2017年7月にリリースされ、発売から4年経ってもなお多くのプレイヤーから愛されるNintendo Switch用ソフト『スプラトゥーン2』。2022年夏には新作『スプラトゥーン3』の発売も控えており、スプラ熱はこれからもさらに盛り上がっていくのではないでしょうか。発売が待ち遠しい~ッッ!
そんな『スプラトゥーン』シリーズ(通称スプラ)を筆者が初めてプレイしたのは、『スプラトゥーン2』発売から約2年ほど経った頃でした。
Switchを手に入れたとき、何かSwitchらしいゲームを遊びたい! と何本かの候補から何気なく手に取ったのが『スプラトゥーン2』。それから思いのほかハマり、スプラの感覚を鈍らせたくなくて、どんなに忙しい日も少しでも潜るように。そうこうしているうちにプレイ時間は約1000時間になりました。まさかこんなにハマるとは……。
筆者がそんな本作に触れたとき、あることに驚きました。
「おかあさん」とか「〇〇ちゃんママ」みたいな名前の人、多くない……?
もともと子どもから大人まで幅広い層に人気の作品だし、驚くことではないと思うのですが、こちらとしてはそのプレイヤー名にちょっとしたロマンを感じちゃうんです。
『スプラトゥーン』ではSwitchのアカウント名がプレイヤー名として表示されます。“おかあさん”は家族用Switchのアカウント名だと思うので、「子どもに買ったら何となくハマっちゃった人なのかな」とか、深夜帯にいると「子どもを寝かしつけてからハイカラスクエアに来ているのかな」とか、背景を考えてみたり。
みんな、日々生活を頑張って、自分を開放できる時間に、イカになっているのかな……。
実際、自分の周りでも主婦フレンドさんは何人かいるし、『スプラトゥーン』にハマる主婦が珍しくないということは実感しています。そして、その方たちはプレイ時間が4桁超えのような、ガチでハマっている人が多い印象です。
なぜ『スプラトゥーン』は主婦やお母さんたちにもウケているのか? なぜほかのゲームではなく『スプラトゥーン』なのか……?
そこで、謎に主婦人気が高い秘密を探るべく、スプラ主婦が多く集まるゲームサークル管理者(この方も主婦スプラプレイヤー)に取材をすることに! まずはイカが多く集まるハイカラスクエアに飛びました。
主婦主体のサークルを運営するのは“たぬきなはは(仮名)”さん。じつは冒頭のおかあさん大量発生の画像は、たぬきなははさんが仲間たちと“おかあさん縛り”でサーモンランに潜ったときの様子だそうです。
「“おかあさん”的な名前でプレイするとナメられるから、あえて名前をおかあさんにして、いい戦績で“おかあさん”の力を見せつけよう」と。何それ楽しそう。
そして、しれっとカンスト(ゲージの数字が上限の999)になっていてすごい。バイトガチ勢のかあちゃんたちだ……。
そんなたぬきなははさんとは、ハイカラスクエアの入り口で待ち合わせをしました。
あ、いらっしゃいましたね。ロビーの入り口で佇むこちらがたぬきなははさん。
現実世界では中学生と小学生の二児の母で、イカ世界ではサーモンランでカンストを何度も経験しているたつじんアルバイター。『スプラトゥーン2』のプレイ時間は2700時間!
おかあさんが夢中になるサーモンランとは?
サーモンランとは、イカたちの間で流行している、シャケを討伐して金イクラとイクラを集める、ちょっと怪しげなアルバイト。毎回ブキの編成もステージも変わり、ほかのプレイヤーともランダムでマッチングする協力プレイモードです。
開催日程は40時間程度で切り替わるし、失敗するとゲージが下がるので、開催時間内にカウント上限までいくのには技術がないと難しいです。このモードでしか手に入らないギア(装備)やアイテムがあるのですが、妙に中毒性が高いので、報酬ではなくサーモンランを遊ぶこと自体が目的のプレイヤーも大勢います。
そんなサーモンラン勢プレイヤーたちにとって、ゲージの数値をカンストさせるのは目標のひとつ。たぬきなははさんは野良プレイヤー(ランダムでオンラインマッチングするプレイヤー)とも、サークルのフレンドたちとも何度もカンストをしているたつじんバイターです。
サーモンランで、カンストまで集中力と気力を持たせるのは本当に難しいことだと思っています……。というのも、筆者も全ルールの中でこのサーモンランがいちばん好きで、プレイ時間の6割ぐらいはサーモンランに充てているのですが、カンストは未経験なのです(最高935)。
お話を伺う前に、まずはたぬきなははさんとサーモンランに潜ることに。サーモンランカンストの手がかりを何かつかめるだろうか。
1WAVE目から苦手なチャージャー系のブキ・4Kスコープを引いてしまいました。たぬきなははさんはこの日の午前中もフレンドさんたちと潜って数値を800くらいまで上げていたそうなので、自分とプレイしたことで数字を下げたくない。失敗できない……!
