2019年5月29日に日本で配信開始となった、NCSOFTのスマホ向けMMORPG『リネージュM』。2022年2月21日にサービスインから1000日を迎え、1000日記念の各種イベントや記念生放送に加え、クラス改修は3連続で実施。さまざまな催しが続く。

『リネージュM』公式サイト 大型アップデート&1000日記念キャンペーン特設ページ

 『リネージュ』は韓国の国民的ゲーム。日本における『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のポジションに位置するオンラインRPGだ。日本でも根強い人気があり、PC版の初代『リネージュ』はサービスインから今年で20周年を迎え、こちらでも記念キャンペーンが実施されている。

 『リネージュM』は、ひと言で表すとPC版の初代『リネージュ』をスマホで再現したゲームだ。「昔好きだった『リネージュ』がスマホで遊べる!」と歓喜したファンも多いだろう。

 オートプレイなど最近のスマホゲームらしい機能も充実しており、一見するとレトロゲーム感もある。昨今のスマホゲーマーにはどのように受け止められているのだろうか。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

 そんな『リネージュM』が、リリースから1000日のあいだにえらいことになっていた。ゲームの中身はもとより、プレイヤーのほうの話だ。

 日本サービスチームのおふたりに1000日の歩みについて話を伺ったところ、こんな回答があった。

「血盟(いわゆるギルド)にはキャラの育成を進めた強いプレイヤーが重宝されるが、政治力も求められる」
「政治と感情が絡み合うとどうなるのか。国の歴史に近い」

 政治、感情、歴史。もはや大河ドラマである。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
『リネージュM』日本サービスチームから、プロデューサーの川南巌氏(左)とサービスチームリーダーの鈴木一氏(右)。

川南巌

『リネージュM』日本サービスチーム プロデューサー。文中では川南。

鈴木一

『リネージュM』日本サービスチームリーダー。文中では鈴木。

 本稿では『リネージュM』アップデートをサービスチームから解説してもらった。筆者たちが気になったポイントを中心に運営秘話を交えてお届けする。

 『リネージュM』プレイヤーに懐かしんでもらおうと企画したインタビューから一転、知らない人でもぐいぐい引き込まれる展開に。ほかのMMORPGではなかなか起こり得ない流れをきっかけに『リネージュ』に興味を持っていただけたなら、それもまた幸いだ。

※▼大河ドラマ感を味わいたい人は、“★”のついた項目をお読みください。
★2019年9月8日
★2019年12月18日
★2020年1月29日
★2020年5月29日
★2020年12月16日
★2021年6月9日

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2019年:『リネージュ』らしさと懐かしさと、復讐の火種

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

2019年5月29日 リリース

  • 狩場で意見相違によるPVPが勃発
  • リリース当初、鈴木氏は後衛職のエルフを選択。オートプレイでマナーオンにしていても、よく前衛職のプレイヤーに倒されていた。PC版だと、ほかのプレイヤーをターゲットしている敵を奪う行為はシーフとされていたので、その影響だと推測される。
  • 英雄級変身や装備の獲得ログが流れると、多くのプレイヤーが全体チャットで祝福。全体チャットで一生懸命に血盟員を募集する君主が多かった。

運営秘話

  • 海外とは異なり、リリースと同時に“ダークエルフ”を実装したことや、日本オリジナルのチュートリアルを用意していたため、ギリギリまでチェックに追われていた。当初のリリース予定は3月だったが、5月に延期してしまったのは反省点。
  • アップデート当日はログイン待機列ができるほど盛況。アカウント作成数の上限解放の対応に全スタッフが追われていた。
  • 強力なボスがアクティブモンスターだった。ワールド内のプレイヤーで協力しても倒せず、クエストが進行しない問題が発生。キャラクターの成長を阻害してしまうため、開発側にノンアクティブへの変更を依頼。
  • ワールドボス戦の一般モンスター数を減少させる措置も実施。

――やはり当初はPC版のプレイヤーが多く楽しんでくれるものと推測していたんでしょうか。

鈴木そうですね、ノスタルジーを感じてくれる方が非常に多いだろうと思っていました。加えて若い人にも、このゲームのおもしろさが伝わればいいなと。

――『リネージュ』自体も、もう20周年ですからね。

鈴木私、『リネージュ』が好きで(エヌシージャパンに)入社したんですよ。若いうちは好きなことは仕事にするなと言われてたので、『リネージュ』ではなく『リネージュ2』サービスチームに入りました。

――モンスターをノンアクティブにするのは大胆な修正ですよね。

川南プレイヤーの離脱に直結すると判断しまして。ここまで大きな変更は滅多にしないんですが、緊急避難的な措置として実施しました。

鈴木昔ながらのMMORPGならではの自警団みたいなプレイヤーもいらしたんですけど、リリース初日や2日目程度だと対処しようがなかったんです。

――『リネージュ』というとプレイヤー同士の対立(PVP)のイメージが強いんですけど、協力関係も生まれるものなんでしょうか。

川南誰かの呼びかけがあると集まってきてくれるイメージはあります。ボスーと戦いたい人も多いので、全体チャットで助けを求める声を見つけては協力しにいく、みたいな方の姿も見られました。

2019年6月5日 新特殊ダンジョン“夢幻の島”実装

  • アデナ(ゲーム内通貨)不足によりテレポートや装備強化をしにくかった問題が解消
  • 夢幻の島は1日1時間の入場制限がある半面、経験値やアイテム取得が効率的なダンジョン。PC版とはかなり仕様が違うため、戸惑いを感じる人も多かった模様(オートプレイ向きに調整されていた)。

川南武器強化用のスクロールをアデナで1日10個買えて、全部買うには300万アデナ必要になります。初期に1日300万アデナ稼ぐのは難しいけど、買い残しがあるのは何か嫌じゃないですか。

――夢幻の島の仕様がPC版と違うということは、ここらでPC版との違いがはっきり出てきた感じでしょうか。

川南PC版は時間制限もありませんし、アデナを稼ぐというよりレアアイテムやステータスを上げるためにエリクサーを狙う狩り場。敵の強さにもバラつきがありました。それを経験している人からすれば、かなり違ったでしょうね。

2019年6月12日 100万DL達成

  • 正式サービス開始から4日で50万DLを突破し、2週間待たずして100万DLに到達
  • 長年に渡って『リネージュ』を愛してくれているプレイヤーに対して感謝の気持ちがあふれた。このときの感動があるからこそ、いまもがんばり続けられる。

