PLAYISMより2022年4月28日(木)にNintendo Switch、プレイステーション4版が発売となる『黄昏ニ眠ル街』。情感豊かな東洋風の街を駆け回るアクションアドベンチャーです。

 本作はイラストレーター、3Dデザイナーでもあるnocras氏が、個人で制作。筆者は昨年PC(Steam)版が発売されたときnocras氏にインタビューしており、本作を家庭用ゲーム機に移植したい旨をうかがっていたので、氏の希望が叶ってよかったなぁ〜としみじみ喜んでおります。

 移植された本作を、発売日に先駆けて改めてプレイしましたが、nocras氏のイラストレーター、デザイナーとしてのノウハウが生かされた、個人制作らしい、オンリーワンな一作であることを再認識しました。

 そんなわけで、今回はこの家庭用ゲーム機版のプレイをもとにした『黄昏ニ眠ル街』のレビューをお届けしたいと思います。本作が気になっている方に、読んでいただけたらうれしいです。

 なお、筆者が今回プレイしたのは、Nintendo Switch版です。

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初めて見るのに懐かしい……“街の景観”こそが主役の探索ゲー

 飛行船でひとり旅をしていた少女・ユクモが、東洋風の街にたどり着くところから始まる本作。しかし、飛行船は故障し、ユクモは街から出られなくなってしまいます。到着時、大部分が霧に覆われていて、薄暗く、静寂に包まれている東洋の街。

 街に住むネコのような種族“ネズ族”のコガラによると、飛行船を直すためにも、霧を晴らし、街に活気を取り戻すためにも、散らばった“大地の源”を集める必要があるとのこと。こうして、ユクモは街のあらゆる場所を探索し、“大地の源”を集めていくことになるのでした。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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ほのかに光を放つ“大地の源”は、遠くにあっても見つけやすい。

 ゲームの進行としては、拠点となる“静閑渓谷”から、街の各地域へと移動。街中に散らばる“大地の源”を一定数集めると、各地域に存在する“聖域”に入れるようになります。聖域で、アクション性の高い試練をクリアーすると“ご神木”の力を解放でき、街に変化をもたらせます。序盤で行ける地域はひとつですが、“ご神木”の力で、その地域の霧を完全に晴らすと、ほかの地域にも行けるようになる――ということのくり返し。

 本作最大の魅力は、なんといっても街の景観そのもの。『千と千尋の神隠し』などを彷彿とさせる、建物をはじめとする人工物の意匠は、初めて見るはずなのに、どこか懐かしさも感じさせてくれます。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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 眠りについたような静寂に包まれたこの街を、プレイヤーの手で活気溢れる場所に戻していくのも、ゲームの舞台そのものが魅力的だからこそ、喜びは大きなものに。Ujico*氏の手掛けた音楽もまた、美しい世界を情緒たっぷりに彩ります。

 景観が魅力的だからこそ「つぎに行ける場所は、どんな景色をしているのだろう?」「霧が晴れたら、どんな光景が広がるのだろう?」という好奇心が、ゲームプレイを後押ししてくれるのです。

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霧を晴らしたあとの街では、音楽も楽しげなものに。達成感もひとしお。

聖域で挑戦するアクションは、苦手な人はすべてスキップしてもエンディングにたどり着ける

 本作には戦闘などの要素はなく、ゲームとしては“街の探索”と“聖域でのアクション”、それから“飛行船の操作”の3つの場面に分けられます。

 街の探索では、街中の散らばる“大地の源”を集めることに。“大地の源”は、茂みや地面の下に隠れているものや、欠片を集めることで出現するもの、ネズ族の頼みを聞くことで出現するものなど、入手方法はさまざま。

 高度なアクションを求められることはありませんが、高い建物のてっぺんまで登り、そこからジャンプしないと届かない場所にある“大地の源”などは「どうすればあそこに届くかな?」と考える必要があったりと、ちょっとパズル的な思考が必要になります。また、後述する“聖域”で手に入る新たなアクションがないと手に入らないものもあり、初めて街を訪れたタイミングでコンプリート、とはいきません。

 どの地域も“横の広さ”はそこまでではないものの、“縦に広い”、何階層かに分かれているような、立体的な構造になっているのも特徴。建物の裏側にまわり込むことで発見があったりと、探索に退屈しないよう、気を配ったであろう作りにも感心させられます。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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 街の探索で、一定数の“大地の源”を入手することで入れるようになる聖域では、アクション性の高い、いくつかの試練に挑戦。ひとつの試練を乗り越えるごとに、たどり着いた先で“大地の源”が手に入り、すべての試練をクリアーすることで、奥にある“神木の間”への扉が開きます。

 聖域での試練は多種多様。台から落ちないようにジャンプで乗り継いでいくようなものが比較的多いものの、ギミックの種類もそれなりにあり、ジャンプアクション・プラットフォームアクションが好きなら楽しめるはずです。聖域の試練はほかにもいくつかのバリエーションが用意されているので、ぜひ実際にプレイして確かめてほしいところ。

 なかなか繊細な操作を求められる場面もある一方、ユクモのジャンプの挙動はふわっとしていて、思ったところに着地しづらい点が気になる方は多いかもしれません。ただ、ゲーム中にいたるところで拾える“おカネ”を支払うことで、試練はすべてスキップが可能。難しめなアクションにはまったくトライせずとも、少なくともエンディングまではたどり着けるという、救済措置になっています。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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足を滑らせて下に落ちてしまうと、その試練は最初からやり直し。大変に感じたら、入り口横にある装置に“おカネ”を払い、スキップするのも手だ。

