2022年6月4日、5日の2日間にわたり、オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(『FF14』)のオフィシャルバンド“THE PRIMALS”のライブが、幕張メッセイベントホールにて開催された。

 THE PRIMALSは、サウンドディレクターの祖堅正慶氏を中心に結成されたバンドだ。今回のライブは、2018年に国内4都市で開催された初の単独ライブハウスツアー“THE PRIMALS Zepp Tour 2018 - Trial By Shadow”以来となる、約4年ぶりの単独公演となった。

 幕張メッセのイベントホールという、大人数を収容できる会場での開催となったが、久々のワンマンライブということもあり、チケットは即日完売。会場は光の戦士(『FF14』プレイヤーの略称)で埋め尽くされ、大盛り上がりのライブとなった。

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 なお、6月4日に開催された初日のライブの模様は、有料ライブストリーミング放送も行われている。販売期間は6月12日までで、アーカイブ視聴可能期限は6月13日までとなっている。まだライブを見ていない、見逃したという人は、ぜひ下記のサイトをチェックしてほしい。

ライブストリーミング放送 視聴チケット購入ページ

エメトセルクの語りから始まる興奮のライブ

 ライブは、『漆黒のヴィランズ』『暁月のフィナーレ』に登場したキャラクター、エメトセルクの語りからスタート。ゲーム中でのプレイ体験とリンクしたような粋な演出に、会場は大きな盛り上がりを見せていた。

 そしてライブは『暁月のフィナーレ』の主題歌である『ENDWALKER』から開幕。スクリーンに映し出されたトレーラームービーとともに、THE PRIMALSの奏でる爆音が会場の熱気を一気に上げる。2曲目の『輝ける蒼 ~希望の園エデン:覚醒編~』とともに、ステージ前方の幕が下り、THE PRIMALSが姿を現す。続けざまに『究極幻想』を披露して、会場の温度を上げていく。

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 メンバー紹介のMCの後は、『メタル 〜機工城アレキサンダー:起動編〜』を披露。原曲では女性ボーカル曲となる『忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~』ではGUNNさんがボーカルを担当。『目覚めの御使い ~ティターニア討滅戦~』、『女神 ~女神ソフィア討滅戦~』と人気の討滅戦の楽曲で、会場を盛り上げる。

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『FF』音楽の祖となるレジェンドが登場!

 ここで、エメトセルクのナレーションで「プレリュードを創造した人物」として、古代人の衣装を着た人物がステージ上に現れる。深くフードを被っており、映し出されるのは手元のみ。そして奏でられるピアノの旋律。徐々にメロディーの輪郭があらわになっていき、そして流れる『悠久の風』のメロディー。これまでの熱気漂う雰囲気から一変して、神々しい雰囲気が会場を包む。

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 そして2曲目に突入すると同時に、謎の人物がフードを脱ぐ。その正体は、『FF』の音楽の祖となるレジェンド・植松伸夫氏! まさかのサプライズゲストに、鳥肌ならぬ“チョコボ肌”になったのは自分だけではないはず。そして流れる初代『FF』のメインテーマ。曲の後半は同じく初代『FF』の曲であり、『FF14』でもおなじみの『マトーヤの洞窟』のアレンジバージョンに移り変わり、『FF14』ファンにはたまらないメドレーに。植松氏は、続けざまにシリーズ屈指の名曲『ビッグブリッジの死闘』を披露。『FF』シリーズファンなら感涙ものの、至高のひと時となった。

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 3曲を演奏し終えた植松氏は、祖堅氏に招かれてステージに再登場。古代人のローブを着るのは祖堅氏からのお願いだったようで、2曲目の途中でフードを外すときに歓声が上がる予定だと聞かされていたが、「(歓声があがるか)ずっと心配だった」と語る植松氏。実際に演奏し、会場の反応を見た植松氏は、会場からあがる拍手の大きさに、安心した様子を見せていた。

 なお、植松氏が披露した3曲は、2022年11月9日発売予定のアレンジアルバム『Modulation - FINAL FANTASY Arrangement Album』に収録予定の楽曲とのこと。ちなみに披露された3曲とも未完成で、今回のライブで演奏したものはいまだけしか聴けない音源となっているという。