――2週間弱で100万ダウンロード。かなりのペースです。

鈴木スマホでも『リネージュ』をプレイしたい人がこんなにいたんだと、うれしかったですね。20年前の『リネージュ』コアプレイヤーさんはいまきっと40代くらい。そういった人たちがオートプレイやログアウトプレイで、仕事をしつつもMMORPGを遊べるという点からも受け入れられたのかと思います。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
リセマラにほとんど意味がない仕様なので、この段階での100万ダウンロード達成はかなり早いと言えるだろう。

2019年8月14日 日本限定特殊ダンジョン“日ノ本”実装

  • 日本のPC版『リネージュ』で非常に人気の高い“日ノ本”が実装。
  • メンテナンス後に入場してみると、敵(カラカサなど)を見られたらラッキーなくらいプレイヤーでぎっしり。

運営秘話

  • PC版プレイヤーが懐かしく感じる日ノ本のお目見えと言うことで、初週はイベントとして入場レベル制限を解除した結果、狩りにならない状況に。申し訳なく思い、急いで開発チームに報告して調整。
  • PC版では本格導入できなかったモンスターの姿が反映されていたので感慨深かった。

――始まってから2ヵ月ほどで日本独自コンテンツ実装。早すぎませんか?

川南おそらくですが、PC版『リネージュ』をもとに『リネージュM』を開発するとき、マップデータを一括で移行した中に日ノ本も含まれていたんだと思います。日本独自のコンテンツを打ち出したいという話になったときに「これが使えるんじゃない?」と開発側から打診がありました。

鈴木みなさんにとってうれしい流れだったと思いますが、緊急メンテナンスをすることになりました。

――制限がなかったら観光に行きたくなりますもんね。それと、PC版では本格導入できなかったというモンスターについてですが。

川南日ノ本は企画段階では城の周り、城の近く、城の中、天守閣という4マップ構成だったんです。(PC版に)後半ふたつは実装されなかったので、そこに設定されていたモンスターが時を経て『リネージュM』で復活したわけです。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

2019年8月28日 新特殊ダンジョン“傲慢の塔”実装

  • 実装当時は非常にモンスターが強く、パーティー単位で狩りをするプレイヤーが多かった。1階でコカトリス(アクティブモンスター)の集団に追い回されていたプレイヤーが多く見られた。
  • コカトリスは攻撃速度が速く、一度捕まるとダメージモーションによってなかなか動けないという厄介なモンスター。そのまま倒されてしまうプレイヤー多数。
  • 2階や3階の奥はトッププレイヤーでなければ耐えられないほど。当時の高難度狩場だった。

――PC版『リネージュ』プレイヤーにはド定番のダンジョンが来ましたね。傲慢の塔。

川南高難度の象徴、最初の目標といった感じで。この頃の『リネージュM』はアクティブモンスターが少なめでした。そんな中、アクティブモンスターのコカトリスが3匹くらいでまとめて登場。強かったですね。

鈴木軽い地獄です。奥にコカトリスがたくさんいて、襲いかかってきたら引き剥がすために移動しますよね。それでコカトリスがどんどん拡散していくんです。多くのプレイヤーが入口までモンスタートレイン(※)状態になったという。

※モンスタートレイン:アクティブモンスターを何匹も列車のように引き連れている状態。すれ違った他プレイヤーにそのモンスターを押し付けることでモンスタープレイヤーキラー(MPK)行為に発展することもあるため、嫌われる。

――悪意のないトレインはどうしようもないですね。1階でそれなのに、2階、3階はさらに難しかったわけですか。

鈴木サキュバスも強かったですね。テレポートして遠距離魔法攻撃をしかけてくるアクティブモンスター。囲まれてどうしようもなくなる事態もありました。

――『リネージュ』って基本的に容赦ないですよね。ある程度調整しても、ほかのゲームみたいにさくさく進めるようにはしないイメージがあります。

鈴木これでも韓国版と違って(日本独自に)調整してるんですけどね。ノンアクティブのモンスターを増やしたりして。

川南親切になりすぎると『リネージュ』っぽくないと思っています。PC版からやってきた方が多いこともわかっていましたし、露骨な調整をするとそういった方たちに喜んでもらえない。だから踏み込まなかったわけです。グラフィックが『リネージュ』当時のままという(開発側の)気合いを見てしまうと、このテイストは残さなくてはという気持ちになりました。

――骨太の調整がなんだかんだでうまくいったから、1000日を迎えられている。ほかのゲームだったら付いてきてもらえないと思います。

★2019年9月8日 攻城戦“ケント城”実装

  • 初回ということもあって大盛況。参加血盟数が131血盟、傭兵として参加したプレイヤー数は2484人。
  • 攻城戦に備えて事前に同盟を組んでいた血盟も多く、どのサーバーでも拮抗した戦いが見られた。

運営秘話

  • 攻城戦終了後、複数のサーバーでキャラクターが操作不能になってしまう不具合発生。サービスチームが当番制でモニタリングしており、発生報告のあったサーバーに対して緊急メンテナンスを行ない、無事に解決。再発も防げたので安堵。
  • 鈴木氏はプライベートでもプレイしているが、初めての行事は参加できないケース多数。「みんないいなぁ~参加したいなぁ~」とうらやましがりながら仕事していたらしい。

――ついに来ましたね、『リネージュ』といえば攻城戦。

鈴木血盟の人数は最大50名。すでにフル人数の血盟も多かったのでかなりの規模になりました。水面下では政治が行なわれていました

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
ケント城で、ついに『リネージュ』らしい集団対人戦の歴史が始まった。しかし、政治とはいったい何なのか。

2019年9月15日 攻城戦“オーク要塞”実装

  • 多くのプレイヤーが参加して大盛況。先週に引き続き、不具合が発生しないか緊張しながらモニタリング。
  • オーク城付近では戦場からはみ出すほどの規模斬り合っている姿も見受けられた。

鈴木2回目となると参加人数は減る傾向にあると思いますが、このときそういう動きはなかったんです。謝りながら斬り合ってる人もいましたね。

――どうして謝るんですか? 敵に操られて味方を攻撃しているわけでもあるまいに。

鈴木人数が多すぎて戦場からはみ出ちゃうんですよ。エリアから出ると攻城戦の戦績にカウントされないので申し訳なかったんでしょうね。

――そんな事態になるくらい盛況だったと。攻城戦はやはり『リネージュ』の花形。

2019年10月9日 連載型イベント“超異世界エヌシーファイブ”

