2001年に第1作が発売された『逆転裁判』は、2021年で20周年。これを記念し、さまざまな特別企画を掲載。本稿では『逆転裁判 蘇る逆転』、『逆転裁判4』、『レイトン教授VS逆転裁判』、『大逆転裁判』シリーズのキャラクターデザイナー及びアートディレクターを務めた塗和也氏のインタビューをお届けする。

 『逆転裁判』を語るに欠かせない個性的なキャラクターたちがどのように生み出されたのか、キャラクターデザインを担当した塗和也氏に当時の話を訊いた。

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塗和也氏(ぬり かずや)

カプコン/キャラクターディレクター。『逆転裁判 蘇る逆転』、『逆転裁判4』、『レイトン教授VS逆転裁判』、『大逆転裁判』シリーズのキャラクターデザイナー及びアートディレクター。影響を受けた描き手は原哲夫氏、小澤さとる氏、安彦良和氏など。(文中は塗)

手くせも“みぬく”職人技

――『逆転』シリーズに参加されたきっかけは覚えていますか?

カプコン入社後、最初は『ブレス オブ ファイア』チームでドットや3Dモデル制作、サブキャラクターなどのデザインやパブ絵などをどきどき描かせてもらったりしていました。その後は『DEMENTO』(2005年発売)のキャラクターデザインや3Dモデルを担当したり。

 そんな中『逆転裁判3』が発売されてしばらく後だったと思うのですが、つぎの『逆転』のデザイナーを探しているという話があり、そのときすでに何人かがトライアル的に描いていたようなのですが、ディレクターの巧(舟)さん的に「ちょっと違う」という話になっていたそうでして、その流れで僕のところにも話が回ってきました。巧さんとの初対面もその説明のときでしたね。

『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】
ゲームボーイアドバンス版『ブレス オブ ファイア1&2』のイラスト。メインデザイナー吉川達哉氏の絵柄に似せて描かれたもの。

――巧ディレクターとの初対面はどんな印象でしたか?

そのとき、僕のPCモニターには、直前の仕事で描いていた、『逆転裁判』とはぜんぜん毛色の異なるフォトリアルタッチの軍事モノのキャラクターが表示されていたので、すごく不安そうな表情をしていましたね(笑)。

 その後まずトライアルとして、成歩堂、真宵、御剣、千尋を描いてみることになりました。すでにシリーズを重ねて多くの絵があって、さらに同じキャラクターでも描き手のデザイナーごとにニュアンスが違っていたので、どのあたりをベースにするかという点が難しかったですね。

 とくに2D絵のキャラクターを似せる場合、どこまで寄せるかの塩梅が難しくて。まったくそのままだと単なる模写の域を出ないので、同時に新たな価値も創出するためには、キャライメージ含めた情報を整理し直して、自分の中でしっかりキャラクターを消化・吸収してから描く必要があるんです。

『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】
宝月茜(『逆転裁判 蘇る逆転』)

――情報を整理し直す。

キャラクターの特徴としてデザインされている部分と、描き手の無意識な手くせ部分などの整理ですね。どの記号や情報が意図的で、どこがそうでないのか。手くせであってもキャライメージとして機能し、受け手に浸透している箇所は記号として整理し直したり。

 そうして模索し再構築した結果を巧さんに見せたら、第一声が「あ、なるほどくんだ! マヨイちゃんだ!」と。そのときはうれしかったですね。その絵は『逆転裁判 蘇る逆転』のパッケージにも使用されました。

『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】

アニメーションができちゃった!?

――その巧ディレクターのリテイクは相当激しいとも聞きますが?

はい(笑)。いまでもハッキリ覚えているのは“原灰ススム”の敬礼モーションでの小指の角度へのこだわりですね。

 その時期、巧さんは離れたオフィスにいたので、一度ずつ角度を変えた絵をオーケーが出るまで送り続け深夜になり、最終的に送った絵をボツ案含めて全部つなげてみたら小指だけ滑らかなフルアニメーションができちゃいました(笑)。

『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】
原灰ススム(『逆転裁判 蘇る逆転』)。小指の角度に注目だ。

2D絵の時代はモーション原画をすべて作画していて、リテイク対応はその都度全描き直しなんです。巧さんは見ながらイメージを固めていくスタイルなので、結果そうなることも多かったですね。後の『レイトン教授VS逆転裁判』でシリーズを3Dモデルに移行したときには「命拾いした」と思いました(笑)。

 でもこのタイトルでは両作品の方向性やタッチがまったく違ううえに、レベルファイブの日野社長との二重チェックでさらなる試練が……。

――越えるべき山がふたつに!(笑)

『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】
『レイトン教授VS逆転裁判』 メインビジュアル
『逆転裁判』キャラクターデザイナー塗和也インタビュー。「『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした」(塗)【逆転裁判20周年特別企画】
『レイトン教授VS逆転裁判』設定画集。2作品とゲームオリジナルのキャラクターたちがみごとに調和している。

「試されているッ!」と、ある意味燃えましたね(笑)。同時にその時期は自分の仕事スタンスを変えた時期でもありました。

 『逆転裁判4』のころまではオーダーにいかに応えるかに集中していたのですが、それだけではタイトルにとって必ずしもいい結果にならないなと。オーダーに応えたうえで、自身の意見やアイデアもより積極的に提案するようになりました。

 結果、作り上げたキャラを含めた世界観や絵作りは世間的にも評価してもらえて、『大逆転裁判』の制作時には巧さんからも「あの雰囲気でいきたいね」と。このころにはデザイン面は基本的に一任してもらえるようになっていました。

――ご自身も変化を重ねた年月だったわけですね。改めて、『逆転』の制作に関わった時間を振り返ると、いかがですか?

巧ディレクターはクリエイティブに対して「全力でやりきろう」という人なので、僕も全力をぶつけることができる。『蘇る逆転』から魂を込め続け、あっという間の16年でした。

 ここまで続けられたのはいつも応援してくださる皆様のおかげです。改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

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