ポップでかわいいデザインやそのゲーム性で、子どもたちに人気の『スプラトゥーン2』。大人のファンも多く、主婦層にも厚い支持を受けていることは、以前『スプラトゥーン2』や『あつまれ どうぶつの森』をプレイする主婦サークルを取材させてもらったときにも書きました。
そして今回、筆者のライター仲間から「仕事と子育てをしながら『スプラトゥーン2』の非公式大会に出て、予選突破に向け日々がんばっているお母さんがいる」と情報を得ました。
仕事と家事・子育ての両立もたいへんなのに、さらに大会のためにゲームもがんばるお母さん……スーパーウーマンすぎるよ……!!
こちらが情報元のライター仲間。デイリーポータルZで活躍している爲房(ためふさ)新太朗さん。“大会に向けてがんばるお母さん”とは、爲房さんの奥さまの香代子さんのことなのです。
お子さんがまだ小さいので、今回はご自宅で取材対応していただきました。おうちにお邪魔したところ、黒ひげ危機一発の人形が……。
黒ひげの頭上で待ち構えるふわふわのスポンジ。黒ひげが飛び出すとこのようになります。
#バナナサンド で波瑠さんに体験してもらった黒ひげを危機から救う装置、こちらに詳しく書いております!
黒ひげを危機一髪から救った https://t.co/yr3nvtS5HU #DPZ https://t.co/5Nk4BAHUdX
— 爲房新太朗 (@stamefusa)
2019-10-10 00:18:40
ぽふっ……フワ……。爲房さんは会社員のかたわら、むだなものを作る活動をしています。本来飛ばされて終わりの黒ひげは、むだなものを作る一環として救われたのです。
こちらの黒ひげを救う装置はテレビ番組でも紹介されました。黒ひげが救われるまでの顛末は黒ひげを危機一髪から救ったという記事にまとまっています。
それでは香代子さんと爲房さん with 娘さんで話をうかがっていきます。お母さんプレイヤーはどんなゲームバランスで生活を送っているのでしょうか。
井口:香代子さんが『スプラトゥーン』を始めたのはいつ頃ですか?
香代子:『スプラトゥーン2』から始めたのですが、最初はそこまで興味なくて。Switchが出たばかりの頃、先に主人がスプラに興味を持って試射会(オンライン上の先行体験会)に参加しました。それから主人が買ったのをやり始めて、私のほうがどハマりしてしまって、いまにいたります。
井口:主婦プレイヤーに話を聞くと家族が買ったスプラにハマっちゃうパターン、すごく多いんですよね……! 爲房さん自身はどれくらいやってるのですか?
爲房:結局ナワバリバトルまでしかやってなくて、ガチマッチはやってないです……。
香代子:私のほうが予想外にすごくハマっちゃって……。最初は子ども向けのイメージだったんですけど、やってみると大人のプレイヤーも多いし、年齢問わず楽しめるゲームだなってわかりました。いまはスプラのために家事とか仕事とかをがんばっている感じです。
日々をがんばるモチベーション。“自分”になれる時間がスプラ
香代子:子どもが産まれてからは、家に帰ってきて、掃除して、ご飯を作って食べさせて、歯磨きさせてお風呂入って寝かしつけて。明日の保育園の準備して片付けするともう22時とか。そこから0時までゲーム。夜にドラマなんかを楽しむママの話を聞きますけど、私にとってはそれがゲームなんだと思う。
井口:仕事や“お母さん”から離れた、“自分”になれる時間がスプラなんですね。
香代子:「本当に今日はすごい疲れた~!」という日でも、「ゲームやりたい」という気持ちが家事への原動力になります。
井口:スプラが生活のモチベーション!
香代子:スプラが生活のモチベーションだったのは子どもを産む前からなんですけども、そのときはもっとやってました。子どもが生まれるとやっぱりゲーム時間は短くはなりますが、ゲームという楽しみがあるから毎日をがんばれるというのはいまも変わらずですね。
井口:ちなみにウデマエはどれくらいでしょうか。
香代子:子どもが生まれる前の妊娠中にエリアがX(最高ランク)に到達して、落ちたり上がったりしています。Xに上がってからはS+8より落ちたことはないですね。ほかのルールは全部S+です。
井口:出産後に(ランクが)落ちてもちゃんと戻せているのすごい……。香代子さんはスプラの非公式大会にも出場しているんですよね。以前から大会には出場していたんですか?