  • エヌシーファイブ初登場のイベント。長期のオリジナルシナリオは1ヵ月にも及んだ(イベント内容更新ごとに物語が進む)。
  • さながら戦隊もののような変身を楽しむことができるほか、イベント専用のダンジョンを2週目から解放。
  • 3週目には当時ではまだ貴重だった英雄級変身の“NCブラック”に変身できた。

運営秘話

  • 開発側から仕様書が送られてきたときは驚いた。すごい長文が書いてあって、肝心の仕様はゲーム内ショップから変身が獲得できるというだけ。何週にもわたるイベントだと記載されていたので、期待して2週目以降を待った。
  • オリジナルダンジョンや変身の追加など、さまざまな要素が追加されていき、結果的に好評だったのでひと安心。
  • シナリオの量がすごかったので、翻訳や表現の調整がたいへんだった。
  • 「日本のプレイヤーはストーリーを重視している。感情移入できるような物語性のあるイベントが必要」という要望を伝えて実現した企画。日本の特撮文化とも相まって、記憶に残るイベントになった。
  • とはいえ、ほんとにストーリー全振りのイベントが来るとは思いもよらなかった。
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
いきなり変身ヒーローものが始まった。

――なぜいきなり変身ものになったんでしょうか。

鈴木“変身(※)”が重要なゲームですからね。ふつうのRPGは装備で(どれだけ強いか)判断されますけど、それが『リネージュM』の場合は“何に変身しているか”。それにしてもびっくりしました。

※変身:『リネージュ』シリーズの特徴的なシステム。キャラクターがさまざまなモンスターの姿に変身し、その姿でいる間は攻撃速度などの能力にボーナスが加わる。レアリティの高い変身はそのぶん能力が高く、固有の効果も持っている。

――物語を重視するって、たぶんそういうことじゃないと思うのですが。“変身”を日本風に解釈したのかなぁ。

川南当時はまだ英雄級の変身が貴重だったので、それをアデナで購入して体験できるというのが主軸だったのではと思います。そこで変身といえば戦隊もの、という流れだったのかもしれませんね。

――発想が急展開すぎる。とはいえ、開発側に希望を伝えると実現の可能性があるわけで、悪い話ではないですよね。開発側がプレイヤーの意見を汲んでくれるという話は他タイトルでもよく聞きますけど、実例があると説得力がある。

2019年10月28日 定額制アイテム“ドラゴンの宝玉”実装

  • 韓国の発表以来、日本でも実装を望む声が多かったアイテム。本来は暗黒騎士の実装前後に導入される予定だったが、プレイヤーの声で押した結果、早期導入が実現。
  • 定額制のアイテム導入については、かなり長く開発側と議論を交わした。“アインハザードの祝福”(※)がゼロの状態だとプレイ意欲が減退する人が多いため。

※アインハザードの祝福:出席報酬や特定のクエスト報酬や課金などで入手できるリソースで、経験値を獲得するとその量に比例して消費されていく。祝福が残っているあいだは獲得経験値量やドロップ率がアップする。ドラゴンの宝玉は、アインハザードの祝福1~200と同等の効果を発生させるアイテム。

――日本のプレイヤーも実装を強く求めていたということですかね。

川南韓国側ですでに実装されていたアイテムなので、日本でも早く出てくれないかなぁと期待されていた感じです。韓国では、アインハザードの祝福のために1日に5~6万円も課金してしまうハイレベルプレイヤー(の救済措置)向けのアイテムとして実装されていました。日本のプレイヤーはそこまで達していないから実装はまだ、というのが当時の開発側の意見です。

――さすがに、1日に5万円も使う人は少数だと思います。

川南日本の事情をいちから説明して、レベルが低い段階から適用しないときついと、3ヵ月くらいかけて説得しました。

鈴木アインハザードの祝福がゼロの状態だと、ボス討伐時にドロップ率が悪くなってほかの参加者に迷惑をかけるのでは、と気にしている人が多かったようです。こういう遠慮深さも日本ならではですね。

2019年12月5日 Ep.1 First Bullet実装 新職業“銃士” 新サーバー“ケレニス”

  • 銃士実装時は、事前作成キャンペーン時の作成数が7061キャラクター、アップデート当日の作成数が1108キャラクターと盛況。
  • 血盟レイド“アンタラスの分身”も実装。どのサーバーの血盟が最速で討伐するかというイベントも実施。
  • “アンタラスの分身”が強すぎて阿鼻叫喚だった。
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

運営秘話

  • 初めて大型アップデートで、メンテナンス完了までにかかった時間は15時間半。たいへん申し訳なく思う。
  • ちょうど“遺物製作”でサーバーごとに5個限定で確定成功の英雄級スキルが製作リストに加わるタイミング。公平を期するために、何としても間に合わせる必要があった。
  • 当時まだ貴重な“ストライカーゲイル(エルフ)”や“イミュントゥハーム(魔術師)”は全サーバー数秒で製作上限に達したほど待ち望まれていた。

――『リネージュ』はボスが強いんですよね。伝説のドラゴンが弱かったらアレなのでいいことだと思いますが。

鈴木最初はPC版と比べてスキル自体が少ないこともあって、攻略は厳しかったかと思います。攻撃速度を下げることがポイントなんですけど、そういう重要なスキルは『リネージュM』にはなかったんです。

川南『リネージュM』はスキルひとつひとつの重要性が非常に高いんです。レベルを上げれば自然と覚えるというものではないですから。

2019年12月14日 リリース200日

  • 200日を記念して多くのアイテムやイベントマップが登場。前週に追加された“TJのクーポン”に話題をさらわれたのか、突起的な出来事は発生しなかった。

運営秘話

  • 事前の資料で“TJのクーポン=オーバーエンチャント(※)したアイテムが戻ってくるシステム”とあったので、事前生放送で紹介。
  • その後の調整で“希少級以上の武器・防具”に限定。結果として誤った情報を発信したことになり、デスブレードなどの貴重な高級装備をオーバーエンチャントしてしまった人多数。鈴木氏と川南氏で1件1件“手動”で復旧対応を行った。

※オーバーエンチャント:100%では成功しない状態で強化を行なうこと。強化値が高くなるほど成功率は下がり、強化に失敗すると装備そのものが失われる。

――(事前に共有された資料を見ながら)ここから冷や汗案件が続きますね。要するにデスブレードを直したということですか。

鈴木ひとつひとつデータを確認して復旧ツールでデスブレードを+9にして、IDが間違っていないか確認して……。

――職人の手作業みたいですね。時間はどれくらいかかりましたか?

