『ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット』は、スパイク・チュンソフトより2022年8月25日に発売されるRPG作品。
2019年にPCで発売され、“The Game Awards 2019”ではBest Narrative(最優秀ナラティブゲーム)やBest Independent Game(最優秀インディーゲーム)、Best RPG(最優秀RPG)など数々の賞を受賞。多くのファンから支持を受けた本作が、今回ローカライズされていよいよ日本国内で発売されることとなった(Switch/PS5/PS4)。本稿では、尖りに尖ったゲーム内容を持つ本作の魅力を、担当ライターのレビュー記事にてご紹介。
風変わりな性格の中年おっさんに自分自身を投影し、まるでテーブルトークRPGのように物語が進行する本作。金もない、記憶もない、でも一生懸命に生きるおっさんの姿に心打たれること間違いなし(?)のストーリーに、ぜひ注目してほしい。
また、以下の記事ではほかのライターによるプレイレビューも掲載しているので、あわせてチェック!
『ディスコ エリジウム ザ ファイナルカット』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『ディスコ エリジウム ザ ファイナルカット』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『ディスコ エリジウム ザ ファイナルカット』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp)おっさんとの出会いは最悪だった……でも……(キュン)
ある日、担当編集者から「こういうゲームの記事やらない?」という打診が。
本作の日本国内でのパブリッシングを担当するスパイク・チュンソフトは、海外の数々の話題作を日本に持ってきたメーカーだ。過去には、『They Are Billions(ゼイアービリオンズ)』や、2022年に発売された『ダイイングライト2 ステイヒューマン』など、筆者史上でも上位にランクインするタイトルもリリースしている。今回も「やるっすやるっす」とふたつ返事で答えた。
しかしながら実際にプレイしてみると、正直、このゲームのレビューを書くのは非常に難しかった。尖ったゲームは好きだが、本作は筆者の想像を越え、エベレストの山頂のように尖りに尖っていたからだ。
エベレストに登ったことはもちろんないので調べてみたところ、山頂はそんなに尖っていないことを知った。まあいい。ともあれ、本作の尖りっぷりは筆者の心にぶっ刺さったのだ。
まず、簡単にゲーム内容を紹介。本作は、記憶喪失の刑事が主人公のRPG作品。相棒のキム・キツラギとともに、派遣された町で起こった殺人事件を捜査し、犯人を突き止めるのが大きな目的となる。
上は本作のゲーム画面だ。ゲームをプレイする前にこれを見たとき、かなりハードボイルドなテイストのゲームだと感じた。ストーリーを読み進めるテキストアドベンチャーゲーム的な魅力もあり、そういったゲームも好きな自分としては、早く遊んでみたいという気持ちが高まっていった。
しかし、“ヤツ”に出会ってかなりの衝撃を受けてしまった。
これは、ゲームで初めて主人公が姿を現したときの格好である。本作を語るうえでは、まずこれを紹介せずにはいられない。彼は目を覚ますと、パンツ一丁だったのだ。
ゲームのイラストを見るとチョイ悪系のオヤジなのかなと思ったりもするが、チョイ悪どころではなかった。ある意味激悪である。ただパンツ丸出しとはいえ、自室だからセーフか?
