富山県東部にある町、魚津市。いま、この魚津市が“つくるUOZUプロジェクト”なる運動を行い、開発イベントやゲームメーカーを呼び込む施策を打ち出している。

 魚津市といえば富山湾を眺めたときに風景が歪んで見えたり本来そこにないものが映ったりする“蜃気楼現象”や、高騰する米価に怒った漁村の主婦たちが決起した大正時代の“米騒動”が有名な町だが、これまで取り立ててゲーム分野やIT分野で先陣を走るという町ではなかった。

 そんな魚津市がなぜ“ゲーム”を柱とした政策を始めたのだろうか? 仕掛け人である魚津市長に直撃しつつ、その実態を調査した。

 ちなみに取材を行った記者は富山県出身。高岡市の取材に続き“ゲーム×富山県”の出張取材は2回目。わが故郷富山がにわかにゲームで盛り上がっている気がするぞ!

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魚津市で行われたゲーム制作イベント“つくるUOZUプロジェクト”実施年表(抜粋)

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
ハッカソンの様子。地域住民を集めてゲーム制作をレクチャーしながらゲームを実際に作ってしまうイベント。
  • 2017年11月……UOZUゲームフォーラム2017
  • 2017年12月……UOZUゲームハッカソン
  • 2018年3月……UOZU GAMEサミット
  • 2018年5月……プレ!? GAMEサミット
  • 2018年6月……6月GAMEサミット、GAMEサミット -宴勉強会-
  • 2019年2月……2月GAMEサミット
  • 2019年3月……3月GAMEサミット
  • 2019年5月……5月ゲーム開発入門講座
  • 2019年6月……UOZUゲームハッカソン 夏の陣
  • 2019年8月……8月UOZU GAME BOOT CAMP 2019
  • 2019年9月……UOZUゲームフォーラム2019
  • 2019年10月……第15回魚津産業フェア“〇〇(まるまる)、魚津”つくるUOZUプロジェクトブース出展
  • 2019年11月……UOZUゲームハッカソン 冬の陣
  • 2020年1月……UOZUゲームフォーラム2020
  • 2020年6月……UOZU GAME BOOTCAMP2020(オンライン)
  • 2020年7月……UOZUゲームジャム(オンライン)
  • 2020年11月……UOZUプログラミング体験教室(市内小学生対象)
  • 2021年1月……UOZUゲームジャム-winter(- オンライン)
  • 2021年4月……高齢者向けゲームの受託制作
  • 2021年7月……UOZUゲームクリエイト体験教室(中高生対象)
  • 2021年8月……UOZUゲームジャム-Hot! Summer‼(- オンライン)、UOZUゲームサミット 参加者交流会 好きなもの共有編
  • 2021年10月……UOZUゲームフォーラム2021、UOZU GAME BOOTCAMP2021(オンライン)
  • 2021年7月……UO! GOODY,UO! LIFE 出展
  • 2022年1月……アニメ・ゲームサミット2022参加、加積地区eスポーツ大会
  • 2022年2月……UOZUゲームジャム-Cool! Winter‼-

出典:つくるUOZUプロジェクト公式サイト

村椿晃(むらつばき あきら)

富山県魚津市長。1957年生。富山県黒部市出身。富山県庁などを経て2016年より同職。(文中は村椿)

“ゲームのまち”構想仕掛け人・村椿晃市長に直撃

――まずは魚津市の“ゲームのまち”構想について発端などを教えてください。

村椿2016年に私が魚津市長選挙に出馬する際に提案したものでして、IT企業、とりわけゲームの力で町に元気を与えようというプロジェクトです。

――具体的にはどのようなことを行っているのですか?

村椿 “つくるUOZUプロジェクト”というものを立ち上げまして、2017年から、ゲーム業界の第一線で活躍されている方に講演をしていただいたり、地元の人から参加者を募って実際にゲームを作るイベント、ハッカソン(※)やプログラミング教室などを行ったりしています。

 ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、リアルで参加者が集まるイベントは控えていますが、コロナ以前はほぼ毎月のペースでイベントを開催しているという時期もありました。

※ハッカソン…… ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせたIT業界の造語。決められたイベント期間内で一気呵成にプログラムの完成を目指す。

――そもそもなぜ“ゲームづくり”やゲームに着目したイベントを始めたのですか?

