2022年4月21日、『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』がついに発売となった。
本作は、長い歴史を持つ野球ゲームシリーズ『パワフルプロ野球』の最新作。本作では、おなじみの“サクセス”、“栄冠ナイン”、“パワフェス”などのモードに加え、オンラインでプレイする新モード“パワパーク”を新たに追加。選手データも2022年のものが適応され、最新のプロ野球選手が登場。また、これまでのプロ野球シーンを盛り上げてきたレジェンドがOB選手として参加するなど、『パワプロ』ファンはもちろん、野球ファンも楽しめる内容になっている。
本稿では、『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』の魅力をさらに深掘りするべく、開発を手掛けるキーマン6名へのインタビュー記事を掲載。各モードの魅力やパワーアップした要素など、ここでしか見られない開発のマル秘トークをお届けする。
松井徹哉(まついてつや)
プロデューサー。『パワプロ』や『プロ野球スピリッツ』シリーズなどの開発に長年にわたって携わるキーマン。
長澤祐介(ながさわゆうすけ)
ディレクター。『パワプロ2014』からディレクターを担当。過去には、サクセスのメイン開発として携わった経歴も。
松北圭史(まつきたけいじ)
アシスタントディレクター。『パワプロ2016』から開発に参加。オープニングムービーのディレクションも兼任している。
堀井崇伊(ほりいたかよし)
栄冠ナイン/プランニングリーダー。栄冠ナインの開発スタッフのリーダーとして携わる。『プロ野球スピリッツ』の開発も経験。
豊原浩司(とよはらこうじ)
野球セクションリーダー。『パワプロ』には第1作から携わる。本作では、ゲームの野球に関する部分の開発を取りまとめる。
西野誠人(にしのまこと)
サクセス/プランニングリーダー。『パワプロ』シリーズには2000年から開発に参加。サクセスのゲームパートの開発リーダーを務める。
進化を続ける『パワプロ』の魅力
――『パワプロ』は1994年から続く長いシリーズですが、ゲームの根幹となる“野球”の部分についてはどのように進化させているのでしょうか。
豊原まずは、ゲームとしての遊びのバランスに気を配りながら、なるべく“最新の野球”を反映するようにしています。
――最新の野球と言うと、メジャーで言うバレルゾーン(※1)の考えかたとか、そういった?
※1:バレルゾーン……長打が出やすい範囲のこと。打球の角度と速度から計算される。「ゴロよりもとにかく大きいフライを打つほうが得点確率が高い」と考える“フライボール革命”とともに重視されるようになった要素。
豊原ああ、そうですね。その辺の概念も注目していますね。最近だとタイブレーク方式(※2)を『パワプロ』にも取り入れたりしていますし。
※2:タイブレーク……延長線になったときに最初から塁に走者を配置するなど、早く決着をつけるために適応される特殊ルール。日本では、2021年の日本シリーズで採用された。
松井実際のプロ野球に新ルールが導入されるのには、必ず理由がありますよね。そういった流行みたいなものは、ゲーム性としてしっかりと反映していきたいなと。
――ゲームのプログラムなども、ハードが進化するごとに変化するものなのでしょうか。
豊原昔は物理演算を導入していたわけではないのですが、打球の軌道や地面に落ちたときの反発などは、作品ごとに細かく変えていました。あとは、センター方向に打球が飛んだときや、バックホームの送球をするときに球がスライスされるようになったりと、より本物の野球に近づいているな、リアルになっているなと感じるように、毎回調整を加えています。
――プレイヤーからすると気付きづらい点かもしれないけど、より試合のリアリティーや爽快感を高める工夫を毎回重ねていると。その調整の中で、「今回は投高打低でいこう」とか、逆に「もっと打ちやすくしよう」とか塩梅を変えていくような?
豊原特別に「今回は打高投低で行こう」とかそういうのはないのですが、もちろんそのバランス調整というのは毎回気を使っています。打撃と守備、どちらか一方が強くなりすぎないよう、特殊能力やパラメータといった要素も含め、細かく調整しています。
――これは個人的な感覚かもしれませんが、本作はストレートが打ちやすくなったような気が。
豊原ストレートを弱くするような調整はしていませんが、“対ストレート◯”の特殊能力が追加されたおかげかも?