鈴木2ヵ月くらいはかかったんじゃないですかね。

川南いままでのやらかし対応のなかで2番目に長かったと思います。

――これ以上があると。

川南そっちについては言えません。

★2019年12月18日 初のサーバー移動キャンペーン

  • PVP情勢に応じて集団移動する血盟が多数。やられた後にリベンジを誓って移動する血盟や新たな敵を求めて移動する血盟など、悲喜こもごも。
  • 平和だったサーバーに突如として強豪血盟が出現。全体チャットで「今日から〇〇番の狩場で狩りしていた人は全員PKします」などの宣言を行うケースも。
  • 最初は攻城戦やボスの利権争いなどをしていても、共通の敵を前に同盟に組む血盟も少なくなかった。

運営秘話

  • サーバーごとのプレイヤー数に偏りが出ないように、プレイヤーの声と接続数を照らし合わせながら調整を行った。
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
サーバー移動が可能になったことで、対人戦はまた新たなステージへ。

――ここから血盟同士の駆け引きが活発化していくんですね。全員PK宣言はすごい。アニメの1シーンみたい。

川南この時点でサーバーを越えて同盟を組む血盟はいくつかあったと思います。内々に戦力を再配分して各サーバーに送り込んだり、そうやって手を広げていくわけです。

――そんなスパイみたいなことをしてたんですね。“政争”だ。

鈴木そうした争いに負けていまはどうしても勝てないという人たちが、悔しい思いを抱いてほかのサーバーに乗り込んでいくケースもありました。敗走した血盟が別のサーバーで力をつけて、当時最強の血盟を逆に打倒するという事態に発展していくんです。

――異世界転生ものか追放ものみたいですね。そこまでのプレイヤー同士のドラマは、ほかのMMORPGではなかなか聞かないです。

鈴木何ヵ月も復讐だけを誓って力を溜めてきたわけですね。全体チャットでの発言も、雰囲気ががらりと変わっていたりします。

――もうそれでラノベ書きましょうよ。“トップ血盟に敗北した俺が他サーバーに転生して力をつけて帰ってきた件”みたいな。

鈴木他血盟に殴られてもあえて殴り返さずにいることで、同じ被害を受けているプレイヤーや血盟が近寄ってきて同盟が生まれる、政治的な駆け引きも起きていました。

――なるほど、味方するならあっちだなと思わせると。

鈴木『リネージュ』は感情に動かされるゲームなんです。やられたら悔しい。その感情からさまざまな動きが生まれてくるんです。

2020年:盛者必衰と新クラス実装ラッシュ

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

★2020年1月29日 ワールドコンテンツ“ラスタバド”実装

  • 全サーバーのプレイヤーが集う初のコンテンツ。サーバーの垣根を超えて共通のダンジョンに挑戦するというもので、「最強のサーバーはどこだろう」と、わくわくしながら動向を見守っていた。
  • 開始直後からイシルロテ01サーバーを中心に複数サーバーが結託して、ほかのサーバーの血盟を一網打尽に。戦略や政治力の大切さがあらためて知れ渡った瞬間である。

――先ほどからの流れが続いていますね。ここでも血盟同士の争い、抗争が。

鈴木イシルロテ01サーバーのとある血盟が、いくつかのサーバーのトップ血盟とすでに同盟を組んでいたんです。フィールドに入ってくるほかの血盟は入り口で一蹴されていました。

――ゲームの実力だけでなく、政治力と交渉力を活かして戦う人もいる。どんな条件を出して協力を取り付けたんだろう。

川南私もいろいろなMMORPGをやってきましたけど、ここまで政治力が幅を利かせるタイトルはほかにはなかったと思います。

――SNSを使えばゲーム外でも交流しやすい時代ですもんね。で、PC版を遊んでいた人が30代~40代になっている。そりゃ政治力の高い大人もいるよなーと思います。

鈴木いまの時代に『リネージュ』をリリースするとこうなるんだ、と。とても興味深い動きです。

――それはもはや社会実験なのでは。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
日本的な観点からすると、このラスタバドは桶狭間などの歴史的な戦いがあった場所と同じ。観光地化してもおかしくない。

2020年3月4日 ワールドコンテンツ“テーベラス”実装

  • 実装初日に生放送を実施し、ゲーム配信者オロナイン氏が体験プレイ。プレイヤーが集まりすぎて、中に入るたびにローディング中に倒されてしまう自体に。
  • この残酷な描写はひとつの戦術として、現在までPVPコンテンツで受け継がれている。

鈴木入った瞬間に倒される。さっきのラスタバドと同じ状況ですね。放送に出演していた川南さんとしてはどうでしたか。

川南すごいとしか言いようがない絵面でした。内心では「どうしよう、どうしよう」って。ですので「生放送内でインゲームプレイはやめようね」と毎回言っています。

2020年3月24日 リリース300日

  • 300日記念イベントでは専用の特殊ダンジョンが実装。低確率だが、英雄級装備を獲得できたため、連日盛況。
  • 同時に新職業“竜闘士”の事前キャラクター作成キャンペーンやアップデートの兆しを漂わせるイベントを実施。

運営秘話

  • 開発チームに「竜闘士の女性キャラクターを入れられないか」と交渉。PC版で女性ドラゴンナイトを使用していた人のためにもプッシュしたが、残念ながら実装には至らず。

2020年4月1日 Ep.2 The Chain実装 新職業“竜闘士”実装

  • “竜闘士”は韓国での前評判はそれほど高くなくて心配だったが、実際には火力が高く、射程が2セルの攻撃(近接職業は1セル攻撃がメイン)が便利で高い戦闘効率を誇る職業。
  • ダークエルフや騎士から経験値合算(育成済みキャラクターの経験値を竜闘士に合算できるキャンペーン)を利用して乗り換えるプレイヤーも多く見られた。

――韓国ではあまり人気がなかったのに、日本で実装してみたら人気が出たというのはお国柄の違いでしょうか。

鈴木韓国では狩り効率よりPVPに重きを置いている人が多いんです。竜闘士も決してPVPで弱いわけではないんですが、キャラを変えるほどではないと判断されたんだと思います。

川南逆に日本では狩り効率が重視されました。オートプレイがスムーズだから2セル攻撃は有用、ということですかね。竜闘士が使いやすかったので、私も前から使っていた騎士に槍を持たせることにしました。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
PC版のドラゴンナイトがモチーフということで、ノスタルジー要素も含む新職業だった。

