日本最大規模のインディーゲームの祭典BitSummitが今年で10年目。節目となるBitSummit X-Roads(ビットサミット クロスロード)が2022年8月6日(土)、7日(日)に、京都市勧業館 みやこめっせで開催されることが明らかにされた。
今年で10年目の節目の開催となる今回のBitSummit。昨年行われたBitSummit 8th BITは、マスコミやインフルエンサーのみの無観客での開催となったが、今年は有観客に。8月6日(土)がビジネスデーとなり、8月7日(日)は一般来場者含めた有観客での実施となる。
どのような経緯で、BitSummit X-Roadsが開催されるに至ったのか。そして、BitSummit10年目を迎えての思いとは? BitSummitを主催する日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)の3人、理事長・富永彰一氏、副理事長・小清水史氏、理事・村上雅彦氏に聞いた。
富永彰一氏(とみながしょういち)
JIGA理事長
キュー・ゲームス クリエイティブディレクター
(写真中央・文中は富永)
小清水史氏(こしみずひさし)
JIGA副理事長
ピグミースタジオ 代表取締役
(写真右・文中は小清水)
村上雅彦氏(むらかみまさひこ)
JIGA理事
スケルトンクルースタジオ 代表取締役
(写真左・文中は村上)
10年目の開催に向けてさまざまな施策を考えている
――まずは、昨年に無観客で開始されたBitSummit 8th BITに対する手応えからお聞かせください。
富永開催2週間前くらいから新型コロナウイルス感染者が増えてきて、実施を危ぶむ声もあったのですが、対策もしっかりして……ということで、なんとか実施しました。クラスタも発生せずに、無事に終われたということでホッとしたというのが正直なところです。
――コロナ禍の最中での開催ということで、気遣いは相当なものだったと思うのですが、実施した意義はあったとお考えですか?
富永そうですね。参加者で「会って話ができてよかった」と言ってくれた人が多かったのはうれしかったです。「エネルギーがチャージできた」といったご意見もいただきました。
――ああ、それはいいですね。
小清水8th BITは、当初から“無観客で開催してBtoBに力を入れつつ、会場に来られない方にはオンラインでのゲーム試遊と会場からの配信でその様子をお届けする”という設計だったのですが、結果として、YouTubeやTikTok、Twitch、bilibiliなどの合計視聴数が100万PVを超えたことは成果でした。
Twitterなどのインプレッションも300万を超えておりまして、SNSはそれなりにうまくいったのではないかと思っています。
――運営という見地から見ても、成果を残せたということですね。
小清水あとは、富永理事長もお話した通り、開発者の方が直接パブリッシャーさんやプラットフォーマーさんとコミュニケーションを取る機会が取れてよかったという話はうかがっています。このご時世だと、皆さんが一堂に集まる機会はなかなかないので、そういう意味からも意義深かったのではないでようか。
村上8th BITは、状況的にBtoBで開催するしかなかったのですが、結果としてよかったと思います。BitSummitの1回目のときのような、インディーゲームに熱い思いを持った関係者だけで集まるよい機会になりました。皆さんと直接お会いするのは久しぶりだったのですが、皆さんすごく楽しそうで、様子を見ていてとても元気になりました。人が集まる場所の大事さを再認識できました。
――インディーゲームクリエイターどうしの結束が強まったということですね。8th BITを受けて、2022年も開催するというのはすんなりと決まったのですか?
小清水8th BITが終わった段階で、“来年(2022年)も実施する”ということは決めていました。2022年は節目の10年目ということもありますし、コロナ禍での開催も2回経験しているので、それが原因で実施しないということは理由にはならないだろうと。これからも「BitSummitが求められる限りはやろう」と強く思っています。具体的にどのようにするかは、JIGAのメンバーの中でもいろいろと意見があるかと思うのですが、開催日などは確定しています。
富永次回は、8月6日(土)、7日(日)の2日間開催となります。6日をビジネスデーという形で、無観客の関係者のみとして、7日だけお客さんにお越しいただくという、ハイブリッドな形での開催となります。会場は、京都市勧業館 みやこめっせの1階ですね。
――名称は?
