2022年8月25日にスパイク・チュンソフトより発売される『ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット』(対象機種はNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、開発はZA/UM)。
本記事では、製品版を事前に遊んだライター・西川くんによるプレイレビューをお届け。なお、細かなシステム紹介などは下記の記事をチェックしてほしい。
また、この記事にはネタバレは基本的にないもののちょっとしたシーン紹介などはあるので、まったく情報を入れたくないという方はご注意を。
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『ディスコ エリジウム』のPC版を遊んだことがある、西川くんです。と言っても、2時間くらい発売日に遊んだだけなんですが。
『ディスコ エリジウム』は海外で2019年にPC(Steam)にて発売され、2020年に新要素を加えた『ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット』としてアップデートされました。それが今回、いよいよ日本語版が発売されます(PC版も同日に日本語に対応するそうです)。
Disco Elysium - The Final Cut のPC版が8月25日より日本語対応します!日本語版は @Steam, @GOGcom, @EpicGames にて発売されます。 https://t.co/T0mWGr6tlk
— Disco Elysium - The Final Cut (@discoelysium)
2022-06-16 19:43:02
いやいやもう、いちゲームファンとして、とてもとても待ち望んでいました! 「2時間遊んだ」と言いましたが、なぜ2時間しか遊ばなかったのかというと、言語の壁がとてつもなく高かったからです……!!
以前遊んだのは英語版で、そのときは辞書アプリなどを駆使して単語を調べながら遊んでいたのですが、本作のテキスト量は膨大かつ、英語ネイティブじゃないと読めないような言い回し、哲学的な文章、皮肉やジョークの入り混じった抽象的な表現、さらにはフランス語やフィンランド語など他言語の知識まで必要と、多少の英語なら読める程度の知識ではテキストを読み進めるだけで膨大な時間が必要で……。
僕の生半可な英語力ではあまりにもゲームが進まないので、「いつか日本語化される日を待とう……。100万ワードを超えるテキストの翻訳はたいへんそうだけど……」と、ゲーム進行を諦めていたのです。ですので僕としては、本当に待ち望んだ日本語化というわけです!!
記憶を失くした刑事のRPG
本作はふたりの刑事が事件解決を目指すべく、街中を探索するゲーム。舞台としては現代っぽくありながら、スチームパンク的な要素があったり、SFチックでもあったりと、その世界観は独特です。本作独自の国や文化、人種が登場することもあって、地球ではない別の世界と推測されます。
さて、ある日主人公が目を覚ますと、なぜかパンツ一丁の状態でホテルの床で寝ていました。しかも、自分の名前を含むすべての記憶がありません。周囲の人に自分のことを聞くと、自分は刑事だということがわかります。どうやら同じく刑事のキム・キツラギとともに、街の事件を捜査しにきたようです。
ホテルの裏には、木に吊るされた死体がひとつ。主人公はキム・キツラギとともに、この死体の検死を始めます。
この主人公、記憶を失くす前にどんな人物だったかという設定はあるものの、彼が作中でどんな振る舞いをするのかは、プレイヤーの手に委ねられています。盗みをしちゃうような悪徳刑事になるも、逆に清廉潔白な刑事になるもプレイヤー次第です。
また、本作にはおおまかなストーリーはあるのですが、そこをどう辿るのか、どうドラマに介入するのかはプレイヤーによって大きく変わってくるでしょう。会話や調査などほぼすべての物事に対して選択肢が用意されており、どの選択肢を選んだかによって物語がさまざまに分岐していきます。だからゲームを遊び終わった後の体験も、プレイヤーひとりひとりでまったく違うものになる。この自由度の高さ、そしてナラティブさこそが本作の醍醐味です。
なお本作、公式ジャンルは“RPG”なのですが、いわゆる敵を倒してレベルを上げていくようなものではなく、テーブルトークRPGのほうの、“ロールプレイング”ゲームのイメージ。個人的にはアドベンチャーゲームにも近いかなと思います。
全体的な翻訳はとても良好で、しかも親切心が効いているのがうれしいところ。海外特有のスラングやジョークの言い回し、英語以外の単語などわかりづらい点に対して、“訳注”として解説を入れてくれています。