2020年4月14日 ワールドコンテンツ“忘れられた島”実装

  • 『リネージュ』の高難度狩り場の代名詞となるエリアが、ワールドコンテンツで実装。
  • 村の外の狩場では石化状態異常によって帰還できずに死んでしまったり、ほかのエリアへテレポートしても強力な遠距離攻撃をくり出すモンスターによってポーションを大幅に消耗してしまうなど、多くのプレイヤーが苦戦。
  • オート狩りがやりづらいので混雑はしなかった。

――ここでも容赦ないんですね。敵が強い。

川南いまだにここは最高難度の狩り場のひとつ。ここを大きな目標に頑張ってもらえたら、というレベルです。

鈴木インターサーバーなので、他サーバーの敵対プレイヤーが来ることも大きいですね。放置は難しいかと。

――新コンテンツなのに難しすぎて混雑しないというのはすごい話ですよ。

★2020年5月29日 リリース1周年

  • 1周年を記念したガチャ配布、人気イベント特殊ダンジョンである“国王の狩猟場”解放、“神秘の島”解放、TJのクーポン投入、変身やマジックドールガチャで英雄級以上を獲得すると引き直しができる機能の常設化(それまではキャンペーンとして開催)などを実装し、非常に盛況。
  • この頃にはワールドコンテンツを基準に大きな勢力がほぼふたつに固まり、勢力単位で各サーバーでの利権を獲得するためにサーバー移動を行うようになった。
  • 最初にワールドコンテンツでさまざまな利権を手にしていたイシルロテ01サーバーの血盟が狙われてしまい、圧倒的な数の戦力によってローカルサーバーの利権を失うことに。
  • これを期に、各勢力はサーバー移動のたびにサーバーを転々としながら戦火を交えていくことになる。

――ここで人の動きにまた変化が出てきました。一強時代から二大勢力時代へ。

鈴木先ほどもご紹介したリベンジの話ですね。他サーバーの血盟を同盟に誘ってまずはいちばん強い勢力を叩こうと。

――どこかの国の戦史を見ているようです。

鈴木血盟からは、キャラの育成を進めた強いプレイヤーも重宝されるんですが、政治力があるプレイヤーもまた重宝されているんです。海外のプレイヤーとコミュニケーションが取れたり、韓国側の情報をより早く入手できたりとか。

――軍師じゃないですか。どういうゲームなんだ。

2020年7月29日 Ep.exceed~elf~実装 エルフクラスケア 神話級変身実装

  • エルフの調整が入って強化され、クラスチェンジするプレイヤーが増加。
  • 遠距離職であるにも関わらずスタン(気絶)攻撃を所持するようになり、火力も大幅にアップ。エルフに人気が集中した結果、集団PVPでは集中砲火によって即倒されてしまう場面が増えた。

運営秘話

  • 韓国ではこのアップデートは神聖剣士の実装後に適用された。神聖剣士の特徴は高い防御力。それに対抗するため用意されたクラスケアだった。
  • 結果、「エルフが強すぎる」などの意見をもらうことになり、暗黒騎士と神聖剣士の2020年内実装を目指した動きがスタート。

鈴木私個人としても「現環境に合わないのでは」という感覚はありました。ここから同年12月の“神聖剣士と暗黒騎士の同時実装”というまれなケースにもつながっていきます。本来は暗黒騎士、神聖剣士という順番で実装する予定だったのですが。

――そもそもなぜエルフのクラスケアが先に来たんでしょうか。シンプルに、日本でエルフの人気が高かったとか?

川南ふたつの新職業のインパクトを高めるためにエルフのクラスケアを先に持ってきた、というのが開発側の意図ということでした。固定性別が異なるだけでなく、光と闇という対照的な2クラスが同時実装。たしかにインパクトはあったかと。

――救世主を待っていたプレイヤーに対して、ヒロイックな演出にしたかったのでしょう。最終的に各職業のバランスが取れているということであれば、偏りを感じるアップデートにも意味はあるということですね。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
現在でもエルフは強い。とはいえ、最終的な狩り場などではソロでの狩りは難しく、総合評価的にはほかのクラスと同じくらいに落ち着いているようだ。

2020年8月12日 ワールドコンテンツ“忘れられた島”、ボス“エンシェントガーディアン”実装

  • 特定の攻撃に対するカウンター反撃が行なわれる複雑なギミックがあったため、最近まで倒されなかった。

――ダンジョン実装のたびに、モンスターの強さが話題に挙がりますね。最近まで倒されなかったというのはすごい。

鈴木2021年の後半くらいまで倒されていませんでした。1年以上粘ったと考えると、たしかにすごいですよね。改めて強さを実感します。

2020年10月7日 ワールドコンテンツ“陣営戦”実装

  • キャラクター名を伏せて参加できるコンテンツだったこともあり、かなりの賑わい。気がねなく集団PVPが可能なため、ふだんはPVPに今日に興味のないプレイヤーも参加していた。
  • 敵陣営のボスNPCを倒せば勝てるのだが、みんなPVPに夢中になりすぎて何週間かボスは倒されなかった。

――名前が伏せられた対人戦ということで、潜在的にPVPに興味があった人も参加しやすかったでしょうね。そしてハマりすぎてボスを放置。ボスがかわいそう。

鈴木ボスを倒さず、敵対プレイヤーを倒した合計ポイント数で決着するケースばかりでしたね。PVPでの殴り合いが好きということがよくわかります。

2020年12月2日 Ep.3 DUAL FORCES実装 新職業“暗黒騎士”“神聖剣士”実装 期間限定育成サーバー“グンター”実装

  • 神聖剣士に人気が集中。前衛職でありながら自己イミュントゥハーム(ダメージ半減魔法)を使用できるので、より上位の狩場に行けたのが大きな理由。
  • 相手の耐久を下げるデバフやスタン、ポジションチェンジなど多彩なスキルを所持しており、PVPを楽しむプレイヤーにも好評。
  • ランキングを見ると、前衛職のほとんどのプレイヤーが神聖剣士にクラスチェンジしていた。

――先ほども話題に出ていた2クラス同時実装ですね。見たところ、エルフのカウンターということもあって、神聖剣士が人気でしたか。

鈴木人気はありましたが、難度は高めです。英雄級の限定スキルを手に入れないと強くなれないですが、それを覚えてしまえばものすごく硬くなれます。倒されにくいというだけで、狩りでもPVPでも強いという。

川南高難度の狩り場にソロでも行きやすいという点も、トッププレイヤー層への人気につながっていると思います。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
光と闇によるインパクトを感じられるイメージビジュアル。