富永“BitSummit X-Roads(ビットサミット クロスロード)”となります。前回が8th BITだったから、つぎは“9”になるだろうと突っ込まれるかもしれないのですが、初回の2013年から考えると、今年が10年目になるんですね。それで、10を入れたいというのがあって、ギリシア数字のXを“クロス”にかけて“クロスロード”と。“分岐点”、“交差点”といった意味合いもあります。
村上10周年のイベントなので、名称は“10”にしようという話は、以前からしていました。BitSummitが始まったころは、日本のインディーゲーム市場はまだこれからの状態だったのですが、いまは日本でもインディーゲームが産業として定着してきて、国内クリエイターもどんどん海外に出ていくようになりました。
“クロスロード”というのは、“岐路”という意味もあります。時代の変化やコロナ禍の影響もあり、インディーゲームは岐路に立っていて、新しいフェーズが始まろうとしているように感じます。クロスロードには、改めて再出発をしようという想いが込められています。
――10年目での開催となったときに、お客さんに来てもらってというのは、ある程度前提としていたのですか?
村上クリエイターからも、当然「ゲームを遊んでもらいたい」というご要望がありますし、開発者ではない人たちからも「遊びに来たい」という声がありました。一方で、開発者どうしでゆっくり話をできる機会も作りたいので、1日をビジネスデーにして、1日をパブリックにオープンする日にしようと判断しました。
――──ビジネスデーは、8th BITの状況などから判断して設けることになったのですか?
村上そうです。出展者どうしでも、よい出会いがあるはずなのに、お客さんの対応で忙しく、ゆっくり話せないということがあるんです。憧れのクリエイターさんが隣のブースにいるのに、自分たちのブースが忙しくて話しかける機会がないとか……。もちろん、たくさんのお客さんに来ていただけるのはありがたいので、今年は1日ビジネスデーを設けようという判断です。
――富永さんはいかがですか?
富永僕は相変わらずの心配性なので、その時期コロナがどうなっているかとか、国の制限状況がどうなっているかとか、心配の種は尽きません。
ただ、変化に関してはいまからでは読みきれないところもあるので、1日をビジネスデーにして、1日をお客さんにお越しいただくというのは、ステップバイステップの試みとしては現実的かなと判断しました。もちろん、新型コロナウイルスに対するしっかりとした感染対策は前提となります。ただ、いちばん判断しづらいのが、海外からの応募者をどうするかですね。そこは悩んでいるところです。
小清水そこについてはまさにJIGAの中で議論しているところです。僕としては、海外の参加については2年間もその機会を提供できていないので、可能であればゲームクリエイターに会場参加の機会を用意したいです。またBitSummitは日本以外のインディーゲームファンも多いですし、なんとかこのイベントの熱量を直接お届けしたいです。
富永ひとまず現実的な判断としては、出展者のエントリー時点で、国内への入国制限がどうなっているかで決めるしかないかなとは、思っています。
小清水一歩ずつどう進むのかということで、イベントも考えながら運営していかないといけない側面はあります。“リアルで開催されるからこその熱量の高さ”というのは確実にあって、そこに関しては皆さんが望んでいらっしゃるからこそ、BitSummitも有観客でいくことを決意しました。
有観客で実施することに対しては、もちろん国の指針の範疇内で実施しますが、どこまでやるかに関しては、今後議論すべきことだと思っています。やはり、“盛り上げたい”という気持ちはあります。やるからには“お祭り”にしたいです。別に、どんちゃん騒ぎをしたいというわけではないです。せっかくやるのだったら、“お祭り”にしないとムーブメントにならないので……。時期尚早という意見もあるかもしれませんし、そこは今後じっくりと議論していきたいです。
――このコロナ禍で、開催にあたってはいろいろな判断を迫られそうですね。では、今年のBitSummitで、考えている取り組みなどありましたら、教えてください。
村上アイデアレベルでは、いろいろと考えていますよ(笑)。
富永まあ、できるかどうかわからないですが、このコロナ禍で来場できない人も多いので、会場にライブカメラを設置できないかと考えています。なんだったら、カメラつきのロボットを練り歩かせるとか。擬似来場みたいなことができたらいいですね。
――視聴者がカメラを自由に切り替えたりとか?