――なるほど。本作ではそのほかに“変化球◯”といった能力も増えましたね。
長澤ひとつの要素の数値を変えるとゲームバランス全体に影響していくるので、「ここをちょっとだけ調整したい」、というときでも、かなり気を使います(笑)。
――調整といえば、『パワプロ』は毎作球場のグラフィックが現実に即してバージョンアップしていますよね。この取材や見た目の調整はたいへんなんだろうなと、毎回想像するのですが。
松北毎年、球場を取材できる時期がありまして、その取材で最新のデータを取っています。ひと昔前は、写真を撮ったり、資料を見ながらデザイナーが再現したりしていたんですけど、現在はレーザースキャンというベンチの形状などの細部までもがデータで取得できる技術を使っています。
――おお、ハイテク!
松北これが使えるようになってからは、かなり楽になりましたね。ただ、取材から実際の制作を行うのにはそれでも時間が掛かるので、ゲームに実装されるのは、その前年度の球場の形状になっています。
イチローさんの起用で“やる気”もアップ!?
――『パワプロ』シリーズの新作を制作するうえでもっとも心掛けているのは、どんなことなのでしょうか。
松北やっぱり、『パワプロ』のファンの方が望まれていることを反映するのがいちばんですね。そのうえで、皆さんに驚いていただけるものを用意したいなと。
――驚きといえば、今回イチローさんがゲームのプロモーションに起用されることに驚きました。
松井『パワプロ』で“野球”を広げていくのが我々のひとつの使命だと考えていまして、イチローさんも高校野球の指導をされたり野球を広めていくことを考えて活動されている方ですし、いつかごいっしょできればという想いがずっとあり、今回実現できました。
――ファンの方からの反響はいかがでしたか?
松井『パワプロ』ファンはもちろん、『パワプロ』を知らない野球ファンの方もたくさん興味を持っていただけたようです。
――ちなみに、皆さんはイチローさんの収録には同行されたのでしょうか?
松井長澤松北もちろん!(笑)
――(笑)。
松井収録や打ち合わせなど、何をするときにも非常に真剣に取り組んでいただけて。収録中は、我々もまさに野球の試合に臨むかのような緊張感を味わいましたね。ものすごい役得でした(笑)。
――うらやましい。
松北いや~もう、同行したスタッフは全員かなりモチベーションが高まって帰ってきましたよ(笑)。
――『パワプロ』風に言えば「やる気が2上がった!」的な(笑)。イチローさんはOB選手としても登場しますが、ゲームに登場するパワターはどのように作られたので?
松北イラスト担当のスタッフは、いったい何枚描くんだ、というくらいラフを仕上げていましたね。熱量がすごかった。
長澤「いいのが仕上がった」と言っても、つぎの日にまた描き直したりもしていましたしね。できたパワターはイチローさんにも監修していただいていますが、喜んでもらえたようで、何よりです。
――シリーズが変わった点を挙げますと、『パワプロ2020』からは、タイトルが『実況パワフル~』から『eBASEBALL~』に変わりましたよね。ここから、ゲームの方向性などに変化はあったのでしょうか。
長澤目に見えて大きく変わるようなことはありませんが、eスポーツとしても盛り上がれるゲームになるように、対人戦に関わる部分には、とくに気を付けています。
松北ただ、カジュアルに『パワプロ』を楽しんでくださっている方も多くいますので、eスポーツ的な動きや仕組みを盛り込む一方で、カジュアル層にもご満足いただける内容にも進化できていると思います。
長澤気軽に楽しめるというのは重要ですからね。「このゲームで日本のトップを目指すぞ!」と思ってプレイしている人も、そうでない人も、どちらも熱中できるゲームでありたいですね。
松井eスポーツ的なシステム改良も重要ですが、やはりまずは“気軽に楽しく”。新モードのパワパークも非常に気軽に楽しめるゲームになっていますよ。
――そのパワパークですが、どういったアイデアから生まれたものなのでしょうか。
松北最近の『パワプロ』では、いい選手が育成できても活躍する場が限られていたんですよね。その活躍の場を増やせば、もっと育成を楽しんでいただけると思ったんです。
長澤『実況パワフルプロ野球2013』などに“パワチャレ”という、育成した選手で作ったチームをオンラインで戦わせる遊びがあったのですが、近年の作品には入っておらず。この点は、ずっと強化したいと思っていた懸念事項ではあったんです。
松北「なんとかしたいよね」という話はずっとしていたんです。そんな想いから考案したのが、パワパークです。
――具体的なゲーム内容としては、どのようなものになるのでしょうか。
長澤前述の通り、育成した選手を使っていろいろなアトラクションに挑戦できます。最初は“寿司サバイバル”というゲームがあって、その後もバージョンアップでいろいろなゲームを追加していきます。
松北オンラインで遊べるモードとしてはこれまで、ふつうに試合形式でリアルタイム対戦をする“チャンピオンシップ”モードがありましたが、あれは既存選手を使うガチ勝負なので、けっこうハードルが高いものになっていました。でもパワパークはお手軽に遊べる内容になっているし、サクセス好きな方やいろいろな方に気軽に楽しんでいただけると思います。
――なるほど。このモードは、選手を育成していないと遊べないのでしょうか?