2020年12月9日 神話級血盟レイド“パプリオン”実装

  • パプリオンは『リネージュ』シリーズの象徴的なドラゴン。各サーバーの上位血盟が挑むもことごとく討伐失敗。現在(2022年2月10日)もまだ討伐されていない。一定のタイミングでレイドボスを回復するNPCが出現するギミックがあり、これを倒し続けるのが難しい状況となっている。
  • パプリオンの防具はダメージを受けた際に一定確率でHPが回復する効果があり、PC版では人気が高かった。当時の『リネージュ』と『リネージュM』ではHPの量に格段の差があるため、魅力を感じにくいことがモチベーションに影響しているかもしれない。

――やっぱりドラゴンは強い。(先行実装された)韓国では倒されているんでしょうか。

鈴木余裕で倒されていますね。レベルはとにかく、装備やコレクション(※)による火力の違いに1年分ほどの差がありますので。

※コレクション:手に入れた装備を登録していく図鑑のようなコンテンツ。提示された装備を登録すると、さまざまなステータスにボーナスが加わっていく。

★2020年12月16日 期間限定ワールドコンテンツ“激突の塔”初実装

  • ワールドコンテンツが実装されていくにつれて、サーバーの垣根を超えた勢力が形成され、どんどん巨大化。とうとう完全にふたつの勢力にまとまった。
  • ボス出現時間には連日のように両勢力のキャラクターが集まり、ボスの利権を巡る激しいPVPがくり広げられている。

――どうしてふたつの陣営にきれいにまとまるんですかね。ほかのタイトルだと最初から2陣営が用意されていたりもしますけど、そういう施策は本作にはないじゃないですか。

鈴木厳密には、先ほど話に出ていたイシルロテ01の血盟に復讐を果たした勢力が大きくなって、それに対抗する勢力と細々とした別勢力、といった構図でした。復讐を果たした勢力が一強になってしまい、「自分たちもまとまらないと勝てない」と考えた諸勢力がまとまっていくことで、二大勢力になったわけです。

――もはや大河ドラマ。

鈴木感情が動くゲームですので。一度でも片方に味方していたプレイヤーは、抜けた後も対抗勢力に狙われ続けたりします。どちらかに味方するには相応の覚悟も必要だったと思います。

――勢力自体が一個の生物みたい。大きな勢力に属していたほうがいろいろと楽なんでしょうけど、思うところがあるからと離れ、同じ思いの人が集まっていくと。

川南意外とビジネスライクじゃないんですよ。

鈴木国の垣根も越えるレベルで、同盟仲間にはものすごく手厚いですよね。傲慢の塔でひとり仲間が倒されると、その勢力のエース級のプレイヤーが集結してフロアをなぎ払って、それに対して対抗勢力も仕掛けていくとか。

――『リネージュ』シリーズで見られる光景なのかも。政治力が高まると統一勢力になりそうなものですが、そこには感情もあるから一枚岩ではいられない。

鈴木海外、とくに韓国の血盟のみなさんは、勝ちすぎてつまらないからと反対勢力に移籍したりもします。別の勢力に対して感情的にはならず、ドライに攻撃していきます。仲間へは非常に礼儀正しいですし、コミュニケーションも積極的に取っていきますけど。

――そこは国ごとの違いなんでしょうね。政治と感情が絡み合うとどうなるのか、ひとつの国の歴史を見ているような感覚になりますよ。

鈴木プレイヤーの皆さんの間だけでも、ここまでの物語が生まれているんです。ものすごく濃い1000日です。

――ヒューマンドラマの重みがすごい。これ、本当にゲームの話なのかな。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
悔しさを胸に復讐を果たした勢力が、今度はこの大戦場で挑まれる立場になった。なんとドラマチックな展開だろうか。

2021~2022年:ゲームは進化し安定しても、戦火鎮まらず

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】

2021年1月13日 新規一般ダンジョン“フレイムダンジョン”実装

  • 高レベルプレイヤー向けの一般ダンジョンがついに実装。上位プレイヤーのみでなく、狩り中心でプレイするプレイヤーも通うようになった。
  • 1階は容易に逃げられる仕様だったので、PVP勢力に属しているプレイヤーにも多く利用された。
  • ボス“火炎のデスナイト”は討伐可能な強さではあるものの、非常に攻撃力が高いので集中して臨む必要がある。
  • ボスの利権を巡るPVPで簡単に邪魔できるので、アップデート当時はどちらかの勢力が諦めるまで戦いが深夜に及ぶこともあった。

運営秘話

  • ただでさえ強い“火炎のデスナイト”が2体出現するという不具合が発生。修正されるまで倒されないだろうと高をくくっていたが、うまく1体ずつ隔離しながら倒すプレイヤーも出てきた。

――デスナイトが2体出てきちゃったのに、なんだかんだで倒してしまったと。

川南日本のプレイヤーさんはその段階の仕様に沿った最適解でモンスターを攻略するのがすごく得意ですね。パプリオンも装備火力が整えば確実に倒せるでしょう。装備がなくてもどうにかできそうですが、見返りの報酬がそこまで魅力的ではないのでそこまでしないのかもしれません。

鈴木日本のプレイヤーさんもDiscordなどのコミュニティーでいろいろと調整しているんですよ。全員がタイマーをセットして“30秒に1度この音が鳴ったらこうする”みたいなタイムテーブルも作り上げています。

2021年1月20日 新システム“守護星”実装

  • キャラクターを強化できる新システムが実装。より強化したプレイヤーには攻撃中に一定確率でかっこいいエフェクトが出るようになった(当然、効果もある)。
  • 祝福付与の巻物2個で“守護石”という守護星を強化できるアイテムが製作可能になった。取引所の祝福付与の巻物は軒並み価格が高騰。

――かっこいいエフェクト。

鈴木エフェクトの変化が強化段階ごとに顕著なんですよ。1段階目だと小さな山みたいなエフェクトが出るだけだったものが、2段階目になると隕石が降ってきたりするんです。

――楽しいー。性能面の変化はどうなんでしょうか。

鈴木そこそこ変わりますが、大差というわけではないですね。とはいえ『リネージュM』は積み重ねのゲームなので、強化できるところは強化したいんです。

川南守護星に関しては、性能面はもちろんですが「こいつやり込んでるな」と思われる感覚が人気なのではと思います。スクロールが高騰するあたり、日本のプレイヤーはこういうの好きなんだなあと感じますね。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
日本のゲームプレイヤーは、こういうド派手なエフェクトやそれらを付与するシステムが本当に好き。