香代子:参加者がお母さん限定の“お母さん杯”という非公式大会がありまして、それで初めて大会に出るようになりました。主人が「お母さん杯の参加者のチーム名がおもしろい」というのをTwitterで見つけてきたんですよ。「なに? お母さん杯って?」ってとこから興味を持って。
お母さん杯に参加登録いただいた皆様ありがとうございます!どのチーム名もお母さんらしさあり、大喜利感あり、最高に面白いです引き続きご参加お待ちしております https://t.co/OxGc5WsiSO
— お母さん杯 公式アカウント (@mothers_cup)
2022-04-21 13:16:13
※これは第2回大会のチーム名の一例。
お母さん限定! “お母さん杯”で大会に初参加
爲房:こんな大会があるなら出たらいいのにと思って。もともと「スプラめっちゃやってるなー」って見てたんですよ。すごいなと思うのが、的を打つ練習をひたすらやってるんですよね。「部活で言うところの基礎練やってるやん」って。
香代子:「大会なんてハードルが高くて私には無理」って思ったけど、出てみたらと主人が言ってくれました。必死にスプラやってきたけど、大会はもちろん誰かと通信(通話)して遊んだことすらなかった。でも、せっかくがんばってるんだから、1回くらいは大会に出てみたい気持ちもあったんです。
井口:じゃあもしかして、それまではリグマ(リーグマッチ)やプラベ(プライベートマッチ)もやったことがなかった……!?(※)
※リグマやプラベ:フレンドとマッチングし、共闘やフレンド同士での対戦ができるモード。
香代子:そうです。フレンドさんが自分のナワバリに来るぐらいしか誰かとスプラをすることがなかった。
香代子:配信者の方のスプラを見てると「右から来る」とか「真ん中から2枚」とか報告するじゃないですか。あれも大会を通じて初めて経験して「配信者がやってるやつだ!」って興奮しました(笑)。
井口:わーーー! よかったですね……!(思わず拍手)
爲房:お母さん杯の参加者は同じお母さんたちで、“お母さんであること”という出場条件さえ合えば、ほかのガチな大会よりは参加しやすいと思ったんです。
爲房:僕は「初回に出たもん勝ち」と思っていて。“地味ハロウィン(※)”しかり“ヘボコン(※)”しかり。初回を逃すとハードル上がっちゃって出にくくなる。
※地味ハロウィン:デイリーポータルZが2014年から始めたイベント。ゾンビやセクシーナースなどではなく、“公務員”や“スタバの店員”といった地味な仮装をして、お互いに「それおもしろいですね」と褒め合う。初年度は身内でテスト開催。2015年から参加者を募ったところ爆発的にブレイクし、ハロウィンシーズンにSNSを賑わす一大イベントになった。
今年の地味ハロウィンは10/31とのことなので、これまでに評判良かった自分の仮装を貼っておきます。
1枚目:家電量販店の販売応援に来たメーカーの人
2枚目:鑑定団に自信満々で出たのにやらかした人
3枚目:イオンでウォーターサーバ… https://t.co/IVn1B7degY
— 爲房新太朗 (@stamefusa)
2021-10-19 14:47:12
これは爲房さんの地味仮装。“こういうスタッフいる”感に、イベント会場はざわつきました。
※ヘボコン:こちらもデイリーポータルZが2014年から始めたイベント。ロボット工学の実力者が技術を競う“ロボコン”に対して、素人が技術のヘボさを競い合う。技術がないのでロボットがよちよち歩きするだけで観戦者は大いに盛り上がる。
技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)、夏の大会を3年ぶりに開催です!
素人が作った「自称ロボット」を無理やり戦わせ、その動かなさ・おぼつかなさを楽しむイベント。
大会は7/31(日)。出場者募集中。週明けまでなので急いで!… https://t.co/P6QhzWeXO8
— デイリーポータルZ (@dailyportalz)
2022-06-08 21:59:34
ちなみに、ヘボコンも今年3年ぶりに大会開催決定ですよー! このヘボさ、一見の価値ありです。
井口:初回を逃すとハードルが高く感じる……たしかにそれはあるな……。
爲房:それで初回の参加を勧めたんです。大会の参加が決まってからは、メンバーと練習を2週間前くらいからすごいやってました。
爲房:Discordも大会連絡で必要なので、まず「Discordというのがあって」というところから説明しました。それを子どもが動画見る用に買ったiPadに入れて、それからは寝かしつけ後に通話しながら練習する妻の姿を見るようになりましたね。
香代子:実際に、初回より第2回目の方がお母さんたちめちゃくちゃ強かった……。(初回と2回目では大会の)時間帯が違うというのもあるのかもしれないですけど、初回は話題になっていたし出てみようみたいなノリの方も多かったんですが、第2回目はガチの人ばっかりで。
香代子:第2回は夜参加できないママ向けに昼開催でした。時間が合わなくて諦めたママも多かったみたいで1回目より参加人数が少なかったんですね。だけどその結果、ふるいにかけられた強者のお母さんばかりで!!!