富永そうです。
村上それはおもしろいですね(笑)。
小清水会場に来られない方への対応については経験を活かしてさらに力を入れていきたいと思っているのですが、ここ数年取り組んでいる学生さんのゲームジャム(※)は、今年もさらに拡大していきたいです。2020年にBitSummit Gaidenを実施したときは、東京や名古屋、福岡など、全国18校に参加してもらって大盛況だったんです。ここはもっと伸ばしていけるのではないかと。
ゲームを作る学生さんどうしをもっともっとつなげていきたい。おもしろいゲームであればキャリアに関係なくチャンスを提供することが、BitSummitの意義のひとつなのではないかなと考えています。
※ゲームクリエイターが集まり短時間でゲームを制作するイベントのこと。
――BitSummitの役割が広がっていくということですね。
小清水そうですね。ゲームを作る玄人だけではなく、それ以外のたくさんの方にも参加していただく機会を作りたいです。また、8th BITはインフルエンサーの企画が好評だったので、今年も会場のゲームをさらに多くのファンの方といっしょに盛り上げていければと思っています。
――村上さんはいかがですか?
村上数年前から考えていたのですが、アナログゲームのクリエイターのための場も用意したいと思っています。いまってゲームクリエイターも多様化していて、デジタルゲームとアナログゲームの境界がぼんやりしてきていると感じます。同じ“ゲームクリエイター”として、いろいろなジャンルが出会う場をもっと作りたいと思っています。それぞれのファンに認知を広げて、新しいユーザー層が広がっていくと素敵ですよね。
あと、宿泊とセットのイベントみたいなことをずっとやりたいと思っているんです。
――それは、どのようなものなのですか?
村上たとえば、海外のインディーゲームのイベントなどに行くと、ときにイベントの運営サイドがホテルを用意していて、開発者はもちろん一部スポンサーやメディアの方も、同じホテルに泊まるんですよ。そうすると、朝ご飯を食べるときにちょっとした会話が生まれたり、イベントから帰ってきたときに、バーで飲みながら雑談をしたりする。そういう“偶然の出会い”をもっと作っていきたいです。昨年試しにやってみたところ好評で、たくさんのクリエイターさんが泊まってくれたので、今年もやってみたいです。本当にコロナ次第になるかとは思いますが、パーティーみたいなものもしたいなと思っています。
――“偶然の出会い”を演出するというのは、どこかロマンティックですね(笑)。
村上BitSummitも10年目。おかげさまで認知もされて、日本発のインディーゲームのイベントとして、世界中の人に愛されていると自負しています。いままでと変わらず熱い想いを持って、“クリエイターにとって、よりよい発表の場所を作る”ということをすごく意識しています。
さきほど新しいチャレンジという話がありましたが、BitSummitに参加してくれた人にとって、何らかの新しいチャレンジがあるようにしたいという思いがあります。今回のBitSummit X-Roadsが、クリエイターの皆さんにとっても、イベント自体にとっても、いいチャレンジの機会になるといいなと考えています。
小清水初心を忘れないように、ということですよね。1回目が開催されたときは、出展者は「やってやるぞ」と気合が入っていましたし、パブリッシャーは「売ってやるぜ」みたいな熱意に溢れていたり、メディアの人も、「ここでしか拾えないようなネタを引っ張ってきてやる」というような、とにかく熱量の固まりでした。BitSummitも回を重ねましたが、根っこの部分にあるスピリッツは“熱意”なので、そこはわすれずに、BitSummit X-Roadsでも取り組んでいきたいです。
BitSummit X-Roadsはいい意味で、“お祭り”にしたいと思っていまして、そのための仕掛けはいっぱい考えたいです。
――開催もお祭りの季節の夏ですしね。ところで、なぜ今年は8月になったのですか?