ちなみに本作はCERO:D(17歳以上対象)のゲームで、木に吊られた死体などが出てくるように多少のグロ要素はあります。また、主人公が元からアル中だったり、下品な会話が多かったりするので、そういうのが苦手な人にはあまりオススメできないかも。テキストではち〇ぽこ、****など伏字も多いです。英語音声はそのまま流れて生々しいんですが、そこにもピー音的なものが入ることも(笑)。
24人の人格が参加する脳内会議
本作で主人公は、事件を捜査するために街の中を歩き回って証拠を集めたり、人々から話を聞いたりします。そういった行動を積み重ねると時間が経過し、夜になると1日が終了。再び朝を迎える……という流れです。調べるところが悪いと、何の成果も得られずに1日を終える、ということもあるでしょう。
主人公は24種のスキルを最初から持っています。各スキルは肉体や精神などに紐づいていて、それらが主人公の能力であり、思考であり、物事への判断基準となっています。
それぞれのスキルは“人格”として設定されていて、随所で主人公の脳内に語りかけてきます。TRPGでいうところのゲームマスターの語りかけとも取れますし、いわゆる脳内会議にも見える、本作の特徴的なシステムです。たとえばアルコールを見るたびに「お? そろそろ飲みたくなってきたろ?」的なことを言ってくるなど、悪魔のささやき的な表現にもなっているのもおもしろい。
また、スキルは行動の成功判定“スキルチェック”を行う際にも使用します。ダイスを振り、その出目によって行動が成功か失敗かが決まるのですが、スキルのレベルを強化(主人公が行動することによって強化するためのポイントが得られる)したり、事前に特定の行動を取る(事前に証拠を見つけておくなど)ことで成功しやすくなります。
ただし、成功するのが必ずしも正解というわけではありません。たとえば、死体にとある選択肢のスキルチェックに成功したところ、単に主人公が死体と会話(もちろん妄想)するだけで意味はとくにナシ、なんて場合もあります。それに、失敗すると失敗したなりに物語が進みます。成功しても失敗しても、その結果を受け止めて自分の物語として楽しむのがよさそうです。
操作はやや難アリ
操作はキャラクターを動かして、人物や調べるポイントにインタラクトするシステム。ポイントは右スティックで選択して選びます。これがやや操作にクセがあって、慣れても若干操作しにくいと感じました。PC版はマウスでクリックして選べば済むわけですが、それをなんとか家庭用向けにアレンジして落とし込んだので仕方のないところだとは思います。
また、ポイントクリック式じゃない弊害として、行きたい場所への道筋がよくわからないマップ、たとえばオブジェクトが手前にあるため道が目視できない場所などが進みにくい、足場がどれか分からないので難しい、ということもありました。もとはPC向けに作られた作品なので、そこは割り切って遊ぶべきポイントかと思います。グリグリ壁に身体をこすりながら移動範囲を探しましょう。少し遠い場所のオブジェクトを調べると主人公が自動でそこまで行ってくれるという仕組みもあるので、そちらも活用すると遊びやすいかもしれません。
数多に用意された“タスク”
“タスク”とは主人公に対して設けられた課題です。これを達成することで経験値が貯まり、スキルを強化するためのポイントを得られるという仕組みになっています(※)。
※経験値は有益な情報を得ることなどでも得られる。
事件解決に真っすぐ向かうのもいいですが、その際に「代わりに何かをしてほしい」などのタスクが生まれる場合もあるほか、本筋とは関係のないタスクもあり、それらが膨大に用意されています。いわゆるメインクエストにつながるものと、サブクエスト的なものがごちゃ混ぜになっているイメージです。
タスクは行動の指標のひとつになっていて、達成していけば事件の謎に迫ることができたり、できなかったりします。すべてをこなす必要はなく、ここもプレイヤーに委ねられてます。
ほかにも“思考キャビネット”という、いわゆるアビリティもあります。主人公が何かを閃いたら、その思考をスロットに装着。一定時間経過でアンロックでき、能力が発揮されます(スロット解放にはスキルポイントを使います)。単にスキルレベルを上げるものや、覚えることで選択肢が増える場合もあります。
プレイヤーそれぞれの物語
RPGらしい点で言うと、主人公には体力と気力が設定されています。ファンタジーRPGにおけるHPとMPのようなものですが、たとえば殴られたら体力が減ったり、キツい場面で精神がすり減って気力が減ったり、といったことになるわけです。そしてこれらが失われ過ぎると、主人公が死亡、あるいは警官を辞職、といった形でゲームオーバーとなります。