 ちなみに、植松氏の来ていた古代人のローブは、特注のもので、なかなかコストがかかっているのだとか。1回だけしか着ないのはもったいないということで、祖堅氏の「THE PRIMALSのライブに来てくれます?」と問いに対して、「僕でよければ」と植松氏は快諾。また夢のコラボレーションが見られる日がくるようで、ぜひとも続報に期待したいところだ。

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 植松氏がステージから降りると、THE PRIMALSのライブが再開。ここからは、事前に公式サイトで募っていたプレイヤーからのプレイ動画とともに『貪欲』『To the Edge』を披露。スクリーンに映し出されたプレイ動画はなかなか見応えのあるもので、かなり心を震えさせられた。続けざまに演奏された『漆黒のヴィランズ』のメインテーマ『Shadowbringers』でも、作中の名シーンが次々と映し出され、当時の思い出が蘇り、涙腺が崩壊しそうになった。

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 『知恵の巻貝 ~オールドシャーレアン:夜~(Acoustic Version)』は、初となるアコースティック編成でのお披露目に。美しいメロディーをアコースティックギターが奏で、会場のプレイヤーを魅了した。

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 続けざまに、『Close in the Distance』『Flow Together』と、『暁月のフィナーレ』で登場した名曲を演奏。スクリーンには『新生エオルゼア』から『暁月のフィナーレ』までの冒険の名シーンが映し出され、思わず涙を流しそうになった人も多いだろう。

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 感傷に浸る間もなく次の『此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~』が披露され、再び会場に熱気が戻っていく。続く曲は『ロングフォール ~異界遺構 シルクス・ツイニング~』。前回のファンフェスティバルでは開発スタッフがダンスを踊る姿が見られたが、今回はプロのダンサーが登場し、軽快なリズムに合わせたキレキレのダンスで会場のプレイヤーを魅了していた。

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 最後のMCで残りは3曲と告げられるも、コージ氏の「残りの3曲はいろんな意味で熱いんですよ!」というひと言で会場は大盛り上がり。コージ氏のお気に入りだという『魔神 ~魔神セフィロト討滅戦~』から始まり、『過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~』に続く。ステージでは特殊効果として火がつくという演出が行われ、会場のボルテージも最大に。最後に『エスケープ ~次元の狭間オメガ:アルファ編~』が演奏され、ステージが終了。

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鳴りやまない拍手からのアンコール演奏

 ステージ終了後も、会場からは拍手が鳴りやまない。声出し厳禁のため、声は出せないものの、拍手の音が会場を包み続ける。そこでエメトセルクの「全力で呼び戻してやれ」というセリフとともに、THE PRIMALSのメンバーが再登場。

 アンコール1曲目に演奏されたのは、『メタル:ブルートジャスティスモード ~機工城アレキサンダー:律動編~』。祖堅氏がギターからトランペットに持ち替え、軽快なメロディーを奏でる。

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 2曲目は、『ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~』。もちろん、今回のライブでもおなじみの“時間停止ギミック”を会場内で再現。おなじみのサウンドとともに、一斉に動きを止める光の戦士たち。この光景は、何度見ても心が震えさせられる。

 最後は、『ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~』を披露。レイドシリーズ“機工城アレキサンダー”を彩る3曲で、激熱のライブが締めくくられた。

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次の目標は野外フェス!? THE PRIMALSインタビュー

 開催2日目となる6月5日の公演終了後に、THE PRIMALSにインタビューを敢行。ライブの感想をはじめ、お気に入りの楽曲、次のライブにかける意気込みなどを伺った。

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――まずは、ライブを終えてのご感想を教えてください。

祖堅正慶氏(以下、祖堅) ここしばらくはパンデミックや自分の病気もあって、しばらくライブの最前線から離れていました。いっぽうでゲームはずっとアップデートを続けていた中、やっとパンデミックが明けてきて、自分の体調もよくなってきたので、ライブを開催させていただきました。

 こんなに大きい会場にたくさんのプレイヤーが集まって、感無量ですね。ライブを通じて、ゲームというエンターテインメントのパワーのすごさと、そのサウンドを手掛けさせていただいているのはとても光栄だということを、あらためて感じました。

マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏(以下、コージ) 昨日、初日のライブを終えてから、SNSで光の戦士たちの感想を見させていただいて、「“THE PRIMALS”からパワーをもらった」という意見を拝見しました。もちろんうれしかったと同時に、私も同じように皆さんからパワーをもらったと感じました。

 パンデミックもあって、ずっと自宅で作業していたりして、開発者として辛い状況が続いていて……。そんなときに皆さんの前でライブができ、ファンの方々からパワーをいただけて本当に感謝しています。

イワイエイキチ氏(以下、イワイ) 数年ぶりの有観客ライブということで、最初は緊張しましたけど、いざステージに立ったら昔の感覚を思い出せました。2日目となる今日で、いい感じにいろいろなことを思い出して……と、エンジンがかかってきたところなんでが、もうライブが終わっちゃって、ちょっと残念ですね(笑)。

たちばな哲也氏(以下、たちばな) ひとまず、2日間のライブが無事に終わってよかったなと。スタッフを含めて、いろいろな人に支えてもらって、ありがたいと思っています。あとは、光の戦士の皆さんが変わらずに元気そうで、そこがいちばんよかったですね。ここ最近、いろいろとあったかと思いますが、“THE PRIMALS”のライブで少しでも解消していただけたのならうれしいです。

GUNN氏(以下、GUNN) ライブに来てくれる皆さんのことを考えながら、演出などをメンバーのみんなで揉んで考えたので、それがいい形で伝わっているといいなと思いながら演奏させていただきました。昨日のライブの感想を見た感じ、喜んでもらえているようだったので、今日も無事にそこが伝わっていたらいいかな。僕個人としても、楽しく、皆さんの顔を見ながらライブができてよかったです。

――最新拡張パッケージとなる『暁月のフィナーレ』が実装されてから初めてのライブでした。ライブ中も『暁月のフィナーレ』で登場した曲を何曲か披露されていましたが、『暁月のフィナーレ』でこれがお気に入りという曲を教えてください。

祖堅僕にとって思い入れがあるのは、『知恵の巻貝 ~オールド・シャーレアン:夜~(Acoustic Version)』ですね。

コージ私は『ENDWALKER』ですね。私が歌っているわけではありませんが、歌詞を手掛けさせていただいて、「え!? この人(Architectsのボーカリスト、Sam Carter氏)が歌うんですか?」とビックリした記憶もあるので。

祖堅『此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~』じゃないんだ?

コージそれも好きですよ!

イワイじゃあ僕は『パンデモニウム』で。

たちばな『Flow Together』ですね。“THE PRIMALS”としては新しい感じですよね。

GUNNこの流れで来ると難しい……(笑)。

祖堅(ミニアルバムに入っている楽曲は)あと1曲しかないね。

GUNN全曲に思い入れはあるから……『オールド・シャーレアン』と『Close in the Distance』で。

祖堅1曲じゃないのかい!(笑)

――今回のライブでは、『新生エオルゼア』から『暁月のフィナーレ』までの楽曲が演奏されています。ゲーム内の物語は『暁月のフィナーレ』でひとまずのフィナーレを迎えましたが、今回のライブもそういったことを狙ってこのセットリストを組み立てたのでしょうか?

祖堅ゲームをプレイすればその場面が思い浮かぶのがゲームサウンドですが、ライブはセットリストの流れというものがあります。たとえば、ゲームでは最後に泣かせるような曲を持ってきたほうがいいのですが、ライブでそれをするとシュンとした気持ちで終わってしまうんです。

 ライブでは、「最後はみんなで盛り上がろうぜ」といったような組みかたをしているので、今回のようなセットリストになっています。だから一概に『暁月のフィナーレ』としての締めくくりを見せるというよりは、“THE PRIMALS”として、いままでどうやってきたかという集大成を作った感じが強いですね。演出もプレイヤーの皆さんがゲーム体験を思い出せるように、すごくこだわっています。

――アンコール後の3曲は、これでテンションを上げてくれという思いがすごく伝わりました。

祖堅いままで何度もライブを演ってきて、お祭り感を持ったまま終わるというのがいちばんいいという結果を得ているので、この形になりました。

――『貪欲』『To the Edge』では、プレイヤーからプレイ動画を募集するという新たな施策を実施されました。実際にやってみていかがでしたか?