富永まあ、消去法です(笑)。
村上このコロナ禍にあっても、つねに前向きにやるつもりはあるのですが、さすがに会場まで押さえて……というのは難しくて、いざ、「やろう!」となった時点で2022年の空いているちょうどよいタイミングがここしかなかったというのが実情です。当然暖かいほうがいいですし、夏休みのほうが、もしかしたら人が集まりやすいのかもしれないなあとポジティブに考えています。
富永ひとつは、東京ゲームショウのタイミングがあります。東京ゲームショウと被るのはさすがにどうかなというのもありますし、それより前か後かということで考えると、後になると寒くなってきて、コロナの状況もわからない。そうなるとみやこめっせの空き状況などから判断して、8月6日、7日かなと。
小清水そうですね。やはりコロナのことは考えざるを得なくて、寒くなる前にやりたいという気持ちがありつつも、一方でコロナがより収まっている状況でやりたいという思いもあり……というところで判断したのが8月ですね。
村上あとは、海外の人たちに集まってほしいイベントなので、海外のインディーゲームイベントとはなるべく被らない時期にしたいという判断がありました。そうなるとできる月が限られてきて、結果として8月になった感じです。
BitSummitはまさに奇跡。多くの人の人生を変えた
――BitSummitが今年10年目ということで、ご感想を聞かせてください。
富永感慨深いです。2003年に開催した1回目はキュー・ゲームスだけで運営していて、イベント会社などにも頼っていないんですよ。そもそもイベントを開催するのにイベント会社に頼むということ自体知りませんでしたから。それが蓋を開けてみると、出展社が30も集まってしまい、当日は裏方でてんやわんやでした。おかげで、自分たちのブースの準備がぜんぜんできなかったという(笑)。
「これ、やった意味あるのかなあ」と最初は思ったんです。正直なところ。
――(笑)。
小清水1回目のときは、僕は「とにかくおもしろいことをやるから参加して」という怪しい誘われかたをされて足を運んだのですが(笑)、これまでに経験したことのない会場の熱量でびっくりしました。
富永誰もどうなるか想像していなかったんです(笑)。
小清水当時はフィーチャーフォンのソーシャルゲームが盛り上がっていて、家庭用ゲーム機の市場は大作でないと売れないような雰囲気がありましたから、アイデア勝負でチャレンジしたいと思っているクリエイターたちが「いまはオレたちの出番じゃないから、とりあえずおもしろいゲームを作り貯めておこう」みたいな沸々とした感じが印象的でした。みんないまにつながるインディーゲームのチャンスをうかがっていたんですよね。
富永2回目をやるなんてぜんぜん考えていなかったのですが、京都府さんから「2回目をやりませんか?」と言われて(笑)、継続することになりました。そこから、イベント会社さんにも手伝ってもらうようになって……という感じですね。
――やはりいちばん思い出深いのは1回目ですか?
富永まあ、1回目のしんどさと……。あとは3回目でしょうか。2回目もキュー・ゲームス単独で主催していて、3回目も同じような感じでいこうとしたのですが、なかなか事が進まず、これだけの規模のイベントをキュー・ゲームス1社だけで賄うのはさすがに無理があると、自覚したんですね。そこで小清水さんに相談したら、社団法人を立ち上げようということになったんです。
小清水1日でガーッとお聞きしましたよね(笑)。で、状況をすべてお聞きして、これは組織を作らないと継続できないと思いました。そこでBitSummitのマインドを理解している仲間に声をかけて、一気に作り上げました。でもそれは、開催ひと月前くらいのことなんですよ(笑)。よくやったなあと思います。
富永いま思うと、ひと月でよくできたよね。むしろ知らなかったからできたのかも。
小清水知らないからできたというのもあるかもしれませんが、それはやっぱり“覚悟”じゃないですかねえ。みんなにやれる力があることはわかっていたので、役割を決めてそれを「一気にやりきる!」という気持ちで、メンバーが同じ熱量でがんばり抜いた結果と言いますか……。メンバーにはリスペクトを持っていますし、ヒヤヒヤしながらも楽しかったです。とにかく自分のやれることをひとつずつがんばりました。誰かがコケたら絶対に終わるという感じはいまでもありますが、どんな状況でも乗り切れる自信もつきました(笑)。
――村上さんはいかがですか?