2021年2月24日 “傲慢の塔”ワールドダンジョン化

  • モンスターが強化される代わりに獲得経験値が増加。狩場として好評だった。
  • サーバーが異なっても配信者といっしょに遊べるということで、パーティーを組んで遊ぶプレイヤーも目立った。

運営秘話

  • 狩場としての魅力は向上したものの、ローカルサーバーからインターサーバー化することでボス討伐によるレアドロップ取得量が純粋に減少。
  • PVP勢力のプレイヤーから不満の声が挙がると思ったが、実際には好評だった。
  • 『リネージュM』のプレイヤーは“熱いPVP>レアドロップ(もちろんレアはほしい)”なんだなと頼もしく思えた。

――傲慢の塔の仕様変更でほかのサーバーの人ともいっしょに遊べるようになったけど、デメリットも想定していたわけですね。

川南たとえば、ローカルサーバー10個それぞれで遊んでいたダンジョンがあったとして、それがひとつにまとまったわけです。そうなるとキャパシティーは1/10。傲慢の塔に行きたくても行けなくなったという人は、少なくなかったと思います。

――レアドロップが狙いにくくなったけど、それで意外と好評だったというのはたしかに驚きです。

川南ワールドダンジョンになったことで、ここに来れば敵対勢力プレイヤーがすぐ見つかるんですよ。

鈴木ボスの出現時間が来るとロビーはプレイヤーでいっぱいになりますね。PVPを楽しみにしているプレイヤーさんが『リネージュM』には多いんだとよくわかります。ここで勢力争いに巻き込まれたことから感情が動いて、いずれかの勢力についたプレイヤーさんもけっこういます。

――もう戦国時代の話なんだよなぁ。

2021年3月17日 Ep.exceed~ENGAGE~実装 3週連続アップデート

  • 特定の職業追加やクラスケアではなく、変身やマジックドールの新規追加など全体に関わるアップデート。
  • 多岐にわたるデータ関連の変更があったためにさまざまな不具合が発生してしまい、連日迷惑をかけることに。反省。

――どのようにたいへんだったのでしょうか。

川南コンテンツの追加よりもシステムの改修や追加のほうが、(開発・サービスチーム側の)負担ははるかに大きいんですよ。ゲームの見た目はあまり変わらないんですけど。これ以前はコンテンツ追加が多く、このタイミングで大量にシステムの追加・修正が入りました。

鈴木寝なかったですよね、このときは。修正のビルドを朝まで待って、朝に緊急メンテナンスを入れたりしましたが、朝から放置設定をするプレイヤーさんには申し訳なかったです。

川南めちゃくちゃ長いメンテナンスなどはやらないで済ませられたので、それはよかった点かと思います。

2021年3月30日 新ワールドコンテンツ“ティカル寺院”実装、“熟練度システム”実装

  • 熟練度は攻撃を当てた数によって溜まるので、ギランの村にいるNPCが殴られるようになった。
  • 新コンテンツとしてティカル寺院が実装されたが、PVP層は新たなインターサーバーのPVPコンテンツと認識するだけで、活動内容に変化はなかった。残念。

――ギランのNPCがかわいそうすぎませんか。

川南『リネージュM』では殴れるNPCがこいつだけなんです。こいつだけ殴っていても熟練度以外には経験値もドロップも得られず、効率は悪い。いちばんレベルが低い狩り場に放置したほうがずっとマシなんですけど。

鈴木それでもこのNPCを殴るのはPVP勢力に属している人が多いから。セーフティーゾーンから出ると放置やチャットをしている場合じゃなくなるんですよね。

――これもまた『リネージュ』らしい話ですね。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
放置プレイや血盟チャットでの雑談などのついでに、スナック感覚で殴られ続けるNPC。かわいそう。

2021年5月26日 Ep.4 TITAN実装 新職業“狂戦士”実装 グンター(育成用)サーバーOPEN

  • 半年ぶりの新職業実装。多くのプレイヤーがクラスチェンジを行った。
  • 実装当初はスキル“デスペラード”が伝説級にも関わらず発動率が悪い(成功しない)という報告が寄せられた。開発チームにも確認を行ったが、不具合は発生していなかった。集団戦で成功すると相手をほぼ倒せるほど強力なスキルであるため、防御力の高いプレイヤーには決まり難くなっていた。
  • チャージスキルを絡めた高速移動ができる狂戦士によってPVPの間合いの取りかたが変化。狂戦士からは10セル近く離れないと命の危険が迫るように。

――ふたたび新職業ですね。狂戦士の実装時の評判はいかがでしたか。

鈴木とにかくキルを取れるということで、人気は高かったですね。相手を引っぱるスキルが成功すれば、一切動かさずに相手を倒せてしまいますから。遠距離クラスも、近接クラスのなかで狂戦士にだけは追いつかれてしまうんです。

★2021年6月9日 ワールド攻城戦“ギラン城”実装

  • ついに全サーバー攻城戦が実装され、初日から多くのプレイヤーが参加した。1血盟しか味方に設定できないため、攻撃する前に敵対血盟の所属キャラクターか確認する必要があった。
  • ワンテンポ以上遅れた行動を要するので、初回含む数回は内城門の前に攻撃をせずに立っているだけのキャラクターで大名行列ができてしまっていた。

――PVPが活発な『リネージュM』ではけっこう大きな問題かと思いますが、もう解決はしているんでしょうか。

鈴木プレイヤーさん側で尽力して解決してくださっている、といった状態です。報酬や税金の問題も難しいのでどう管理すべきかと悩んでいるうちに、皆さんのあいだで統率が取れていました。

――設定したひとつの血盟以外は敵に見えるとなると大乱戦になりますよね。どうまとまったのでしょうか。

鈴木プレイヤーさん同士で、血盟をしっかりと“配置”していったんです。この場所にはこの血盟、あの場所にはこの血盟と、担当場所と役割を細かく指定したことで、そもそも敵か味方かと混乱する事態が起こらなくなったんです。

――もはややってることが軍隊じゃないですか。

『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
ギラン城の構造を完全に把握して役割を決めて配置していくとなると、もはやシミュレーションゲームの領域だ。血盟間のスムーズなやり取りなども含めて、軍師が必要になるのもうなずける。
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
攻城戦イメージ画像。

2021年6月16日 新ワールドダンジョン“海賊島前半”実装

  • 忘れられた島以外のボス討伐ワールドダンジョンが追加実装。テストサーバーでの検証中はボスモンスターが強く心配だったが、忘れられた島と同様に、前哨戦としてのPVP後、勝利側勢力が難なく討伐していた。

