call of the Mountain』については日本で行われた試遊イベントでの記事がありますので、本記事では試遊や開発者との会話でわかったハードウェア部分の進化について掘り下げていこうと思います。
- カプコン『バイオハザード ヴィレッジ』PS VR2版
- サバイバルホラーアクション『バイオハザード ヴィレッジ』をVR向けにしたもの
- SIE『Horizon Call of the Mountain』
- ゲリラゲームズによるアクションアドベンチャーゲームのホライゾンシリーズを題材にVR用に開発されたオリジナルタイトル
- Skydance Interactive『The Walking Dead: Saints & Sinners - Chapter 2: Retribution』PS VR2版
- Oculus Quest 2版やPC版なども発表されている
- ディズニー『Star Wars: Tales from the Galaxy's Edge』エンハンスドエディション
- Oculus Quest 2向けに発売中のゲームの強化版
1. インサイドアウト方式を採用し、接続がUSB-Cケーブル一本に簡略化
ハードウェア面の大きな進化としては、まず“インサイドアウト方式”の採用と、それにともなう接続やセットアップの簡略化が挙げられるでしょう。
これはVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)や両手のモーションコントローラーの位置を検出するための方法のことを指します。PS VR2では本体前面部の4つのカメラを使い、周囲との位置関係やコントローラーの場所などを検出します。本体から外に向かって確認を行うので“インサイドアウト”です。
その特徴は、外部デバイスに頼らなくてよくなるので接続やセットアップが簡単になることです。たとえば外部から判断するという形(アウトサイドイン)をとっていたPS VRでは本体とPS4以外にPS Cameraが必要で、配線なども煩雑でした。今回は本体とPS VR2をUSB-Cケーブル一本で繋げばオーケーです。
ヘッドセットを被ったまま外部を見るシースルー機能なども対応
このインサイドアウト用のカメラはOculus Quest 2などと同様にヘッドセットをかぶっている時に周囲を見るのにも使えます。VRHMDを持ってない人は「一旦脱げばいいじゃん」と思うかもしれませんが、これはあると地味に便利な機能です。
たとえば“先にPS VR2をちゃんとかぶってからモーションコントローラーを探す”とか、“ちょっと飲み物や食べ物を取って飲む”といったこともできます(後者をやる人はプレイ中にひっくり返さないような場所に置きましょう)。
またこちらも他機種で採用されている機能ですが、プレイエリアの設定が可能になりました。
初期セットアップでは周囲をスキャンして、家具などを避けるようにプレイエリアを設定できます。プレイ中は外の世界が見えないので、超えそうになったら警告が出るという仕組みになっています。
2. PS5用になりグラフィック面が強化。内蔵ディスプレイも両目4KHDR対応に
お次はグラフィック面の強化。処理を行うのがプレイステーション4からプレイステーション5へと移行しているので当たり前と言ってしまえば当たり前なのですが、グラフィックの向上は試遊で驚いた部分のひとつです。
また内蔵ディスプレイの解像度自体も上がっており、片目あたり2000ピクセル×2040ピクセルとなって縦横ともに初代の約2倍に。両目合わせて4K解像度でHDR対応となっています(視野角は110度に)。
- 初代PS VR 片目960×1080ピクセル
- PS VR2 片目2000ピクセル×2040ピクセル
プレイしていて一番印象的だったのは『バイオハザード ヴィレッジ』で、ゲーム中に登場する三姉妹の絵画を眺めたり、本などの上にオーバーレイされるテキストを読んだりしたんですが、かなり自然に見えました。
VRタイトルではよくあることですが、VRに求められるスムーズで高速な描画を実現するためにディテールが落とされていることがあります。VR版『バイオヴィレッジ』では非VRの通常版そのままとまでは行きませんが、かなり近い質感を感じることができました。
もちろんVRの実在感がそこに加わるので、もうなんというかいろいろスゴい。ドミトレスク夫人が超でかくて肉厚なのがまじまじと伝わってきて、なにか目覚めてしまいそうでした。
3. アイトラッキング機構により、描画の最適化や演出の補助に使えるように
しかしプレイステーション5の性能がいいとは言っても、VR向けの高速な描画は上を見たらきりがありません。そこで役立つのがPS VR2で採用されているアイトラッキング機構です。
PS VR2では使用者の目の状態を確認し、注視点とその移動・瞳孔径・まばたきの状態・そしてそれらの各状態の信頼度などのデータを得られます(GDC講演“Building next-gen games for PlayStation VR2 with Unity”より)。
それによってできることのひとつが、フォビエートレンダリングと呼ばれる手法です。これはプレイヤーが実際に見ているあたりだけを高解像度で描画し、ボヤッとしか見えていない周辺視野を低い解像度で済ませることで、処理量を削減するというもの。ちなみにめちゃくちゃキョロキョロしたら境目がわかるのではと思ったのですが、まったくわかりませんでした。