村上僕も1回目は来場者として参加しています。僕が当時勤めていた会社の社長ジャイルズさん(ジャイルズ・ゴダード氏、ヴィテイ代表取締役社長)と、BitSummitの主催者のディランさん(ディラン・カスバート氏、キュー・ゲームス代表取締役社長)が友人だったので、僕も遊びに行っていました。当時僕はアメリカから帰国したばかりで、日本のインディーゲーム事情はよくわからなかったのですが、業界で有名なクリエイターさんもたくさん参加していて、「日本のクリエイターたちもこんなに元気なんだ」と思ったのを覚えています。本当に生き生きとされていました。ほかでは見たことがないような集まりだったので、とても刺激を受けました。
――ああ、BitSummitには、そんな不思議な効果があるんですかねえ……。
村上自分たちもBitSummitにゲームを出したいと思って、2回目は出展社として参加したんですよ。ありがたいことに、僕たちのチームがその年の大賞を受賞したんです。「こんな無名の若いチームが評価された」ということがとてもうれしくて、来年も参加したいと思っていたら、運営に誘われたんです。それで気軽に参加してみたら、本当にヤバい状態でした(笑)。
――(笑)。
村上いままでにイベント運営をしたことがなかったので、できることを手当たり次第がんばるしかありませんでした。僕はそのときは、印刷物やTシャツとかの担当をしていたのですが、印刷物の納品締切を過ぎてもデータや情報が揃っていなかったり……。いま思えばとても失礼なわけです(笑)。イベント直前は毎日夜中までやり取りしていました。ただ、「自分たちが失敗したらイベントがなくなる」という気持ちだったので、とにかく必死でした。
僕個人としては、2回目の出展社として出ていたときの高揚感と、3回目に運営する側になって、無我夢中で一生懸命全員で手分けしながら作っていったというのが、思い出深いです。4回目以降は、「最悪の状況でイベントを作り上げたことがあるので、なんとかなる」という気持ちが出ました。
――肝っ玉が座った、という感じですね(笑)。10年間BitSummitを続けてきて、日本のゲーム業界に果たした役割としては、何があると思いますか?
富永インディーゲームという言葉を周知できたというのが大きいかなと思ったりはします。1回目を開催したときは、英語の“Indie Game”をどう日本語に翻訳すべきか、けっこう議論したんですよ。“独立系ゲーム”などと訳して、注釈を入れるとか……。
村上“独立系ゲーム” 強そうですね(笑)。
富永でも、何か堅苦しくて、途中から全部“インディーゲーム”という表記にしました。
小清水いろいろなイベントが立ち上がっては消えていく中で、BitSummitは10年間続けてきたことが、たくさんの方にインディーゲームを注目してくれるきっかけを作れたのかなとは思っています。ゲームのプラットフォーマーの協力を始め、8th BITでは幅広い業種の方も参加して、その盛り上がりは拡大しています。そういった点で業界に少しは貢献できているとうれしいですね。
セールス面で見ても、インディーゲームは人気を得てきているように思っていて、2017年くらいからインディーゲームのヒット作がどんどん出てきていますよね。“インディーゲームは売れない”と言われた時代からすると様変わりしていますよね。本格的にインディーゲームに参入するパブリッシャーも増えていますし。BitSummitが、そういったインディーゲームの盛り上がりの一助になれているとすると、とてもうれしいです。
村上BitSummitは、日本においてはインディーゲームイベントのパイオニアだと思っています。BitSummitの大事な役割は、海外の人たちに日本のインディーゲームの情報を伝えられている点にあると思っています。また、イベントを通じて日本のインディーゲームカルチャーを加速させたのではないかと。海外でも、BitSummitに参加したことがきっかけで自国でインディーゲームイベントを開催したというケースも聞いています。
富永3年前のBitSummit 7thのときサウジアラビアの学生さんが来て、「BitSummitみたいなイベントを自国でやりたい」と言っていましたね。
――おお。
村上BitSummitが憧れる場所というか、見て、体験してもらったことで、同じような場所を自分の国にも作りたいと感じてもらえているのが嬉しいです。実際に他の国でもBitSummitのようなイベントが実現していたりするので、多少なりとも日本だけでなく、世界のインディーゲーム文化にも影響を与えられているのかなということを実感します。
――ところで、みなさんにとってBitSummitとはひと言で言って何でしょうか? ちょっと無茶な質問ですが……。
村上僕にとっては、“人生を変えたもの”と言っていいかもしれません。僕はBitSummitがなかったら、たぶんぜんぜん違う人生を歩んでいたと思います。海外の人たちとコミュニティーを構築できることもなかったでしょうし、もしかすると会社を作ることもなかったかもしれません。実際のところ、BitSummitに関わって、人生が変わった人は多い気がします。
小清水シナジーが生み出したファニーでパンクな”インディーゲームの子”というところでしょうか。BitSummitを基軸に集まり、力を掛け合わせたときに、それはとんでもない力を発揮します。これは、皆が育てたものであり、単体では決してできないことだと思います。