ウッ、ウワーーーーッッ!! たぬきなははさんのハイプレッシャーがグリルに炸裂!! ハイプレを使いこなす系かあちゃんだ!!!
フウ……何とかクリアできましたわね……。たぬきなははさんのレベルに合わせた高ランク帯だったみたいで、いつもよりきつかったです。そしてさらっと金イクラ100納品で、自分にしてはすごくいい結果でした。たぬきなははさんのおかげですね。
では、たぬきなははさんにお話を伺っていきます。
平日午前にできるフレンドを募ったら、強い主婦たちが集まった
たぬきなははさんがゲームのサークルを作ろうと思ったきっかけは何だったのですか?
ゲームができるのは子どもが学校に行っている平日の午前中なんですけど、その時間に遊べる友達がほしかったんです。私は『あつまれ どうぶつの森』と『スプラトゥーン2』が大好きで、このふたつはフレンドとやったほうが楽しいと思うんですよ。
まずは自分が入れそうなサークルを探してみたんですけど、平日午前中に活動する大人のスプラサークルってほとんどないんですよね。
たしかに、ゲームの大人サークルって仕事後の夜とか深夜帯が中心ですよね。
私は朝型人間で、夜9時10時には寝ちゃいたいタイプなんです。子どもを寝かしつけた後にプレイする人もいるけど、自分はそれができない。既存のサークルには活動時間が合わないから入れない。だからこそ新しく立ち上げなければならなかったんです。
なるほど、自分の活動時間に合うサークルを作ったら、結果的に主婦が多いサークルになったんですね。
Twitterでゲーム垢を恐る恐る作ってみたんです。サークルについてつぶやいてみたら、フォロワーさんが反応してくれたので、その方たちといっしょに立ち上げました。TwitterのDMにグループを作って、7ヵ月くらいはテキストチャットしながらずっとゲームしていました。
テキストチャットで!? 通話はせずに?
最近はDiscordで通話しながらゲームもするようになりました。でもそれまではずっと文章だけだったし、いまもグループでのテキストチャットが盛り上がっています。
チャットの話題はゲームに関することですか?
もちろんゲームの話もしますよ。ゲーム以外だとカルディでは何がオススメとか。北京オリンピックで羽生結弦君の滑りをリアタイしたり。そんな交流から「サーモンランやろう」、「ちょっと『あつ森』で島を行き来しようか」みたいになりますね。あとは育児の相談とか情勢の話とか、もう何でも。
え~~楽しそう~~!! カルディのオススメを話し合えるゲーム仲間……いいコミュニティですね……!
コミュニケーション取れるフレンドさんとゲームをやるのは本当に楽しいです。サーモンランやレギュラー、プラベ、リグマなど、やりたいときにやりたい人が声をかけて集まる感じでゆるくやっています。2日に1回くらいは誰かしらがその中でゲームやってる感じですね。
サークルにはほかにどんな方がいるんですか?
