ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウイークのおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介するゲームは、きれいな探索アドベンチャー『黄昏ニ眠ル街』です。
【こういう人におすすめ】
- 雰囲気のいいゲームを求めている
- マップを隅から隅まで探索するのが好き
- きれいな景色を眺めてうっとりしたい
ミス・ユースケのおすすめゲーム
『黄昏ニ眠ル街』
- プラットフォーム:PC
- 発売日:2021年4月14日
- 配信元:PLAYISM
- 価格:1980円[税込]
- パッケージ版:なし
- ダウンロード版:あり
- 『黄昏ニ眠ル街』公式サイト
『黄昏ニ眠ル街』ロンチトレーラー
初めて夜をきれいだと感じた。というと大げさだろうか。
幼い頃から夜が苦手だった。夜になると街は動きを止める。もし倒れでもしたら、僕は誰にも見つけてもらえず、そのまま息絶えるのではないか。そんなことを考える子どもだった。大人になって20年以上が経ったいまでも、日が傾き始めると胸がざわざわする。
『黄昏ニ眠ル街』で夜の街を歩いているとき、ふと冒頭の感情が心をよぎった。記事タイトルに“GWおすすめゲームレビュー”とある通り、この記事の目的は好きなゲームを読者にすすめることなのだが、本作が万人ウケする傑作ゲームかどうかは僕にはわからない。
ただ、いい年をした男をいとも簡単にセンチメンタルにしてしまうほど、ついついため息が出てしまうほど、本作は美しい。少なくともそれは事実なので、この原稿を書いている。
そう、『黄昏ニ眠ル街』は美しい。ジャンルをひと言で表現すると、東洋風の街・トウエンを探索する3Dアクションアドベンチャーとなる。
街並みから醸し出されるのは、どこか煩雑な力強さ。狭い範囲に多くの住人を受け入れるためか、建物は縦に伸びている。地形の隙間から漏れ出る光は僕の冒険心をくすぐった。あの先には何があるのだろう。旅先で大通りを歩かずにあえて路地に目を向けるような、あの感覚。
同時に、そこには退廃にも似た美が眠っている。人の気配がしないのだ。自動販売機やエアコン室外機がある。暗くなると街灯が灯る。かすかな生活感はあるものの、奇妙なまでに人がいない。
探索を続けているうちに夕暮れになり、やがて日は落ちる。見知らぬ土地で孤独に苛まれ、胸中に生まれた不安が夜の闇に溶けていく。子どもの頃から変わらない、この感覚。
入り組んだ道を進むなかで、ふと視線を空に向けた。離れた場所に塔のような建物が見える。あそこに上ったら少しは気分が晴れるだろうか。高いところから見渡せば探索も捗るはず。
トランポリンのような“ジャンプパッド”で屋根の上に跳ね上がる。板で雑に作られた足場をそろりそろりと歩く。頂点に到達して辺りを見回すと、眼下には世にも幻想的な光景が広がっていた。
初めて夜をきれいだと感じた。
自分が作った世界をただ感じてほしいのだろうな
遊んでいるうちに世界に入り込んでいたらしい。目の前が開けた瞬間には、きれいだと感じると同時に、リアルに「おぉぉ……」と声が出た。夜が苦手な僕を、『黄昏ニ眠ル街』の夜は魅了する。
それよりも心の奥の柔らかい場所を締め付けるのは、ひとりで寂しい街を歩くという行為である。なぜ住人たちはいなくなってしまったのか。その理由は序盤で明かされる。
オープニングで主人公・ユクモが乗った飛行船が故障し、霧深い静閑渓谷に不時着。その場に居合わせたネズ族のコガラによると、原因は辺りを覆う霧だという。この“黄昏の霧”に追われるように、住人たちは出て行ってしまった。
ユクモの目的は飛行船を修理すること。そのためには街を支える“神木”の加護を受け、“大地の源”を集める必要があるらしい。神木の加護を受ければ霧も晴れるというから一石二鳥である。
“大地の源”とは、神木のふしぎなエネルギーを秘めた実をランタン状に削ったもの。街の動力源でもあるので、いたるところに設置されている。これを集めるのが本作のメインコンテンツだ。
大地の源を求めて極端な高低差のある街中を探索する。遠くにその輝きが見えると、今度はそこまでの順路を見つけようと目を凝らす。
いいルートを発見できなくて、それでも諦めきれずに大地の源に近づいてみると、意外なところで道がつながっていたりする。頭と足と目でパズルを解く感覚がおもしろい。たまに、どうしてもジャンプが届かなくてやきもきするのだけど。
『黄昏ニ眠ル街』は3Dアクションであるものの、操作テクニックはそれほど重要ではない。神木から加護を受けるために訪れる聖域では、動く床に飛び乗るようなアスレチックが用意されているが、“おカネ”を払えばスキップ可能。おカネは街中で無限に手に入るため、アクションゲームが苦手な人でもいつかはクリアーできる。
戦闘はない。物語が語られることも少ない。作り手は、自分が作った世界をただ感じてほしいのだろうなと思う。
一抹の不安が甘美なフィルターに変わるとき
そういえば、どうして街は放棄されたのだろう。黄昏の霧に覆われたとはいえ、化け物に襲われるような直接の被害は出ていない。すべての住人が逃げ出すのは不自然だ。
街中には手記のようなものが残されていて、読むと断片的に情報が開示されていく。ネズ族から聞いた話と組み合わせると、この土地に起きた事象がおぼろげながら浮かび上がってきた。
ここでは多くを語らないが、住人たちは異変を肌で感じていたと思われる。いつだって人々を苦しめるのは漠然とした不安だ。不可解さを恐れて離れた住人を気の毒に思う。
そんな心境とは裏腹に、得体のしれない恐怖という名のフィルターを通して見た景色は、なぜだかより妖しく輝いて見えた。
と、曖昧な表現でぼかしているのには理由がある。まだ本編をクリアーしていないのだ。エンディングまでおそらくあと少し。この時間が終わるのがもったいなくて、直前で止めてある。
僕が『黄昏ニ眠ル街』を知ったのは、たしか2019年の秋頃だったと思う。たまたま見かけたオリエンタルな動画が気になりすぎて、冬のコミケでは作者のサークルで同人誌を入手。その同人誌にはα版のダウンロードキーが付属していた。
制作過程を眺めて気持ちを高め、さあテストプレイしてみようと思った矢先、自宅内で同人誌をなくしてしまった。発見したのは2021年4月上旬。残念ながらダウンロード期限は過ぎていた。
『黄昏ニ眠ル街』は見知らぬ土地を旅するゲームとも言える。大型連休の直前にガイドブックのような同人誌を見つけたのも何かの縁。せっかくだからゴールデンウィークの旅行先は本作の舞台・トウエンに決めた。
この記事が公開された5月9日は、世間的にはゴールデンウィーク最終日。トウエンをめぐる僕の旅も、そろそろいったんのフィナーレとしてみようか。