松北育成していなくても遊べます。ですが、多くの選手を育成するほど有利になる仕組みになっています。
――プレイできるのは対人戦なのですか?
松北“寿司サバイバル”はCPU対戦になりますが、後日追加予定のふたつのモードはリアルタイム対戦も用意されていますので、実装をお待ちいただければと。
――公式サイトでは、すでに今後の定期的なアップデートが告知されていますね。リリースを迎えたとしても、開発はまだまだ続いていると。
長澤そうですね。パワパークのアップデートのほか、選手データも引き続き2年間更新していきます。
松北リリースまでの開発は終わりましたが、アップデートは継続していきますし、全然一段落っていう感じではないんですよね(笑)。まだまだこれからです!
“栄冠ナイン”は配信でも人気が加速!
――栄冠ナインはもともと人気の高いモードでしたが、2020年に行われた“にじさんじ甲子園(※3)”など配信方面も非常に盛り上がり、より幅広い層に人気が出た印象がありますね。
※3:にじさんじ甲子園……人気VTuberグループ、にじさんじの実況者が中心となって開催されたゲームイベント。それぞれの参加者が栄冠ナインで作成した選手でチームを作り、グループ総当り戦で順位を競った。2020年と2021年に2年連続で開催。
堀井あの企画は弊社としても協力しているものですが、盛り上がりは完全に予想以上でしたね(笑)。栄冠ナインはプレイする年齢層が若干高いモードでした。ですが、動画配信の影響で若い層にも響いたという実感があり、とてもうれしい結果になりましたね。
――大会の優勝賞品に副賞として“『パワプロ』の新作に何らかの形で登場する権利”とありました。どんなものになるのか気になるところです。
松井にじさんじのライバーのファンの方はもちろん、『パワプロ』のファンの方にも喜んでいただけるようなものを検討中です。まだ、具体的には言えないのですが。
――どのくらいで発表できそうですか?
松井今後のバージョンアップで実装予定ですので、にじさんじファンの方はいましばらくお待ちいただければ!
――楽しみに待ちたいと思います。栄冠ナインのゲームの中身については、秋の大会が追加されるなど、さらにパワーアップしていますね。
堀井栄冠ナインについては、正統進化というか、今回は大きくゲーム性を変えない方向で開発を行いました。前作までは夏の大会などは対戦相手が自動で決まっていたので、「抽選会を入れましょう」となったり、秋のあいだ若干イベントが少なくなるので秋の大会を入れましょうとなったり。そのあたりは、けっこうプレイヤーの皆さんのご意見を参考にしている部分があります。
――選手覚醒など、新要素も登場していますね。
松北高校生くらいの年代の選手は、何かをきっかけにいきなりプレイがうまくなったりすることがけっこうあると思うんです。急に伸びてきた選手をどう起用するのか、監督ならではの葛藤を味わってください。
――細かい攻略的な話になるのですが、試合時に選ぶ戦術は、とくにピッチャーの場合は数値に関係なく1球ごとに変えたほうがいいのでしょうか。
堀井プログラムの内部的なお話はあまりできないのですが、選んだ戦術が有効なものなら、変える必要はないと思います。ファールでいい当たりをされたり、連打を浴びたりなど、戦術の相性が悪いかなと感じたら変えてみるのもありかと。
――打たれやすいと感じたら戦術を変えると。
堀井逆に、相手を抑えられている場合は、無理に変えると逆に打たれることもあるので、変えない判断も重要ですね。
――なるほど。栄冠ナインの大きな目標として甲子園の春夏連覇があると思いますが……けっこう、難しいですよね?
