2022年3月21日~25日(現地時間)にアメリカ・サンフランシスコで開催された世界最大規模のクリエイター向けカンファレンスGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2022。ここでは、昨年大ブームを巻き起こした『Among Us』のメンバーであるヴィクトリア・チャン氏がスピーカーを務めた“Social Media Deep Dive: 'Among Us' TikTok Strategy”(ソーシャルメディアの深堀り: 『Among Us』のTikTok戦略)の模様をお伝えする。

 ヴィクトリア・チャン氏は現在、TikTokインディーゲームスタジオのシリアル・インスティゲーター(先導者)。『Among Us』以外にもさまざまなコンテンツに携わり、ほかのスタジオやタイトルの状況や情報も有しているとのこと。

 おもにTikTokを使ったマーケティング、手法について『Among Us』における実例を交えた貴重な話が展開された。

『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
スピーカーのヴィクトリア・チャン氏。2020年2月に始まったKitfox GamesのTikTokアカウントから始まり、2021年7月からは『Unpacking』、そして現在は『Among Us』に。さまざまなジャンル、ゲーム、ゲームスタジオの環境に関わってきた経緯があり、そこに至る仕事の中で多くを学ぶことができたとのこと。そしていずれも巨大アカウントだが、それはどんなTikTokアカウントにも応用できるという。そんなノウハウが惜しげもなく語られた。

ブランド認識やエンゲージメントなどを目標に、TikTokで週1本動画をアップ

 まず冒頭で語られたのが、TikTokの研究結果。Material社が実施した調査で多少誤差がある可能性を踏まえつつも、この調査によるとTikTokerはほかのプラットフォームユーザーに比べてほしいものを購入するポテンシャルが1.5倍高いとされているとのこと。

 TikTokが広く話題になり続けるのは、アルゴリズムの観点からほかのSNSに比べて何かを見つけやすいことにあり、ゲームにおいてもさまざまなアップデート情報をいち早く知ることができるからだという。単に刺激を受けたり、インディーやAAAゲームを見つけることができたり、シンプルなやりかたでほかのユーザーを触発でき、文化のZeitgeist(時代精神)と言えるとのこと。

 続いて『Among Us』について、アカウント開設から半年で膨大なフォロワーを獲得できたのは異例であるとしつつも、インディーゲームについては、TwitterやFacebook、Instagramに比べて多いこと自体は珍しいことではないという。

 その上で『Among Us』のTikTokにおけるゴールは、ブランド認識、エンゲージメント、コミュニティーのサステナビリティ(持続可能性)だとチャン氏。ディスカバビリティ(見つけやすさ)はすでにとてもよい状態だったし、TikTokアカウントを開設する前から『Among Us』は巨大なプレイヤーベースを持っていたので、そこは目標とはしなかったという。

 チャン氏は実働としては週に最低1本の動画を作りアップしていたとのこと。『Unpacking』では同様の頻度、Kitfox Gamesでは可能であればふたつ作っていたそうだ。本来であればもう少し作れればよいのかもしれないが、テキストをタイプするだけのTwitterとは異なり、努力レベルを“高”として時間を割いたそうだ。1本のビデオ作成は、どれだけ立派なものにするか、編集に時間をかけるかによって異なるが、15分から1時間かかったという。

 「トレンドを観察するなど、週に1時間はエンゲージメントに当て、ほかのビデオの視聴やコメントの返信などももちろん定常化していました。パーソナリティーや文化への理解は完璧でなければならず、TikTokは相当の努力を要するSNSプラットフォームです」とチャン氏。

『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
動画作成における労力を中心に、相当の努力が必要であるものの、TikTokはほかのSNSより秀でている点が多いとのこと。

ブランディングの確立と投稿動画分類化の重要性

 TikTokでのブランド認識の構築については、まずはTikTokでどのように認識してもらいたいか練る必要があり、非常にビジュアルであり大きな課題として挙げ、自身の手法やTipsを説明した。