JIGAのメンバーを見てもシナジーを感じますよ。それぞれ個性的なメンバーが集まっていて、掛け合わせたときに、気がついたらすごい塔が建っているみたいな(笑)。自分だけではけっしてできないことを成し遂げたという満足感はありますね。
少し余談になりますが、海外のBitSummitファンの方から生まれたお子さんが成長して、同じようにBitSummitを好きになってくれて、Tシャツを着て喜んでいる写真を送ってくれたんですよ。そうやって繋がれていくんだなあと不思議な気持ちになりました。
富永まあ、BitSummitは“奇跡”ですね。予想外の力が働いているというか……。さきほどもお話した通り、1回目を開催して2回目もやろうなんてぜんぜん思ってもいなかったのに、周囲からの要望に応える形で継続してきました。
コロナ禍でイベントが否応なく中止になったときは、「何か協力できることがあったら、遠慮なく言って」といったことを、いろいろな方から言っていただいて、それがBitSummit Gaidenにつながったりとか。こちらが思うよりも遥かに“続けてほしい”という力が集中してくるような……。そういった不思議なパワーを感じます。
村上生かされているという感じはします。
小清水BitSummitというイベントは、もう独り歩きしているような気がします。もちろん、「自分たちがちゃんとバックアップしなければ!」という使命感はありますが、この子はあるべき方向に歩いていっているんです。どこまで成長するんだろうと見守っている感じでしょうか。
――最後に、BitSummit X-Roadsに対する意気込みを聞かせてください。
村上2020年の完全オンラインから昨年のハイブリッドでの開催を経て、同じ情熱を持った人が集まる場所を作るということの大事さを感じています。クリエイターたちは、仲間と会って話すことでお互いを勇気づけたり、新しいゲームに触れることでゲームを作る活力になるので、しっかりといい場所を作りたいと思っています。できれば今年はファンの皆さんにも来ていただける状況であってほしいと願っています。
小清水今年のイベントは、お客さんに会場でゲームをお披露目できるということで、ワクワクしています。このイベントに参加する方に喜んでいただけるように、これまでにない、新しい企画をいろいろと考えています。ゲームを遊び、心が踊るような”お祭り”を作っていきますよ! またたくさんの方に参加していただけることを楽しみにしています。
富永前回の、8th BIT開催前のインタビューでは、「終わってから、やってよかったなと思えるようなイベントにしたい」と言っていたかと思うのですが、8th BITに関しては、おかげさまでなんとかその通りにできたかなと感じています。コロナの先行きがまだまだ見えないこの状況にあって、そのときのその気持はまだまだ続いています。「Xをやってよかった」と思えるようなイベントにすべく、最大限の努力をしていきたいです。
BitSummitクリエイティブディレクター ジェームス・ミルキー氏
ミナサンコンニチハ、ミルキー デス。オヒサシブリデス。
BitSummitは、10周年を迎えます。これは、非常にすばらしいことです。この10年間、BitSummitは世界中のインディーゲーム、とくに日本のインディーゲームを応援し、成功を祈ってきました。この数年間はパンデミックによって、皆さんにとってたいへんな時期になりました。しかし、これからは少しずつみんながいっしょに集まれるようになることを願っています。今年の京都のBitSummitで、開発者の皆さんやゲームに出会えることを本当に楽しみにしています。今年のBitSummitでは、いくつかのサプライズを用意しています。皆さんにテーマの共有ができる日をとても楽しみにしています。今年のBitSummitが、私たちにとってそうであるように、皆さんにとってもエキサイティングなものになることを期待しています。イベントでお会いできる日までは、どうか安全に、健康に、そして暖かくお過ごしください。
JIGA 理事 BlackSheep 代表取締役 ジョン・デイビス氏
紆余曲折の10 年、ここまで続くとは!! 自分でも驚きです。まず、BitSummitを支え続けてくれたファミ通の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。そしてイベントの主軸となる素晴らしいゲームを提供してくださった開発会社の皆さん、スポンサーとしてサポートいただいた皆様方なしにBitSummitは語れないとしみじみ感じております。BitSummitはつねにインディーデベロッパーとゲームコミュニティーの橋渡しをすることを目的としてきました。この10年間、素晴らしい方々と出会うことができました。皆さんのイベントに対する“愛”に、私は心より深く感謝しています。
そしていま、世界はいろいろな意味で岐路に立たされているように思います。進化するテクノロジーのおかげでパンデミックという過酷な状況下でも、仕事や人との関わりかたを変えつつ前に進んできました。
10年目という節目を迎える本年度は、このような変化を受け入れつつ、BitSummit をこれまで以上に特別なイベントにしていきたいと思っています。私にとってBitSummitは“繋がり”です。イベントを通じてたくさんのファンと繋がり、皆さんにはぜひ、選りすぐりのゲームをたくさんプレイしてほしいです。
今夏8月、また皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。開発者の皆さん、BitSummit の応募がオープンとなりますのでぜひとも奮ってご参加ください!
