サイゲームスより配信中のiOS、Android、PC(DMM GAMES)対応ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』で、2022年6月20日に新たな育成ウマ娘“星3[プラタナス・ウィッチ]スイープトウショウ”が実装された。その能力や、ゲームの元ネタとなった競走馬としてのエピソードを紹介する。

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『ウマ娘』のスイープトウショウ

公式プロフィール

  • 声:杉浦しおり
  • 誕生日:5月9日
  • 身長:139センチ
  • 体重:計測断固拒否
  • スリーサイズ:B72、W53、73

ツンツン駄々っ子な魔法少女。魔女を名乗る祖母の元で育てられ、その影響で魔法使いを目指すようになった。レースで勝てば魔法を体得できると信じている。今は見習いなので、思い通りにいかないと物理で解決しがち。
ワガママで、泣き出すとなかなか泣き止まない。

出典:『ウマ娘』公式サイトより引用

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スイープトウショウの人となり

 “魔法少女スイーピー”を自称する、栗東寮所属のウマ娘。いつも魔女のような恰好をしている。ちなみに、“スイーピー”はモデル馬にも使われていた愛称である。魔法少女の元ネタは、人気ドラマ『奥さまは魔女』にちなんだスイープトウショウ一族の馬名から(詳細は後述)。

 性格はかなりのワガママ。トレーナーの言うことはほとんど聞いてくれず、さらに“パパ”の言うことは絶対に聞かない。栗東寮の寮長であり数多のウマ娘たちをメロメロにしてきた、あのフジキセキさんでさえ手を焼く始末。しかも、そうやってあれこれと世話を焼いてくれるフジキセキに対して反対にイタズラを仕掛けようとするなど、なかなかに厄介な女の子だったりする。

 現在のところ、ほかのウマ娘たちとの絡みはそれほど多くはないが、モデル馬が史実では2歳違い(スイープトウショウが年上)で現役時代に対戦しているカワカミプリンセスの育成シナリオで、ライバルとして登場している。そのほか、史実では1歳上のゼンノロブロイや、2018年に種付けをしたキタサンブラックとはサポートカードイベントやイベントシナリオなどで絡みが見られる。

 もうひとつ、主戦が同じ池添謙一騎手という共通点からか、カレンチャンとは4コママンガ『うまよん』で微笑ましい会話をする場面も。「お父さん大好きのツンデレちゃん」と言われて「ハァー!?」と逆上するスイープ、尊みが過ぎる。

 ちなみにこの“お父さん”のモデルは池添騎手である、というのがトレーナー間で通説とされている。競走馬のスイープトウショウが池添騎手に対して、以下のようなツンツンぶりを発揮していたためだ。

  • 池添騎手があげたニンジンを「ペッ!」と吐き出す
  • 本馬場入りした後に池添騎手を乗せて歩くのを拒否する
  • 真冬のトレセンで池添騎手を乗せたまま30分以上立ち止まって動かない

 なお、こういった冷たい対応は池添騎手だけではなく、厩舎スタッフや競馬場スタッフの皆さんに対しても同じような感じだったとのこと。

 ちなみにそんな池添騎手はテレビ番組のインタビューで、「スイープトウショウが人間だったらどんな女性だと思いますか?」との問いに「ワガママな……あとプライドが高い……女性じゃないですかね。逆にカワイイですけど……たいへんですよ。世話している方と乗っている人は」と語っている。さらに「彼女にしたい?」という質問には即答で「いやーキツいでしょ。振り回されっぱなしになると思いますよ。手のひらで転がされるというか」と返しており、相当手を焼いていたようだ。

 『ウマ娘』のスイープトウショウに話を戻そう。お父さんの言うことを聞かない彼女だが、グランマ(祖母)のことは敬愛してやまない。幼いころ、不安な気持ちになるとグランマが“魔法”だと言って手品をして元気づけてくれたのだという。スイープはそれがきっかけで、人に勇気を与える“魔法使い”になることを決意したのだ。なお、スイープが唱えている呪文は実在する植物の学名から取られているようで、イベント内でも元ネタとおぼしき“グランマ秘伝の野草図鑑”なるものが登場している。