祖堅すごくかっこいいプレイ動画を送ってきた方がたくさんいらっしゃったので、どの動画を使ったらいいかはすごく悩みましたね。どれもクオリティーがめちゃくちゃ高くて、うれしい限りです(笑)。

 僕たちのライブは、どうしても限られた地区、限られた時間でしか演ることができないので、全世界の『FFXIV』プレイヤーが参加できるように策を練ったつもりでしたが、思いのほかプレイヤーの皆さんの動画のクオリティーが高くてビックリしました。

 僕たちもリハーサルのときからあの画を見てすごくテンションが上がったので、プレイヤーといっしょに2曲を演奏したという感じが出て、すごく楽しかったです。

――またライブがあれば、今回のような企画を実施される予定はありますか?

祖堅またやりたいですね。すでに次の企画も思いついているので、もしライブを演るときがあればお披露目したいなと。

――“THE PRIMALS”では1時間30分ほどのライブが多かったと思いますが、今回は2時間30分と一気に尺が長くなっています。この長さにしようと思った理由などありましたら教えてください。

祖堅1時間30分尺でやっていたのはファンフェスティバルの“THE PRIMALS”、だからですね。ファンフェスティバルでは、僕らのライブはたくさんあるうちのひとつの演目であり、メインというわけではない。だから、コンパクトにやっています。

 今回のライブは、僕らが主導で動かしているライブなので、そもそもファンフェスティバルとは座組みが違います。ファンフェスティバルでは限られた時間、予算でどうやるかを練って、今回のライブでは、僕らがやりたいことを徹底的に追及しているので、まったく違う考え方をしているんです。

――会場も一気に大きくなりましたけど、変わったところや、やりたかった演出ができたということはありますか?

祖堅今回は光と画に力を入れました。そこに特殊効果が入ったらいいなと思っていて、今回はさらに演奏中に火をつけるという演出をやってみたんですよ。でも、実際にやってみたら思いのほか熱くて……(笑)。

 いろいろなアーティストさんに聞いたのですが、サビ中だけ火を出すことはあるけど、1曲の間、最初から最後まで火を出すなんて聞いたことがないと言われました。そういった意味でもすごいライブになったんじゃないかなと思います。僕もビックリしましたけど(笑)。

――今回のライブタイトルの“Beyond the Shadow”に込められた意味を教えてください。

コージいままでの単独ライブのタイトルにも“Shadow”という言葉が入っていますけど、これは『ShadowBringers』から取ってきています。あとは、“THE PRIMALS”はゲームの中では悪役で、闇のイメージがあるということで、ライブタイトルに“Shadow”という文字を使っていました。

 今回は、次の『ENDWALKER』に進むということで、Shadowを越えるという意味がある“Beyond The Shadow”という言葉を使っています。あと、英語に「beyond the shadow of a doubt」という熟語があって、「絶対に」という意味があるんですよ。この熟語の意味も合わせて、“THE PRIMALSは絶対的だ”と、二重の意味を込めています。

――最新アルバムにも収録されているオールド・シャーレアンの夜の楽曲ですが、ライブでアコースティックをやりたいという話があってアルバム収録曲に選ばれたのでしょうか?

GUNNもともと「この曲をやってみたい」という話を祖堅としていたんです。それで、やるだけやってみようと。レコーディングでは、原曲の世界観も大事にしつつ、バンドの一発録りにこだわりましたね。昨日のライブ中では(テイクが)十数回という話をしましたが、僕の記憶では24回ぐらいやっているんだよね(笑)。

たちばなレコーディングが終わるまで1日半ぐらいかかったもんね(笑)。

GUNNオールド・シャーレアンの夜の楽曲は、そんな風に作業が進んでいった曲ですね。

――次にこういったライブがしたい、こういったフェスに出たいという思いがあればぜひお聞かせください。

祖堅僕は野外のフェスに早く出てみたいですね。

コージ同じく外でやってみたいですね。涼しいだろうなぁ(笑)。

イワイもっと大きい、アリーナクラスでやってみたいですね。

たちばないろいろなところでもやってみたいですが、ゲームと違う音楽フェスティバルにも出られたらおもしろそうだなと思いますね。

GUNN僕も同じで、国内外でいろいろなフェスに出てみたいなと思っています。(祖堅氏に対して)行きたいな!(笑)