  • サウンドのトーンでどのように耳に届けたいのかを決める。
  • 生意気、健全、共感、平穏、好戦的など、コンテンツを表現したい気持ちを3つ選ぶ(照明、洗練性、コンテンツの内容、どう理解されたいかなどが、そこから決まってくる)
  • 一貫性のある要素を決める(ひとりの人間、あるいはキャラクターが一貫して登場すると認識してもらいやすい)
  • 1~2人しか使わないというのが一般的で、自分の顔を使いたくなければ何か一貫性のある要素を使えばよい。照明、明確なマーク、オブジェクト、カラーパレット、ビデオゲームキャラクターなどがその例。『Unpacking』の場合は、キャラクターがないので独特な要素を用いた。
  • 視聴者は名前やプロファイルは見ないので、覚えやすく認識しやすい顔を使うとアカウントやコンテンツも認識してもらいやすい。

 そして重要な要素として、「フックという言葉がよく使われますが、最初の3秒はとても重要なので、もっとも興味深いものをもってくるようにします。ビジュアルである必要はなくて、質問でもよいです。アイデアを取り上げて、これをビデオの中で展開します。トレンドはエンゲージメントを獲得・維持していく方法で、TikTokは拡散されることで有名ですが、とくに何も考えられていなくてもフックやオチがあると留まる傾向があります」と語った。

 さらに、「ブランド・ボイスはとても重要だと考える人が多く、私も同感です。あるブランド・ソーシャル指数によれば、消費者から見てひとつのブランドがほかより目立つ理由は、記憶に残るコンテンツ、パーソナリティー、説得力のあるストーリーテリングだとのことです。ソーシャルでは1回のヒットではなく、サステナブル(持続的)で実用的なコミュニティー・エンゲージメントを狙っていく必要があると考えます」と、ブランドの確立における考えを披露した。

 続いて実際に『Among Us』で行ったことについて。

  • ゲームアップデート(継続的なアップデートでバグ修正、大きな発表など)、パーソナリティー(トレンドやコミュニティーの楽しさ)、舞台裏(ゲーム開発についてデベロッパーにフォーカスしたもの)、ゲームプレイ(ゲームコンテンツにフォーカス)、そのほか(反応、マーチャンダイズなど)の5つにコンテンツタイプをわけたことがとても役に立った。
  • ゲームアップデートがもっとも高いエンゲージメント、シェアリングを示した。
  • 難しかったのは、とくにあまり見せるものがないときにアップデートを興味深く見せること。
  • バグ修正は告知する必要があるがやりにくい。
  • 一般的にアルゴリズムのためには、どんなテックトークも短くするのがよいと言われているが、状況にもよる。実際にテックトークにフォーカスしてうまくいった例があり、概要を説明するのではなく細かく砕いてみた。
  • コミュニティーをよく理解した上で笑わせたりワクワクさせたりするには、彼らが何を話しているのかを知っておかなくてはいけない。『Among Us』ではVent cleaningはジョークタスクとして話されていたので、TikTokではほかの多くの修正には触れずこれだけにフォーカスした。
  • アップデートではときおり不具合・障害を発生させる。TikTokでとくに巨大なコミュニティーを持っている場合は、バグ修正を行っており、素早いアップデートを目指していることを伝えなければならない。たとえば、トレンドに乗って聞こえない歌とジェスチャーを使ってゲームを不具合・障害を発生させたことを表現したことがあり、結果多くの共感を得られた。このように、ゲームをアップデートし続ける必要性、問題をきちんと認識していることは伝えられたと思う。
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
新情報や楽しいことだけでなく、不具合や障害に対する手法においても、伝えるべきことを伝えて真摯な姿勢を示すと同時に、ユーモアも交えて情報を発信。

正直になることを恐れず試行錯誤を。TikTokでは短い動画がより効果的!?

 ヴィクトリア・チャン氏は続けて、「フォーカスしているのはTikTokコミュニティーに対して正直になるのを恐れないということでしたが、こうしたことがほかのSNS以上にこのコミュニティーでは受けます」と語る。そして投稿動画の分類についてはつぎのような点を挙げた。