 そんな彼女の勝負服は、黒いとんがり帽子やローブを羽織った魔女スタイル。カラーリングは史実の勝負服のものが反映されており、地の海老&黄ダイヤモンド模様はカーディガンやローブの胸、裾、ツインテールの先端の髪留めなどに、袖の紫はとんがり帽子やローブの裏地に使われている。なお、とんがり帽子は制服時にも着用しているが、お嬢さまスタイルの私服時は被っていない。

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競走馬のスイープトウショウ

スイープトウショウの生い立ち

 2001年5月9日、北海道静内町(現・新ひだか町)のトウショウ牧場で生まれる。父はエンドスウィープ、母はタバサトウショウ。スイープトウショウの馬名は、父の名前の一部の“スウィープ”と、冠名の“トウショウ”を組み合わせたもの。ただし、JRAへの登録はカタカナで9文字以内という文字数制限があるため、“スウィープトウショウ”ではなく“スイープトウショウ”となったという経緯がある。

 じつは“スイープ”にはもうひとつ由来があると言われている。スイープの祖母はサマンサトウショウ、母はタバサトウショウという名前で、これらはいずれも1964年~72年にアメリカで放送され、日本でも人気を博したテレビドラマ『奥さまは魔女』の主人公、サマンサとその娘タバサから名付けられたもの。その“魔女”の流れから、“掃く”という意味で“箒(ホウキ)”をイメージさせる“スイープ(スウィープ)”という父由来の名前はちょうどよかったというわけだ。

 スイープは幼駒のころからスタッフからの評価が高く、将来を嘱望される存在だった。しかし人間嫌いな面が強すぎて、走らされることばかりか、馬房から出ることをうながされるだけでもイヤイヤするなど、扱いづらさが目立っていたようだ。また、同い年のほかの馬たちの中でも、自分が女王でないと気が済まないところもあったという。これらの性格は、年齢を経るごとにおとなしくなるどころか、反対により激しくなっていく。

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 スイープトウショウの主戦は、前述の通り池添騎手。彼は新人のころ、騎乗数を増やすために「気性難の馬でも乗ります、乗りこなしてみせます!」とアピールした結果、スイープトウショウを始めとするたくさんのヤンチャホースの騎乗機会に恵まれるようになったと言われている。そんなことをしなくても、競馬学校騎手課程を首席で卒業し、デビュー年に重賞初勝利を含む38勝を挙げたほどの有望株だったのだが。

 池添騎手が騎乗した気性難“たち”の中でのいちばんのスーパーホースは、クラシック三冠を含むGI・6勝に加え、凱旋門賞でも勝利まであとわずかに迫ったオルフェーヴルだろう。オルフェーヴルの気性難伝説は枚挙に暇がないが、そのうちのひとつに、有馬記念のレース後に内ラチに向かって走り、わざとぶつかって池添騎手を叩き落とすといった頭脳的犯行がある。オルフェーヴルの父はゴールドシップと同じステイゴールドなので、気性難になるのもむべなるかなと言ったところだが、そんな馬たちに乗ってきた池添騎手をもってしても「とくに苦労させられた馬」だったというのだから、スイープの気性難も相当だったと言えよう。

 スイープトウショウの体格は、ウマ娘としての身長(139センチ)が示すようにやや小柄ではあったものの、馬体重はデビュー時が458キロ、引退レースでは480キロにまで成長しているように、非常に均整の取れた美しい筋肉の付きかたをしていた。さらに強烈な瞬発力と、1400メートル~2400メートルまで幅広い距離の重賞(GI含む)で勝てるほどのスピードとスタミナも兼ね備えているなど、競走馬として理想的な能力を持っていたのだ(ただし、マトモに走れればの話だが)。

 ちなみに、スイープトウショウは『ウマ娘』以前からツンデレキャラとして描かれていた。大ヒットマンガ『馬なり1ハロン劇場』に代表されるように、競馬ファンの一部にとって競走馬の擬人化ネタは慣れ親しまれてきた文化であり、スイープトウショウの数々のエピソードは彼女をツンデレキャラとして認識させるものばかりだったからだ。『ウマ娘』でのキャラクター設定は、むしろ必然だったのかもしれない。

