ファミ通.comの編集者&ライターが夏休みのおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのNeverAwakeManがおすすめするタイトルは、Steam用ソフト『SANABI: The Revenant』です。
【こういう人におすすめ】
- とにかく気持ちいいアクションを楽しみたい
- 美しいドットアートを見たい
- 短い時間で最大限に楽しみたい
NeverAwakeManのおすすめゲーム
『SANABI: The Revenant』
- プラットフォーム:PC(Steam)
- 発売日:2022年6月21日配信
- 発売元:NEOWIZ
- 開発元:WONDER POTION
- 価格:1520円[税込]
- 備考:ダウンロード専売 正式リリースは2022年末ころを予定
ひとりでも多くの人に体験してほしいと思える高いクオリティーを感じた
2022年6月末、俺はモニターを睨んでいた。ついに今年も始まってしまった、Steamサマーセールのためだ。膨大なゲームカタログから本当に遊ぶべき作品を見つけ出そうと、俺は狩人の目をしながら画面をスクロールし続けていた。己の可処分時間と台所事情を慎重に考慮しながら行うスクロール行為には、ゲーマーにしか分からない重みがある。
スクロールは、あるインディーゲームの前で止まった。「サンナビ……?」そのタイトルの不思議な響きに引き寄せられ、クリックする。ドット絵、横スクロール、サイバーパンク、そして……グラップリング。俺は脳裏にスパークが走るのを感じた。これは間違いなく、真のアクションゲームであると。目を閉じ、ふたたび開けたとき、俺はすでに購入処理を完了していた。
『SANABI: The Revenant』(以下、『SANABI』)は2022年末に正式リリース予定のゲームである。現在はアーリーアクセスの段階であり、ストーリーもまだ完結していない。アーリーアクセスで遊べる部分は4、5時間で終わってしまうため、単純なボリュームに対するコストパフォーマンスは、いまの段階では決して高くないだろう。
それでもここでおすすめするのは、このゲームのおもしろさの核はすでにできあがっているからだ。ボリュームなど度外視して一刻も早く、ひとりでも多くの人に体験してほしいと思える高いクオリティーを感じたため、俺はこの記事を書いたというわけである。
謎めいた物語と美しいドット絵に彩られたサイバーパンク
東洋風の黒いコートと帽子を身に着け、巨大なチェーンフック義手を装着した退役軍人の男。寡黙な凄みの漂うこのサイボーグが、『SANABI』の主人公だ。男は平穏な生活を送っていたが、正体不明のテロリスト“サンナビ”の魔の手により最愛の娘を喪ってしまう。
それと機を同じくして、巨大ハイテク都市“マゴ特別市”から住民がひとり残らず失踪、都市機能が暴走する怪事件が発生する。事件の影に見え隠れするサンナビを追い、男はマゴ特別市への決死の潜入を開始。現地で救助したハッカーの少女、マリと手を組み、男はサンナビとマゴ特別市の謎へと迫っていく……。
サイバーパンクとスパイアクションが合体したような『SANABI』のクールな物語を、美麗なドットグラフィックが描き出す。とはいえ、ドット絵のゲーム自体はありふれているし、インディーゲームならなおさらだと思えるかもしれない。本作のグラフィックがほかのゲームと一線を画しているのは、キャラクターのドットアニメーションが群を抜いて多彩な点にある。
このドット、とにかく、よく動くのだ。
巨大都市のスケールを伝えるために大きく緻密に描かれた背景に対して、主人公やマリといったキャラクターは2.5等身程度に小さく描かれており、彼らに割り当てられたドット数はそう多くない。基本となる立ち絵には目や口が満足に描かれていないほど、粗いドット絵だ。
しかし、身振り手振りや表情変化のために作られたドットパターンが非常に、というかほとんど異常と言えるほどに多い。そのおかげで、彼らの心情や性格がドットの動きを見るだけでもこまやかに伝わってくる。感情豊かなマリや主人公の娘はとくに細かくドットパターンが作られており、見ていてまるで飽きない。
プレイ後に自分が撮っていたスクリーンショットの枚数の多さに思わず驚いてしまったほど、このゲームのドットグラフィックには抗いがたい魅力がある。
グラップリングの快感に酔いしれる
冒頭でも述べたが、『SANABI』は横スクロールゲームだ。その操作の核となるのが、主人公のチェーンフック義手を使ったグラップリングアクションである。このタフガイは壁や天井にチェーンフックを打ち込み、スイングして足場を跳び渡ることができるのだ。伝統的なタイトルでいえば『海腹川背』、最近でいえば『メトロイド ドレッド』などでも見られるシステムである。
このグラップリングアクションがとにかく気持ちいい。グラップリング中に左右入力することでブランコのように勢いをつけられるほか、一回のグラップリング中に一度だけ、慣性を無視して急加速することもできる。このスイングダッシュをくり返してギュインギュイン飛び回る爽快感は、ほかのゲームではちょっと味わえない素晴らしいものだ。ちなみに、デフォルトでは加速はSHIFTキーに設定されているが、右クリックに設定し直したほうが個人的には操作しやすいと感じた。
戦闘では、敵めがけてチェーンフックを打ち込んで戦うこととなる。フックを打ち込んだ敵に瞬時に接近し、一撃必殺を決めて離脱できる。通常のグラップリングと同じく狙いをつけてクリックするだけのシンプルな操作ながら、一瞬のスローや青白い残光の演出のおかげで、気持ちいい上に画的にも映えるアクションに仕上がっている。グラップリングや加速と組み合わせてマップを縦横無尽にスイングしつつ敵をつぎつぎに仕留めれば、気分はベテランサイボーグだ。
ステージを進めることで、チェーンフックを巻き上げて壁や天井に張り付く機能が追加されたり、移動式の足場や正攻法では倒せない敵が現れる。それに従って要求されるテクニックは次第に高度になるものの、グラップリングというゲーム性の軸はずっとブレないままだ。それにより、プレイヤーは混乱することなく難易度の変化を心地よく楽しむことができる。
本能が歓ぶこのアクションを味わい尽くすため、『SANABI』にはイベントシーンがスキップされるスピードランモードも搭載されている。本編クリアー後のやりこみとしてもうってつけだ。
早く続きを遊ばせてください
シナリオ、ビジュアル、アクションの三拍子が綺麗に揃った『SANABI』は、端的にいって最高におもしろいゲームだ。ローカライズも優秀で、キャラクターの口調や言い回しもほとんど違和感なく丁寧に翻訳されている。何も知らない人にプレイさせたら海外産ゲームとはわからないだろう。しかし、このおもしろさに魅せられれば魅せられるほど、本作がまだアーリーアクセスだという事実に辛くさせられる。もっとアクションを味わいたいし、もっとシナリオの先を知りたいのだ。マゴ特別市とは一体何なのか、サンナビとは何者なのか、主人公とどんな因縁があるのか……謎は山積みだ。
なのに、アーリーアクセスは本当にいいところで終わってしまう。画面に表示された「アーリーアクセスをプレイしていただきありがとうございます!」の文字に向かって思わず「エッここで終わり!?!?」と大声を上げてしまったほど、このお預けは辛い。
心にチェーンフックを打ち込まれたように、俺は『SANABI』にとらわれてしまっている。ああ、早く続きを遊ばせてくれ。その一心で、今日も俺は虚ろな目つきでスピードランモードをプレイすることだろう……。