ともあれ、チュートリアルとして周囲に散らばった洋服を集めるところからゲームが始まる。これまでに数々のゲームをプレイしてきたが、パンツ一丁のおっさんに洋服を着せてあげることからスタートするゲームがこれまでにあっただろうか。
そして、天井のファンに吊られているネクタイに手を伸ばすと……。
オイ、死んだぞ。ふだんの不健康さがたたってなのか、心臓発作(?)で死んでしまった。
いきなりキャラメイクからトライアゲイン。体力を増やして、どうにかおっさんに無事に服を着せることができた。しかし、おっさんはどうやら記憶喪失になっているらしい。しかも、彼はアルコール中毒で、お酒の飲み過ぎで記憶を失ったであろうこともわかった。そして、ほかの人との会話で、自分が刑事であること、殺人事件を捜査しにきたことを知る。
おっさんは記憶喪失ゆえ、プレイヤーと同様にこの世界の情報を一切持っていない。そのため、プレイヤーはおっさんになりきってゲームを遊べる。プレイヤーが知らないことはおっさんも知らないので、会話の違和感もゼロだ。これはかなりうまい作りだと感じた。
おっさんは記憶を失ったからか、生来の性格か、言動や行動も破天荒だ。はじめて出会った女性に「****(自主規制です)しよう」みたいなことも言う(言わないことも可能)。
こんな調子だから、このおっさんに自身を投影したいなんて思う人は少ないだろう。けれど、プレイを進めていくと、おっさんの魅力に気がつく。おっさんは、生きることに一生懸命なのだ。
とにかく、何をするにも全力投球なおっさん。ゴミ箱をフルパワーで蹴っ飛ばすこともあるし、請求された宿代を集めるために空き缶拾いに精を出すこともある。巨漢を倒そうとぶん殴ったら、ぜんぜん効かなくて反撃されるなんてお茶目な一面もあるなど、いろいろなことに一喜一憂するおっさんの姿を存分に堪能できる。彼の姿を見ていくうちに、キュンとくる瞬間が訪れるはずだ。
ちなみに、さっきからおっさんおっさんと連呼しているが、主人公のおっさんは自分の名前も忘れてしまっているため、便宜上おっさん呼びを継続させていただく。
自由度の高すぎるミステリーアドベンチャー
さて、本作の魅力の50%はおっさんだと(筆者個人としては)断言するが、残りの50%はその上質な物語に集約されている。
ストーリーとしては、殺人事件を捜査しつつ、自分のことも調べていくという、ミステリー要素が強め。殺人事件をキムとともに捜査するということで、テレビドラマの『相棒』のような雰囲気もあり、謎が謎を呼ぶストーリーが楽しみたいという人にはかなりおすすめだ(ただし、おっさんには右京さんのようなエレガントさと聡明さはゼロだけど)。
おっさんは記憶喪失なため、この世界のルールみたいなものもよくわかっていない。物語の舞台となる“マルティネーズ地区”は労働組合がかなりの権力を握っており、刑事としての圧力みたいなものも効果が薄い。住民たちもどこかよそよそしく捜査は難航するが、そんな状況下でおっさんはじわりじわりと証拠を集め、事件の謎を解明していくことになる。
本作は、ゲームの操作の90%が、テキストを読むことと捜査のための移動に費やされる。その会話のボリュームは圧巻のひと言で、英語版では100万ワードを超えるものテキストが収録されているという。『ハリー・ポッター』の原作小説計7巻よりも多いというのだから、本作のテキストの大ボリュームさにはただただ驚かされるばかりだ。
たとえば、「◯◯の町へようこそ」というキャラクターがいたとする。通常のRPGだと、その文章だけで会話が終了することも多いが、本作ではそうはいかない。ただの会話にも選択肢が出現することが多く、選んだ選択肢やおっさんの能力(振り分けたスキルの強さ)によって、会話が変化や分岐することもあるほどの練り込み具合だ。
また、翻訳の精度のすばらしさもお伝えしておきたい。品質の低いローカライズゲームだと、英語を直訳したような日本語が表示されて興ざめしてしまうこともしばしばあるが、本作ではその心配はまったくの杞憂だ。ジョークや下品な下ネタなどもボヤかさずにしっかりと表現されていて、世界観を損なう心配はまったくない(ただし、伏せ字などある程度の配慮はあり)。
ゲームプレイの自由度の高さも特徴的だ。前述の通り、本作ではゲーム開始時におっさんのキャラクターメイクを行うことになる。アル中の中年おっさんの能力を、プレイヤーの好きなようにカスタマイズできるのだ!(歓喜)
このときに、頭脳派にするか肉体派にするか、それともバランスのいい能力にするのかを自分で決めるのだが、どの能力に突出させるのかによって捜査でできることが変化する。
たとえば頭脳派なおっさんにすれば、鋭い推理や捜査によって、常人では見つけられない証拠を見つけたりできる。また、肉体派なおっさんにすれば壁を飛び越えて新たな現場に到達したり、ときには暴力によって捜査を強引に進めたりできる。
また、特定のスキルが高いとスキルチェック(確率で成否が決まる選択肢)に成功しやすくなるといった要素もあり、人によってエンディングまでのゲームの流れがまったく異なってくるのもおもしろいところだ。
100万ワードを超えるテキストとストーリーは、一度のプレイですべてを見ることは不可能。一度クリアーしたあとも、おっさんの能力を変えて異なる捜査を楽しむという周回プレイも楽しめるだろう。
どんな人におすすめなのか?