主人公が酒を飲みたがっていたので飲ませてみたら、酒に酔ってこの世に絶望し、ゲームオーバーになるということもありました。また、主人公は育成方法次第でメンタルが弱くなったりもするのですが、メンタルが弱いと子どもの悪口で気力ダメージを受けて辞職してしまうことも。それも本作ならではの末路でおもしろいところです(笑)。
こんなこともありました。筆者はとある死体が履いていたSF的なアーマーブーツを盗んでみたくてしかたがなかったのですが、マジメに事件解決を目指した結果、死体をそのままの状態で搬送してしまい、盗むタイミングを逸することに。脳内会議で「来世で取ろう」とメタ的なことを言われたので思わず笑ってしまい、まあいいかとなったのですが、辿った道筋がプレイヤーだけの“物語”であり“体験”として残るのが、本作最大の魅力と言えるでしょう。
ちなみにそんなことを言いつつですが、セーブ&ロードがあるのでやり直しは一応可能です。とはいえ筆者としては、一期一会の精神でこれに頼らずに遊ぶほうがおもしろいゲームだと思います。またオートセーブはあるのですが、かなり雑なタイミングで入るので、思いもよらぬ結果でいきなり死んで数時間の捜査が突然パーになるなんてことも。クイックセーブはこまめにするのがオススメです。
装備&お金稼ぎ
装備とお金の概念もあります。装備は王道RPGの主人公よろしく、ふつうにその辺に落ちている衣服を盗……じゃなくて拝借して使用したりもできますし、お金で購入することも可能です。種類はかなり豊富に用意されていて、装着することでスキルレベルに影響があります。いい靴を履いていたら褒められるなど、その内容が会話に反映されることも。反対に、単純にスキルパラメータだけを追い求めた結果、変なコーディネートになってヘンテコなオジサンが誕生するのもそれはそれでおもしろいです(笑)。
お金は、そこらに落ちている小銭を集める、会話で恵んでもらう、何かを達成して報酬としてもらう、といった入手方法のほか、瓶を拾い集めてリサイクルしたり、質屋にアイテムを売り払うことでも手に入れられます。ホテルに泊まるにはお金が要りますし、何かしらの情報を得る際にお金が必要となる場合もあるので、捜査と並行してお金稼ぎもしておきたいところ(世知辛い話ですが……)。個人的にはお金稼ぎをしながらの捜査は楽しかったですが、謎解きのみをしたい人にとっては、もしかしたら煩わしい要素かもしれないですね。
相棒・キムとの捜査がイイ!
相棒のキムはかなりマジメで冷静で、主人公が変なことをしても見て見ぬフリをし(あまりにも変なこと・法を逸脱した行動は止めたりしますが)、仕事さえまっとうに進められればいいという冷めた性格の男。そんな彼ですが、だいたいにおいて彼と行動をともにするので、自然と愛着が湧いてきます。
仕事をする中でキムの趣味や性格なども少しずつ見えてきて、たとえばキムはクルマ好きのようで、主人公とクルマトークで盛り上がったりすることもできます。キムとは友好度的な要素もあって、彼との友情を育むのか、それとも拒むのかもプレイヤーの選択次第です。
主人公が困ったときにキムに助けを求める選択肢などもあり、進めかたによってはバディ刑事ものの物語として楽しむこともできるでしょう。
クセの強さこそが魅力!
ここまで説明を読んでいただいた方にとって、本作は“自由度は高そうだけど、ややこしそうなゲーム”に見えるかもしれません。ぶっちゃけ、実際ややこしいゲームだと思います(笑)。決して万人にはオススメできないですが、ハマる人はとことんハマるゲームといった感じでしょうか。
登場人物それぞれがいろいろな思想を持っていて、テキストには人種や政治的思想に対する考えかた、哲学的な要素などが大量に盛り込まれています。レイシストが何だとか、なんちゃら主義がどうだとか、マジメに向き合うと面倒な人もいっぱいいます。
ただ「ああここは本筋と絶対関係ない話だな」という時は読み飛ばしてしまっても問題ありません。事件解決に向かって真っ直ぐ進むだけでも、十分に楽しめるはずです。
また、全体的な空気感から“ダーク”や“シリアス”といった要素が強い物語を連想されるかもしれませんが、決してそれだけはありません。コメディ的な要素も強いです。主人公の脳内会議のアクの強さはハッキリ言ってかなり異常なので(笑)、笑ってプレイできること間違いナシです!
まさに“ロールプレイ”を楽しみたい人にはうってつけの『ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット』。一度食べたら病みつきになるラーメンのようなクセの強いゲーム性とテキストを、ぜひ堪能してみてください。