スイープトウショウの血統

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 スイープトウショウの父エンドスウィープは1991年生まれ(『ウマ娘』のモデル馬ではナリタブライアンやヒシアマゾン、サクラローレル、ビコーペガサスらと同い年)。その父はフォーティナイナー、祖父は20世紀を代表する大種牡馬ミスタープロスペクターだ。エンドスウィープは北米で活躍し、現役時代は18戦6勝。引退後は種牡馬となり、2000年に日本でも供用が開始された。スイープはその初年度産駒となる。

 エンドスウィープは2004年にJRAのサイアーリーディングで6位に入った。2002年に事故による負傷の影響で急逝しており、残した仔は2世代のみと多くはなかったのだが、産駒がしっかりと活躍したことを示している。彼の産駒に共通する特徴は、ガッシリとしたトモ(腰~後肢)と気の強さ、と言われている。スイープはそのふたつが非常に強く出た例なのだろう。

 スイープ以外のエンドスウィープの産駒としては、ラインクラフト(GI2勝)、アドマイヤムーン(ドバイ含むGI3勝)、サウスヴィグラス(GI1勝)などが有名。サウスヴィグラスは地方競馬で7年連続リーディングサイヤーに輝いている。

 母タバサトウショウは父ダンシングブレーヴ、母サマンサトウショウという血統。ダンシングブレーヴはキングヘイローの父としても知られ、現役時代は“欧州歴代最強馬”と賞賛されるほどの強さを誇っていた超名馬だ。“マリー病”という奇病に罹患してしまったことで日本にやって来たが、1999年に亡くなるまでの短いあいだに、GI馬4頭を含む多数の活躍馬を輩出した。

 一方、母系はトウショウ牧場で長く続いている血統で、1972年生まれのチャイナトウショウがその始祖である。チャイナトウショウはかなり大柄な繁殖牝馬で、マーブルトウショウ、サマンサトウショウ、タバサトウショウとその馬格が受け継がれていった。スイープがやや小柄だったのは、父エンドスウィープの影響が強く出たのだろう。

 ちなみにタバサトウショウは繁殖牝馬としては長く活躍を続け、最後の産駒は2018年、なんと25歳のときに産んでいる。ちなみに、その末子ピンクカメハメハ(父リオンディーズ)は、3歳時に海外遠征してサウジダービーに勝利するという快挙を成し遂げた(その後レース中の故障で亡くなっている)。

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スイープトウショウの現役時代

 スイープは2003年、祖母、母と同様、栗東の渡辺栄厩舎で競走馬生活をスタートさせる。ただ、渡辺調教師は翌年2月に定年のため厩舎解散が決まっていたため、転厩は既定路線ではあった。

※記事中では、年齢は現在の基準に合わせたもの、レース名は当時の名前をそれぞれ表記しています。

2歳(ジュニア級:2003年)

 デビュー戦は2003年10月18日、京都競馬場の芝1400メートル新馬戦に決まる。鞍上は渡辺厩舎所属であり、彼は祖母サマンサトウショウ、母タバサトウショウにも騎乗経験のある角田晃一騎手。“牝馬の角田”の異名を持つ彼もまた、池添騎手と同様に気性難のクセ馬を得意としており、1991年には同じトウショウ一門のシスタートウショウに騎乗して桜花賞を制している。そのほか、『ウマ娘』のモデル馬ではフジキセキやヒシアケボノの主戦も務めていた。

 18頭立てと、新馬戦にしては多頭数になったこのレース。単勝1番人気に支持されたスイープは出遅れてしまい後方からレースを進めるが、3コーナーでラクに進出してそのまま先頭に立ち、3馬身差をつけてあっさりと初勝利を挙げた。

 2戦目は新馬戦と同じ競馬場、距離のGIIIファンタジーステークス。またしても出遅れ、さらに折り合いも欠く苦しいレース運びに見えたが、3コーナーから大外に持ち出して進出。さらに直線でスパッと斬れ味を見せて差し切り連勝。出遅れもコースロスもものともしない、とんでもない強さを見せつけた。