村椿魚津市というところは、山と海が非常に近いところで、平野部が少ないのですね。

 となると、大きな工場や企業団地みたいなものを誘致するにはなかなか条件がきびしいのです。そこで、「大きな占有面積が必要なくとも大きな成果を上げられる可能性のあるITの分野に投資をしよう」というのが出発点です。

 ひと言にITと言っても幅広いですから、中でも、誰にとってもわかりやすいゲームというものを旗印にし、“ゲームのまち”として人材育成や企業誘致を行おうという狙いがあります。

――ああ、なるほど。とくに現在はリモートワークの普及もあって、企業や人材にとっても働く場所の選択肢はより幅広くなっていますしね。

村椿また、富山県西部の南砺市には有名なアニメスタジオのP.A.WORKSがあり、スタジオ近辺には喫茶店やさまざまな展示などに使える施設なども作られ、町として盛り上がっています。私が県庁職員だったころからその社長とも交流があったりしまして、同じアニメでやろうとしてもすでに向こうにありますから、こちらはゲームに着目しようという発想もあります。

 また、ゲームの場合はエンターテインメントとしてももちろんそうですが、プログラム能力などはそれ以外など実用面、産業面でも活用できますから、そういった人材育成に力を入れるのはいいことだろうと考えたわけですね。

――講演や開発イベントのほかに行っていることはあるのでしょうか。

村椿かつて使われていた小学校の屋舎を再整備し、ワーケーションが行えるような“トライアルオフィス”にしました。こちらは2022年7月に、東京都のゲーム会社の方に短期合宿の場として利用していただきました。

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
トライアルオフィス“necco(ネッコ)”として再整備が行われた旧村木小学校。もともと教室だった部屋の一部を改築、ネット環境やプリンターが用意されている。

――本プロジェクトに関して、現在の課題はどのようなことだと感じていますか?

村椿プロジェクト開始から6年になりますが、目に見える成果については正直まだこれからといった状況です。

 ゲームメーカーさんなどに魚津市にサテライトオフィスを作っていただいたり、ワーケーションのために来てもらったりするために、市や商工会も「有形無形の支援を行いたい」という意思はあるのですが、「どうすれば来ていただけるのか?」という点を研究している段階といったところです。

――ひとつずつ積み重ねているといった状況でしょうか。

村椿そうですね、単発的なイベントだけでなく継続的に行っています。また、数年前に富山市の専門学校にゲームクリエイター専攻コースが作られまして、今後はそういったところとも協力できればと考えています。

――ゲームメーカーが「魚津市で、何かを試してみたい」と考えたときはどのようにすれば?

村椿魚津市役所にご連絡ください! 市長を直に呼び出していただいてもいいですよ(笑)。ちなみに、東京ゲームショウ 2022にも出展予定ですので、ぜひお声掛けください。

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!

つくるUOZU参加者の声

ゲーム制作素人集団が作品販売にいたるまでに成長

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
左より、はらもちさん、森影さん、二口めじろさん、kuroさん。

――皆さんは“つくるUOZU”で初めてゲームづくりを行われたのですか?

はらもちそうですね。イベント参加者の中にはプログラミング経験者もいたのですが、本当に初めてという人もたくさんいて。

二口私はUnityの初心者向けの技術書を1冊買ったんですけど、ちょっと読んで放置……という状態でした(笑)。

森影僕はプログラミングを少しやっていたんですが、ゲームづくりは初めてでしたね。

――ゲームを作るというイベントに参加されて、実際に何か変化などはありましたか?

はらもち仲間ができたことですね。ひとりだと、諦めるのは簡単なんですけど、同じゲームを作るという目標を持った仲間たちができて、みんなで作業するとやっぱり「しょうがないやるか」という気持ちになれたり(笑)。

森影じつは僕はイベント参加後に転職をしまして、ゲームではないのですがプログラムをする職業になりました。

――おお。ゲームづくりの経験ほぼゼロの状態から、AndroidやPCで遊べるゲームを公開するようになり、森影さんは『喰人記』をSteamで販売するまでにいたっているのですね。

PC『喰人記』(Steamストアページ)

森影つくるUOZUで知り合った方とチームを組み、みんな余暇時間で制作を行いました。

kuroイベントがあって定期的に仲間と顔を合わせると技術的なことを聞けますし、モチベーションの維持の面でも大きいですよね。

はらもち 同じ「ゲームを作りたい!」と思っている人に出会えるというのは大きかったです。実際、いまも僕は二口さんとゲームを開発中で、今年秋の完成を目指しています。

――今後「こうなってほしい」という希望はありますか?