井口:“強者のお母さん“って言葉がめちゃくちゃいいですね。
香代子:どんなお母さんたちが出るのかなってTwitterでお母さん杯の情報を見てみると「オールXママです!」とか「X帯で @1募集」とか。対抗戦(練習試合のようなもの)の募集も、1回目は同じくらいのパワーの人が見つかったけど、2回目は全然見つからなくて。格上の人たちに対抗戦お願いして、1時間負けっぱなしみたいこともあった(笑)。
井口:大会にめちゃ強お母さんたちが集結! 何かすごい世界ですね……! チームメイトは第1回から変わらずですか?
香代子:そうです! 第2回もみんなすごいやる気満々になってくれて! 「何としても出る!」ってノリノリな回答が返ってきた。
香代子:うちも、日曜日の日中なんだけど……と主人に相談したら、「もうここに書いたよ」って、カレンダーにすでに“第2回お母さん杯”の予定が書いてあった。そういうこともあって、無事2回目も同じメンバーで出られました!
井口:いい話すぎる!!! チームメイトとはどういう経緯で組んだんですか?
香代子:勇気を出してTwitterでチームメイトを募集したのがきっかけでした。それに昔からの知り合いのお母さんがすぐに乗ってくれて、それからふたりで募集してた方が声かけてくれてメンバーが集まりました。
香代子:それで1回目ですごく仲よくなれたので2回目もできて……。本当にこれはお母さん杯に参加してよかったと思うんですけど、それまではゲームをするお母さん仲間ってひとりもいなかったんです。
井口:ゲームするママ友も大会を通じてできたんですね!
勇気を出せば世界は広がる
香代子:Discordで部屋作ってやりとりしているうちに、みんなで子育ての悩みを話し合ったり、「ランドセル何色にした」とか「子どもがイオンで迷子になった」とか日々の話をお互いにするようになり、仲よくなれました。
香代子:後から来てくれた方は友だちが多くて、誘ってくれてプラべも初めてできた。プラベもやってみるとすごく楽しくて! 友だちの輪も広がりました。
井口:大会に参加した結果、『スプラトゥーン』の楽しさをより深めることができたんですね……!
香代子:『スプラトゥーン2』発売からお母さん杯出場までずっとひとりで遊んできたから、通話しながらのスプラはめちゃ楽しいっていうのを初めて知ることができました。
香代子:これは勇気を出してお母さん杯に参加してなかったら味わえなかったことだから参加して本当によかったと思うし、主催の方々には本当に感謝しています……! 参加中も、しみじみいい大会だなぁと!
井口:勇気を出したら世界が広がった……そしてそのきっかけになってくれたのがお母さん限定のお母さん杯だったと。
目標があるから、日々もゲームも楽しくがんばれる
香代子:お母さん杯に参加するにあたって、いままで使ってこなかったジェットスイーパーを練習し始めました。第2回はジェットスイーパーカスタムを練習してたけど全然うまくならなくて。
香代子:YouTubeで解説動画もたくさん見てるけどなかなかうまくいかなくて、大会のためにノートをまとめ始めました。
井口:すごい真面目……。やっぱりうまい人は謙虚に学ぶ姿勢があるなあ……。
香代子:苦手なステージもこうやって自分なりにまとめてます。それでも全然勝てないから自分のプレイの悪い点とかわかるんじゃないかなと思って、プレイを見返す用に動画も録り始めました。
香代子:配信環境とかもないからテレビ画面直撮りなんですけど。そんなことをやってると主人に「来るところまで来たか」って言われます(笑)。
井口:それだけがんばれているのも、大会のおかげですかね!
香代子:そうですね! 予選突破するって目標があって、みんなとワイワイやってるから。ノートも大会出場が決まってから始めました。
井口:何て涙ぐましい努力……。
香代子:あとは夜練習するとき、うちではリビングのテレビでゲームをしているので、なるべく小声でやらなければならないんですね。寝室が薄い壁を隔てた向こうなので。
香代子:それでなるべくこっそりやるために工夫して、おもちゃを積み上げてiPadが自分の口元に来るようにしてメンバーに報告していますが、たまに娘が起きちゃうんです。
井口:ゲーム時間が寝かしつけの後だから……!
香代子:ゲームしているときに突然、背後からバンッッッ(扉開ける音)うええええええん(泣き声)って……。
井口:すごいエキサイティング。
香代子:「ウワーッ来た!(笑)」ってのがいままでに3回くらいあるから、通話の向こうでも「香代子さんとこの娘さん来たよ(笑)」って。
井口:でもそういうちょっとしたトラブルも、通話相手もお母さんたちだからきっと気持ちも楽ですよね!