堀井春夏連覇のためにはまず春の大会を勝たなければならないので、そのため前年の秋の大会をどうこなすのかが重要です。将来性のある1年生がいるなら、夏や秋の大会からどんどん起用して成長させてあげると、春・夏の大会を勝ち進みやすくなると思います。
――つい育成よりも目先の勝利を追いがちになっちゃうんですよねえ……。練習時の効率についてもお聞きします。数字が大きいほうが練習効率はよくなると思いますが、5進むと赤パネルに止まってしまう状況では、赤に止まってでも5のカードを出すか、赤に止まらないように細かい数字で刻むか、どちらのほうがオススメでしょうか。
堀井う~ん、1を5回選ぶのと、5を1回選ぶのでは確かに後者の方が練習効率はいいのですが、赤マスの影響の方が大きいので、数字よりは、まず“どこに止まるか”という点を重視したほうがいいかなと思います。
――なるほど。ちなみに、今回の栄冠ナインには男子マネージャーは登場しますか? 数年遊んだところなのですが、出てきておらずでして。
堀井本作にも男子マネは登場しますよ。彼は前作以前から賛否があったところなのですが(笑)。ただ、本作にはメインのマネージャーを選択するシステムが入っているので、「女子マネのほうがいい」という方は、それを使って変えていただければと。
――“卒業後(練習効率を上げてくれる)アイドルにならない”のが男子マネが敬遠される理由かなとも思うのですが、彼がアイドルになる可能性は?
堀井じつは、企画の段階では男性アイドルが登場する案も出てはいたんです。ですが、そうなると男性アイドルのグラフィックを作ったりと、ゲーム内容をかなり拡張しないといけませんでした。そのため、今回は残念ながら、男性アイドルの登場はナシになりました。加えて、男子マネージャーがアイドルとして登場したときの効果にも悩みまして……。
――効果と言いますと。
堀井男子高校生のところに男性アイドルが来たとして、女性アイドルに「がんばって」と言われるのと同等にテンションは上がりますかね? 「おお~」とはなっても、「うおおおお!! 超元気出た! 練習がんばろう!」とは、あまりならないのではないかなと。
――ああ、確かに(笑)。
堀井そういった理由で、本作も男性アイドルは登場していません。男性マネージャーファンの方、申し訳ないです!
――いつか彼がアイドルになる日がくるかもしれない(笑)。最後に、何かオススメの育成方法などがあれば教えてください。
堀井栄冠ナインはプレイヤー自身の好きな野球部を作り、理想の野球部を突き詰めていくのが醍醐味だと思っています。勝利だけを目標にするのではなく、ぜひ自分だけの育成方法を見つけて楽しんでいただければ!
過去最大ボリューム! 3つのシナリオのサクセス
――サクセスでは、システムが異なる3シナリオが用意されています。これはどのような経緯で?
松井まず“サクセスで実現したいテーマ”というものから考えて、それに沿うシナリオを考えていく流れで開発しています。本作のテーマでもある“何度だって、熱くなれる。”の言葉の通り、「どんな遊びがあったら、何度でもくり返し遊びたくなるだろう?」とか、そんなことを考えながら、システムを構築しました。
――3つの遊びかたを最初に考えて、それに沿うシナリオを作っていったわけですね。
松北『パワプロ』のサクセスといえば、ライバルの猪狩くんやあおいちゃんなど、魅力的なキャラクターがたくさん登場しています。『パワプロ』シリーズのファンの方はもちろんご存知だと思いますが、『パワプロ』に詳しくなくても、なんとなく彼らのことは知っているという人もいると思います。そんな方々に、改めてサクセスのキャラクターたちの魅力を知ってほしいと考えて、過去の歴代キャラクターがたくさん登場するシナリオを1本入れることにしました。
――それがパワフル高校のシナリオですね。
長澤その中にもメインの登場人物が異なる3つのルートがあるので、パワフル高校はかなりボリュームがありますよ。
――パワフル高校に3つのルートを用意したのには、どんな意図が?