 そしてGIの阪神ジュベナイルフィリーズへ。2戦2勝のキャリアながら勝ちかたの強さを評価され、1番人気に支持された。珍しくスタートを上手に決めたものの、内枠(2枠4番)だったこともあって、けっきょくいつものように後方、インコースに陣取ってレースを進めていく。

 しかし展開は差し、追込馬にはきびしいスローペースに。追込馬の宿命でこうなると自力でレースを動かしていくしかないのだが、インコースにいたことが悪い方向に働き、進路を塞がれて前に出られなくなる。最後必死に追うも、勝ったヤマニンシュクル(父トウカイテイオー)にはわずかに届かず0秒2差の5着。天才少女に早くも土がついてしまうのだった。

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3歳(クラシック級:2004年)

 力を出させてもらえなかった、悔しい初敗戦から1ヵ月。スイープは京都芝1400メートルのオープン戦紅梅ステークスから再び始動する。またしても、またしても出遅れてしまうが、直線でとんでもない末脚を見せてひっくり返し、レースレコードを記録して勝利。

 レース後は、解散を控える渡辺厩舎から、渡辺師の弟弟子でもある鶴留明雄調教師の元へ転厩が行われた。そして転厩にともない、鞍上も角田騎手から鶴留厩舎の主戦である池添騎手へとバトンタッチと相成ったのである。

 新コンビの初戦は3月の阪神芝1600メートルで行われるGIIIチューリップ賞。ここで事件は起こった。いざレースへ……というところで、スイープが押せど促せどスターティングゲートに入ろうとしなかったのだ。最終的に何とかゲートに押し込んだのだが、発走時刻が3分も遅れることに。そんなトラブルがあり、レースではいつものように出遅れて最後方から進むも、最後の直線で大外から全馬をまくり、何とか勝利した。

 ただし、この勝利には注文がついた。枠入り不良のせいで“発走調教再審査”、いわゆるゲート試験を課せられてしまったのだ。スイープはここを何とかクリアーしたのだが、ただでさえ人の言うことなど聞きたくないのに無理矢理試験をやらされたせいで、すっかり機嫌を損ねることに。それが影響したのか、続く桜花賞では精彩を欠いてしまう。スタートこそふつうに決めるも、スローペースにもハマって後方追走から追い込みきれず、勝ったダンスインザムードから離された5着に終わってしまったのだ。

 オークスでもスローペースに悩まされるが、最後の直線でいち早く抜け出し逃げ込みを図るダイワエルシエーロをあと一歩、4分の3馬身差まで追い詰める力走を見せて2着。調教を嫌がり、スタート地点に行くのも苦労するありさまで、ふだんの調教は坂路1本のみ。ほかの馬と比べて十分な練習が積めず、そのぶん厩務員が懸命に引き運動をして体を動かせていたほど。そんな中でのこの成績に、陣営も胸をなで下ろしていた。

 秋はローズステークスから始動。いつもの出遅れと、レクレドール、グローリアスデイズの激走もあって3着に敗れるも、2頭からはクビ+クビでわずか0秒1差。ダイワエルシエーロにも土をつけ、期待感を高めていた。このころ、初めて調教の本数も増やしふつうの馬並みの練習もこなせるようになっていたことも大きかっただろう。

 そしていよいよ3冠の最後、秋華賞。アメリカンオークス2着から帰国して臨む桜花賞馬ダンスインザムードに1番人気は譲ったが、それに次ぐ2番人気となった。しかしチューリップ賞同様、枠入りを嫌がって発走時刻を3分遅らせてしまう。今回は単独犯ではなく、グローリアスデイズとの共犯である。

 嫌なムードが漂うが、レースはそれ以上にとんでもない光景がくり広げられることとなった。珍しく出遅れなかったスイープは、いつものように後方追走。1000メートル通過が59秒9と、スローにはならなかったが、速くもなく先団がひとかたまりになってしまう。最後の直線、進路を求めて大外にブン回したスイープ。いち早く抜け出したダンスインザムードとの差はすでに大きく広がっていた。しかも、京都の直線は短い。

