2022年3月21日~25日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコで開催された世界最大規模のクリエイターのためのカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2022。日本のゲームファンにとってひときわ印象的だったのは、“Game Developers Choice Awards”(GDCアワード)にて、生涯に渡ってゲーム業界に大きく貢献したクリエイターに与えられる“Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)”を、堀井雄二氏が受賞したことではないだろうか。『ドラゴンクエスト』の生みの親として、RPGのゲームデザインに影響を与え続けた功績が讃えられての受賞となった。
3月23日に行われた発表・授賞式では、堀井氏がビデオ出演し、喜びの言葉を口にした。ここでは、堀井氏の生涯功労賞の受賞を記念して、ビデオメッセージの全文をご紹介しよう。合わせて、プレゼンターとして登壇した、スーパージャイアントゲームズのグレッグ・カサヴィン氏のスピーチも掲載する。グレッグ・カサヴィン氏は、GDCアワード2021で、その年を代表する“Game of the Year(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)”に輝いた『HADES』のクリエイティブ・ディレクターとしておなじみ。グレッグ・カサヴィン氏の堀井氏に対する愛溢れるコメントも必読だ。
35年間にわたり、ひとつのシリーズを支え続けてきたクリエイターをほかに見つけるのは困難
昨年(2021年)RPG『ドラゴンクエスト』シリーズが35周年を迎えました。アイコニックなジャンルを定義づけるシリーズであり、全世界で7000万本を販売しました。多くのスピンオフが登場し、映画になり、テレビ番組にもなりました。東京の中心には『ドラゴンクエスト』をテーマにしたカフェもあります。
子供のころ、私は『ドラゴンクエスト』に夢中になりました。ファミコンでプレイしたのですが、アメリカでは『Dragon Warrior』という名称でした。当時はこのゲームが私のほとんどの人生で側にいてくれる存在になるとは思っていませんでしたが、いまもますます大切な存在です。
2017年には『ドラゴンクエストXI』が発売されて幅広い層に絶賛され、『ドラゴンクエストXII』が発表されてからまだ1年が経っていません。これまでの全世界での成功以上に驚くべきは、『ドラゴンクエスト』のオリジナルクリエイターにして、デザイナー、ライターであり、今宵我々がその業績を称える堀井雄二さんが、これまでのすべての作品を手がけているということです。この業界で同じゲームシリーズ、しかもここまでの影響力を持って長年にわたり衝撃を与えてきた作品を、35年間にわたって支えてきたクリエイターを見つけることは極めて困難でしょう。
確実性に乏しい業界で、仕事と人生における安定を享受できる人はほとんどいない中で、堀井さんと仲間たちは四半世紀以上このシリーズを支え、ヒットにつぐヒットを生み出してきました。このあいだ、堀井さんはデザイナー、ライターとして善対悪のクラシックストーリーを作り出しました。やさしい心と温かさで逆境を乗り切るストーリーはすべての年齢層が親しめるものです。
堀井さんはほかの多くのゲームにも参加し、スーパーファミコンのクラシックゲーム『クロノ・トリガー』では、スーパーバイザーを務めました。堀井さんの仕事がどれだけ世界中の多くの人に長く喜びを与えたかに驚かされ、刺激を受けます。
2011年の『ドラゴンクエスト』25周年のインタビューで、堀井さんはこのシリーズについて困難を克服する話と説明しています。それは、急な山を登るようなもので登りに登り続け、最後にようやく山頂に到達し、美しい景色を臨むことができるということです。堀井さんはいま、その景色を見ておられることでしょう。
今回、残念ながら堀井さんはGDCには参加されていませんが、短い受賞ビデオを送ってくださったので、ここに共有します。
『ドラゴンクエスト』はコンピュータ上に描いたマンガのようなもの
どうも堀井雄二です。
このたびは名誉あるGDCアワードの生涯功労賞に選出していただき、本当にありがとうございます。
じつは僕はもともとマンガが大好きな少年で、中学・高校時代ともずっとマンガ家になりたいと思っていました。大学ではマンガ研究会に所属し、マンガを描いたり、プロのマンガ家さんの原作を手伝ったり、雑誌にイラストと記事を書いたりしていました。
そして、大学を卒業したあとも、フリーランスとしてライターの仕事をしていたのですが、その当時、世の中は大きな変化を迎えていました。コンピュータの登場です。新聞でコンピュータの特集記事を読んだ僕は、このコンピュータという機械にとてつもない魅力を感じました。そして、矢も盾もたまらずマイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータを買ったのです。もともと数学が好きだった僕は、たちまちコンピュータというおもちゃに夢中になり、プログラミング言語を覚え、自分でもゲームを趣味で作り始めたのでした。
そのころ、たまたまエニックス、現在のスクウェア・エニックスですね。が、ゲームプログラミングコンテストをやっていたので、自作のゲームで応募したところ、見事入選しまして、それが僕のゲーム人生の出発点です。いまからおよそ40年前の出来事です。
入選作は趣味で自分で遊ぶためのアクションゲームでしたが、つぎは市販されて、人にプレイしてもらえると、当時興味があったアドベンチャーゲームを作ることにしました。プレイ中に物語が進行して、つぎつぎと殺人事件が起きていくゲームです。それが『ポートピア連続殺人事件』でした。ゲーム中、「つぎはなにをしますか?」と聞いてくるコマンドを要求してくるキャラが、じつは犯人という荒業を使いました。
これがさらに好評を得て、ゲーム制作の余裕が増えていきます。コンピュータの魅力のひとつは入力に対して、さまざまなリアクションを取れるインタラクティブ性だと思います。つまり、プレイヤーの行動を想像して、いろいろな仕掛けを作っておく。このシステム上で物語を作るのは、僕はとても楽しい作業だと感じました。
それから、自分自身も好きで遊んでいた『ウイザードリィ』や『ウルティマ』といったRPGにも物語というレールを敷いたら、とても遊びやすくなるのではと思って作ったのが『ドラゴンクエスト』です。
『ドラゴンクエスト』もマンガと同じように短い会話で物語が進行します。コンピュータ上に描いたマンガのようなものだと僕は思っています。
僕たちのチームは、いま新たな本編作品となる『ドラゴンクエストXII』の制作のほか、いくつかの新しい作品を制作しています。これらの作品は、『ドラゴンクエストXI』のように、世界のたくさんの皆さんにプレイしていただけたらと思っています。今後の続報に期待してください。