西野各世代のキャラクターたちを登場させたかったというのがあります。『パワプロ』には猪狩兄弟や友沢を始めとする魅力的なライバルが数多くいますが、それぞれのエピソードを改めて知ってほしかったんです。そのために、メインとなる登場人物をシナリオごとに分けることにしました。
――ルートに関わらずパワフル高校の共通キャラクターとして、手塚、香本、東條が登場していますが、彼らが選ばれた理由というのは?
西野スタッフが彼らを好きというのもあるのですが、ポジションとかイベントとか、そのあたりの要素の兼ね合いから、彼らに登場してもらっています。
――もちろん、矢部くんも欠かせませんし。そういったシナリオの中身を考えるのも、西野さんの担当になるのでしょうか。
西野そうですね。どんなキャラクターがいて、どんなドラマがあって……。そういったことを毎日考えていました。今回のシナリオの中だと、“熱血きらめき アオハル学園”のシナリオを作るのがたいへんでした。
――登場するキャラクターも多いですしね。
西野そうなんですよ。キャラクターごとの掛け合いもそうですし、ひとりひとりのエピソードも用意せねばならず、スタッフとかなり綿密なやり取りをしながら制作していました。いや~……完成してよかった!(しみじみ)。
――(笑)。それらのたくさんのキャラクターに、本作ではボイスが多く搭載されました。
松北以前から、「キャラクターをもっと活き活きとさせたい」という目標があって、『パワプロ2018』のときにLive2Dの技術を使い始め、キャラクターに動きを与えました。これがかなり好評だったので、つぎはボイスをしっかりと入れて、もっと魅力的にしたいなと。
松井サクセスのボイスは、矢部くんを始め人気キャラクターを中心に2018年から付け始めているのですが、『パワプロ』は、ほかのゲームなどと比べても導入が遅かったんですよね。よく出てくる人気キャラクターには昔からのイメージもあるので、「なんかイメージと違う声だな」という意見も出るかなと思ったのですが、「いいね」という声が多くて助かりました。
――前作から入った矢部くんの声が、大谷育江さんだったというのはかなり驚きました(笑)。
長澤ですよね(笑)。私としては、矢部くんは声を聞く機会がかなり多いので、万人受けする声の声優さんにお願いしようと考えていました。猪狩兄弟は、声の“差”みたいなものが感じられるようなキャスティングになっています。
――キャラクターの担当声優を決める会議では揉めたのでは? と想像するのですが。
松北いや~もめましたもめました(笑)。既存のキャラクターはスタッフそれぞれのイメージがどうしてもあるので。
――サクセスのシナリオ進行中は、全編フルボイスで展開するのでしょうか?
松北フルボイスではなく、基本的には冒頭のひと言や掛け声のみのパートボイスになっています。ただ、重要なシーンでは、フルボイスになっているセリフもあるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
――おお、楽しみです。声が多く入ると、プレイヤーによってはわずらわしく感じる場合もあるかもしれませんが、ボイスオフ設定もありますしね。
松井まあ……でも、せっかく導入したので、ボイスはオンにしてプレイしてほしいなあ(笑)。かなり自信あるので!
――ボイスのボリュームもかなりのものだと思いますが、その分、収録もたいへんだったのではと予想するのですが。
西野ボイスもこれがまたたいへんで……。とにかくキャラクター数が多いので、収録予定のキャラクターリストを持って、サウンド担当のスタッフのところに行くのは、ちょっと足が震えました。
――パスするのが怖くなる物量に(笑)。
西野そういうことです(笑)。まあでも、無尽蔵にボイスを用意するわけにもいかないので、スケジュールや作業量を考えて、ちょうどいいボリュームに落ち着けたのではないかなと思っています。
松井『パワプロ』はボイスを採用するのがほかのゲームと比べて遅かったのですが、本作が発売できて、10年ぶんくらい一気に取り戻した感じですよ。
西野いまだから言えることですが、本当によく実現したな…… って、振り返って思います。
――ボイスといえば、『パワプロ』では試合の実況音声の存在も魅力ですが、これは毎作ごとに録り直しているのでしょうか。
松北基本的には継ぎ足して作ります。『パワプロ2016』で、初めて熱盛宗厚が登場して、そこから作品を重ねるごとにどんどんボリュームをアップさせていっています。
――本作では初の女性実況も追加されました。轟ハルカ、かわいいですよね。
豊原まだパワフェスだけの登場になりますが、女性実況の搭載は、大きなチャレンジでしたね。
松北女性実況はかなり実験的なものでもあるんですけど、非常にいい仕上がりになっていますよ。人気が出てくれれば、ほかのモードでも活躍してくれるようになるかもしれません。
――轟ハルカはボイスを担当する方を選定するのも難しかったのでは?