kuroいますぐじゃなくても、富山県にゲーム会社ができるといいですね。「ゲーム制作を仕事にしたい」と思う人が、地元でもその夢を実現できるようになるといいなと思います。

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
『越中方言ガール』:二口めじろさん作(チーム制作)。選択肢を選びながら富山弁が学べる。
富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
『喰人記』:森影さん作(チーム制作)。オムニバスの伝記ノベルゲーム。

ゲーム開発会社“トイディア”がサテライトオフィス施設“necco”を体験

 2022年7月に東京のゲーム開発会社トイディアが短期合宿を行い魚津市の施設を実際に体験。その感想を松田崇志氏に聞いた。

トイディア松田氏のコメント

 サテライトオフィスの利点は、社員の気分転換や環境を変えることで得られる短期集中型の開発力向上があると考えています。

 neccoは、「いますぐここでゲーム開発ができるぞ!」という環境ではまだありませんが、さらに環境が改善されれば、企業規模での利用も増える可能性はあると思います。

 魚津では市長を中心に熱意を持ってゲームイベント継続していて、インディークリエイターの育成、発掘に関し地道に実績を積み上げている点がすばらしいと感じています。日本海側の雄として富山でゲーム開発コミュニティが盛り上がることに期待します!

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
necco使用時の様子。

新川高校eスポーツ部

 つくるUOZUプロジェクトと直接関係があるわけではないが、市内にある高校ではeスポーツ部が活発に活動中。しかも、部室は高校の隣に建つ一軒家を生徒たちの手で改装し、部室として使っているというからユニーク。その一端を少し紹介する。

一軒家を改装した部室に高性能PCがずらり

 魚津市に建つ新川高校ではeスポーツ部が活動中。『VARORANT』や『League of Legend』などのPCゲームを始め、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』など計6部門に分かれて、日々の練習や大会への出場など精力的に活動を行っている。

 数年前の設立時から部員は年々増えて現在は53名が在籍。しかし部室には13台しかPCがないため、部門ごとに活動曜日を分けて使用しており、家でプレイできる部員は自宅からログインして部活動に参加するという。もともと学校の持ち物だった一軒家を、部員と教諭で壁紙やカーペットを張り替え、ネット環境を整えた“ゲーミングハウス”として部室化して使用している。

 部員たちは“つくるUOZUプロジェクト”にも間接的に協力しており、若者たちも“ゲームのまち”の一部を彩っている。

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
多数のゲーミングPCが稼動する部室前に立つ亀田和歩部長。「今年は『クラッシュ・ロワイヤル』で中部地方ベスト8に入賞しました!」と喜びを語った。
富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
部室内に貼られたホワイトボード。部室使用時のルールや今後のスケジュールについて記されている。

記者の目

 しんきろうの町として有名な魚津市はいま、若者の人口流出に悩まされている。

 “ゲームのまち”というスローガンや6年にわたり地道に続けている“つくるUOZUプロジェクト”は、それに歯止めを掛けるという目的もあるという。もともとゲーム企業があるわけではない土地で、プログラミング教室やゲームづくりイベントの開催から始め、ゲームメーカーやIT企業の誘致を目指すという計画は、遠大というか壮大というか、気の長い話にも見える。

 しかし、地方都市がITと若者に投資する動きはこれからの時代に適した姿勢であると思う。小さいかもしれないが芽は出始めている。魚津市がシリコンバレーならぬ“ウオヅンバレー”になれるかどうかは今後次第といったところで、そのためにより具体的な動きが加速することに期待しつつ、「ゲームを作りたい!」という若者への支援に拍手を送り、応援したい。

富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
富山湾に面している魚津市。気温差によって風景が歪む現象の蜃気楼が発生しやすいことで有名。写真奥の橋(新湊大橋)の橋桁あたりが歪んでいるように見えるのが蜃気楼現象。富山湾にはイルカもいるらしい。
富山県・魚津市が目指す“ゲームのまち”構想に迫る。山がそこ、海がすぐそこ。平地が少ない地方自治体が目をつけたのはゲーム産業だった!
魚津水族館は現存する日本最古の水族館。こじんまりとした建物でアザラシやペンギンがお出迎え。ちなみに、魚津市の写真は公式サイトからフリー素材がダウンロードできます。
魚津の写真ダウンロード(魚津市公式サイト)