香代子:そうですね! みんなも最初、「エンジョイ参加で」って言ってたんだけど、最終的には真剣でした。試合に負けたら悲しいから、終わった後みんなで真剣に反省会をするんです。「あのとき塗りが足りなかったから、もっと塗りを強めよう」とか問題点を洗い出す。
井口:いよいよ部活っぽい!!!
爲房:大会に送り出す親みたいな目線で横から見てました。
お母さん杯への出場はもはや部活
爲房:僕はもともとずっと体育会系で、部活で試合も出ているから「同じじゃん」って。そういうの社会人になると、なかなかないからいいなと思いましたね。みんなで集まって練習して、やるぞーって。試合に負けても記念撮影なんかして。
香代子:そう、この前は初戦から上位4位以内のチームに当たっちゃってボコボコにされて……。本当にあっという間に負けてすぐに終わっちゃった。大会の後にみんなでプラベで写真撮りに行った(笑)。
爲房:その一連の流れがすごくいいなと思う。プロゲーマーだと仕事だからまた違うと思うんですけど、負けてもなんか大きなデメリットがあるわけじゃないし、部活の楽しいところを煮詰めた感じですよね。趣味でそれができるのはおもしろいだろうなと思います。
井口:ちなみに爲房さんが大会に関して、香代子さんをサポートしていてたいへんだったことはありますか?
爲房:子どもはふだんから交代で見てるのですが、大会当日は外に連れ出したり、夜の時間帯のときは僕が寝かしつけました。それ自体は別にたいへんじゃないんだけど、(第1回の)試合当日は全然寝てくれなくて……。
爲房:なかなか寝てくれなかったのはしんどかったですけど、たいへんだったのはそれくらいですね。当日寝かしつけ失敗したってつぶやいてるんですよね(笑)。
子の寝かしつけにクソ失敗してしまった
大会始まる前には間に合ってよかった…
— 爲房新太朗 (@stamefusa)
2022-01-28 21:52:54
井口:ほんまや(笑)。時間を見ると21時52分……! 大会開始って22時でしたよね? ギリギリ!
香代子:ふだんはもっと早く寝てくれるんですけどこの日に限って……。その頃、私は早めに入ってチームメイトと打ち合わせ。主人が寝かしつけしてくれたので、試合には集中できましたよ。
井口:香代子さんはつぎの大会にも出たいですか?
香代子:つぎの大会は『スプラトゥーン3』発売後みたいなんですよ(予定)。出たいねとはみんなと言ってます。初回も2回目も予選突破できなかったので、つぎこそは予選突破しようと。ほかで勝っていても、1回でも負けちゃうとダメなんですよね。
井口:お母さん杯上位勢たちが壁として立ち塞がってるんですね。
香代子:それこそお母さん杯に出てる上位勢のお母さんたちは全部Xで、XP2500とかのお母さんもいる。どうやってあんなにゲームうまくなるんだろうってみんなで話しています。
香代子:ちなみにチームメイトは自分と、A~Bの方からS+の方までいるんですが、1回目のお母さん杯の結果が悔しくて、「つぎは絶対がんばる!」って言ってたS+のふたりが2回目にはエリアXにしてきてびっくりしました。私はその頃、落ちちゃっていました(笑)。
井口:試合を通じて成長って、もはや少年漫画なんですが!! 『スプラトゥーン3』に期待していることはありますか?
香代子:『スプラトゥーン2』もすごくすてきなゲームなので、続編の『スプラトゥーン3』も絶対イカ研究所の方なら楽しいゲームにしてくれると信じています。これからも負けても勝っても楽しいゲームを期待しています。発売後の大会では、みんなで予選突破したいです!
井口:がんばってください! 今後の活躍も期待しています~!!
がんばるお母さんたち、強い
大会参加を通じて、よりゲームを楽しめるようになったという香代子さん。もともとは日々のモチベーションだったゲームを、目標ができたことでより楽しく続けていられているのだとか。
じつは爲房さんが見つけてきた「お母さん杯のチーム名がおもしろい」という内容のツイートを自分もリツイートしていて(筆者と爲房さんは相互フォロー)、香代子さんが大会に出場するきっかけに自分が関与していた可能性が浮上しました。ひとりのお母さんプレイヤーの運命を変えてしまったかもしれない……!
そして2歳の娘さんには「親がゲーマーなのできっとゲーム好きになるだろうけど、ゲーム以外の楽しいこともたくさん経験してほしいなと思っています。結果的にゲームが楽しいってなってくれたら、親としてゲームが好きだからこそのアドバイスもできるだろうし、何よりいっしょに遊べたら楽しいだろうなと思います」と期待していました。
『スプラトゥーン3』の発売、大会出場、そして大きくなったお子さんとゲームができるようになること……。お母さんプレイヤーとしてこれからも楽しみなことがたくさんあって、それはとても素敵なことだと思います。