祖堅ロンドン、パリ、ドイツ、韓国、中国、ラスベガスと海外でもライブを演らせていただいているので、海外のフェスでもぜひやってみたいですね。こんな感じで、メンバー間でも日ごろからこんな話をしていますので、いいお話しがあれば喜んで行きます!(笑)

祖堅氏の成長をうれしくもあり、うらやましくも感じた植松氏

 最後に、祖堅正慶氏と植松伸夫氏のインタビューを掲載する。

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――まずは本日のライブの感想をお聞かせください。

祖堅今回、スペシャルゲストとして植松さんにご協力いただきましたが、じつは、植松さんが最初は「俺は前座がいい」って言われていたんですよ。僕としはそんなことは全然考えていなくて、その意思が固かったので、何度か植松さんを説得しに足を運んだんです。前座よりも絶対にライブの途中で植松さんが現れたほうが、お客さんが喜びますから、と説得して。

植松伸夫氏(以下、植松) 実際にやってみて、それが正解だったよね。

祖堅そうですね。演目の中のひとつとして、『FFXIV』の世界観の中にいる古代人、レジェンドというキャラクターに植松さんに投影させて演出できたというのは、ゲームとの親和性を持たせられてすごくよかったなと。

 僕はゲーム体験というものを大事にしているので、今回、ライブに足を運んでくれたお客さんたちにとってゲーム体験と植松さんがオーバーラップして「ゲームってすごいな」と思ってくれたらすごくうれしいですね。今回、多分それができたのではないかなと思っています。

植松僕が「前座で出してくれ」と言っていたのは本当で、“THE PRIMALS”のライブですし、そこに先輩面をして出ていくのはすごく恥ずかしい。さらに、やろうとしていた音楽が、ひとりでシンセサイザーを使ってというような、いままでやっていなかったものだから、イチからやり直させてほしいなという思いがあって、前座として1、2曲やらせてもらおうかなと、本気で思っていました。

 でも、昨日、今日とライブに出演してみて、祖堅はこういうことを考えていたんだなということがわかって、彼に従ってよかったなと思いました。最初から最後まで遊園地にいるような、考えられているライブだなと。ゲーム音楽をやっているロックバンドだからできる、このエンターテインメントはすばらしいなと、正直、驚きましたね。

 僕自身もすごく気持ちよく演らせていただきました。お客さんが僕のことを覚えてくれていたのがうれしかったし、ステージの上から見ていて、自分がいまやっているシンセサイザーの音楽をおもしろそうに聴いてくれている、興味を持ってくれているという手応えを感じられて、2日間やらせてもらえてうれしかったですね。

――今回のライブでは演出面にこだわられたということですが、祖堅さんと植松さんのあいだでどんなご相談があったのでしょうか?

祖堅まずは、(古代人の)服を着てくれって言いましたよね。

植松そうだね。でも、いつもの恰好で演ったほうが気楽だし、そういうのは嫌だったんだよ(笑)。じつはあの服はすごく動きにくくて、ローブが長いから歩いていても引っかかるし、階段を上るときに裾をまくらないといけない。あと、僕は何かをやるときにいつも腕まくりをするんだけど、丈が長くてすごく演奏しづらくかった。なおかつ、1曲目は「フードをかぶってくれ」と言われて、譜面がよく見えなくて……(笑)。

 でも、SNSで感想を見ていて、「植松が古代人の恰好に!」と喜んでくれていたので、祖堅が最初から思い描いていたことができて、それに協力できたのだろうなと。

祖堅見てくださっている方々は『FFXIV』のプレイヤーで、ゲームを遊んだ体験があるからこそ、植松さんがローブを着ることに意味があるし、そこに『悠久の風』が流れてくるという演出がゲーム体験と密接にリンクして。これはゲーム音楽ならではなのかなと思っています。

 植松さんが築いてきたゲームサウンドというジャンルは、僕が生まれたときには存在していて、それがすごいという体験が心にありました。それをいまのプレイヤーたちに、ゲーム体験とともに「ゲームサウンドってすごいんだよ」と伝えるのが僕の使命だと思っているので、そこに植松さんが応えてくださって、いっしょにできたのは感無量ですね。