長澤ハルカのキャスト選びももめましたね(笑)。野球の女性実況って本当に少ないんですよ。ゲームでは前例がなかったので、かなり手探りで収録を重ねました。あと、「熱盛引退か?」とけっこう言われていますが、健在ですのでご安心を(笑)。
――熱盛ファンも安心ですね。サクセスに話を戻すと、アオハル高校はパワフル高校とはまた異なるシステムになっています。このアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
松北ふだんの練習に加え、練習後の行動も選べるのが特徴ですが、「キャラクターの行動を自由に選べたら」というアイデアがスタート地点になりました。
――名前の通り、ほかのシナリオにはないキラキラな青春模様が描かれているのも特徴的です。
西野「青春ってそもそもどういうことを言うんだろう」って考えたんです。いったい何なんでしょうね……青春って。
――哲学的!(笑)
西野学園祭をエンジョイするのも青春だし、甲子園を目指して練習に明け暮れるのも青春ですよね。それをプレイヤーが自由に選べるようにしようと。アオハル高校については本当に個性的なキャラクターがたくさん登場していて、かなりわちゃわちゃしているので、そこも含めて楽しんでいただきたいです。
――3つ目のシナリオの千将高校も、かなり独特なシステムになっていますね。
松北栄冠ナインが登場以来、非常にご好評をいただいていて、最近でも栄冠プレイヤーが非常に増えています。で、「この栄冠ナインをサクセスでも再現できたら」という発想から生まれたのが、千将高校のシナリオです。「キャプテンの入れ換えができたらおもしろいのではないか」というアイデアがあって。
――栄冠ナインっぽく?
松北栄冠ナインはチーム全体を育成するシステムですが、これを「主人公だけを育成するものに置き換えたらどうなるだろう」というところがアイデアの発端になっています。
――千将高校のシナリオは基本的に終わりがないので、無限に遊べてしまいますね。
松北そう言っていただけるとうれしいです。人気が出たらゆくゆくは独立したモードに……という野望もなくはなく(笑)。ちなみに、オープニングのムービーも、世代交代みたいなテーマをもとに構築しているので、こちらも注目して観ていただきたいです。
――今後のファンの反応次第ということですね。サクセスと同じように、パワフェスもかなりパワーアップしていますね。キャラクター数が多い!
松北登場キャラクターがどんどん増えていますからね(笑)。パワフェスはサクセスのデジタル図鑑としても楽しんでいただければうれしいです。
――キャラクターが増えすぎるとコンプリートが難しくなるのではと予想するのですが。
長澤今回は登場キャラクターの異なるふたつのリーグを選べたり、イベントで仲間になったりするので、「ぜんぜん図鑑が増えない!」ということはないと思います。いい感じに増えていくはずです。
松北メッセージを早送りしたりスキップしたりもできるので、けっこうサクサクプレイになってますよ。ちなみに、本作でのパワフェスでは、先攻・後攻を決めるルーレットはなくなりました。
――ゲームの進行がスムーズになりますね。そのほか、本作でシステムを変更した点など、ちょっと細かいけどコアユーザーが知りたくなるような情報はないでしょうか?
豊原すごく細かい話になるんですけど、“弾道”の能力が調子による影響を受けやすくなりました。調子がいいと打った球が高く上がりやすく、逆に悪いとあまり打ち上がらなくなります。
――スラッガーは調子の変化を受けやすくなったんですね。
豊原なので、1軍だけど調子が悪い選手がいたら、2軍で調子のいい選手に変えるような采配も重要になってくると思います。
――選手のオーダーの幅が広がりそうですね。
豊原ピッチャーにも仕組みを変更した点があります。ピッチャーは構えるときと球をリリースするときに2回ボタンを押して投球する設定にできますよね。この設定の場合、タイミングよくボタンを押せれば“ナイスピッチ”になって狙ったところに球を投げられますが、このナイスピッチのタイミングに、選手のコントロールが影響するようになりました。
――コントロールが悪い選手だと、ナイスピッチのタイミングがズレるようになったと?