BitSummitの10年を振り返る
2013年3月に1回目が開催され、今年で10年目を迎えるBitSummit。ここでは、BitSummit10年の歴史を振り返っていこう。BitSummitは、いわゆるナンバリングとしてはこれまで8回実施されている。(2020年は新型コロナウイルス感染症拡大のため、BitSummit Gaidenとしてオンライン配信という形で行われた)。
BitSummit MMXIII
開催日:2013年3月9日
出展数:30組/来場者数:170人
当時キュー・ゲームスに在籍していたジェームス・ミルキー氏が、「国内のおもしろいインディーゲームを海外に向けて発信していく」ことを目的に実施。関係者のみの参加となるクローズドイベントだった。関西圏を中心とした30社が出展。会場は、この1回目のみ京都FANJだった。
BitSummit MMXIV
開催日:2014年3月7日~9日
出展数:117組/来場者数:5350人
京都市勧業館 みやこめっせにて3日間で開催(初日はビジネスデイ)。一般からの参加が可能になり、BitSummitアワードも新設され、この形がほぼいまに至るまで踏襲されている。ソニー・インタラクティブエンタテインメントや日本マイクロソフトもスポンサー出展し、注目を集めた。
BitSummit 2015
開催日:2015年7月11日、12日
出展数:83組/来場者数:4496人
キュー・ゲームスやピグミ-スタジオなどによって設立された社団法人JIGA主催による初のBitSummit。アメリカのインディーゲーム団体Indie MEGABOOTHが本格参加。Valveの関係者によるセッションが行われたほか、『machinarium』を手がけるAmanita Designも来日した。
BitSummit 4th
開催日:2016年7月9日、10日
出展数:95組/来場者数:6435人
任天堂が初出展を果たし、ニンテンドー3DS用ソフト『ショベルナイト』など13タイトルを出展。同年10月に発売を控えていたPS VRタイトルも充実していた。坂口博信氏や五十嵐孝司氏、稲葉敦志氏といった豪華クリエイター陣によるトークセッションもイベントに華を添えた。
A 5th of BitSummit
開催日:2017年5月20日、21日
出展数:78組/来場者数:9346人
前年より会場の規模を1.5倍に拡大して開催された。ゲームフリークやスマイルブームなどのメーカーが初出展。この回より、出展社に出展料を負担してもらうことに。BitSummit初となるゲームトーナメント大会が実施されるなど、挑戦的な取り組みが見られた。
BitSummit Volume 6
開催日:2018年5月12日、13日
出展数92組:/来場者数:10740人
運営会社の802メディアワークスが参加。プラットフォーマーやインディーゲームパブリッシャーが軒並み出展し、来場者数は初めて10000人を超えた。なお、同年9月に東京で、11月には上海でサテライトイベントを開催するなど、ブランドとしての存在感をますます増した。
BitSummit 7 Spirits
開催日:2019年6月1日、2日
出展数:105組/来場者数:17038人
BitSummitとしては初めて他業種の日清食品がスポンサーに。26の国と地域から105組が出展した。“BitSummitワールドパビリオン”として、オランダやクロアチアのゲーム事情が語られるといった新機軸の取り組みも。2日間の入場者数は前年比1.6倍となる17038人に!
BitSummit THE 8th Bit
開催日:2021年9月2日、3日
出展数:98組/来場者数:無観客
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、当初予定していた2020年5月9日、10日の開催から1年延期して開催。参加は取材陣とインフルエンサーのみという、史上初となる無観客での開催となった。配信がメインで行われ、YouTubeやTikTokでの配信は合計で100万再生を超えた。