アイトラッキングのデータが使えるのはそれだけではありません。注視している場所に合わせて狙いを補正するエイムアシスト機能とか、キャラクターをプレイヤーの視線に反応させるとか、メニュー項目などの選択判定の一部に視線を利用するといったことが可能とされています。
今回遊んだタイトルでそれらの技法をやっていたかどうかはわかりませんが、アイトラッキング機能を採用しているVRHMDはまだ限られていて一般向けではなかなかレアなものなので、今後採用する機種が増えるとともにもっと便利な用法が開拓されていくでしょう。
4. モーションコントローラーがVR専用のものに
初代PS VRからの変化という点では、手に持って使うモーションコントローラーの進化も欠かせません。
初代ではPS Moveをモーションコントローラーとして流用する形を取っていましたが、本来VR用に開発されたものではないため、他社製品付属のコントローラーに対してVR内で手で行う作業を表現するには不向きといった難点がありました(代わりにDUALSHOCK 4コントローラーをVR内に持ち込むタイトルがあったのはユニークな点でしたが)。
これに対してPS VR2では、手で作業を行いやすい形状の専用コントローラーが用意されます。それだけならVRHMDでのスタンダードにようやく乗ったという感じですが、デュアルセンスコントローラーのハプティクス(振動)機能やアダプティブトリガーなどを搭載しているので、後発としてもかなり優れたものになっています。
またユニークなことに、PS VR2ではVRHMD本体部分にもハプティクス機能が入っています。これはたとえばプレイヤーの近くで爆発などが起こるようなシーンで頭部とコントローラーの位置関係に応じて振動の強弱をつけることで、立体的に衝撃を体感させることが可能です。
今回デモを試遊したあとで各タイトルの関係者と話す機会があったのですが、ハプティクス機能やアダプティブトリガーなどのコントローラー周りの進化はPS VR2に期待している部分として毎度のように挙がっていた項目です。
トリガーの重さをゲーム側でコントロールできるアダプティブトリガーは、銃のトリガーや弓を引く祭の感触をリアルに表現できます。一方ハプティクス機能の方は、VR内で物に触れた時などにちょっと振動を入れるだけでもかなり印象が変わってくるとのこと。
今回プレイした4タイトルがいずれもモーションコントローラーをフル活用して自分の手をVR内の手として使うものになっていたのも、恐らくPS VR2の方向性のひとつを示しているのでしょう。
5. サウンドや利便性なども強化
このようにPS VR2は全体的に最先端よりの機能を採用した今どきの設計になっているわけですが、その中で気になったのがサウンド部分の設計です。
というのも他社製VRHMDでは、ヘッドバンド部分を通じて音を伝えるOculus Quest 2や、耳の前に浮かした形でイヤースピーカーを置いているValve Indexなど、耳を塞がないタイプのサウンド機能を内蔵する流れがあります。
それに対してPS VR2では、別売りのPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットを繋げたり、ヘッドフォン端子にイヤフォンやヘッドフォンを接続して使う、という従来の方向性を踏襲した形です(試遊ではPULSEヘッドセットを使用)。
これはなぜなのかSIEに聞いてみたところ、そこにも一種のこだわりがあることがわかりました。ポイントとなるのは立体音響です。
PS VR2ではPS5の3Dオーディオ機能であるテンペスト3Dオーディオ技術を使った没入感の高い立体音響をVRで体験してもらうことを重視しているそうで、かつそこにPS5本体と同様に一般のヘッドセットやヘッドフォンの多くを使えるようにしたいといった事情の兼ね合いからこの形になっているようです。
ちなみにPS VR2の付属イヤフォンもPS VR2の3Dオーディオ機能に対応するそう。さらにおまけで言うと、付属イヤフォンを使わない時はPS VR2側面の穴に挿しておくことができます。
画期的な進化というものではないのですが、細かな利便性が改善されているのも触れておきたい部分です。
まず、PS VRはもともとメガネをしていても比較的かぶりやすいVRHMDでしたが、それは本体がよりコンパクトになったPS VR2でも変わりません。記者のメガネは横幅がそれなりにあるので機種によっては試遊の際に手間取ることもあるのですが、今回は全4回のデモともスムーズに被れました。顔との距離の調整機構なども初代を踏まえつつ、微妙に使いやすく改良されています。
またVRの見え方に影響してくる瞳孔間距離の設定は、実際に本体を被りながら調整ダイアルで設定できるようになりました(目が範囲内に収まっているかも設定画面で示してくれるのでわかりやすい)。
以前はPS Cameraで顔を撮影してから設定していく形だったので、今回はかなり手っ取り早いです。初回に瞳孔間距離の設定、アイトラッキングの設定、周囲のスキャン、プレイエリアの設定などを済ませてしまえば、後はそのまま使えます。
まとめ: 先端的な機能も取り入れつつ、正当進化したVRHMD
というわけでPS VR2は“アイトラッキングや高度なハプティクス機能など先端的な機能も取り入れつつ、正当進化したVRHMD”と言えると思います。
残念ながら今回はまだ発売日や価格等は発表されなかったのですが、そちらも気になるところ。あとはPS5本体と一緒に入手しやすくなるのを願いたいですね。