――植松さんが手掛けられるアレンジアルバム「Modulation」について、コンセプトや、どういったものになるのかを教えてください。

植松基本的に、全曲とも『FF』シリーズのゲーム中で流れている音楽を土台にしています。じつはステージでも言いましたけれど、これまで昔の自分が作ったものは、二度とと言っていいほど聴かなくて、「恥ずかしい曲を作っちゃったな」という思いがずっとあったのです。

 でも、そうは言っても当時作った曲は自分の歴史にとって事実なわけで、「それをずっと見ないようにしていく人生は嘘っぽいな」と思って。じゃあ実際に自分が昔に作った曲を聴いてみて、これをどうやったらおもしろく発表できるかなと考えたんです。

 たとえるなら、若いころに撮った変顔の写真。なんでこんな顔をして写真を撮っちゃったんだろうという気持ちがあると思いますが、フォトショップを使えば、おもしろいものに加工できちゃうわけですよ。そんな感覚で、昔作った曲を変調(Modulation)してみたら、おもしろいんじゃないかなと。それが『FF』の1作目を作って、35年経って、ようやくおもしろがれるようになったという感じですね。

――ライブを終えて、植松さんに何かメッセージはありますか?

祖堅僕が若いときに植松さんに多大な迷惑をかけまくっていたので、今回のライブで植松さんがちょっとでも楽しい気持ちになっていただいたなら、ちょっとした恩返しになったのかなと。もちろん、これくらいじゃ全然足りてないと思いますが……(笑)。そんなことを考えつつ、またお願いにいきますので!(笑)

――植松さんから祖堅さんへのメッセージはありますか?

植松こんな素敵なコンサートの中で、15分間という短い時間でしたけど、参加させていただけてすごくうれしかったですね。あまりこういう言いかたはしたくないけど、祖堅も大きくなったなという感じがしますね。

祖堅僕は、植松さんと飲みに行っていたときはマジでクソガキでしたもんね(笑)。

植松本当にクソガキだったよね(笑)。そんな冗談はおいておいて、祖堅がこんなに場を仕切っているというのが、うれしくもあり、うらやましくもあったんです。うらやましいと思った瞬間に、「僕はまだいけるな」って思ったんです(笑)。祖堅にまだライバル心を持っているかもと思ったときに、「Modulation」の制作をもっとかんばろうと思いました。

祖堅これはアルバムが楽しみですね!

――では最後に、ファンの皆様へのメッセージをお願いします。

祖堅植松さんの元気な姿を見せられて僕は満足です。みんなも満足だったと思います。ユーザーの皆さんと同じ気持ちです!

植松こんなにたくさんの人間を見たのはひさびさでした。また人間を見に行きたいと思います(笑)。

セットリスト

※6月4日、5日共通

1. ENDWALKER
2. 輝ける蒼 〜希望の園エデン:覚醒編〜
3. 究極幻想
MC
4. メタル 〜機工城アレキサンダー:起動編〜
5. 忘却の彼方 〜蛮神シヴァ討滅戦〜
MC
6. 目覚めの御使い 〜ティターニア討滅戦〜
7. 女神 〜女神ソフィア討滅戦〜
8. 悠久の風
9. メイン・テーマ~マトーヤの洞窟メドレー
10. ビッグブリッヂの死闘
MC
11. 貪欲
12. To the Edge
13. Shadowbringers
14. 知恵の巻貝 ~オールド・シャーレアン:夜~ (Acoustic Version)
15. Close in the Distance
16. Flow Together
17. 此処に獅子あり 〜万魔殿パンデモニウム:辺獄編〜
18. ロングフォール 〜異界遺構 シルクス・ツイニング〜
MC
19. 魔神 ~魔神セフィロト討滅戦~
20. 過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~
21. エスケープ 〜次元の狭間オメガ:アルファ編〜
アンコール
22. メタル:ブルートジャスティスモード 〜機工城アレキサンダー:律動編〜
23. ライズ 〜機工城アレキサンダー:天動編〜
24. ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~

写真撮影:西槇太一、MASANORI FUJIKAWA