 だが、スイープにとってそんなことはまるで関係なかった。池添騎手にエスコートされ、ものすごい勢いで突っ込んできた彼女は、328.4メートルの直線だけで15頭をゴボウ抜き。とくに周囲のライバルたちの脚が止まった残り150メートルからは一完歩ごとに差が広がっていき、抵抗できたのは2歳女王のヤマニンシュクルだけ。あとは5馬身以上の差を付けられる圧勝ぶりだった。

 こうしてついに初のGIタイトルを手に入れたスイープだったが、枠入りを嫌がったことで、レース後には2度目のゲート試験が待っていた。断固拒否の姿勢の中、目隠しをして何とか突破したが、それでも彼女の怒りは収まらない。次走のエリザベス女王杯ではまたしても枠入り不良となり(発走時刻2分遅延)、レースも出遅れから追い込みきれずに5着。そして30日間の出走停止と3度目のゲート試験と、踏んだり蹴ったりの結果が待っていた。

4歳(シニア級:2005年)

 気分を落ち着けるためにしばらく放牧に出されたスイープは、4月に行われた3度目のゲート試験をすんなりクリアーする。しかし念には念を入れて、復帰戦はGIにぶっつけではなく、NHKマイルカップの裏で行われているオープン戦の都大路ステークスが選ばれた。超スローペースの展開もあって5着に敗れたものの、枠入りもスタートも無難にこなせた。

 そしてGI安田記念へ。前走でオープン戦5着に敗れたことや1600メートルという距離が不安視されたのか、支持が全体的に割れていたとは言え単勝ではなんと10番手まで人気を落とした。スタートはやや出遅れたもののダッシュは悪くなく、マイルの速い流れにも置いていかれることなく追走。そして最後の直線に入ると、大外から一気に追い込みを開始する。一世一代の激走を見せたアサクサデンエンにこそ敗れはしたが、2着に食い込んだ。

 ちなみに3着馬は、デビューから17連勝を記録したこともある香港の最強スプリンター、サイレントウィットネス。初の1600メートル戦となった前走で2着に敗れ、連勝が途切れていたことを考えると、マイルは長かったのだろう。

 さて、スイープトウショウはその勢いを駆って宝塚記念へ出走。本馬場入りで少し嫌がるところを見せたが、ゲート入りは難なくこなし、テレビ中継のリポーターを務めていた細江純子さんもホッとした声で報告していた(下の動画にそのシーンあり)。

 奇跡はまだ続き、なんとスタートも無難に決める。前走、前々走でマイルの速い流れを経験していたのが活きたのか、そのままいつもの後方待機ではなく、スルスルッと中団外目にポジションを取った。ほかの有力馬がペースメイクに苦しむ中、最終コーナーから進出を開始し、大外ではなくコースの中央あたりからラストスパートへ。

 そして内にいたゼンノロブロイやリンカーンを振り払い、大外から来たハーツクライ(のちにディープインパクトを破り、凱旋門賞馬ハリケーンランらと死闘をくり広げる)の強襲もしのぎきって、優勝を果たした。秋華賞を勝ち、前走は安田記念で2着であるにも関わらず、単勝は11番人気と“大穴”扱い。そんな競馬ファンに対し、「アンタたち、ホント見る目ないわね。バカじゃないの!?」とせせら笑うかのような快勝劇となったのである。なお、牝馬による宝塚記念勝利は39年ぶりの快挙であった。

 放牧を経て秋はGII毎日王冠から始動するも、久々に出遅れ癖が顔を覗かせて6着に敗れる。あくまでステップレースということもあり、そこまで騒がれることはなかったが、続く天皇賞(秋)で事件は起こる。

 通常、出走馬はレース前のウォーミングアップ的なもので“返し馬”と呼ばれる走りを行うのだが、周囲がつぎつぎとダッシュを始める中、スイープが立ち止まったまま動かなくなってしまったのだ。池添騎手やスタッフが懸命に促すも、ピクリともしない。

