ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームを語る連載企画。今回取り扱うタイトルはオープンワールド探偵アドベンチャー『パラダイスキラー』です。
【こういう人におすすめ】
- エキセントリックなビジュアルが大好き
- おしゃれなシティポップを全身で感じたい
- 推理で容疑者をびしびし追い詰めたい
ミス・ユースケのおすすめゲーム
『パラダイスキラー』
- プラットフォーム:Nintendo Switch、PC(Steam)
- 発売日:2021年8月20日
- 発売元:レオフル
- 価格:Switch版2500円[税込]/Steam版2050円[税込]
パラダイスキラー ローンチトレーラー (Nintendo Switch)
極彩色のネオンカラーと楽園殺し
最初に断っておく。僕の心は『パラダイスキラー』が連れ去ってしまったので、正当な評価を下せないかもしれない。
ケレン味あふれる極彩色のビジュアル。遠回しで皮肉な言葉遣い。奇妙な違和感がつきまとういわくありげな世界。はっきり言ってわかりにくい。徹頭徹尾、難解だ。
だけど、まがい物という言葉をそのまま具体化したような楽園に、どうしようもなく魅せられてしまったのだ。熱に浮かされたまま虚構を彷徨うように、この記事を書こうと思う。
『パラダイスキラー』との出会いはひと目惚れに近かった。エキゾチックでカラフルでポップで、どこかアダルト。そもそも名前がいい。楽園殺しという語感にぞくぞくさせられる。
ジャンルはオープンワールド殺人ミステリー。主人公は“捜査オタク”のレディ・ラブ・ダイ。3Dグラフィックで表現された世界を動き回り、証拠を集め、容疑者の話を聞き、隠された謎を解き明かしていく。
楽しみだったので、事前情報はあまり入れないようにしておいた。先入観を持たないほうがミステリー成分を楽しめるはずだ。
いい女は多くを語らない。いつの間にか虜になっていた
さあ、『パラダイスキラー』を始めよう。期待を胸に抱いてスタートさせると、
- シンジケートは死んだエイリアンの神々を崇めるために最初のパラダイス島を作った
- 庶民に心霊崇拝儀式を強制
- 悪魔の腐敗はパラダイスの基礎構造を汚染
よくわからない言葉が駆け抜けていった。真正面から衝撃を受けて髪が後ろになびく映像演出があるだろう。あれだ。日本語の文法は正しいのに、状況がいまいち理解できないのである。混乱する。
そんな僕の頭をなぐさめてくれたのは全編にわたって流れる1980年代風のシティポップ。オカルトな雰囲気とのギャップがたまらない。おしゃれな音楽に身を委ねると、言葉を理解できないことが些事のように思えてくるから不思議だ。
音楽を聴き、落ち着いてテキストに目を通したら基本的な事実は把握できた。パラダイス島で起きた密室殺人事件の捜査をするため、レディ・ラブ・ダイは追放先から300万日ぶりに呼び戻されたらしい。被害者は特権階級の議員たち。島の根幹を揺るがす大事件である。
なお、“300万日”は書き間違えではない。いわゆるファンタジー的な世界ではないようだが、僕らとは違う常識で回っていることは確実。そんな状態で推理できるのか。
その後も“世紀の裏切り”や“聖なる封印”、“神々との交信”といった文言が続く。もしかしたら言葉通りの意味ではないかもしれない。
ミステリーというと推理小説などをイメージしがちだが、“怪奇小説”という意味もある。『パラダイスキラー』は後者のエッセンスが強いのだろう。
ところで、昨今は“わからない=おもしろくない”と評価される時代だという。ユーザーの離脱を恐れてか、あらゆるコンテンツが親切だ。専門用語には注釈が付けられ、物語の導入部には説明ゼリフが入る。
にも関わらず、本作の“わかりにくさ”は僕を魅了する。古今東西、いい女は多くを語らないものだ。謎めいた彼女に心を奪われるように、僕は『パラダイスキラー』に落ちてしまった。
謎を謎のまま受け入れ、容疑者に話を聞いて回る。まるで知らない国の散文詩。これはこれで心地いい。そんなことを思ううちに、いつしかあれほど苦戦した文章を何となく読み解けるようになっていた。
僕の中に蓄積された言葉の数々は、いつの間にか僕自身を『パラダイスキラー』にチューニングしていたみたいだ。
想像を働かせるたびにおもしろくなる
僕は推理ゲームが特別に好きというわけではない。『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』といった人気シリーズは未経験。ひらめきと記憶力は人並み程度。見栄を張ってしまった。記憶力はたぶん人並み以下である。
一方で、『ひぐらしのなく頃に』や『弟切草』といったテキストアドベンチャーは好きだった。どちらも厳密には推理ゲームとは少々異なり、根底にオカルト的なニュアンスが潜んでいる。
不可解な状況にポンと放り出され、話を進めるうちに頭の中にあるぐにゃぐにゃとした不安・疑問・想像が整理されていく。あれはそういう意味だったのか。こういうことなのかもしれない。点と点がつながると何とも気持ちいい。
情報を得るたびに浮かび上がる新事実。絡み合う各人の思想。仮に男女の関係にあれば想い人をかばうことだって十分にありえる。証言がすべて真実とは限らない。
当然、後半になるほど情報量は増え、真実への解像度は高まる。一刻も早くつぎの容疑者から話を聞きたくなり、興奮は加速度的に増していく。
また、この興奮は“振れ幅”によっても味付けされる。理解不能度は大きいほど、現実味は薄いほどいい。
その点、『パラダイスキラー』の現実感のなさは一級品だ。3Dゲームの定番ほめ言葉と言えば“リアリティがある”だが、本作にそんな常識は通用しない。
荘厳な宮殿(のような建物)。独特な造形の彫像。高度経済成長期の日本を思わせる団地。過去の事件の影響で毒々しく歪んでしまった場所。足湯。フィールド内にはこういったオブジェクトが所狭しと配置されている。
パラダイス島はなぜこんなことになっているのか、直接的な説明は少なく、会話の内容や入手アイテムのフレーバーテキストなどで描写される程度。だからこそ想像が掻き立てられる。
島内ではさまざまなアイテムを収集可能だ。大半が捜査とは無関係のこれらは、ある理由によって姿を消した庶民の生活の痕跡。エキセントリックな街並みを探索し、特権階級たちに翻弄されながらも力強く生きた人々に思いを馳せるのもまた一興である。
たまに訪れたくなる、文字通りの楽園
この原稿では何かを断言するような物言いをなるべく避けてきた。不可思議さに魅力を見出しているのだから、詳細な説明は野暮というもの。
それに、僕にとっての真実があなたにとっての真実とは限らない。共通の真実があるとすれば、クリムゾン・アシッドの美しさくらいだろう。
というのも、最後に待っている裁判は、実施のタイミングも告発する相手も任意なのである。捜査で得た情報をもとに真実を組み立て、つぎつぎに証拠を突き付けていくのは痛快のひと言。
重要なのは事実よりもプレイヤーにとっての真実。このあやふやさも気に入っている。
パラダイス島はその名の通りの楽園だ。現実に疲れを感じたら、たまには訪れてみるのもいいと思う。英語の翻訳文特有の比喩表現と浮世離れした光景、爽やかなシティポップに癒されてほしい。
そして、あなたも月に辿り着きますように。
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