  • 舞台裏の動画でいいものを作れる人たちはいるが私はそうでない。やりかたが間違っているのかもしれないが、コミュニティーが新しいことに興味があって昔の話には興味がないからかもしれない。
  • いずれにしてもコミュニティーをエンゲージすることが目的。たとえばコメントの質問に答えて、そこから舞台裏の話をすることもあるが、あまり評価されなかった動画から学習して、コメントに反応して改善するのが大事。
  • ゲームプレイにフォーカスした動画は評価が高くなる傾向にある。ここでも重要なのは、ひとつのパートのゲームプレイ側面に集中すること。多くを語ったアップデートの公式トレイラーを使ったときはあまり評価されなかった。一方で、フォーカスしたビデオはビュー数が非常に多かった。
  • そのほかを扱うビデオではマーチャンダイズ商品を見せていろいろ話ができる。気に入ってもらえることが多いが、ひとつ気をつけるべきなのは、これを買えと押し付けないこと。商品を見せて購入場所、Webサイトをコメントで紹介するくらいに留めている。みんなクールなものを見るのは好きだし、TikTokではマーチャンダイズは極めて重要だ。
  • たくさんの動画を作ってきたが、まだまだ学習しているところ。1290万ビューに達しているものもあるが、確実に拡散できるという人がいても信用はしていない。どのコンテンツがコミュニティーで受けるのかをつねに試行錯誤して見つけテストすることが重要。これはほかのSNSプラットフォームにも共通していると思う。

 そしてゴール、エンゲージメントで何を設定しているのか、『Among Us』に限られるかもしれないがとしつつも、実際の投稿動画のデータ分析を交えてこう語った。

 「エンゲージメントはビデオの長さには影響されず、最後まで見てもらうことを重要視するなら短いほうがよいですが、長いビデオでもエンゲージメント測定に悪影響は与えないことがわかりました。ただ、長くしたプロットでは、否定的なトレンドはありつつ、強い関係性はなかったものの無関係ではありませんでした。最長のビデオ3本はビューで最下位にあります。そしてTikTokアルゴリズムはくり返し見られるものにリワードを与えます。そのため、より短いビデオクリップのほうが成功するといえます」

『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
単に動画投稿をくり返すだけでなく、分類やその傾向をきちんと数値化して分析。エンゲージメントにつなげるための傾向を、試行錯誤しながら追求している。

My Space、Facebookと変化して、いまあるのがTikTok

 ヴィクトリア・チャン氏は最後に『Among Us』のコミュニティーの傾向や特性、ネガティブな要素について、実際に苦労しながらも改善できた事例などを語ってくれた。

  • もっとも多いコメントは、モバイルでプレイできるのか、そして無料なのかのふたつ。ユーザーは携帯を優位に考えているので、モバイル専用アプリであることは話すべきで、多くの人は無料のモバイルゲームに慣れている。
  • PCやコンソールの話を避けるではなく、その反対。どんなプラットフォームでも偏ったコメントがあるので、くり返し無料かと聞かれてもあまりまともに受けないよう警告しておきたい。
  • 『Among Us』のアカウントを担当し始めたころは、デッドコメントの氾濫だった。しかし、こうなっているからといって諦めるべきではない。拡散することが目的なのではなく、スタジオのために長期的でサステナブルなコミュニティーを構築することを目指していった。
  • SNSプラットフォームは否定的コメントが多いので見たくない、あるいはスタジオはSNSをやりたくないというのはいい立ち位置とは言えない。
  • チームのために考えかたを変え、ファンを作り出すためにすでにファンとなった人たちにハイライトを当てて、より健全な空間を作ることが重要。
  • バグなのか、アップデートしていないためなのかなど、否定的なコメントの理由を分析することも大事。
  • TikTokは素晴らしいものにもなれるので、しだいに否定的コメントに反応するようになった。ただそこで反論するのではなく、コメントをありがとう、ジョークとして読んでいるだけ、といった反応で返すことを心がけた。そうすることでうまくいって、コメントする人たちの態度が和らいでいった。
  • コメントの順番がどう決められているのは知らないが、一番上にデッドコメントがきたらそれにはコメントを返すようにしている。そうするとその後の反応が変わっていくのがわかる。
  • 自分からコミュニティーの一部になることが大事。彼らを理解して絵文字も含め彼らが使う言葉に注意を払う。