 すると池添騎手が馬から下りた。騎手が下馬するのは、たいていが騎乗馬に故障が発生したときであり、東京競馬場も事態の異常さにザワつきだす。しかし、池添騎手が下りるとスイープはスタスタとゲートに向かって歩き出していく。その後ろを池添騎手もついていく……。

 なんと、ただのワガママだったのだ。「やだやだやだやだ!」というスイープの声が聞こえてきそうである。しかもこの日は当時の天皇・皇后両陛下が初めて天皇賞を観戦するという、晴れの“天覧競馬”。スタッフの心中やいかばかりであっただろうか。

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 なお、レースは超スローペースとなり、スイープは追い込むも届かず5着に敗れた。出遅れ→超スローペース→5着というのも、彼女の競走馬生活において何度もくり返された展開である。勝ったのはスイープと同じ牝馬のヘヴンリーロマンス。騎乗していた松永幹夫騎手がレース後、騎乗したままヘルメットを取り、両陛下に向かって最敬礼をしたシーンはいまも語り継がれている。

 ちなみにこの天覧競馬は、なんと106年ぶりの実施だった。その7年後には同じ天皇賞(秋)でもう一度天覧競馬が実施され、エイシンフラッシュが勝利。鞍上のミルコ・デムーロ騎手が下馬して最敬礼を行ったことは記憶に新しい。

 敗れたスイープトウショウだったが、こんなやらかしにも関わらず、続くエリザベス女王杯では単勝2番人気の支持を受ける。直前の秋華賞を勝ったエアメサイアを除き、抜けた有力馬がいなかったというのもあるかもしれない。そんな状況なだけに、レースは驚きの展開となる。

 5番人気のオースミハルカが超大逃げを敢行したのだ。スイープはスタートがよくなく、中団あたりに位置してインコースでジッと我慢することに。ペースは特別速くはなかったが、自分から動いてそれを潰しにいくような馬もおらず、オースミハルカは最後の直線に入っても大きなリードを築いたまま逃げ続ける。

 これは大逃げが決まったか! と思わせたが、最終コーナーで外に出るのにモタついていたスイープが残り200メートルでようやく再加速すると、そのスピードはまさに異次元だった。3倍くらいスピード差があるのではないかと思わせる勢いで、並ぶ間もなくスパッとかわしてゴールへ。

 レース前、無事にゲート入りしただけで鶴留師がガッツポーズをしたというシーンが目撃されている。いかにスタッフが苦労していたかがしのばれるエピソードだが、それも報われるGI3勝目となった。この勝利が決め手となって、この年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬を受賞することとなった。

5歳(シニア級:2006年)

 放牧を挟み、春はヴィクトリアマイルを目指して調教が開始されたが、なんと調教中に骨折してしまい予定は白紙となる。その後10月のGII京都大賞典で復帰すると、スタートをしっかり決め中団からレースを進めることに成功。さらに、1000メートル通過が64秒1という超スローペースにもキレることなく、上がり3ハロン(600メートル)32秒8という豪脚をくり出して見事勝利。長期休養で精神が安定したことが功を奏したのか、これまでにないほどの優等生ぶりだった。

 ……と思いきや、表彰式で暴れて池添騎手を振り落とそうとしており、気性の悪さは相変わらず。

 じつは3歳時からたびたび調教拒否をしていたのだが、このころになるとその頻度と内容がだんだんと悪化してきていた。30分以上待たされることも珍しくなく、予定していた調教がこなせないこともザラにあったという。

 そんな中でスイープはGIレースで好走・優勝を果たしてきたのだが、この年の天皇賞(秋)は相手が強く、出遅れたスイープは5着に終わる。勝ったのはダイワスカーレットの兄でありGI通算5勝を誇るダイワメジャーだった。

 続くエリザベス女王杯はカワカミプリンセスの降着というアクシデントもあったが、力負けして2着(3着入線)。そして陣営は年内最終戦に有馬記念を選ぶ。ここは順当に人気投票で選ばれ、出走を決めたのだが、このレースはスイープのひとつ歳下である伝説の名馬ディープインパクトの引退レースでもあった。そしてやはりスイープはスイープ。そんな大舞台でまたしてもやってくれたのである。