本作はその尖りに尖ったゲーム性のため、万人におすすめできるようなゲームではないかもしれない。
本作のジャンルはRPGと銘打たれているが、剣で敵を倒してレベルを上げ、ボスを倒すようなシステムではないので、そういったゲームを求めている人には不向きだ。さらに、会話シーンがゲームプレイの大半を占めるため、会話はそこそこにサクサクと捜査とストーリーを進めたいようなプレイヤーにとっては、若干のもたつきを感じるかもしれない。
反対に、推理小説など物語や文字を読むのが好きという人には、自信を持っておすすめできる内容だ。人との会話を楽しみ、さまざまな場所を捜査し、事件解決に向けての物語をじっくりと楽しむことができる。
また、本作はゲームであるため、小説や映画にはないインタラクティブ性も魅力。おっさんはプレイヤーの選択次第で、善人にも悪人にもなる。その選択次第で、シナリオやテキストも多彩な分岐を見せるだろう。
一般的なテキストアドベンチャーゲームにも選択肢によって展開が変化するものがあるが、それはあくまでストーリーが進行するレールを切り換えるだけのものだ。本作は、プレイヤーが主人公になりきって、本当に自由な“ロールプレイ”が楽しめる。何をするのも、しないのも、プレイヤーの思うがまま。大ボリュームなテキストと、主人公のキャラクターメイク、そしてプレイヤーのアクションによって複雑に変化する多彩な捜査と会話を楽しんでほしい。どんなラストシーンが……というのは壮大なネタバレになるため明言しないが、少しずつ謎が明らかになっていくそのストーリーには、必ず引き込まれるはずだ。
有史以来、これまでに数多のゲームが発売されてきたが、本当に唯一と呼べるほどの尖ったゲーム性を持つ『ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット』。一風変わったゲームがプレイしたいという人にこそ、ぜひ体験していただきたい。
最後にひとつ。相棒として登場するキムがめちゃくちゃいいキャラクターをしている。破天荒なおっさんとは対極的に、非常に冷静沈着な性格の彼は、捜査の主導権はおっさんに握らせつつも、おっさんの会話に割り込んでサポートしてくれたり、ツッコミを入れてくれたりする。また、金に困ったおっさんに援助をしてくれることも。もう妻じゃん。
捜査を進めれば進めるほどお互いの信頼が深まっていくようにも感じ、見れば見るほど海外版『相棒』な様相を呈してくる。このふたりの関係は見ていて非常にほっこりするので、ふたりがさらに活躍する続編なんかも出してほしいなぁ。
“捜査ハンドブック”がすごく欲しい
本作はNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4ともにパッケージ版とダウンロード版が発売されるが、パッケージ版の予約特典には、本作のさまざまな情報が記載された“捜査ハンドブック”が同梱される。
本作で効率よく操作を行うためのテクニックや相関図などが掲載されているナイスな内容になっているので、購入を検討している人は、以下の記事でその内容をチェックしてほしい。
ゲーム情報
- タイトル:ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
- ハード:Switch/PS4/PS5
- メーカー:スパイク・チュンソフト
- 発売日:8月25日発売予定
- 価格:各4939円[税込]
- ジャンル:RPG
- CERO:17歳以上対象
- 備考:ダウンロード版は各4939円[税込]