 締めくくりではTikTokの重要性について、Hootsuiteの2022年の研究報告を交えてこう語ってくれた。

 「インターネットユーザーがブランドを調べる際の使用する情報源のデータでは、下半分の35から64歳までの人はサーチエンジンをおもに使っているのが明らかである一方、上の16から24才ではSNSを使っています。私はこの範疇ではないが、どんな商品について調べるときもInstagramなどのSNSを使うようになりました。SEOなどが重要でないと言っているのではなく、文化的に関連性のあるブランドを育てるということは、文化的に関連性のあるプラットフォームに親しむことが大事だと言いたいです。そしてそれはつねに変化しているのでいらだつのは当然だと思います。My Space、Facebookと変化してきて、いまはTikTokがあり、そしてまたつぎの何かが出てきます。スタジオとして、こうしたプラットフォームに親しむ理由がそこにあります」

 「『Among Us』のケースを説明してきましたが、トレンドがユーザーとインターネットミーム(インターネットを通じて人から人へと、通常は模倣として拡がっていく行動・コンセプト・メディアのこと)によって動かされるTikTokのようなプラットフォームでは、トライアンドエラーをくり返し、柔軟、かつ敏速に対応することが重要です。文化的興味に沿ってデータを使うことはこのような空間でブランドを成功させるキーとなります。コミュニティーにエンゲージして長期的、かつ健全なプレイヤーベースを育てることができれば、SNSへの依存度を低くすることもできます。文化的関連性のあるブランドであれば、プラットフォームとともにエンゲージすることが重要であり、またそのブランドが属する世界を確立できるようにすべきです。皆さんがどこにいても実績が残せることを望んでいます。それぞれのブランドの成功を図るものはまったく異なります。しかし定量的定性的データの統合は成功へと導いてくれるはずです」

『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
ネガティブな側面に境遇することも日常茶飯事。そういったことにおいても、試行錯誤しながら長期的なコミュニティーづくりを意識。そのプラットフォームで現在TikTokが重要ではあるが、それは時代とともに変わることを肝に入れ、状況に応じて対応していくことが重要と語る。

マーケティングの秘訣は? 質疑応答をお届け

 セッション終了パートで行われた質疑応答を最後に掲載しよう。

Q. TikTokのマーケティングはほかのSNSとどのように違うのか? 難しさに違いはあるか?
A. マーケティングでもペイド・マーケティングの話をしているのであれば、これは大きく違うものです。TikTokでは自然に感じられるものを作ることに苦労する場合が多いです。とくにスポンサー広告を作る場合は、自動的にスクロールしてブランドだとわかりますが、TikTok のインフルエンサーなどは自然に商品について語ります。

Q. 何か悪いことが起きてスタジオがパニックに陥っていたらどうする?
A. コミュニティーがどこまで厳しく受け取っているかにもよりますが、たとえばジョークを書いたらそれが古いミームだったため何も反応がなかったというようなときは、そのままつぎに進んでしまっていいと思います。人々が注意を向けている時間は非常に短く、記憶されずに早いスピードで流れます。スタジオとは正直に話をして、コミュニティーとはうまく噛み合わないこともあると説明することも大事です。あるいはコメントに反応してあれはいいジョークではなかったと認めるやりかたもあります。いずれにしても、コミュニティーの声をよく聞いて反応し、エンゲージする努力が重要です。一日かけてコメントに反応するのもありです。

Q. エンゲージメントを上げるための理想のビデオの長さは?
A. つねに15秒以内。ビュー数を求めているなら15秒以内。

Q. あまり知られていないゲームを持つクライアントに対して、TikTokでディスカバビリティーを上げる手段をひとつ勧めるとすれば何か?
A. フックがいちばん大きい。私が手掛けたKitfox Gamesでの話ですが、聞いたら「えっ? 何それ?」と思うような話、たとえば武器とデートするというようなことは有効だったと思います。TikTokには変なところ、カオスな面があって、それがフックになることも多いです。3~5の関係性のあるハッシュタグもつけることですね。『Unpacking』のときは、整理整頓について話をしました。多くの人が整理することが好きだからです。TikTokには整理整頓、書籍、ゲームなどサブジャンルがあります。特定のジャンルに集中したければ、このようなサブジャンルを使うこともできます。

『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
『Among Us』のTikTok戦略をスペシャリストが語る。「コミュニティーに正直になることを恐れず試行錯誤すること」【GDC 2022】
そのキャリアで積み上げてきた経験から、数々の生きたマーケティングの話が飛び出した本セッション。質疑応答でも切実な現場の声とも思える、価値の高い質問が投げられた。

※画像は配信をキャプチャーしたものです。