サークルメンバーはいま15人で、赤ちゃんから高校生までの子どもがいる主婦が中心です。子どものために買ったゲームにうっかりハマっちゃった人も多いですね。
やはり……! 自分もそんな感じでハマったんですが、「スプラって何となくやってみたら沼だった」みたいなゲームなんですよね。
赤ちゃん育児中でガチヤグラがXランクの主婦、毎回どんな編成でも息をするようにサーモンランで野良カンストする3児のお母さんもいます。その人は仕事もしてますね。
ついこの前までサーモンランをやると画面酔いしていた初心者さんもいますし、プレイ時間6500時間超えの人も。OLさんや大学生男子など若い子もいます。メンバーは全国にいて、顔も名前も知らないけど、しょっちゅう通話してゲームしてるから仲よくなって、お互いのことはどんどん身バレしてます(笑)。
ゲームじゃないと出会えなかった人たちともつながれる
主婦中心サークルにいる、男子大学生の存在が気になりすぎる(笑)。別にサークルも主婦限定ではないし、“平日昼間”の条件に合う人だったってことなんですね。
男子大学生は主婦の練習に付き合ってくれて、息子みたいにかわいがられてます。いや、孫かな? このサークルだけでなくほかにフレンドさんがたくさんいて、主婦たちが寝静まる夜帯にはフレンドさんたちと潜っているみたいです。
男子大学生にとってこのサークルは“午前中にプレイする用のサークル”で、ほかの時間はフレンドと潜っていて……。もしかしてだけど、男子大学生は24時間どの時間帯にも『スプラトゥーン』できるフレンドがいるってこと……?
そういうことですね。若い子も平日の昼間はバイトと授業で忙しい人が多そうですよ。男子大学生もお休みのときに参加してくれています。
みんな全国にいるし世代もバラバラで、ゲームじゃなきゃ出会うことがなかったと思うとすごい。
時間を確保するために朝4時からゲームしてた
みんな家事育児にパートに授業に忙しいはずなのに、どうやってゲームのプレイ時間を捻出しているんでしょうか。
そもそもスプラはバトルの時間が5分程度なので、仕事・家事の隙間時間でサクッと遊べるのがいいんです。そういうところも主婦層にもウケてるポイントなのかなと思いますけど、時間の捻出……なんだろう、早く家事を済ませる……?
たしかにどのモードも1戦だけなら3分とか5分で終わらせられますね。とはいえ、始めるとついズルズルやっちゃうんですけど……。
赤ちゃん育児中の方は、積極的にお散歩とか連れて行って全力で遊んでるみたいですね。そうすると疲れて寝ちゃうから、その隙にゲームを……。この方は子育ての合間にガチマッチでXランクに昇格しています。
あとは早起き? うちのサークルは朝型の人が多いんですよ。私、前は子どもが起きてくる前の朝4時から『あつ森』に入ってました。
朝4時からゲームやってるかあちゃん強い。でも家族が起きてきたらご飯作ったりお弁当作ったりバタバタなんですよね。
うちのサークルは仕事している主婦が多くて、その人たちはお休みの日にやってます。そういう人たちがゲームしたいときにパッとフレンドとつながれる環境がこのサークルなんです。
野良で潜ると4時間くらいダラダラゲームやっても結局ストレス解消できずにモヤモヤしちゃうときもありますけど、フレンドさんとだと1時間でもすごく満足できたりする。
コミュニケーションが取れるフレンドといっしょだと、短い時間でも自分の納得の行くプレイができるんですよね。
しかもフレンドさんとだと勝っても負けても楽しい。そうやって発散し合って、笑える仲間がいるというのがこのサークルなんです。
育児と家事と仕事とゲームと。みんなうまく時間を作って隙間時間でゲームをして楽しんでいるんですね。
ゲームは子どもが学校に行ってるとかでいないときがメインなので、夏休みなどの長期休みにはSwitchがオフラインになる人が多いです。
お母さんあるあるだ!
休みの期間は子どもにSwitch取られちゃうから、みんなでグルチャ(グループチャット)で禁断症状を訴えています(笑)。
長期休みはゲームはオフラインでもチャットは活発に動いているんですね。ちなみに、サークルでゲームしてることを家族は知っているんですか?
メンバーの子どもたちもスプラに合流することがあるので、家族の会話にもフレンドさんが出てきます。もはや家族ぐるみの付き合いみたいな。夫も「楽しそうでよかったね」って言ってくれてますね。
家族も公認……。顔は知らなくても、フレンドというかもはや親友ですね。いい仲間……。
ゲームは子育てにおいてもマイナスじゃない!
自分の小さい頃は「ゲームは1日1時間まで」という縛りがありました。“お母さん”って子どもがゲームしすぎたら止める立場じゃないですか。子育てのうえでは“ゲーム禁止令”を出さざるを得なくなりません?