豊原これまではナイスピッチのタイミングが一定だったので、上級者の場合、このタイミングを覚えてしまえば、コントロールが悪い選手でも好きなところに投げ放題でした。ですが本作では、コントロールが悪い選手だと、ナイスピッチのタイミングがズレやすくなります。
――コントロールのいい選手ほど、ナイスピッチしやすい設定になったんですね。
豊原ナイスピッチのタイミングを体で覚えていた人は、最初は戸惑うかもしれません。逆に、画面を見てタイミングを測っていた人には、それほど影響はないと思います。
開発クリエイターが描く『パワプロ』の未来
――近年は、2年に1タイトルのリリースが恒例となっています。ファンとしては、「毎年発売してほしい!」という声もあるのでは?
松井かつては『開幕版』と『決定版』で1年に2本出していた時期もありましたしね。ですが、いまはオンラインでアップデートできますし、ゲームの進化に必要な時間やボリュームとか、いろいろなことを考えていまのようなリリースの間隔になっています。プレイヤーの皆さんからしても、1年に2タイトル発売されるよりは、1本を長く遊べるほうがうれしいのではないかなと。
長澤パッケージにも記載されていますが、選手データの更新は2022と2023シーズンの2回更新を予定しています。そのほかのアップデートも、この2年間を通して行っていきます。パワパークではパワフルロワイアルやパワコロ・コロシアムの実装も予定していますので、お待ちいただきたいです。
――となると、つぎにタイトルが出るのは2024年ごろでしょうか。ということは、ハードはきっとプレイステーション5になったり……?
松井気が早い!(笑) もちろん、今後も『パワプロ』は続いていきます。ハードをどうするのかについては、ファンの皆さんの求める方向に沿う形で考えたいです。
――ハードもそうなのですが、シリーズの未来というか、今後の目標というのはあるでしょうか?
松北これまでのシリーズを手掛けてきたスタッフの想いでもあるのですが、我々としては、「『パワプロ』を野球といっしょに楽しんでほしい」と考えています。『パワプロ』だからこそ、ゲームだからこそできる野球の盛り上げかたは絶対にあると思っていて、それはこれからも続けていきたいです。
――ゲームスタート時に表示される“野球しようよ”という言葉からも、その想いが感じ取れますね。
松北あれには「家でも外でも野球してね」という歴代スタッフの想いが込められていて、毎年欠かさずこの言葉とともにイラストを表示させるようにしています。
豊原“野球しようよ”という言葉が初代『パワプロ』から入っているのは、野球を知っていればゲームがおもしろくなるし、『パワプロ』を遊べばまた野球がおもしろくなるという想いから入れたものなんですよ。
松北豊原は開発初期からいるメンバーですから(笑)。その先輩たちの文化というか想いは、ずっと続けていきたいです。『パワプロ』で野球のルールや選手を覚えて、野球が好きになったというお話も聞きますし、我々としても『パワプロ』シリーズをこれからもずっと続けて、たとえば未来のプロ野球選手を『パワプロ』から生み出せるくらい広められたらいいなと考えています。
――『パワプロ』から、野球の楽しさを知ってもらえたらうれしいですよね。
松井本作は野球を愛する人に向けたタイトルでありますし、開発としては野球をもっともっと大勢の人に知ってもらいたいという想いもあります。プレイしていただいて、実際の野球に興味を持ったり、eBAEBALLのプロを目指したりしてもらって、野球の裾野が少しでも広まるといいなと。これからのゲームって、人と人との駆け引きとか、コミュニケーション要素が外せないと思っているので、『パワプロ』でもその役割が果たせるようにしていきたいですね。
――eBASEBALLも含め、『パワプロ』のさらなる盛り上がりに期待しています!
松井現在、日本野球機構(NPB)とも、プロリーグなどの取り組みで密にやり取りをさせていただき、今年も『パワプロ』を使った“バーチャル開幕戦”を行うことができました。今後もNPBさんとがっちりタッグを組んで、リアルでもデジタルでも野球を盛り上げていきたいですね。あ、そうそう、本作ではeBASEBALL的なガチのオンライン対戦に加え、パワパークではよりカジュアルな楽しみかたもできるようになっているので、ぜひ楽しんでみてください!