 関係者のあいだで彼女のゲート入りの悪さは知らぬ者はなく(当然か)、一番手としてゲートに誘導されることになっていたのだが、ひさびさに“不動のスイープ”が復活したのだ。けっきょく4分遅れでなんとかゲート入りして発走。レースはディープインパクトが有終の美を飾った。一方のスイープはというと、スタートからやる気を見せず、見せ場なく過去ワーストの10着に沈んでいる。

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6歳(シニア級:2007年)

 6歳でも現役続行が決まったスイープは、有馬記念でやらかした枠入り不良を受けての4度目のゲート試験へ。これに合格すると、短い距離を中心に出走していく。初戦のGIIマイラーズカップは“調教から何事もない”という、ある意味で“事件”が起きて2着。反対に調教でゴネだしたヴィクトリアマイルは本馬場入場後に池添騎手を振り落とすアクシデントもあり、9着。

 そして次走は宝塚記念を予定していたのだが、今度は厩舎で暴れてケガをしてしまい、まさかの出走取りやめ。

 放牧を挟んで秋は京都大賞典から始動予定も、調教で走る気をまったく見せず調整ができなかったことからまさかの回避。まさか、まさかの出来事の連続である。

 「これはいよいよダメ(引退)かも……」と競馬ファンも諦めかけていたが、今度はなんと芝1400メートルの短距離線であるGIIスワンステークスに登録、出走したのである。結果は出遅れて4着に終わるが、まだ走る気はあるようで「エリザベス女王杯でもう1回あるかも!」と期待させることとなった。

 じつは京都大賞典回避の後、池添騎手がみずから調教をつけにやって来ていた。スイープは30分にもわたって坂路のふもとでフリーズするも、何とか動き出して坂路を上り完走。それを見てスワンステークスへの出走が決まったのだった。さらにその後、エリザベス女王杯に向けては再び池添騎手が調教に登板。すると今度は50分にもわたってフリーズするが、あと少しで馬場が閉鎖されるという時間になって、ようやく動き出して完走したのである。

 調教も何とかこなし、心置きなく(?)迎えた4度目のエリザベス女王杯。スイープは単勝で3歳のニューヒロイン、ダイワスカーレットに続く2番人気に支持された(もともとはウオッカが1番人気だったのだが、当日朝に出走取消)。レースはまた出遅れるが、今回は最後方からではなく、中団にまで戻っていく。しかしすでに往年のキレは失われており、メンバー中最速の末脚で追い込むも3着まで。新たな女王、ダイワスカーレットに完敗してレースを終えた。

 鶴留師は「これで引退します。オーナーと相談して決めました。調教も出来ないし、かつての切れもないし、馬がかわいそうです。寂しい気持ちもありますが、ホッとしたところもあります」とコメントし、スイープの引退を発表した。

 通算24戦8勝、重賞6勝(うちGI3勝)、獲得賞金約7億4千万円。まともに調教ができていないなかで、この数字である。また記録もすごいが、調教やレースで残した数々のエピソードもあり、とにかく記憶に残る馬だった。

スイープトウショウの引退後

 引退の翌年、2008年からトウショウ牧場で繁殖牝馬となったスイープ。初年度はアグネスタキオンが種付けされるなど、期待の1頭だった。しかし、母の気性が悪い方向に出るのか、いまのところ大成した馬はいない。2015年には故郷でもあるトウショウ牧場が閉鎖され、ノーザンファームに居を移す。その後、2019年に腸捻転のため19歳で死去。

 現在現役の競走馬として登録されているのは、2018年に生まれたクリーンスイープ(4歳牝、父ドゥラメンテ)、2019年に生まれ現在はデビュー戦を待つピエドラデルーナ(3歳牝、父キタサンブラック)、そして2020年に生まれたスイープアワーズ(2歳牡、父ディープインパクト)の3頭。偉大な母の死を乗り越え、天寿をまっとうしてもらいたいものである。

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