子どもにゲーム禁止令を出したことはないですね。やることさえやってれば、あとはゲームに費やしてもいいんじゃないかというのが私のスタンスです。
子どものタイプにもよると思うんだけど、うちはゲームを禁止せざるを得ないほど生活が荒れるタイプではなくて。子どもも早寝なので深夜までゲームをやっちゃう、ということはないです。
逆に子どもから「ママたちばっかゲームして」とか言われることは?
それもないですね。子どもは子どもで通話しながらマリカー(『マリオカート』)とかやっています。
ないんですね。そして子どもも親も“遊び”の内容が同じなんだ。
親がオンラインゲームしながら通話する家庭ってあんまりないのかもしれないけど。ゲームをしない親からすると、いまの子どもたちがゲームしながら通話してるのを見て、異質に感じるみたいです。「危なくないの?」みたいな。
やはりネットでのつながりは楽しいこともあれば危ないこともあります。顔が見えない人との交流も自身のリアルな体験としてわかるので、「こういうときは気をつけてね」、「こういうのはやっちゃダメ」といった注意喚起も、ゲームを主体的にやってる大人としてできます。オンラインで知り合った人と通話しながらゲームをする事自体は、子育てにおいてマイナスではないと思います。
当事者としてアドバイスできるのは強いなあ。
ほかのお母さんから「うちの子ゲームばっかして」みたいな相談をされることがありますね。やっぱりリアルなママ友と自分とのゲーム観は違いを感じます。
どう違うんですか?
お母さんたちの中には、“ゲームは悪者”みたいな論調の人や子どもへの害みたいな感じで見てる人が少なくありません。そういうときは「ゲームから学べることもたくさんあるし、がんばることで子どもにとってプラスになることもあるから」と子ども側に立って話しちゃいます。
実際にゲームをやっている人だからこそ言えることですよね。
たとえば『スプラトゥーン2』で最高ランクのXに上がるのは難しい。スポーツの大会で優勝するのはすばらしい。ベクトルは違うけど、スプラでXに上がるというのもそんな感じのすごさだと思うんです。でも、ゲームでがんばることを評価しない大人は多い。
そういうときは、ゲームをやる人目線で何か言ったりするんですか?
言います! たとえば『あつ森』でも、ただ単にプレイする子と、しっかり攻略法を調べてやる子がいたりするわけです。次女のお友だちともフレンドなんだけど、後者の子がいるとお母さんに報告したくなっちゃいますね。「○○ちゃんのゲームのやりかた、賢いよ!」って。
ゲームのやりかたを褒めるんだ!(笑)
ゲームをやらないお母さんから見たら「うちの子ずっとゲームやってんなぁ」とか、それぐらいのことしかわからないのかもしれないけど。自主的に学習してゲームをしている子がいると(その工夫が)わかるんですよ。こっちも同じゲームをしてるから。で、ゲームをやらないお母さんに教えてあげたくなっちゃうの。
子ども的には、そういう人がママの友だちにいるって救われるんじゃないかな……?
お母さんからは「いつもうちの子どものゲームのやりかた褒めてくれてありがとうね」とか言われますね(笑)。
ゲーマーって基本的には親からの評価は低いかもしれないけど、うまい人は分析がすごいですよね。それだけじゃなくて、そういう人はゲーム上での気遣いとかコミュニケーションの取りかたも上手。眩しいですよ。
う~ん、私はたぬきなははさんが眩しい……。これからも楽しくゲームを続けてください!
親でありながら子ども側の目線も持っていて、両方の架け橋になれるたぬきなははさん。
たぬきなははさんは、ただ夢中になるだけではなく、ゲームをコミュニケーションにうまく活用していて、ゲームとの距離の取りかたがすごくうまいと思いました。
大人になってからって、新しく友だちを作るのは難しかったりするけど、ゲームという共通の趣味を持つ人たちと、世代や遠く離れている距離を乗り越えてつながることができる。そしてそういう結びつきは強かったりするんですよね……。やっぱりゲームってすばらしいし、夢があるなぁと思いました。
ちなみに、今回はお母さんに焦点を当てましたが、“おとうさん”や“パパ”もよく見かけます。こちらは夜間のナワバリバトルやリーグマッチで見かけるイメージ。いつかガチお父さんプレイヤーの話も聞いてみたいと思いました……!