2021年7月21日 変身覚醒システム実装

  • 変身覚醒システムが実装。覚醒効果を絡めたコレクション効果を得ることができるので、おもに伝説級以上の変身を所持するプレイヤーは覚醒を積極的に行なっている。
  • この辺りから獲得したものを強化していく系のやり込み要素が増加。ハードルが高いので、もう少し挑戦しやすくする運営施策を検討中。

2021年12月8日 一般ダンジョン“ギラン監獄”リニューアル

  • 初級レベルの一般ダンジョンから、中~高レベルプレイヤー向けにリニューアル。モンスターがたくさんいるので効率もよく、自分の難易度にあった階層で狩りを行える。

2022年1月19日 日本限定コレクション実装 新神話級変身実装

  • 日本限定ボスモンスター“タバシ”、“チウコ”、“キズス”が実装。逆から読むと日本サービスチームのプロデューサーやリーダーの名前に。これらのボスからドロップしたアイテムを強化すると、日本限定のコレクションに登録可能になった。
  • 神話級新変身の“ドッペルゲンガー”は、能力は神話級のままで下位のモンスターに変身するだけでなく、名前もそのモンスター名に変化。PVPで利用すると弱そうなモンスターに見えて、相手が近づいてきたところを襲撃できる。2022年2月18日現在、全サーバーで1名のみが習得。猛威を振るっている。

――ボス名に入っているべき名前がないような。

川南ミナミワカ実装の予定はいまのところありません。

2022年1月26日 日本限定コンテンツ“パインワンド”実装

  • 話せる島でしか使えない、日本オリジナルコンテンツ。モンスターを召喚できるアイテムで、かつてPC版では平和なはずの島内の村がモンスターまみれになるなど、数々のハプニングを引き起こしてきた。
  • アップデート週の週末に最上級のパインワンドを全プレイヤーに突発配布した結果、安全なはずの話せる島でボスの取り合いPVPが発生したり、超強化されたボスモンスターが召喚され討伐できずに放置されたり、それを村の中まで引いてきて村の中まで危険な状態になるなど、かつてのPC版を思い出すようなカオスな状況に。プレイヤーにはすこぶる好評。
  • 最高級パインワンド配布はTwitter上のやり取りがきっかけ。突発であったにも関わらず、「楽しかった」と反響があり、思わずほっこり。
  • 運営側は“アイテム撒きたい欲”がどこの運営もあると思う。バランスを細かく考える開発側は、本来はストップをかける立場。開発側から配りたいと言ってもらえると、話が早くていい。
『リネージュM』プレイヤーの政治と復讐で2大勢力が争う構図に。感情が渦巻く1000日はもはや大河ドラマだ【インタビュー】
出現候補のモンスターの中からランダムでその場に召喚できるパインワンド。その配布イベントは韓国の開発側からの提案で決定したとのこと。

――そもそも、パインワンドをなぜ実装することになったのでしょうか。

鈴木これはもう、ノスタルジーな理由ですね。PC版で遊んでいたプレイヤーさんをはじめとして、SNSや生放送で意見が多く出されていました。

――運営ではなく開発側が配ろうと言い出したようなのですが、これはなぜなんでしょう。

川南何かこう、配りたかったらしいです。

鈴木こういうドタバタな風景を試しに見たかったんじゃないですかね。ふつうのパインワンドではすぐ倒せる敵しか出ませんが、最上級だとどうなるのかと。

――たしかに、滅多に試せるものじゃないですしね。開発側がこういうの望んでいるのはちょっとうれしい。さて、これ以降はまだ経過が見えないものや未来の話になりますね。

2022年2月9日 狂戦士クラスケア実施

  • 新スキル2種を実装。新スキル2種は既存のチャージやタイタンスキルをさらに強化するためのスキル。現在もすでにPVPで怖い存在ですが、さらに倒し難くなると思われる。

2022年2月16日 エルフクラスケア実施

  • おもに神話級スキルの利便性向上、水属性と火属性スキルのリニューアル。火属性スキルは強化され、水属性スキルは利便性が向上する方向。

2022年2月21日 リリース1000日記念生放送実施

  • 2022年2月21日はサービス開始から1000日目の記念日。19時30分から公式生配信が実施され、さまざまなアイテムを配布すると同時に、アップデート情報やイベント情報を公開予定。

【リネージュM】話せる島通信#19 アップデート&1000日記念放送

2022年2月23日 Ep.exceed~The BLESSING~実装 神聖剣士クラスケア1000日記念イベント

  • 神聖剣士の既存スキル強化と新スキル追加がメイン。注目は既存の攻撃バフスキルの切り替えなしの同時使用による火力強化、新スキルにより防御力の高い神聖剣士をさらに防御に特化したキャラクターに引き上げることができる点。
  • 期間限定でワールドコンテンツ“支配の塔”も実装。ボスモンスターを巡るPVPも活性化させる。
  • 1000日記念の施策として、イベントや記念商品の販売を実施。ログインするだけで変身やマジックドールのガチャに挑戦できるキャンペーン実施も検討。

――以上、駆け足で解説していただきましたが、ゲームの歩みよりも人の動きが気になりすぎる内容でした。

鈴木サーバーだとか国だとか、そういった垣根を越えたコミュニティーになっているんです。勢力の思惑とサーバー移動によって、昨日まで平和だったサーバーが戦火に包まれたりすることも珍しくありません。

川南これだけ政治が入り組んでいるオンラインゲームとなると、ほかにはあまりないと思います。ファンタジー系のMMORPGとして考えると、かなり珍しいのでは。

――有名どころではSFの『EVE Online』などがありますね。ただ、あれは“そういう風”に作られているゲーム。基本的にはファンタジー世界で冒険をするゲームなのに、人の感情から対立構造ができ上がっていくと考えると、やっぱり『リネージュM』はレアケースだと思います。

鈴木それは開発側もサービスチームが(ある意味で)苦労しているところで、国ごとに人の動きが大きく異なるんです。たとえば韓国では裏切りやドライな動きで勢力図が頻繁に動くんですが、日本ではコミュニティーが形成されるとなかなか崩壊しないんです。

川南運営側がそこに介入して作られたシステムではなく、プレイヤーさんによって育まれてきた文化や歴史に近い。人間味ですよね。人間らしさが『リネージュM』のおもしろいところ。これからも外と内の両面からみなさんの動きを見守っていきます。

※本記事の画像の一部は、オンライン通話の画面から切り出したものとなります。