ゲームが進むたびに感じ取れる“街の変化”も、好奇心を刺激

 聖域でご神木の力を解放すると、街に変化が生じます。霧が少し晴れ、これまで行くことのできなかった場所に行けるようになったり、ジャンプ台などの、新たなギミックが追加されていたり。これらによって、以前は取れなかった“大地の源”が手に入るようになったりと、探索の幅は広がります。

 一部の聖域では、ご神木の力を解放すると同時に、ユクモのアクションが追加されることも。新たなアクションを組み合わせれば、ユクモのジャンプは、より遠い場所まで届くように。この点でも、それ以前は届かない場所にあった“大地の源”が手に入るようになります。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
少しだけ彩りが戻った街。完全に霧を晴らすには、もうひとつご神木の力を解放する必要がある。
『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
ご神木の力で、新たなアクションが使えるように。街中の探索も、より快適になるはず。
『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
霧が晴れると、街には時間が流れるように。昼と夜は、任意で切り替えられる。

 霧を完全に晴らした地域は、“飛行船”で飛び回れるように。上空から街を眺めれば、それまで気づけなかった“大地の源”を見つけることも、あるかもしれません。

 飛行船でしかたどり着けない場所にある“大地の源”も存在する一方で、ユクモ自身の能力で行ける場所にある“大地の源”は、飛行船で触れても入手できないので注意。ちょっと納得行かない気もしますが、本来は試行錯誤してたどり着くものがラクして手に入るほど、世の中は甘くないということかもしれません(?)。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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 このように、ゲームを進めるたびに街は姿を変え、そのたびに改めて探索する動機が生じるのが『黄昏ニ眠ル街』の特徴。序盤から行ける地域で、ほかの地域の聖域で入手したアクションによってやれることが増えることもあったりと、いずれの地域も、何度も訪れることになるでしょう。

 そしてくり返し探索していても、そのたびに楽しく感じられるのは、やはり街のデザインや、景観の素晴らしさがあればこそなのだと思います。

新マップ“深奥の聖域”が追加され、さらに魅力的な一作に

 家庭用ゲーム機版には、“深奥の聖域”という飛行船専用マップが追加(PC版にもアップデートで追加予定)。ゲーム終盤で訪れることができます。

 もともとのPC版は、飛行船の出番があまり多くなく、結界を壊すために使う“飛翔花火”、“投下花火”などの操作も、終盤のとある特殊なマップに登場して、ほとんどそれっきりでした。これらを使ったチャレンジが追加されたのは、ゲーム全体のバランスを考えても、うれしいところ。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる

 ここまでに紹介できなかったお楽しみ要素としては、各地域にある倉庫や学校といった建物の中では、ユクモのコスチュームや、雑貨などが購入できます。少し気分を変えて探索したり、殺風景な拠点にある家を、賑やかにしたいときは、利用してみるとよいでしょう。

 街中限定で、聖域や建物の中では使えないものの、ボタンひとつでフォトモードを呼び出せるのも、美しい風景の多いこのゲームではありがたいところです(Twitterでハッシュタグ“#タソマチフォト”で検索すれば、PC版のユーザーが撮影したスクリーンショットがたくさん出てきます。チェックしてみましょう!)。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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お気に入りのコスチュームで、写真を取ろう!

 nocras氏が、自身のやりたいことを詰め込んだという『黄昏ニ眠ル街』。個人による制作ということもあって、あらゆる要素が商業的に作られたゲームと同じ水準――というわけではありません。

 ユクモの表情がまったく変化しない点には、最初のうちは違和感を覚えるかもしれませんし、街は入り組んだ構造にも関わらず、ユクモの現在地がわかるようなマップは表示できないので、道に迷うことも多いです。前述したアクションの挙動が、気になる人もいると思います。

 一方で「この世界に浸っていたい」と思える人にとって、その期待には間違いなく応えてくれるゲームです。道に迷うこともまた、異国の地に迷い込んだ旅人気分で楽しめるかもしれません。

『黄昏ニ眠ル街』レビュー。心を洗われるような、美しい世界を探索する喜びがNintendo SwitchとPS4でも味わえる
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 筆者も、今回はPC版から数えて2周目のプレイではありましたが、美しい景観と、世界観に寄り添う音楽に身を委ねて街中を走り回るのは、気づけばずっと遊んでしまうような心地よさがあり、改めて「やっぱりいいゲームだな」と思えました。

 Nintendo Switch版は、最高水準に設定したPC版よりは当然グラフィックの質は落ちる印象ですが、この世界の雰囲気を味わうには十分なクオリティ。不具合なども一切なく、ハードへの最適化はバッチリ行われているように思います。PC以外のハードで遊べるのを心待ちにしていた方が、プレイをためらう理由はないでしょう。

 現実には存在しない世界を、歩き回れる喜び――戦闘よりも、ストーリーよりも、この部分こそがゲームの魅力だと思える人には、『黄昏ニ眠ル街』で味わえる体験は、きっと心に残るものになるはず。本作が、届くべき人に届くことを願います。

『黄昏ニ眠ル街』マイニンテンドーストアページ(Switch版) 『黄昏ニ眠ル街』PS Storeページ(PS4版) 『黄昏ニ眠ル街』Steamページ(PC版)